とある女性クルーの失恋とシン・アスカの悪夢の話


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 とある女性クルーの恋の話。あとシンの見る悪夢の話。
 シン視点、モブ子視点、ルナマリア視点という感じに続く。
 前回のモブも少し登場するけど、前回のやつは見なくて大丈夫だと思う。





 花のいい香りがする。
 目を開けると、最初に映るのはマユの笑顔。
『お兄ちゃん!』
 満面の笑みで花畑を駆けるマユに手を引かれ、中心までくるとそこには花冠を編むステラがいた。
『シン』
 ステラは微笑みながら、先ほどまで編んでいた花冠を渡してくる。俺は笑顔でそれを受け取る。
 ふと見まわたすと、少し離れた場所でレジャーシートを敷いて寛いでいる父さんと母さんがいて、俺は嬉しくなって大きく手を振る。
 父さんと母さんが笑顔で手を振り返しているのを見て、また嬉しくなって駆け寄ろうとしたとき、後ろから人の気配がしたので振り返ってみると、優しく見守っているレイがいた。
 一人ぽつんと立っているのがなんだか寂しそうだったので、慌てて駆け寄って何をしているのかと尋ねた。
『レイ、こんなところに居たらダメだろ?早くみんなのところに行こう?』
『……シン』
 レイは優しく微笑んで、俺の頬を撫でる。
『シン、お前がみんなを守るんだ。お前が、お前だけが』
 ぱしゃり、と水の音が鳴る。その瞬間レイが地面に倒れた。
 え、と倒れたレイを見ると、レイの体から赤い液体がどんどん花畑に広がり、周りの花を枯らしていく。
『ぇ……ぁ……』
 状況が理解できず、誰かに助けを求めるために後ろを振り返る。そこには皆が居るはずだった。
 あったのは、見る影もなく吹き飛ばされた花畑と周辺を転がる肉塊。上空を飛び回る鉄の人間と人を焼き尽くす色とりどりの光線。
 血肉の焼ける匂いがあたりを包む。突然、手の中が重くなった気がしたので見てみれば、血塗られた手とずっしりと重い銃が握られていて―――。
 振り返る。
 赤い涙を流した巨人がいる。
 足元には辛うじて残された花が一輪。
 守らなくては。
 僕が、みんなを、まもらないと。


 ―――――お前が?どうやって?





 息を整える。汗が滝のように流れ出していて気持ちが悪い。ここは、どこだろう。
「オキルナ!ネロ!ネロ!」
「キョシヌケガー!」
「うわっ!やめろ!」
 ぼうっとする頭を起こしていると、周りにいたハロたちが一斉に俺を攻撃してくる。軽い攻撃だがハロはこんなんでもちゃんとしたロボットなので地味に痛い。
「「シン!シン!」」
「ソード!」
 キラさんが連れていた鳥型のロボットであるトリィと同じ形のロボット―フォース、ソード、ブラスト―も抗議するように周りを飛び回る。製作者がキラさんとアスランだからか、このロボットたちは妙に過保護な気がする。というか、アスラン曰く簡単なAIしか積んでいないとか言っていたけど、結構自我があるように見えるのは気のせいか?
