至宝と天使の朝の話


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これの続き
⚠️女体化してます
冴が割とデレてます





波間に漂っているような、雲に包まれているような、ふわふわとした微睡の時間。
明確な意識のない、夢と現を彷徨っているようなその感覚が、冴は好きだった。
普段ならば早く起きるところだが、昨日から丸々一週間は仕事が完全にないオフだ。生活リズムは十分修正できる。
──けれども、騒々しいタイマーの音によって無情にもその時間は打ち切られた。
「……」
ピーー!!と勢い良く鳴るスマホのタイマーを半ば画面を引っ叩くようにして止め、冴はのそりと起き上がる。
「……」
「んぅ……」
隣に横たわったカイザーが僅かに呻いてもぞもぞ動き、けれど再び穏やかな寝息を立て始める。
元来朝に弱いことに加え、昨日は一日中激しく交わっていたせいで、眠りが深いのだろう。昨夜は何回もトんでしまっていたし、彼女の疲れは冴以上だ。
起こさないようにして、冴はそっと寝室を出た。

起き抜けにシャワーを浴びると、寝汗が流されて気持ちが良い。
頭の水分をタオルで拭いつつ、置いてある着替えを身に付けて、今度はキッチンへと向かった。
冷蔵庫に保存されているポテトサラダ、温め直したチキンスープ。
それらにパンを添えて朝食を済ませてから、幾つか種類のあるゼリー飲料から一つを選ぷ。
それから、戸棚に常備されているミネラルウォーターのボトルを取って、冴は寝室に戻ることにした。

