先生、お見合いするってよ1


それはとある日のキヴォトスの昼下がり。
不意に懐かしい番号からの電話がかかってきた。
先生「……もしもし、母さんどうしたの?」
お母さん「久しぶり!〇〇(本名)元気してる〜?」
先生「うん、元気してるよ。本当に久しぶりだね」
お母さん「ホントにね!アンタと最後に話したのなんて、アンタがきゔぉとす?に行く時きりだったもんね」
先生「そうだったね。……それで?急に電話して来たってことは何かあるんでしょ?」
お母さん「さすが私の息子、理解が速い。それがね、アンタ宛てにお見合いパーティーの招待状が届いたのよ。アンタもそろそろそういう歳かなって一応連絡したわけ」
先生「はぁ?お見合いぃ?……悪いけど断っといて。今俺先生やってるからそんな余裕は無いんだ。それにそっちに戻るの大変なんだから絶対無理だよ」
お母さん「いやそれがね、そのパーティーそっちでやるらしいのよ」
先生「はい?キヴォトスで?なにそれどういうこと?」
お母さん「いやお母さんも詳しくは知らないんだけど、ともかくそっちでやるみたいなのよ」
先生「知らないって、一体何処からの招待状だったのさ」
お母さん「うーん、それが分からないのよね。ただひび割れみたいな模様の入った黒い手紙ってだけで、会社名も聞いたことないし……えーと、げまとりあ?何処の会社かしらーーー」
先生「は!?母さん、その手紙本当にお見合いパーティーの紹介状なのか!?何か変な物とか送られて来なかった!?というか無事!?」
お母さん「え、別にそういうのは無いけど……一体どうしたの?」
先生「い、いや別にどうってことはないけどさ。……分かった、そのパーティーに参加するよ。それで参加するには何処に連絡すれば良い?」
黒服「それには及びませんよ、先生」ニュッ
先生「ウワァァ!」ガシャーン
お母さん「ちょっと!〇〇(本名)!?どうしたの!?」
黒服「いえ、ご心配には及びませんよ。お義母様」
お母さん「はい?どちら様?」
黒服「申し遅れました。私は黒服、〇〇(本名)先生の友人です」
お母さん「は、はぁ、黒服さんね……」
黒服「はい。先生は今し方私の姿に驚いて椅子から転げ落ちたようです。ですが、大事はないのでご安心ください」
お母さん「なんだ、それなら良かったわ。それなら〇〇(本名)に変わってもらえますか?」
黒服「ああ、お見合いパーティーの件でしたらご心配なく。招待状を送らせていただいたのは私ですので」
お母さん「はい?どういうこと?」
黒服「実は先生はここキヴォトスでかなりの有名人でして。彼の先生としての真摯な活動もあり、彼を慕う女性は非常に多いのです」
お母さん「へぇ、あの鈍感男がねぇ……」
黒服「おや、お義母様もそう思われますか」
お母さん「そりゃそうよ!あの子ってば学生の時から誰にでも優しくて気配りができる癖に色恋の話になるとさっぱりだったもの!」
黒服「ははは、おっしゃる通りです。先ほど申し上げた通り先生を慕う女性は非常に多いのですが、あいにく先生はそれらの好意に一切気付いておらず……このままではいつ乱闘騒ぎになってもおかしくない危機的状況なのです」
お母さん「あらやだ、あの子そんなのにまで好かれてるの?パパと違って女運無いのねぇ……」
黒服「……はい。ですので、ここで一つ先生を慕う者達を招いたお見合いパーティーを開催し、事態の沈静化を図るという運びとなりました」
お母さん「なるほど!それは分かりました。でも、それなら息子に招待状を送ればいいだけなのでは?」
黒服「本来はそうするべきなのでしょうが、仮に私が言ったとしても先生がそれを了承してくださる可能性が低いものですから……先生のお義母様からも参加を促していただければと考え、勝手ながら招待状をお送りさせていただきました。誠に申し訳ございませんでした」