「ああもう!痛いからやめろってば!わかったから一旦止まれって!」
 そういうと、ぴたりと攻撃を止めるハロたち。とはいっても、言うことを聞かないとまた攻撃するぞという意思がひしひしと感じられてどうしたものかと悩む。
 そういえば、ここはどこだったかとあたりを見渡すと、なんと自室の前の廊下で寝ていたらしい。そういえば、自室で報告書を書き終えて、少し散歩でもしようかと思っていたのだったか。自室から出たあたりまでは覚えているがそこからの記憶がないため、おそらくはそこで力尽きたのだろう。
 時間を見ると報告書を書き終えてから2時間経過している。つまり2時間もこの廊下で眠っていたのだろう。今は深夜でほとんどのクルーは皆眠っている。こんなところで寝ていたとルナにばれればどやされるに違いないので、誰にも発見されたなかったことに安堵する。
 フォースたちが定位置(頭と右肩)にとまる。俺は黒いハロ―クロマメ―をなんとなく抱き上げ、立ち上がる。
 抱き上げられなかったハロたちがまた抗議し始めて、足に軽く攻撃を仕掛けてくるが気にせず仮眠室まで歩いていく。
「……静かだな」
 ハロたちがうるさく口々に文句を言う中、俺はぽつりとそうつぶやいた。



 ハロー!私はしがない女整備士!優秀だからとオーブから引き抜きされて数か月前に強襲機動揚陸艦スクルドとかいう物騒な戦艦に配属されたぴっちぴちの20歳で仕事第一の独身女性だぞ☆
 見た目は普通オブ普通で学生時代から機械いじりが好きだったのが災いして男経験は一切なし!でも私としては少しぐらい異性との関係を持ちたいなーなんて思って早数年。彼氏いない歴が誕生日を迎えるごとに増えていくことに悲しみを覚える今日この頃。私は今―。
 人の目も気にせずバケツの中に絶賛嘔吐中でござんす。
「おえぇぇ」
「嬢ちゃんまたかい」
 呆れながらも優しく背中をさすってくれている推定50代のおじさんに、これ自分じゃなかったらセクハラって言われてたんじゃないかなどとどうでもいいことを考えながら、次から次へと来る吐き気を紛らわす。紛らわせるわけないけど。
「う、う……うぇ」
「毎回毎回、よくそんなに吐けるねぇ。というか、前持たせた酔い止めはどうしたんだ?」
「く……薬は……甘えかな……て……」
「お前さん、毎回吐いててよくそんなことが言えるな」
 呆れを通り越して真顔で言われてちょっとショックを受ける私は、嘔吐感が少し落ち着いたのでバケツから顔を放す。元々乗り物酔いが激しく、いずれ戦艦のMS整備士になりたいという夢をかなえるために気合と根性で直した身としては、このスクルドの荒い航行の仕方は結構来るものがあったりする。通常だとこんな風にはならないのだが、戦闘が始まると結構な確率で艦が振り回されるので、強襲機動揚陸艦の名は伊達ではないと感じるが、こちらとしてはたまったものじゃない。
 というか耐G適性があるパイロットはともかく、そんなもの必要ない整備士とか軍医がなんでこれに耐えられているのかは意味が分からない。慣れとか言ってたけどなれるものじゃないでしょ、と毎回愚痴を言っている。
 とはいうものの、これが原因で艦を下ろされても困る。毎回毎回戦闘後に使い物にならなくなっているのはMSの整備士として致命的だ。それにうら若き乙女がこんな人がいる中でバケツの中とはいえ吐きまくっているのはいかがなものかと。何としてでも慣れるほかないだろう。
「ほれ、これで口ゆすいで少し休んだら仕事始めるからな」
「は、はい」
 飲み物を受け取り口をゆすぐ。吐きまくったせいで喉の奥になにかしこりのようなものが出来ていてちょっと違和感があるが、毎度のことのなのですぐ無くなるだろうと判断する。
 少し休憩といったが、さすがにこの嘔吐物に溢れたバケツは何とかしないとな―なんて考えていると、バサバサという音が聞こえてきた。
「シーン!」
 鳥のような姿のロボットはこの戦艦内ではお馴染みの艦長の私物だ。なんでも就任祝いに貰ったものらしく、簡単なAIが搭載されているからか、一つ一つに個性があり女性クルーの間ではちょっとしたアイドル扱いだったりする。
 中でもこのフォースと呼ばれる子は人懐っこく、よく艦内を飛び回って誰かしらと戯れているところをよく発見される。
「フォースちゃん!どうしたの?」
 頭の上に止まったフォースを手のひらに乗せそう質問するが、「シン!シン!」とここの艦長の名前しか言わないのでよくはわからない。でも、すりすりと頭をこすり付けてくる動作はまるで本物の鳥のようで、先ほどまで吐き気で荒れていた心を癒してくれる。
「ああー♡かわいいー♡」
「フォース!仕事の邪魔しちゃだめじゃないか!」
 突然聞こえた声に驚き方がはねる。フォースは手の中から離れ声のした方へと飛び立つ。フォースの動きを目で追えば、そこには我らが艦長、シン・アスカがいた。
「すみません、仕事の邪魔しちゃって」
「いやいいさ、どうせ少し休憩してたしな」
「そうですか……あれ?君顔色悪くないか?」
「へ!?」
 突然話を振られた私は随分と挙動不審になっていただろう。あ、とかう、とか何かのうめき声しか出せなくて、顔を真っ赤にして固まっていると、介抱してくれたおじさんが「そいつ、さっきまで吐いてたんだよ」と言わなくていいことを言ってくれた。マジでデリカシーないな、このおっさん!