長い金髪が僅かに差し込んだ光を反射して煌めき、青く染められた毛先とのコントラストが美しい。
抜けるように白い肌、薄ら色付いた形良い唇に、嫌味なくらいに通った鼻筋。
今は閉じられた瞼を、黄金細工のような繊細な睫毛が縁取っている。
ただ眠っているだけで名画のような光景を作り出す女の名前を、ミヒャエル・カイザーと言った。
冴と同じ新世代世界十一傑に名を連ねる若手の女子ストライカーであり、そして同時にこうしてプライベートを分かち合う恋人でもある。
パパラッチにでもバレたら一大スキャンダルになることは必然なので、余程親しい間柄以外には隠しているが、身体を重ねる回数はとうに二桁を超えているし、こうして抱き潰したことだって二度や三度ではない。
後者はカイザーに忠誠を捧ぐMFに殺害予告を受けることが目に見えているので、絶対に口にしないと決めているが。
何はともあれカイザーを起こしてゼリーを口にさせようとして、そこで冴は一瞬躊躇する。
寝かせた状態だとベッドを汚してしまうし、かと言ってなるべく腰に負担を掛けない体勢が望ましい。
数秒逡巡してから、膝の上に抱え上げて食わせれば良いか、と言う結論に落ち着いて、取り敢えず身体の下に手を回して持ち上げる。
「っ、」
彼女も自分も同じスポーツ選手だと言うのに、随分と違う体格には性別の差を感じて色々と感じるものがある。
身長が高い割に華奢な肩幅、先程まで冴を受け入れていたとは思えない薄い腹。触れたことはもう数えきれないけれど、今でも時々驚かされる。
けれど、この細く柔らかな身体から打ち出されるシュートの威力は男と比べても決して遜色ないどころか、世界でもトップクラスなのだから、面白いものだ。
脳裏に美しい軌道を思い描いて、ネグリジェから伸びる白い脚を見る。
しなやかな筋肉に覆われて、でも不思議と柔らかい脚。
良い筋肉は柔らかいと言うから、きっと彼女もそうなのだろう。
そんなことを考えながらも無事膝の上に座らせることが出来たので、冴はカイザーを起こす作業に移る。
「ミヒャ、起きろ」
プライベートでしか呼ばない愛称を耳元で囁くと、黄金の睫毛が僅かに震えた。
「ミヒャ」
そのまま続けて呼ぶ。
ゆる、と白い瞼が持ち上がって、澄んだ青の瞳が薄ら姿を現す。
「うぁ、さえ……?」
「ああ、おはよう」
ふにゃふにゃと蕩けた声はあどけなく、夜のそれとは別種の可愛らしさがある。
僅かに掠れているのは、多分、というか確実に冴のせいだけれど。
「喉渇いたろ。水飲め」
「あー……」
ボトルを差し出すと、彼女は億劫そうにそれを受け取って緩慢な仕草で傾ける。
こくり、と白い喉が数度上下して、青い瞳が次第にはっきりとした光を取り戻して行く。
それにつれて、自分の置かれた体勢にも気付いたらしい。
「何だ冴、今日は甘いな」
「気分だ」
「へぇ……んっ」
細い首筋に散らばる昨夜の痕跡をなぞると、ぴくんと一瞬膝の上の身体が跳ねる。
白い肌と青い薔薇の上で、赤い鬱血点は良く映えて──有り体に言えば、唆る。
「っ、おい、ん、撫で回すな!」
「悪い」
触るたびに身体を跳ねさせるのが楽しくて悪戯を続けていると、ついに女王様が拗ねた。
素直に謝って、そのままゼリー飲料を手渡す。
不機嫌そうに唇を尖らせて、でも大人しく受け取ってそのまま吸い始めた横顔を覗き込む。
「……クソ邪魔。そんな楽しいか?」
「……」
楽しい、なんて言ったら引かれるのは目に見えているし、冴は沈黙を選択する。
飲み終わったところで容器を受け取ってゴミ箱に入れ、引き続き顔を覗き込むようにして冴は訊ねる。
「気分は?」
「最悪。腰がクソ痛い。何回ヤった?」
「あー……十回以上だな」
「……クソ絶倫」
ふん、とカイザーが鼻を鳴らしてそっぽを向く。
怒らせたなこれは、と冴は機嫌を取るための方法を頭の中で並べ出した。
「クソ最悪だ。暫くベッドから起き上がれない」
けれど、そう悪態を吐くカイザーの声が存外柔らかいことに気付いて再びカイザーを見つめる。
「……まぁ、でも」
カイザーはちらりと冴を見上げると、
「午後までには多少回復するだろうし、サッカー以外なら付き合ってやろう」
そう言って微笑んだ。
花咲くようなその柔らかな笑顔は、プライベートでしか見られない表情だ。
全くこれだから狡い、と冴は思う。
これはもう、仕方ないだろう。
「……だから取り敢えず、一回降ろせ」
ほんのり赤く染まった耳に、この体勢が恥ずかしかったのかと冴は納得した。
成る程、そう言えば昨日こんな体位でヤったな。
「これでいいか」
「ああ」
両手で抱え、そっとベッドに降ろす。
羞恥心から解放されたことで安心したのだろう、カイザーがほうと息を吐く。
──それを見計らって、冴は彼女の肩を軽く押してそのまま覆い被さる。
ぽすり、と呆気なく倒れ込む上半身。
え、と呆気に取られた顔で呟いた彼女の胸元に手を掛け、冴は彼女の疑問を解消するために囁いてやる。
「サッカー以外なら付き合うんだろ」
「……は、さえ……?」
青の双眸が大きく見開いて、驚いた猫のようで可愛らしい。
あまり動かない表情で気付かれにくいだけで、糸師冴にだって性欲はあるのだ。でなければ、昨夜のようなことはしない。
それなりに長い付き合いで、冴の言いたいことを察した、察してしまったらしい恋人は、色白の肌をみるみる青ざめさせる。
「ま、待て、考え直せ! ほら、何か、何か他にもあるだろう?」
それは本当に無理、と掠れた声で必死に懇願するカイザーに、冴は珍しく、本当に珍しく基本仏頂面のその顔に笑みを浮かべた。
「俺は約束を守ったから、ミヒャも当然守ってくれるよな」
「いやちょっとま、ぁ、やぁっ!」

結論を言うと、ミヒャエル・カイザーはのオフの内三日間をベッドで消費する羽目になったし、休日明けの冴の肌のコンディションはとても良かった。





追記(蛇足)
サッカー以外なら付き合う→お前とのサッカーはベストコンディションの時が良い
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