「まさか俺が艦長に……」~オーブ着~


※映画~5年後コンパス組織がどうなってるかわかんないので根拠ゼロの妄想で書いてます
※ていうかほぼ全編妄想だから細かいとこは許して欲しい
※シンルナは婚姻統制クリアーしてるか愛の力で押し通したかはご想像にお任せします
※今後の監督の発言などで色々設定齟齬が出るでしょうが、そのうち纏めるときに直しますのでご容赦を

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前のやつ:https://writening.net/page?eJ7w74


 オーブ連合首長国
 オノゴロ島近海
 強襲機動揚陸艦スクルド
 ブリッジ

「間もなく、オーブ領海に入ります。針路このまま」
「各セクション、入港準備」
「上空、オーブ軍ムラサメ通過します」

 ブリッジクルー達の間に安堵の溜息が漏れた。特に大きなトラブルはなかったとは言え、初の実戦態勢での出動、初の大気圏内航行、しかもキラとマリューというコンパス高官の同乗とあって、無意識に緊張していたのだろう。

「いやあ、オーブかあ。久しぶりだなあ」

 アーサーは暢気な口調で凪いだ海を眺めていた。


 甲板

「オーブか……」


 コンパスの活動範囲は、地上なら主にアフリカからヨーロッパ、中央アジアが多い。海洋のど真ん中にあり、近隣国も親プラントの大洋州連合のオーブは比較的世界情勢的には穏やかな地域にあるので、自然と寄ることが少なくなる。シンは水平線から飛び出したハウメア火山が見えている。かつての祖国。良くも悪くも様々な思い出が残る島を見つめて、シンは海風に当たっていた。鳥型ロボットのフォースがシンの頭の上で羽根を休め、ブラストとソードが右肩で場所の取り合いをしている。

 ――海風に当たって、こいつらは大丈夫なんだろうか――シンがそんなことを考えていると、艦内への人間用のハッチが重苦しい音を立てて開いた。

「1年ぶりね、オーブ」

 甲板に出るためのハッチから顔を出したルナマリアが、シンに微笑む。

「ルナも風に当たりにきたの?」
「シンの姿が見えたから。寄港後の予定、まだ聞いてないの?」
「うん、まあ少し休養して、実戦配備になるんじゃないかな。そろそろコノエ艦長達もプラントに一度戻って貰わないと」

 今、コンパスには実働艦がミレニアム一隻しか居ない。大西洋連邦は宇宙大気圏内両用艦を建造するより喪った宇宙艦隊の再建が急務で、プラントもスクルドを回すだけで手一杯。オーブもアークエンジェル後継艦の検討をしているところだが、建造したところで回せるクルーが間に合わない。マリューが産休に入ってしまえば、指揮できる者がいなかった。そこで取られた苦肉の策がミレニアム単艦を2チーム態勢で運用する折衷案だったが、スクルドの実戦配備で、もう少し楽にコンパスは任務をこなせるようになるはずだった。


 オノゴロ軍港
 
「トーヤ・マシマです。スクルドの皆さんのオーブ来訪、オーブ国民を代表して歓迎いたします」

 藍色の首長服を着たマシマ家の首長は、シンが依然見たときよりも格段に背が伸びていた。

「シクルド艦長、シン・アスカ大佐です。この度の歓迎、痛み入ります」
「副長、アーサー・トライン少佐であります」

 型どおりの挨拶をした二人に、トーヤは微笑みを向けた。

「初の大気圏内航行だそうで。整備などモルゲンレーテに命じてありますので、クルーの皆様もゆっくりお休みください」
「はっ、しかし」
「プラントとの協定で、スクルドの運用データはオーブにも共有されることになっているから大丈夫よ」
「はっ」

 驚いたシンだったが、マリューの言葉に納得して頷いた。

「ラミアス大佐。おかえりなさい。代表も心配されておいででしたよ」
「ご心配おかけしました」
「キラ兄様、じゃなくて。総司令も、お久しぶりです」
「ただいま、トーヤ。元気そうで何よりだよ」
「兄様はもう少し食べて筋肉を付けたほうがいいのでは?」
「これでも頑張ってるんだけどね……」

 シンやマリューとの挨拶は政治家としてのものだったが、シンが見る限り、キラとトーヤの挨拶はまるで兄弟のようだった。世が世なら、キラはオーブ首長の一角に座を占めていたんだろうか、などとシンはかつての祖国の政治体制を思い出そうとしていた。

「アスハ代表もお待ちです。アスカ艦長とラミアス艦長、ヤマト総司令はこちらへ」
「副長、艦は頼むよ。整備の指示よろしく」
「はっ。いってらっしゃいませ、艦長」


 代表首長官邸

「キラ、お前少し太ったか?」
「そうかな?」
「ま、お前痩せぎすだったからな。丁度良いと思うぞ」

 公的には代表首長とコンパス代表の公的な会議とは言え、その内容は完全に秘匿されている。もし議事録というものがこの場にあるなら、第一声は部屋に入ってきたカガリ・ユラ・アスハ代表のキラへのきょうだいとしての言葉だっただろう。

