※映画~5年後コンパス組織がどうなってるかわかんないので根拠ゼロの妄想で書いてます
※ていうかほぼ全編妄想だから細かいとこは許して欲しい
※シンルナは婚姻統制クリアーしてるか愛の力で押し通したかはご想像にお任せします
※今後の監督の発言などで色々設定齟齬が出るでしょうが、そのうち纏めるときに直しますのでご容赦を
参考スレ:
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前のやつ:
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チベット高原上空
強襲機動揚陸艦スクルド
格納庫
現在スクルドはディオキア基地へ向けて、チベット高原を眼下に飛行中だ。
「いよーし、あと二機は今日中に仕上げるぞぉ。ディオキアについたらいつ出撃かかるかわかんねえんだからなあ!」
「「「「うーっす!」」」」
格納庫では各機の整備作業が行われていた。シンはキャットウォークの上からその光景を眺めていた。
「艦長……? どうなさったんです?」
「ああいや、別に……特に問題ないか? オジカ1等兵」
「は、はい! ……艦長、私みたいな兵隊の名前まで覚えてるんですか?」
カヨコ・オジカ一等兵はオーブ軍から出向してきた整備兵。元々乗り物酔いしない体質からスクルドへの乗り組みを命じられた。実際、スクルドの全開機動でもけろりとしているナチュラルは、彼女をはじめごく僅かだった。
「え? そりゃあ、自分の艦の乗組員だから」
「すごい……! こんな短期間で」
「そう、かなあ?」
「ええ! オーブでだっておい一等兵! とかいう下士官の方が多いですから……ああ、いえ、失礼いたしました。我々は数が多いので……」
少し寂しそうな笑みを浮かべていた艦長に、オジカは頭を下げた。
「俺は……皆の艦長だから。いつもシミュレータの整備、ありがと」
そう言い残すと、艦長は通路の奥へと消えた。
「おいオジカ。何してんだ?」
「……艦長っていい人なのかもしれない」
「はあ?」
オジカが呆けたようにしていたのを、スズカワ一等兵が呼び止めたが、オジカはそのままぼやっとしていた。
ブリッジ
「順調だなあ。それにしても飛ぶと早いねえ。以前ディオキアに行ったときは、あちこちで連合の艦隊に追撃されたりして大変だったよ」
アーサーが副長席で対空監視などを続けながら言う。
「東アジア共和国、赤道連合と汎ムスリム会議が上空通過の許可を出してくれて助かったですね」
ノイマンが地上の地形照合などを終えて、舵をオートに切り替えてから席を立って伸びをする。戦時中ではない現在、ノイマンの負担は往事に比べれば大分軽減されている。
「マグダネル中尉、しばらく頼むよ」
「は、はい」
スクルド副操舵士のマグダネル少尉が返事をする。まだまだ経験不足な彼は、ノイマンから吸収する技術が多い。
「しかし……この辺りも妙な地域だねえ」
元々汎ムスリム会議は政治的な中央というものがなく、旧世紀の国家の枠組みとも違う、各地の旧宗教の宗派ごと、部族ごとのつながりが地域レベルに拡大して構成された緩い連合体だ。無論、大まかな汎ムスリム会議としての政治集団はあるが、その内部はアーサーのようなプラント育ちのザフト軍人には理解できないものだった。
東アジア共和国は地球連合構成国ではあるが、先の大戦前、ブレイク・ザ・ワールド事件で首都の北京、最大の都市上海などにユニウス・セブン破片の直撃を受け国家機構が弱体化、現在は首都を重慶に移転し未だに復興に国力を傾けている。沿岸部に大都市が集中する国情から、今後も苦闘が続く。
それらがコンパスを認めたのはファウンデーション事変からしばらくして。折しもユーラシア連邦ペテルブルク臨時政府が出来たころだった。
