「まさか俺が艦長に……」~オーブ編3~


※映画~5年後コンパス組織がどうなってるかわかんないので根拠ゼロの妄想で書いてます
※ていうかほぼ全編妄想だから細かいとこは許して欲しい
※シンルナは婚姻統制クリアーしてるか愛の力で押し通したかはご想像にお任せします
※今後の監督の発言などで色々設定齟齬が出るでしょうが、そのうち纏めるときに直しますのでご容赦を

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前のやつ:https://writening.net/page?HV3gX8


 ???

『シン……シン……ッ』
『隊長! どうしたんですか、隊長!』
『どうして……こん、な』

 キラが苦しげな表情を浮かべている。シンは駆け寄るが、キラの表情はより険しくなった。

『隊長!』
『シン……なん、で……』

 ハッとしてキラを見れば、エクスカリバーが深々と、キラの腹部に突き刺さり、その柄を握っているのは他ならぬ自分の手だ。

 シンの手に、生暖かいヌメついた感触が伝わる。自分の手を見ると、真っ赤に染まっている。血だ。

『そんな、ちがっ……』

 シンが後ずさろうとすると、ドン、と背中に誰かが当たった。

『ラクスさ――!?』

 すでに息絶えた乳児を抱えたラクスが、シンに目もくれずに倒れ込んだキラに寄り添うようにしてしゃがみ込む。ラクスの押し殺すような泣き声にシンは耳を塞いでその場でうずくまるしかない。

 こんな、これは夢だ。夢に決まっている。こんなことを望んでいるわけではない。こんなふうにならないように、今戦っているのに!と叫びたくても声が出ない。

『君が殺した、君が殺そうとした、君が守れなかった、君が喪った。君が選び取った未来は、彼らの屍の上にこそ築かれているのだ』

 誰かの言葉に、シンは振り向いた。燃え上がる町、ゴミのように転がる死体、呻きながら地を這う人々、見知った顔もいる。

 炎を吹き上げて吹き飛ぶMS、その先に居るのは、巨大な黒いMSだ。

 デストロイか……! と身構えたシンは、炎の向こうに見えたシルエットに、怯えたように声を上げるしかなかった。

『デスティニー……』

 ああ、これは俺の罪なのだ、とシンは地面に崩れ落ちた。守れなかった。喪い続けた。自分がもっと強ければ、いや違う、強くても、奪うのは――

『シン……シン……!』

 遠くから誰かの声が聞こえる。暖かい、優しい声――




 艦長室

「――っ!」

 椅子で寝ていたシンは、声にならない悲鳴を上げ、その声で目覚めた。

〈シン!シン!ネロ!マダタリナイ!〉

 お腹の上が暖かい。このハロか? と自分の腹の上で抗議の声を上げながら跳ねるイチゴ――と名付けたハロ――を取り上げる。ほんのりと暖かい。こんな機能が付いていたのか、とシンは驚いた。どことなくルナマリアの声に似ている――などと、悪夢から覚めた
ぼーっとする頭で考えていた。

〈ハヤクネナイカッバカモノッ!〉
〈モウヤメルンダッ!〉

 他のハロも口々にシンに寝ろと言うが、それは無理だった。また夢を見るのは御免だ。
 時計を見れば、まだ夜中の一時。二一時頃には戻ってきた筈だから、まだ三時間も経っていない。

「……」

 シンはハロ達を置いて、艦長室を出て行った。


『あ~やっと終わった……明日からの休みどうする?』
『オーブ観光ってなあ。どこ行くべ』
『あ、艦長だ……こんな時間にどうしたんだろ』
『さあ……頭にあの鳥型ロボット乗ってる』
『あんなんで大佐ってすごいねえザフトってのは』
『しっ、聞こえるぞ……』

『明日明後日休みかあ。これが最期になるかもなあ』
『縁起でもないこというなよ……』
『だってあの艦長だぜ? どうなるか……』

 作業が一段落したせいで、夜間の艦内は静かだ。

 艦内を一回りしただけでも、まだ整備や補給の残りを行なっているクルー、先ほどまで仕事をしていたのだろうクルーの声がヤケに響いている。自分の信頼の無さを痛感しながら、シンは格納庫に足を運んだ。


 格納庫

「……」

 ヒルダとルナマリアらのゲルググメナースR(リファイン)――5年前から運用されているザフト新鋭機のコンパス仕様――やアグネスの愛機であるギャンシュトロームRが並んでいる。ライジングフリーダムは新造されたものを総司令官となったキラが出撃するときのみ運用し、ジャスティスは事変後新造されてシンが乗った後、艦長就任に伴いオーブに戻され、現在改修に入っているらしいとシンは聞いていた。

