「まさか俺が艦長に……」~オーブ編2~


※映画~5年後コンパス組織がどうなってるかわかんないので根拠ゼロの妄想で書いてます
※ていうかほぼ全編妄想だから細かいとこは許して欲しい
※シンルナは婚姻統制クリアーしてるか愛の力で押し通したかはご想像にお任せします
※今後の監督の発言などで色々設定齟齬が出るでしょうが、そのうち纏めるときに直しますのでご容赦を

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 首長官邸
 大広間

「――ではアスカ大佐。期待していますよ」
「はっ」

 何組目かのオーブ政財界の重鎮らとの挨拶を終えたシンは、敬礼を解いて溜息を吐いた。

「艦長って大変なんだな……」
「何言ってるの。まだ任務も始まってないのに」

 シンのお付きは当然妻であるルナマリアだった。彼女はシンの後ろに控えて、姿勢良くしていればいいので気が多少は楽だった。

「わかってるよぉ」
「これで挨拶回りは終わりかしら?」
「お疲れさま、シン」
「総司令! それに――」

 シンと同じく、挨拶回りをしていたキラだったが、その後ろにはシン達にもなじみ深い女性が付き添っていた。

「ラクスさん!」

 ファウンデーション事変後、しばらく身を隠していたラクスだったが、実は事後処理がカガリ主導で薦められた後、一度コンパス総裁に復帰していた。しかし、今は再びオーブで暮らしている。

「ラクスさんももう大分お腹大きくなりましたねえ。何ヶ月ですか?」
「もう8ヶ月です。ふふっ」

 キラとの間に設けた子供が、ラクスのお腹には宿っている。これがあったので、カナーバに総裁が回ったというのも一つの真実だった。いわゆる妊活と育児休暇。

 キラとラクスというこれまでこの世の戦争の全てを背負ってきたような二人への、周囲の大人達の配慮が結実したものだ。

 一番熱心にそれを勧めたのが、プラント最高評議会現議長、エザリア・ジュールと前議長のワルター・ド・ラメントだというのは関係者以外には知られていない。コーディネイターの出生率低下は徐々にプラントでも社会問題として顕在化しているからこそ、愛する二人が望むなら子をもうけるということに熱心に取り組むのも、世界情勢が少しは落ち着いた今だからこそのことだった。

「今日は遅くなるから、いいと言ったんだけど……」
「キラは前に出て頑張っているんですもの。私も――」
「総司令も心配性なんですね。ふふっ。そういえば――」

 微笑んだラクスの姿を見て、シンはチラリとルナマリアの顔を見た。数年前はまだラクスのことが苦手だと言っていたルナマリアだったが、生来の明るさや人付き合いの良さがラクスとの交友でも発揮されたのか、すっかりプライベートでは友人感覚だった。

「女性陣のお話に首を突っ込むのも野暮だね。少し話そうか、シン」
「はい!」

 キラとシンは会場の隅に設けられたソファに腰掛けた。

「あ、じゃあシャンパンを」
「あ、俺は――」
「明日休暇でしょ、たまには、ね?」
「あっ……そうでした」

 本来ならミレニアムがプラント本国へ帰還した埋め合わせで明日出港の予定だったが、戦況予想の結果とアーサーからの進言をシンが伝えたことで、明日丸一日スクルドは休暇が取れることになっていた。

「たまには、ね」
「はい、じゃあ同じものを」

 ウェイターに頼んだキラとシンは、テーブルに置かれたグラスを軽く掲げた。

「シン、スクルドのほうはどうだい?」
「ああ、まあ、はい、順調です」
「その様子だと、苦労しているみたいだね」

 キラに隠し事は無理だ、とシンは寂しげな笑みを浮かべた。

「まだ、俺は皆に艦長としては信頼を示すことが出来てないですから」

 演習の成績がよかろうが、ネビュラ勲章を持っていようが、シンが今まで評価されていたのはMSパイロットとして、それもムウのような大部隊の指揮をしているわけでもなく、ほぼ単機でのものだった。

「そうだね……でもコノエ艦長やマリューさんや僕がシンに頼んだのは、きっと間違いじゃ無かったと思うんだ。まだ、時間はかかるだろうけど……」
「そう、ですかね」
「うん」

 そんな話をしていると、不意にシンの肩に大きなガッシリとした手が触れた。

「なぁーにしけ込んじゃってるのさ、お二人さん」
「おっさん……!」
「おっさんじゃない……とは言えなくなってきたねえ、俺も」

 まだミレニアムに居た筈のムウ・ラ・フラガ大佐がそこに居たのだから、シンは驚くより他なかった。なお、オーブでは夫婦別姓が認められていたことと、ムウ・ラ・フラガの名が与える相手への威圧感などを考慮して、今のところはラミアス姓に変えるつもりはないらしい。シンはそのことを聞いたとき、大人だな……と感心していた。それもあって、シンもホーク姓とアスカ姓、両方を残せる方式で婚姻した面もある。

「ああいいのいいの。俺は今日ここには居ないことになってるから」
「いやでも、入ってきてる……」
「そこはほら、俺は不可能を可能にする男だからさ」

 実のところ、これはアルバート・ハインラインの開発した戦況分析・予想システムに基づいた各地の戦闘開始率が低下したことから、先んじてミレニアムがプラントへ整備のために引き揚げたことによる措置だった。ムウだけは久々の休暇をオーブで過ごすためオーブへ降下していたというわけだ。