もっともオーブやプラント、大西洋連邦のような創設メンバーとは異なり、東アジア共和国やアフリカ共和国と大洋州連合と共にオブザーバーとしての加盟であり、コンパスの領内活動は認めるものの兵力や資金の支出は少なく、人道支援分野での参画と領内通過の許可に留まっている。
これをまとめ上げたのがアイリーン・カナーバコンパス現総裁であり、ワルター・ド・ラメント前議長の愚直な交渉、大幅に発言力を増してきたオーブのアスハ代表の活躍であったことは言うまでもない。また、大西洋連邦は二期目に突入したフォスター大統領による、コンパスを動かすことで自国の出兵を最小限にしたいという思惑も相まって、ファウンデーション事変の後始末が政治的に速やかな解決を見たこととも無関係ではない。
このほか、ユーラシア西部や中央アジアなどの独立勢力も国家を自称し、コンパスへの参画を――この場合コンパスを自国防衛に使いたい――求めている状態だ。
「極めて政治的な立ち回りも要求されそうですね。アスカ艦長で大丈夫なのでしょうか……」
「おいおいラスカル少尉、艦長を疑うのかい?」
「いえ、そういうわけでは……」
「まあシン――アスカ艦長が子供っぽく見えて、威厳がないのは認めるけど、彼だってコンパスの大佐だ。それに僕が補佐についているんだからね」
「……副長が、ですか?」
ラスカル少尉はさらに不安げな表情を浮かべたので、アーサーは舵を預かるマグダネル少尉に助けを求めたが、彼はまっすぐ前を見ているだけで助け船を出せる状態ではなかった。
「まあ、ともかく……現地のザフト駐留軍司令官とも協力するんだ。上手くいくさ、きっと」
「はぁ」
アーサーの一見すると脳天気な回答に、ラスカル少尉はとりあえずその場は矛を収め、自分の仕事に集中することにした。
艦長室
「ん~……」
シンの仕事は艦の指揮だけではない。乗組員の人事考課、演習計画の策定、戦略・戦術の研究、各種の情報把握はもちろん、乗組員からの陳情や要求、報告の閲覧や決裁も当然として、コンパスでは展開現地部隊との連絡もその一つだ。これら膨大な業務を戦闘以外の時間に効率的に処理することが求められる。
が、シンは事務仕事が特に苦手だった。人事考課などはアーサーや各MS小隊長、整備班はマードックがある程度整理しているとは言え、最終的な確認や決裁はシンが行わざるを得ない。
〈シン!シン!〉
シンの頭の上で寝ていた――ロボットに寝ることなどあるのか?とシンは疑問だが――フォースがゴソゴソと動きはじめるのを感じながら、シンは悪戦苦闘しつつ事務仕事を片付けた。
時計の表示がすでに21時になった頃、ようやくシンは一通りの仕事を片付けおわった。
「うーん……ブリッジの様子でも見に行くか」
ブリッジ
「艦長、本艦は順調に航行中。艦内異常なし」
「ごくろうさま……今はアビーだけかい?」
「はい」
「これ差し入れ」
シンはアビーにコーヒーボトルを差し出した。
「ありがとうございます」
アビー・ウィンザー中尉とシンは、ミネルバ配属だったという点ではそこそこの長い付き合いだが、話をするようになったのはコンパスに入ってからだった。ルナマリアのほうがアビーとは親しいらしく、いろいろと話しているとは聞いていた。
「……まだ、ルナマリアさんは起きてますよ」
シンは口に含んだコーヒーを吹き出しかけた。
「ちょっ、アビー。突然何言い出すんだよ」
いくら察しが悪いシンとは言え、今このときにこういうことを言われたらそれが何を指すのかは理解していた。
「失礼しました……でも艦長だって聞いたことあるんじゃありません? 艦内でのそういうコトは日常茶飯事だって」
「う、そ、それは……」
「……まあ万が一、ということがあります。そういうことは避けていただくというのが建前ですけど……もっとルナマリアさんとの時間も作ってあげてください」
「……ルナ、いや、ホーク少佐だけ特別扱いは出来ないよ」
「そういうことではなくて、ですね……ああ、うーん、柄にもないことするんじゃなかった……」
シンが知るアビーの情報は少ないが、それでもルナマリアの友人としても、彼女のことを心配してくれていることだけはすぐにわかった。