「吐いてたって、大丈夫なんですか?」
「いつものことだから大丈夫だよ。それより悪いんだが、余裕があるならそこのバケツ片付けてくれくれると嬉しいんだが」
 なんてことを言っているんだこのおっさんは!仮にもこの艦の最高責任者ともいえる艦長に対して、ゲロを処理しろとはいったい何事だ!しかも、しかも、吐いた本人がいる前でそんなこというやつがいるかー!!!!
「いいですよ。ちょうど艦内の見回りをしようかなと思ってたんで」
 それでなんであなたは快く了承するのかなー!?!?!?
「い、いえ!自分で片付けます!」
「遠慮しなくていいよ。たぶんこれは俺のせいだろうし、随分と無茶させてる自覚はあるからせめてこれぐらいはしないと」
「いえ!本当に!大丈夫ですから!」
 顔を真っ赤にして主張するが、アスカ艦長はなかなか折れずそのうち有無を言わせずバケツを持ち去ってしまった。
 アスカ隊長の頭の上に乗っているフォースと右肩を奪い合っているソードとブラスト、足元で転がりながら追いかけるハロを見て、この艦長なんでこんなにファンシーなんだろう、かわいすぎる~と現実逃避したが、自分のゲロの後始末をさせてしまったという事実は変わらないので正気に戻ると別の意味で吐きそうになった。
「これに懲りたら薬を飲むのは甘えっていう考えは捨てろよ?」
 意地悪そうな顔でおじさんがそういうので、私は反射的に脇腹に拳を入れる。おじさんはうめいているが私の知ったこっちゃない。でも、今後はちゃんと薬飲もうと決意した。

「お前が合わせてこないから撃墜されたんだろ!!」
「なんだと!お前のトロい動きに合わせろってか!」
「なんだとてめー!!」
「やんのかおらぁ!!」
 訓練室が何やら騒がしい。といっても、声からしていつもの二人だろう。私と同じ時期に着任した二人の新人パイロット。本来ならこんな前線配置の艦に配属される前に後方で十分に経験を積んでから来た方がいいのだろうが、コンパスが万年人員不足なうえに将来有望だが見ての通りの問題児なため、連合とザフトから少し手荒な方法で鍛えなおしてほしいとお達しがあったのだと聞いている。要するに体のいい厄介払いだ。
 でも、この艦は確かにこういう血気盛んな将来有望な若者を鍛えるにはもってこいなのかもしれない。何せ、前線で激しい戦闘を繰り返しているのにもかかわらず、製造されてから一度も死傷者を出したことはない。おまけに戦果はかなりのもので、この艦が居れば百戦危うからずなんて変なことわざまで作られるほどだ。
 世界一危ない戦場を駆ける世界で一番安全な場所、それがスクルドだ。それはかの有名なAAの操舵士を任され神がかりな操舵技術を持つノイマン大尉と、直観力が高く戦略、戦術も高水準でMSパイロットとしても申し分ないどころか戦況を変えかえない実力を持つアスカ大佐がそろっているからこそのことだと私は思っている。
 とはいっても、パイロットとか関係なく色んな意味で振り回されるのでそろそろゆっくり休息が取れないものかと思ったりもする。ブレーキが壊れた車みたいに走り回ってるんだよね、ここ。
 それでもケンカする余裕どころか、艦内は戦闘がない時はいたって穏やかに過ごしているのだから、私以外のクルーはみんな化け物なんじゃないかと思ったこともある。後から聞いた話だが、ほとんどのクルーはなんども大戦を生き抜いている人たちらしいのでそりゃ平気だわと感心した。
「ケンカしてる余裕があるならもう一戦するか!」
 ケンカをしていた新人二人と違う声が聞こえる。それはアスカ艦長の声であり、私はその声に心臓が高鳴る。
 こっそり訓練室を覗くと新人二人の頭を豪快に撫でながら笑う彼の姿が見える。ドクン、とより一層胸が高鳴り、頬が熱を帯び始める。
 私はシン・アスカに恋をしている。
 わかっている。彼はこの艦の艦長で私はしがない整備士。立場が随分と違うので、身の丈に合わない恋をしているのはわかっている。しかも、彼は恋人もちだ。
 彼の恋人は問題児の隊長を務めているルナマリア・ホーク少佐。彼女もかなりの実力者で阿吽の呼吸で支え合う姿はまさにおしどり夫婦と言ってもいいだろう。
 かなわない恋だってわかっている。だけど私はあきらめることは出来なかった。

 あれは着任して数週間が経った頃だろうか。
 私はあまりの激務に心が弱ってしまって、人気のない場所で一人泣いていた。
 失敗続きで叱られることが多くて、何より寝ても疲れが取れない。みんな平気そうに仕事をしているのに私だけお荷物みたいになっていて、周りの人たちはまだ慣れてないだけだからとフォローを入れてくれるが、それが逆にしんどくてもう駄目なんじゃないかって思い始めてた時だった。