 機体数は以前より増え、4機を1小隊とした3小隊態勢だ。ルナマリア、ヒルダ、それにアグネスが小隊長を務める。ミレニアムもムラサメの改修機とゲルググの混成部隊だが同数搭載されている。

 実力だって不足した物はない。アグネスも十分小隊長の任に堪えるだろう。

 それでも、シンは自分が出れば……と考えてしまう。

 格納庫の隅に立つインパルスを見て、シンはどうしても過去のことを思い出す。ミネルバでの日々は、シンにとって重くのし掛かる重圧を常にはね除け続けてきたものだった。

「……」

 リフトを使ってコクピットに入ると、慣れ親しんだ操作系が一新されている。モルゲンレーテでの改修の際に分離機能は廃止されたからだ。ゲルググと同じなので大して違和感はない。機体をアイドル状態にするとモニターに灯が入り、全天周囲モニターが起動する。

「……整備はされてるな」

 整備記録を見ても、操縦桿を握ってシートに座った感じもしっくりくる。整備担当者はヴィーノだった。

 コクピット出て下まで降りる。すでに設置が完了したMS用シミュレータの記録を見てみる。

 どの小隊のパイロットも高得点だ。しかしS・Aの記録だけは抜かれていない。L・HやH・H、A・Gの記録がそれに続く。そこから少し間が空いて、ホーク隊、ヒルダ隊のパイロット。ルナマリアやヒルダは教官としても優秀だった。ギーベンラート隊については、新米赤服とのことなので、まだまだ成長中といったところだろう。

 ここしばらくは艦長用のシミュレーションしかしていなかったシンは、シミュレータの一つに入る。アップデートはされているが、ミネルバ時代にも使っていたシミュレータの後継機だ。基本動作を思い出しながら、シンは演習メニューを呼び出す。いずれも過去の戦闘を再現した物だった。

 その瞬間、感覚が戻ってくる。カタパルトから射出されたときから、シンの脳はかつての戦いを思い出す。

 照準レティクルを合せてトリガーを引き、ペダルを踏み込んで機体を急制動させてからまとめて3機を撃破。ビームサーベルを引き抜いて、迂闊に突っ込んできたウィンダムを真っ二つ。バルカンで牽制しつつ敵機を的確に屠っていく。

 そうして撃墜数が10機を超えたあたりで、演習プログラムは終了。被弾ゼロ。評価はSS。艦長就任前と比べれば点数は落ちていたが、それでもヒルダやルナマリアの上を行く。

 スコア更新の通知が出て名前の入力を求められたシンは、スペースキーを叩いて名前欄を埋め、登録しておいた。


 翌朝
 艦長室

〈シン!〉

「……っ」

〈シン!〉

「なんだよ……うるさ……フォースか」

 トリィ型のフォースが、椅子で寝ていたシンの頭の上に陣取って、髪の毛をついばむようにして遊んでいる。右肩ではソードとブラストが縄張り争いをしているようにじゃれついていた。

〈マダネテロ!シン!〉
〈バカモノー!〉
〈グゥレイト!オキルノダケハハヤイゼ!〉

 オハギ、ダイフク、クロマメがシンに体当たりしてきて、完全にシンは目が覚めてしまった。

「食堂って動いてるんだっけ、その前にシャワーかな……」

 時計を見ればまだ7時。中途覚醒を繰り返した重たい身体を引きずって、シンは個室に据え付けられたシャワーへと向かった。


 食堂

 シャワーを浴びた後、シンは艦内着のまま食堂を訪れた。乗組員の多くは休暇ということで外に飛び出したようで、艦内は静まりかえっている。

「やっぱ動いてないか……バーガーの販売機は~っと」

 ガコン、と音がして温められたハンバーガーが取り出し口に出てくる。

「……」

 食堂の大型モニターを付けて、オーブのテレビを受信させる。

『黒海沿岸の都市、ディオキアではプラント駐留軍による周辺武装勢力の掃討作戦が――』

 相変わらず世界情勢は不安定だ。報道番組の内容も目を背けたくなるものばかりだが、そこへ赴くのが自分達の仕事なのだ、とシンはしばらくそのニュースを見ながらハンバーガーを頬張っていた。

「シン!」

 私服に着替えたルナマリアが、食堂に駆け込んできた。

「あれ? ルナぁ? どうしたの」
「どうしたもこうしたも、部屋にいないからどこに行ったのかと」
「ああ、ごめん。ルナも食べる?」
「もう、暢気なんだから。ところで休暇中はどうするの? パイロットは非番だし」
「ああ、それなら……行きたいところがあるんだ」
「……わかってる、あそこでしょ」

 ルナマリアは言わなくても分かってくれる。シンは安堵した。

「それはそうと、たまには私のショッピングにも付き合ってよね」
「デートじゃん」
「そうよ?」
「……」
「何顔赤くしてんのよ!」
「いや、なんか久々だから」
「もーーっ、そう思うんだったらちゃんとエスコートしてよね」