お母さん「あら、そんなご丁寧に……こちらこそ、息子にそこまでしていただけるなんて、本当にすいません……」
黒服「いえいえ、先生は私にとって大切な友人であり、数少ない理解者ですから。この程度は当然です」
お母さん「あらぁ……それじゃあ黒服さん、息子をよろしくお願いしますね」
黒服「はい、お任せください。必ずやお義母様もご納得されるような女性とのご縁を結ばせてみせます」
お母さん「はいよろしくお願いしますね。あ、じゃあ息子に代わっていただけますか?」
黒服「かしこまりました。先生、お義母様からですよ」
先生「……もしもし?」
お母さん「ちょっと〇〇(本名)聞こえてる〜?アンタ愛想振り撒くのも良いけど、ちゃんと相手の女の子のことも考えて上げなさいよ!だからパーティーには絶対に参加しなさいね!それと終わったら良くても悪くてもちゃんと結果を連絡すること!あと、良い子が出来たらちゃんとウチに来て紹介すること!良いわね!それじゃあお母さんこれから社交ダンスの時間だから!体に気をつけて、ちゃんとご飯しっかり食べるのよ!じゃあね!」ガチャン、ツーツー
先生「切れちゃった……」
黒服「素敵なお義母様でしたね」
先生「それで?黒服、どういうつもり?」
黒服「クックック……どうしたも何も先ほどお義母様に説明した通りですよ」
先生「嘘こけ。何が事態の沈静化〜だよ。どうせまた碌でもないこと企んでるんでしょ」
黒服「おや、信頼されてないですね」
先生「当たり前だろ。てかお前、どうやって私の実家を調べたんだ?もし、家族に手を出す気なら……」
黒服「クックック……そう興奮なさらないでください。私が興味あるのはこのキヴォトスの神秘と貴方だけです。……白状してしまえば、招待状を送らせていただいたのはお義母様から先生への参加を促すためもありましたが、単純に先生のご家族とお話ししてみたかっただけです」
先生「はぁ?意味分かんないんだけど」
黒服「先生、つまり貴方という特異な存在が形成されるに至るまでの全てを観測したかった。端的に申しますと、先生の家族を知りたかった。ただそれだけです」
先生「それを聞いて信じろと?」
黒服「ご自由にどうぞ」
先生「…………分かった。これ以上は何も言わない。けど、私の家族に手を出してみろ、絶対に許さないからな」
黒服「クックック、そう怖い顔をしないでください。貴方には笑顔が一番似合います。まぁ、貴方のそんな顔を見られるのは私を含めたごく一部ということを加味すれば中々に心地良いですがね……」
先生「うわぁ……。ま、まぁいいや。……それで?お見合いパーティーの件について話してもらおうか?」
黒服「分かりました」
黒服の話を要約すると、研究にお金を使いすぎて金欠になった黒服が私をダシにしてお見合いパーティーを開き、資金を得ようというものだった。
わざわざ私の実家に招待状を送ったのも、黒服自身が私にお願いしてもどうせ断られると踏み、家族からの賛成もあれば私が参加せざるをえないという八方塞がりの状況を作るためだ。
ちはみに、すでに料金は前払いされているため、パーティーの中止もできないという。
そして肝心のお見合いパーティーのメンツだが、当日まで非公開。
それらの話を聞き終えた私はもちろん、黒服の腹目掛けて拳を突き出した。
〜〜〜〜〜
そして、パーティー当日。
晴々とした青い空の下、私は大きなホテルを見上げる。
見る者を魅了するはずの絢爛豪華な建物は、今だけは魔王の城のような重圧を放っていた。
先生「はぁ、ここが会場か……」
今からでも帰りたい欲求を堪え、私は歩みを進める。
こうして私は、これから始まるであろう戦争の渦中へと身を投じていくのだった。

つづく
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