「あの、カガリさん?」
「ああ、すまない。ラミアス艦長、久しぶりだな。お腹の子は大丈夫か?」
「ええ。おかげさまで」
「そうか、よかった……」

 キラ、マリューとくれば、当然シンの番である。シンはカガリとは因縁がある。かつてミネルバに避難してきたカガリを、シンは事もあろうに一兵士の立場でありながら罵倒したのである。カガリ自身にも思うところがあったし、寛大だったとはいえ、あの頃のことを思い出すと中々恐ろしいことをしていたものだと、僅か数年前の出来事を振り返っていた。

「アスカ艦長、よく来てくれた。大佐への昇進、おめでとう。スクルドもいい艦のようだな」

 カガリの方はシンに対してこの数年でとくに苦手意識を露呈させることはなかった。そもそも政治家として大成しつつあるカガリが内心どう思っているかなど、シンには見透かすことはできないだろう。

「はっ、ありがとうございます。代表もお変わりなく」
「もうそろそろ、代表では無くなるがな」

 キラとマリューが目に見えて笑みを浮かべている。シンもその言葉の意味に思い当たった。

「じゃあ……!」
「……そうだな」
「おめでとうございます……はまだ早いですか?」
「前渡しと思って受け取っておくよ。ありがとう、艦長」

 とはいえ、相手はあのアスラン・ザラなのだろうといくら鈍いシンとは言え気付いていた。あのアスランを好きだという、オーブのこの女傑は一体どういう神経をしているのか――などとシンは失礼千万なことを考えていた。

「ともかく、これでコンパスの稼動体制も5年前の状況に戻せるようになるか。総司令、今の状況は?」

 5年前同様、プラント、大西洋連邦、オーブはコンパス出資国、そして最大の戦力拠出国として発言力は大きい。キラが総司令としての立場で代表首長官邸を訪問したのも、今後の活動方針の共有のためでもある。

 半年ほど前まで一小隊の隊長として戦場の狭い範囲の理解だけで済んでいたシンは、ここでようやくコンパスの戦略・戦術を決定する場に関与することになった。

「カナーバ総裁からの最新情報では、先日ミレニアムが汎ムスリム会議とユーラシア連邦ペテルブルク臨時政府との軍事境界線で起きた戦闘に介入中。小規模なもので、フラガ隊による制圧されました」

 キラの仕事モードの説明を聞きながら、シンは苦々しい思いで一杯だった。ファウンデーション事変の際、レクイエムで焼き払われたモスクワの被害は市民の被害に止まらない。政府機能の集まる地区が一撃で瞬時に蒸発して跡形も無く消えてしまったのだ。

 ユーラシア連邦は元々西部の独立運動で不安定化していたのに、中央政府の閣僚から官僚がほぼ纏めて吹き飛んだことで、統治能力は皆無となってしまった。

 偶然モスクワを離れていた閣僚や官僚、ユーラシア西部を統括する部門などが中心となってサンクトペテルブルクに臨時首都を設置――通称ペテルブルク臨時政府を作ったはいいものの、モスクワ政府に比べれば統制力は微々たるもの。これまで下火だったシベリア
側や中央アジア一体も一気に不安定化した。

 これは隣接する東アジア共和国、汎ムスリム会議との関係も不安定化することに繋がり、アフリカ以上にファウンデーション事変の影響が大きい地域となっている。

 各地のユーラシア連邦正規軍は軍閥化し、残っていたブルーコスモスの影響で連邦の再統合を標榜したり、コーディネイターの多い地域への外征を主張するなど統一性を欠く。統一性を欠くが故に、軍事行動の規模としては小規模であり、幸か不幸かコンパスの介入で事なきを得ることが大半だった。


「今年に入っても20回目だぞ。まったく……ペテルブルク臨時政府とは大西洋連邦も没交渉でな。我が国からも散々要請はしているがなしのつぶて。あれでは国家とは言えん……まあともかく、アスカ艦長らにはこの中央アジア側の監視を頼みたいというのが、コンパス理事国としての要請だ」
「はっ」
「ミレニアムに派遣されていたバルトフェルド少将からも、よくこんな体制で5年も続けていた、と驚かれましたから。コノエ艦長も一安心してい
るんじゃないかしら」


 マリューが苦笑いを浮かべていたのは、シンが艦長教育を受け、ミレニアムから旧ミネルバクルーを引き抜いた影響で臨時に増援に来ていたアンドリュー・バルトフェルド少将の報告を聞いていたからだ。