「わかったよ。ごめんなアビー、心配掛けさせて」
申し訳なさそうな顔で、シンは頭を下げた。
「あ、いえ、その……出過ぎたことを申し上げました」
「あはは、ミネルバ組のよしみってヤツ? 次の当直は誰だっけ?」
「ノイマン大尉が来られます」
「わかった。次の針路変更までは頼むよ」
「はいっ……!」
シンが艦橋を出て行ったのを見送って、アビーは顔が赤くなっていたのを感じた。申し訳なさそうにシュンとした顔も、子犬のような笑み――とルナマリアが表していた――を間近で見るのは、実はアビーは初めてのことだった。
「……」
とはいえ、シンもアカデミーの促成栽培指揮官とはいえ、士官教育を受けた身だ。艦長ともあろうものが少佐とは言えMS小隊の指揮官、妻とは言え女性士官の部屋に立ち入るのがどういうことかは理解はしていた。
これが艦内風紀の緩みにつながるのも艦長としては避けたい。
でも、ルナマリアとの時間を作りたいのも事実だった。特に今後、戦闘任務に入ると中々話せなくなるかもしれないからだ。
ルナマリアの部屋のすぐ近くの通路で逡巡してうろうろとしていたシンだったが、突然背後から首に手を回され拘束された。
「だっ、誰だ!?」
「おーい坊主。なにしてんだー不審者かと思ったぞぉ」
ヒルダ・ハーケン中佐。MS隊の取りまとめを一任している歴戦の強者で、レズビアン――だとシンは思っていたのだが、実際のところは分からない。ファウンデーション事変以来、シンともフランクな調子で話しかけてくれること自体はありがたいが、元々スキンシップが過多な人なのだろう……とシンは納得していた。
「嫁さんの部屋の前でこそこそと。情けない旦那だねえ」
「艦長と呼んでもらえませんか」
「呼んで欲しけりゃ男を見せな……ま、公私混同しない決意は立派だがね。戦時ならともかく、平和維持活動のスクランブル続きの時代じゃ、もう少し柔軟さってのを身につけて欲しいもんだ」
この人、見た目は男装の麗人だが、中身はオッサンなのではないか――とシンは長年思っていることがつい口に出そうになった。中佐ともあろうものが艦内風紀を乱すような行為を、と教本通りの台詞が喉まで出かかったが堪えた。この人はシンの度量のようなものを試そうとしているのかもしれない。
己を律し他者を律することは指揮官として当然、コンパスのような寄り合い所帯は特にだ。とはいえ規律だけを言い立てるような狭量な人間は艦内の柔軟性を喪わせる。有り体に言えば見て見ぬフリ――
「気づいたかい? 何もおっぱじめろなんて言ってないんだ。ちゃんと男と女として話をしてやれってだけさ」
通路の自販機から缶ジュースを二本取り出したヒルダが、それをシンに投げて寄越す。
「口実は、そのくらいでいいんだよ」
「はい……ありがとうございます!」
ヒルダは缶を抱えてルナマリアの部屋に向かったシンを見送りながら、やれやれと頸を振った。
「やれやれ……気負いすぎだよ、シン」
ルナマリアの自室
「ルナ!」
「きゃっ! 誰!?」
「ご、ごめっ……」
「なんだ、シンかぁ、驚かせないでよまったく……」
上着も脱いで艦内着――別名体操服――に着替えて完全に休息モードだったルナマリアの叱責に、シンは首をすくめた。自宅ではなくスクルドなのだから、せめてノックくらいはすべきだった。
「あー、びっくりしたぁ……どうしたの? シン」
「い、いや、その……お茶でも、どう?」
「……いいわよ。ていうかそれアップルジュースでしょ?」
「え? あ? いやあ、その」
「ほら、こっち座りなさいよ」
ルナマリアがベッドを叩いて隣に座るように促す。ちなみにルナマリアの部屋は個室で、佐官級ともなると艦長室とほぼ同じ間取りだ。下士官まではこれより少し狭いが個室。兵卒になると二人部屋で、これはザフト艦に多い構造だった。連合艦なら兵卒クラスは数人纏めて二段ベッドの部屋である。