 背後に人の気配がしたので振り返ってみると、二つの缶を持っているアスカ艦長が居た。
『飲める?』
 そう微笑みながら渡してきた缶は、私が大好きでいつも飲んでいるもので、びっくりしてなんでこれをと聞くと『いつも飲んでたから好きなのかなって』言うものだからちょっとドキッとした。
 アスカ艦長に見守られながら缶のふたを開けて飲む。じんわり広がるあたたかさと甘さが沈んだここに染みわたって幾分か楽になる。
 アスカ艦長はその様子を見て少しほっとした様子で、もう一つの缶を開けながら私の隣に座り込む。やっと気づいたが、おそらくアスカ艦長についていただろうハロたちがあたりを囲っていた。
『ナイテル!ナイテル!』
『ナカセタヤツ、ツキニカワッテオシオキスル!』
『え、え?』
『あはは、ごめんなうるさくて』
 騒ぎ立てるハロたちを宥めながら苦笑する。そんな彼の頭と肩には色は違うが鳥のロボットが居て、頭の上の子はこちらを見ているが、右肩に乗っている子たちは興味がないのかそっぽを向いている。
 なんとなく、昔親と一緒に見ていた古いアニメーションにこんなお姫様が居たなと考え、いや、目の前にいるのは自分の上司で男だよと心の中でツッコミを入れる。
 この当時の私はアスカ艦長とあまり関りがなかった。格納庫では結構見るけど、基本的にマードック班長としゃべっているか、他のベテラン整備士と仲良く話しているだけで、それを私は遠巻きに見ているだけだ。
 あと、たまに廊下に転がって寝てたり、休憩室の椅子で寝てたり、インパルスのコックピット内で寝てたり……とにかくあちこちで寝てる姿を目撃する。正直言って、変人だと思ってるし避けるのも無理ないと思う。
 だからとても気まずい。
『あの……なんで……』
『無理させてるなって思ったから』
 私の言葉を遮るように、アスカ隊長はそういう。
『本当はさ、クルーのことを考えて無茶なことをしないほうがいいとは思ってるんだ。でも、コンパスにはまだ自由に動ける艦がここしかないからさ、自然と皆には無茶させる形になってて、本当に申し訳ないなって思ってる』
『そんな……こ、これは私が不甲斐ないからで……』
『ううん、君をこうやって泣かしてしまうのはここの責任者である俺の責任だよ。ごめんな、不甲斐なくて』
 アスカ艦長はやるせないのか目を伏せる。
 こんな末端の整備士を気遣ってくれるなんて、もしかしてアスカ艦長はかなりいい人なのかもしれない。変人だと思ってたけど、今後は認識を改めたほうがいい気がする。
『い、いえ!そんな……そ、そもそも私が物覚え悪いから悪いのであって、艦長の責任じゃ……』
『そんなことはないじゃないか。マードックさんから聞いてるよ。若いのにすごく優秀だから助かってるって』
『え……』
『それに明るいし頑張り屋だから君がいるだけで空気が明るくなるって』
 意外だった。マードック班長は気さくな人だけど職人気質だから仕事にはとことん厳しい。だから私は慣れないこともあって𠮟られることが多いのだけど、あの人そんなこと思ってくれてたんだ。
 アスカ艦長は微笑みながら続ける。
『あのマードックさんが言うんだから自信を持っていいと思う。けど、それとは別に激務で疲れてるだろうからいつでも休んでいいからな。しっかり仕事やってるんだったら、そんなことで怒る人誰もいないから』
 ぽんっと手を頭にのせて軽くなでられる。なんだか子ども扱いされたみたいで恥ずかしかったが、不思議と悪い気がしない。
 なんとなく、ジッとアスカ艦長の顔を見る。
 優しく微笑む顔は年齢よりは若く見え、十代だと言われても違和感はない。こちらを見ている瞳はまるでルビーのように輝いていて、同じ人間の瞳とは思えない。それに女性よりも白いんじゃないかって思う肌は荒もなく綺麗で艶やかだ。
 コーディネイターは結構な確率で美男美女だけど、その中でもアスカ艦長は上澄みの部類だよなと考えていると、なんだか妙に心臓がバクバクしてきた。きっと、頬も赤くなっている。
『ん?どうした?顔赤いけど、もしかして熱でも出たのか?』
 そういって、頭にのせてた手を額に当ててくる。ついでに綺麗な顔まで近づけるもんだから、パンクした私は『だ、大丈夫れふ!!!』と慌てて立ち上がり駆けだした。

 それからというもの、アスカ艦長を見つけるたびに心臓がバクバクいうようになって、数日後にハロや鳥たちに囲まれながら眠っているアスカ艦長を隠し撮りした時に自分の恋を自覚した。
 もちろん、恋人がいるのはなんとなくわかってた。だってホーク少佐となんか妙に仲いいし、マードック班長やハーケン中佐にそれに関してからかわれることもあるしぃ!わかってるけど諦めきれないのが恋する乙女というものなんだよぉ!!