「バルトフェルドさんが泣き言を言うなんて珍しいですね」
「ようやくプラントに戻ってコーヒーのブレンドに専念できるって」

 しばらくそんな話と国際情勢、戦術戦略の話を織り交ぜながら会議は終了した。

「このあと、コンパス新造艦艦長のお披露目がある。シンにも出てもらうからな」
「えっ、俺も、いや、私も、ですか?」
「当たり前だろう? オーブはコンパスに金も人も出しているんだ。その組織の新造艦の艦長だぞ?」

 カガリに言われて、思えばファウンデーションに行ったときも、ラミアス艦長は総裁と共に外交もしていたなあなどとシンは思い出していた。

 夜会で飯だけ食べるような無礼は許されない、ということかとシンは溜息交じりに項垂れた。


 強襲機動揚陸艦スクルド
 ブリッジ

「――はい、分かりました。伝えておきます。パーティ楽しんできてくださいね、艦長」

 首長官邸からの通信を受け取ったのは当直に当たっていたアビー・ウィンザー中尉だった。

「艦長はパーティに出かけちゃったんですか?」
「艦長達も大変ね。階級上がると外交も仕事の内だから」

 当直の交替に訪れたオリビア・ラスカル少尉が明らかに不満そうな顔をしていたので、アビーは言葉を選んで相槌を打った。

「そういうものですかね……」

 彼女は艦長に不信感があるのかもしれない、とアビーは見抜いていた。旧ミネルバクルーを主力にオーブやプラントからの派遣人員をごちゃ混ぜで編制したスクルドでは、今いくつかの派閥のようなものが生まれつつあった。

 一つはシン・アスカ艦長を信頼して任せている者達。旧ミネルバクルーが多い。
 もう一つは目の前の仕事に集中していれば気にならない者達。マードック曹長のような下士官や整備員に多い。
 そして、士官クラスを中心としたシン・アスカ艦長に対する不信感を抱いている者。特にこれは旗振りがいるわけでもないが、ザフトから新たに派遣されてきた新入りのパイロット、オーブ兵を中心としたナチュラルの下士官兵卒に多いものだ。

 出航して間もない頃の戦術機動で懲りたのか、表立った喧嘩や不和の動きは減っていたが、これは共通の不満対象を見つけて、その派閥ごとに固まっていることも一つの要員なのかも知れない、とアビーは推測していた。ミネルバはもちろん、ミレニアムでもあまり見られない雰囲気だった。

「ラスカル少尉。佐官には佐官、尉官には尉官の仕事があるものよ」
「はっ、分かっております」
「じゃあ、当直交替お願いね」
「はっ」


 食堂

 アビーはアーサー・トライン副長へ報告に行く前に食堂に立ち寄った。オーブまで来たというのに整備と補給、出撃準備に駆けずり回るクルー達は、外出許可も取れずに閉じ込められていたため、食堂で飯を食うのが唯一の娯楽だった。

「お、アビーじゃないか。こっちこっち」

 食事の載ったトレーを持ったところで、黒服のアーサーが見えた。

「副長、丁度良かった。アスカ艦長ですが、今日は遅くなるとのことで」
「ふぅん。大変だねえ佐官は。外交だ会談だの」
「副長も佐官では?」
「僕は副長だからね。艦のお守りが仕事なのさ」
「そうでしょうか……」

 アビーは暢気に飯を食う副長を見ながら、聞き耳を立てる。

『艦長、今日戻らないらしいぜ」
『ふぅん。いいんじゃないか? いちいち上官風吹かされてもな」

『お若い艦長さんは今頃パーティ会場で美女とダンスってとこか?」
『嫁さん連れてったろ?」
『それだよ。戦場に嫁さん同行だと? いつかこの船は保育園になっちまうぞ」

『大体なんだあの鳥型と丸っこいロボ。ガキじゃあるめえしよお」

 随分と不穏当な発言も聞こえてくる。仕事が忙しいときに出るぼやきと違う、嘲り混じりのものだった。

「おーいテメェら! とっとと食って終わらせねえと徹夜になるぞー!」
「パイロット連中もチンタラ食ってんじゃないよ。初出撃も近いんだ。シミュレータ訓練だけでも規定時間クリアしてもらうからね」

 手早く食事を終えたらしいマードック曹長とハーケン中佐の声に、一同は萎縮して食事を勧める。その光景を見ていたアーサーが顎に手を当てて何事か考えていた。

「出港、1日くらいなら伸ばせると思うんだがなあ……あとでアスカ艦長に相談しておくよ」

 殊更大きい声でアーサーが言う。これがわざとだと言うことくらいはアビーにも分かる。食堂を出て行くクルー達の表情に、僅かながら生気が戻ったようにアビーには見えた。

「副長、すみません」
「え? なにが?」
「いえ、なんでもありません」

 ミネルバ時代からこの人を見ているが、天然なのか計算なのか分からない発言が多々ある。今回も気まぐれかな、などとアビーは考えていた。
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