「入りづらいですね、副長」

 偶然居合わせたノイマンとアーサーは、典型的な若夫婦のいちゃつきを目にして、食堂に入りづらそうにしていた。

「朝飯食べようと思ってたんだけど……あ、携行食糧ならあるか。ま、出かけてから食べればいいか」

 アーサーはポケットから携行食糧を取り出してサクサクと食べながら、その場を離れた。

「……ああいう時間がもっと取れればいいのだろうけど」

 ノイマンも朝食は諦めて、足音を立てぬようにこっそりと歩いて自室へ戻った。


 オノゴロ島
 平和祈念公園

「……」
「……」

 シンとルナマリアは毎年訪れている記念碑の前にいた。CE71年に起きた連合によるオーブ侵攻から、今日でちょうど9年の月日が経とうとしていた。

 キラやマリューがスクルドの初寄港地をオーブに選んでくれたのは、これを考慮してのことだった。
 
「……いつもありがとう、ルナ」

 祈念碑の前に膝をついて、献花台に花を供えたルナマリアが立ち上がり、シンの手を握る。

「ううん、気にしないで……お義父さんやお義母さん、妹さんに挨拶出来るの、ここしかないから……」

 綺麗に整えられた芝生、規則的に植えられた花々は手入れが行き届いている。この場所が戦場だったという記憶はオーブ国民でさえ徐々に薄れはじめているだろう。だからこそ、記録が必要だった。

 すでに多くの人々がこの公園を訪れ、花を供えたり、慰霊碑の前で手を合わせている。当時まだ産まれていなかった小さな子供も、無邪気に駆け回っている。

 少なくとも、オーブには平和がもたらされていた。

「……また来年も来るよ、父さん、母さん、マユ」

 それまで慰霊碑の回りを飛んでいたフォース、ソード、ブラストの三羽が、シンとルナマリアが移動するのを認めて慌てたようにシンの頭や右肩に舞い降りた。

 この後、オロファト市街地に移動したシンは、ルナマリアの買い出しに付き合わされ、ヘトヘトになるまで連れ回されたあげく荷物持ちまでさせられて、ぐったりしながらスクルドに帰り着いた。

 その後も続々と乗組員が帰還して、翌朝に備えていた。


 翌朝

「それでは、行ってきます」
「うん、気をつけてね、シン」
「ありがとうございます! キラさん」
「アスカ艦長の武運を祈ります……なんて、頑張ってね、シン君」
「はいっ、ラミアス艦長も、その、お腹の赤ちゃんに気をつけて」
「ふふっ、ありがとう」
「坊主、無理すんじゃねえぞお」
「フラガ大佐も、ラミアス艦長心配させたらダメですからね」
「おっ、言うねえこのこの」

 出撃前最後の挨拶に、コンパス首脳陣もオノゴロ軍港まで来ていた。
 シンはキラ、マリュー、ムウの三人と握手を交わして、スクルドへ乗り込んだ。


 強襲機動揚陸艦スクルド
 ブリッジ
 
「艦長、出港準備全て完了。いつでも出られます」
「よし、スクルド発進する。前進微速」
「前進微速、スクルド発進する」
「前進微速」

 シンの号令をアーサーとノイマンが復唱し、スクルドの船体がするすると桟橋を離れる。

「前方500、オーブ海軍護衛艦クニオシトミです。本艦をエスコートしてくれるとのこと」
「了解。エスコートを感謝すると打電」

 シンはそこでインカムを艦内向けに切り替えた。

「本艦の次の寄港地はディオキア、ザフト駐留軍基地。各員、鋭気を養っておくこと」

 ミレニアム一隻では出来なかった戦略が、最前線付近へのコンパス所属艦の展開。元々アークエンジェルが居た頃には地上をアークエンジェルが遊弋しながら部隊展開をサポートして、ミレニアムが軌道上からMSを降下させるというものだったからその体制がようやく復活することになる。

 今回は

「ペテルブルク臨時政府と汎ムスリム会議の最前線付近ですか。しかし、ディオキアとは懐かしい。あそこは飯も美味いんだ」
「黒海沿岸の都市、と聞いていますが」

 ノイマンがアーサーの言葉に反応したが、これは航海中よくあるアーサーの長話のスイッチだった。

「うん! 前の戦争中に寄港してねえ。そういえばラクス・クラインの慰問ライブなんてのも……あれ、そういえばあのときのラクス様は総裁ではなくて――」

 アーサーの思い出話を聞き流しながら、シンはその町での出来事を思い出していた。

 ディオキア――かつてシンが出会った少女、ステラと出会った場所でもある。因果なものだ、とシンは寂しげに笑いながら、いつのまにかブリッジに入り込んでいたフォースを手に乗せていた。
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