「……フォース、頭に乗ったままだよ?」
「え? あれ? 部屋に置いてきたはずなんだけど……」
ルナマリアの手に飛び乗ったフォースが、毛繕いでもするようにくちばしを動かす。こんな小さいのによくここまで、とシンは場違いに感心していた。
「ごめん……」
「はぁ?」
「いや、その……時間、取れなくて……中々……」
普段のシンからは考えられないしどろもどろの言葉に、ルナマリアは思わず口元に笑みを浮かべた。気を張っていることは誰でも分かる、張らなきゃいけないときだというのも嫌でも分かっている。だからシンの行動に一々干渉しなかった。
「わかってるわよ。今がシンにとって一番大事なときでしょ。しっかりしてよ、艦長」
「……」
「はぁ……総司令の下に居た頃のあんたは、もっとシャキッとしてたんだけどなあ」
「……難しいな、指揮官って」
「そりゃあねえ……小隊長とは違うもんね、責任の大きさが」
シンは今まで小隊長としてMS隊を牽引してきた。それが突然一〇〇人近い乗組員と、一二人のパイロットの命を預かる艦長職だ。シンが気負っていることをルナマリアは誰よりも理解していた。
「怖いんだよ」
「シン……」
シンの白皙の顔が、血の気が退いて青白くルナマリアには見えた。
「いつも夢に見るんだ。俺が誰かを……キラさんや皆を殺してる夢……」
こんなシンをルナマリアが見るのは久しぶりだった。しばらく前線から離れていたこともあって気が安らいでいたのもあるだろうが、実戦が再び近くなってきたことも影響しているのだろう。
「シン……」
ルナマリアは、シンを抱きすくめて、背中を優しく叩いてやる。
「皆、あなたが思ってるほど弱くないよ。就役式典のときにも言ってたじゃない。皆の命を預かるし、皆に自分の命を預けるって……」
「うん……」
「大丈夫……大丈夫よ」
優しくシンの背中を撫でてやるルナマリアに、シンは心の中で、なんていい女なんだ……と考えていた。こんな女性と出会えて本当によかった、と。
ブリッジ
「ウィンザー中尉、交替だ……艦長が来たのか?」
「え?」
ノイマンが指さす先を見て、アビーは首を傾げた。
「ああいや、艦長が連れて歩いていた鳥型の……確かソードとブラストとか呼んでいたかな」
艦長席のアームレストにとまっていたペットロボットに手を差し出すノイマンだが、二羽のロボットはそれを一瞥しただけで飛んで逃げてしまった。
「嫌われてるのかな」
「性格も違うみたいですね。もう1羽……確かフォースはアスカ艦長の頭の上にいつもとまってますよ」
「そうか……艦長、ゆっくり休めているだろうか」
ノイマンは初出港からずっと気を揉んでいる様子のシンを心配していた。
「どうでしょう、今はルナマリアさんのお部屋に――」
あっ、という風にアビーが口を噤むが、ノイマンは微笑んで聞かなかったことにした。
ルナマリアの自室
「……」
すぅすぅと寝息を立ててルナマリアの膝の上で寝ているシンに、ルナマリアは微笑みながら髪をかき上げてやった。慣れない事務仕事や艦長としての体面を保つのに加えて、マリューが一時離脱した後のコンパスの最大戦力の一角としても、シンの責任は重大だった。
いつもいつも、シンは重荷を背負わせ続けられている。ルナマリアは過去のことを思い出しながら、シンを見下ろした。
「んん……っ」
身じろぎしたシンの腕が、ルナマリアの腰を掴む。
「ちょっとシン……」
まるでどこにも行かないで、というように強く捕まれてしまい、ルナマリアはさすがにシンを起こそうかと迷った。個室とは言え、まだ消灯時間前。誰かが来ないとも限らなかった。
「……」
しかし、ルナマリアの腹に顔を埋めるようにして寝ているシンのあまりに安らかな寝顔を見ていると、その気も削がれてしまうというものだった。
「まあいいか……」
ここ数ヶ月、夫婦としての時間も取れていなかった。たまにはこういう時間もいいだろうと、ルナマリアはシンが起きるまではと、持ってきていた本を開いた。