「たまにはマリューにも顔を見せないと、後が怖いからな」
「産前産後の恨みは怖い、ですよね。ジュール議長にもよく言われます」

 プラント側とも度々顔を合わせるキラは、エザリア・ジュール議長からは何かと声を掛けられているらしい。そのたびにイザークに結婚を勧めるようにと言われるのも慣れた、とキラはシンに話していた。

「あの議長、世話焼きおばさんみたいなことしてるな――あっ、お嬢ちゃん、ビール頼むわ」

 ムウはウェイターから受け取ったビールを旨そうに飲んだ。

「しかし、遅れちまったがシン、艦長就任と大佐への昇進おめでとう」
「ありがとうございます」
「艦長、艦長ねえ……シンはマリュー……ラミアス艦長の話は聞いてるよな?」
「技術士官で艦長になったっていうあれでしょ?」
「そうだ。マリューだって最初は不慣れどころじゃなかったさ。俺が変われるもんなら変わってやりたかったが、そうも行かない。なあ、キラ」
「ええ……」

 アークエンジェルの戦歴はシンも把握している。最初聞いたときは何の冗談だろうと思った。そもそも指揮していたのが技術士官、ブリッジクルーに学生、そして――シンの目の前に居るキラが、ストライクのパイロットだったこと。それが厳重に秘匿され、未だに真相を知るのはごく僅かな人たちだけだということ。

「それに比べりゃ、スクルドなんかナンボもマシだ。ミレニアムで鍛えられたクルーも多い……が、艦長自身の信頼は、艦長自身の行動で示さなきゃならない。そうだろ? マリュー」

 いつの間にか、マリューがラクスとルナマリアを連れてきていた。

「そうね……私もようやく自信を持って指揮できるようになったのは、つい最近のことよ」
「そうは見えませんでしたが……」

 シンが知るアークエンジェル艦長、そしてミレニアム艦長のマリュー・ラミアスという艦長は見た目と裏腹の豪胆な指揮振りが特徴だ。それが最近まで自信がなかったとは。

「私が艦長で居られたのは、周りの皆のおかげ。キラ君やノイマン大尉、チャンドラ中尉やマードック曹長、ムウのおかげ。私だけの功績じゃないの。艦長って艦のトップだけど、それを支えるクルーあってのこと。シン君もそれを忘れないでね」
「はっ!」

 その後も他愛ない話などを交えながら、シン達は首長官邸でのパーティを済ませ、シンとルナマリアは一路艦へと戻ることになった。

「じゃあシン、また明後日の朝に」
「はいっ」
「じゃーな坊主。しっかり休めよ」
「おやすみなさい、シン君」
「はっ。今日はありがとうございました」

 キラとムウ、ラクスとマリューはアカツキ島へと向かうようだ。シンとルナマリアは首長府差し回しのヘリでオノゴロ島へ向かうこととなる。


 強襲機動徴税艦スクルド
 格納庫

「おー、艦長おかえりー」
「ただいまヴィーノ」
「艦長ってのは辛いねえ。こんな時間までお偉方の相手かい?」
「まあ……あれ? これって」

 格納庫から艦内に入ったシンは、メンテナンスベッドに固定された機体を見て懐かしむように微笑んだ。

「あれ? インパルス? なんで?」

 ルナマリアもその見覚えのあるシルエットに目を丸くしていた。

「おお艦長。帰ったか」
「マードックさん、これは一体」
「インパルスSpecⅢだそうだ。仕様書は見たが、艦長のが詳しいだろ? インパルス。たまに乗り回してデータ取りしろって、モルゲンレーテのシモンズ部長が言ってきてな」
「そうですか……」

 シンのザフト軍人キャリアのはじまりでもあったインパルスのパイロット。その間の思いでは、良きにしろ悪しきにしろ今のシンを形作るものだった。

「艦長、分かってると思うが、これに乗って出撃しろってことじゃないからな」

 マードックに釘を刺され、シンはギクリとした様子で引きつった笑みを浮かべた。

「そ、そんなこと考えてないですよ、はは、ははは」
「絶対考えてたわね……ちゃんと休んでねシン」
「ああ、分かってるよ」


 ブリッジ

「状況は?」
「はっ、異常ありません。出撃準備も完了しております」

 今の当直はノイマン大尉だった。

「そうか……明日から丸1日は休暇に当てろってことだった」
「そうですか。各自への通達を出しておきます」

 各自の部屋や端末に送られた通知に、艦内はどよめいた。一旦出動すれば中々休みが取れないのがコンパスであり、オーブは戦火からの復興が早い分休暇中の楽しみも多い。

「艦橋の士官には当直で残ってもらわなきゃいけないんだけど……」
「いつものことです。我々も交替で休暇を取りますのでご安心を」
「そうですか……じゃあ、後を頼みます」
「ええ、ゆっくりお休みください艦長」

 ブリッジを出て行ったシンの後ろ姿を見ながら、ノイマンは不安を覚えた。本人は全く表に出していないつもりだろうが疲れが見える。若いから無理矢理動けるだろうが……と、原因は分かっていたし、解決策も心当たりがあるが、今それを自分が言うと艦長の決意を損ねそうだと、とりあえずノイマンは注意すべき事項として自分の脳内仕事リストにそれを書き加えた。
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