 というかあれだけで惚れるとかちょろすぎるのにもほどがあるよ私ぃ!!でもね!でもね!インパルスに出撃する姿とか帰還する姿とかめっちゃかっこいいし、ちょくちょくいろんなところに顔出しては困ってることないかとか聞きに来るのも優しいさを感じるし、何より寝姿を場所関係なく見られるの最高でしょ!!ハロに囲まれて無防備に寝てるとこめっちゃかわいいんだよ!!普段はかっこよかったり悪ガキっぽかったりするのに、寝てる時だけめっちゃ愛らしいの反則でしょ!!あのベビーフェイスで年上は無理あるてぇ!!!!
 なんてことを飲みの席で先輩クルー(女性)に愚痴ったことがある。あの時はさすがに飲みすぎたと反省している。
 そんなわけで、私はかなわない恋をしている。でも、二人未だ恋人止まりらしいからワンチャンがあるんじゃないかと思って、日々観測を続けている。仲良くなった女性クルーには「めっちゃストーカーじゃん」とか言われたけど、あふれ出る想いは止められないんだよ。
「はぁ……アスカ艦長、今日もかっこよかったなぁ……」
 食堂で仲の良いクルー二人と一緒に食事をしているときにそうつぶやいた。二人は「またか」と呆れた顔で目の前の食事に手を付けている。
「アンタも懲りないねぇ。いい加減諦めたらいいのに」
「仕方ないでしょ、本気で好きになっちゃんだから。それにまだチャンスはあるはずだし」
「でもホーク少佐とアスカ艦長ってすごくお似合いって感じだけど」
「だぁ!言わないでぇ!!」
 ゴンッ!といい音を鳴らしながらテーブルに突っ伏す。わかってるんだ。あの二人がめっちゃお似合いなのは……でも夢みたいじゃん!!夢見るぐらいだったらただじゃん!!
「あらぁ、大丈夫?」
 頭の上からなんとも甘ったるい声が聞こえる。ちらっと見るとスクルド専属の軍医の一人である女性が立っていた。
 スクルドは圧倒的に男性の方が多いが、女性も結構いるのでトラブル防止のために軍医は男女それぞれ一名ずついる。
 彼女はある意味女性クルー専門の軍医だがその容姿と甘い声、少し天然だが男女平等で優しい性格は男女ともに人気のある方だ。
「あ、一緒に食べます?」
「いいの?ありがとう」
 蕩けるような甘い笑みは同じ女性であってもクラっと来るものがある。実は年齢が四十を超えていると本人の口から聞いたときは目玉が飛び出るぐらい驚いたものだ。
 それにしてもスタイルがいい。これで性格もいいのだからさぞかしモテるだろう。いや、実際モテてる。男性クルーの中で彼女に恋した人が何人いたことか。
 うらやましい。私もこんな感じの女性で生まれていればもしかしたらアスカ艦長を落せたかもしれない。世界は残酷だ。
「う”う”-……」
「あらあら、どうしたの?」
「ああ、大丈夫ですよ。いつものことですから」
 おいこら、いつものこととはなんだ。いつものことだけど。
「アスカ艦長って聞こえたけど……」
「その子、アスカ艦長に惚れちゃってるんですよ」
「あらあら、まあまあ!」
 子供のようにはしゃぐ彼女は、すぐに何かに気づいたように眉を八の字。どうしたのだろうか。
「どうしたんですか?」
「いえね、アスカ艦長って奥さんがいるから告白するのは大変そうだなって思っちゃって……」
「……今なんて?」
 突っ伏した顔をがばりと勢いよく上げ、女医に顔を近づける。二人も驚いたようで同じように顔を近づけた。女医はそれに居も介さず、あら?と首をかしげながら続ける。
「アスカ艦長には奥さんがいるって……みんな知ってるものだと思っていたけど」
「え、でもホーク少佐と付き合ってるって……」
「そのホーク少佐と結婚してるのよ?苗字は変えなかったみたいだけど」
「……はああああああああ?!?!?!?!」
 今年一番の声が出たのは言うまでもない。

「~♪~~♪」
 随分と上機嫌な鼻歌が聞こえる。優しく歌っているから多分子守歌か何かなのかもしれない。
 一通り仕事が終わって休憩室に飲み物を買いに行くと、そこにはなんとアスカ艦長を膝枕しているホーク少佐が居た。
 昼間に衝撃的な事実を聞いてから、上の空で仕事をしていた私だったがここでさらに追い打ちをかけられることになった。
 アスカ艦長の奥さん。つまり二人は夫婦で、恋人よりも先の存在。法的にも保証された仲ということになる。
 恋人だったらワンチャンあったかもしれない。でも夫婦となるとそれは一気に難しくなる。離婚というチャンスも存在するが、この二人の仲の良さを考えるとそんなチャンス二度とこないことがわかる。
「あー、めっちゃいちゃいちゃしてるじゃん……」
「大丈夫?」
「ぷ」
「ぷ?」
「プラントに愛人制度ってあったっけ?」
「落ち着け、正気に戻れ」






 何やら話し声が聞こえる。愛人とかそういう話題が出てギョッとしたが、どうやらその子の友人が止めてくれているようでほっとした。
 あの子は知っている。シンに惚れている子だ。
 シンと私の仲は公言しているつもりだったが、新しく入ってきた子にはあまり伝わっていたなかったのだろう。昼間に聞いた絶叫は申し訳ないなと思ったのと同時に少し面白かった。
 とはいえ、これでも油断はできない。シンがいくら私と結婚しているからと言って、それでも諦めないやつはいる。何分、アグネスという前例(さすがに結婚している相手には手をだしてはいないようだが)が居るので常に警戒しなければならない。
 それもこれも、シンが無防備なのがいけない。いや、彼が誰に対しても優しいのは今に始まったことではない。それがたとえ過去のトラウマから来ているものだったとしても、それでコロッと行く人間は多いのだ。結婚する前も彼を密かに狙う人間が多くて陰で苦労してたものだ。
 それにしても、とシンの顔を見る。
 子供のように安心しきった顔で眠る彼は、静かな場所では悪夢を見ているらしい。らしい、というのは実際にはそんな姿を見たことはないが、ハロやフォースたちの報告でそのことを知っているということだ。
 悪夢自体は艦長に就任する前から見ているものだ。私は知らなかったけど、アカデミー時代にはもうすでに見ていたそうだ。
 それが、艦長になったからというプレッシャーからなのだろうかだんだん酷くなって、今では部屋のベッドでは眠れないからと艦のあらゆる場所で眠るようになった。
 たぶん、人がいる場所で眠りたいんだ。人がいるということは彼にとってみれば無くしてないという証明で、寝ている間に居なくなってしまうというのが潜在的に怖いのかもしれない。
 よく眠れるようにと、眠っている間もハロたちがにぎやかにしゃべってくれているがどうも効果は薄いらしい。
 どうにかできないかと、もうずっと悩んでいる。本当は戦場から離れて静かに暮らした方がいいのかもしれない。だけど、彼はコンパスの最大戦力でザフトにとっても扱いにくいがかなり貴重な人材だ。政治的なものも含めると、彼には戦場に出てもらった方がよいという声が多数存在する。それになりより、未だ戦争の火種がくすぶっている状況で、彼自身が戦場から身を引くことはありえなかった。
 シンの柔らかな髪を撫でる。むずがゆかったのか少し反応したが、そのまま静かな寝息を立てて眠っている。
 昇任祝いに貰った腕時計で時間を見る。かれこれ二時間はこの状態だったらしい。今までの傾向からあと一時間でシンは起きるだろう。本当なら、あと六時間ぐらいは眠っていてほしいものだが。
 後ろでわいわい騒いでいる子たちをよそに私は止まっていた子守歌を歌いだす。
 彼が安心して眠れるように。
 彼に悪夢が来ないように。
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