水漬き揺蕩う


脹相視点
 
 
 
 
ごうごうと流れる音がする。
それから途切れ途切れにこぽりと気泡が昇る音も。
そして微かに聴こえる、鼓動。
温かい水に包まれ、揺蕩うこの心地良さは、そうだ。
懐かしい、母の───

不意に腕が掴まれ、微睡みが破られる。
そのまま腕を引かれ、ざばりとお湯から引き揚げられた。
引かれた腕の方を見ると、いつもの鉄仮面は何処へやら、顔面蒼白で狼狽した様子の日車が居た。
「一体どうしたんだ?日車」
「…それは俺の台詞だ……。……君こそ一体何をしていた?」
溜息をつきながら日車が聞き返してくる。
「悠仁から日車との初対面の時の事を聞いた。服を着たまま風呂に入っていたと。そして、『思っていたより気持ちがいい』と言っていたとも。だから、試してみたくなった」
「……そこまではいいんだが、何故沈んでいた?溺れているのかと思ったぞ」
成程。
先程の狼狽は俺が溺死しかけていると思ったからか。
「俺はこの程度では溺れないぞ?血中成分を操作できるからな。只人の何十倍も息を止めていられる。それに、お湯の中は色んな音がして、温かくて、まるで母の胎内に居るようだった……」
瓶の中の冷たい水とは違う、優しく全てを包み込む温もり。
百五十余年経った今でさえも鮮明に思い出せる、母の──愛。
そう。これは、愛に似ている。
だから。
「日車もやってみるといい。今出る」
「いや、俺は──」
ばちゃばちゃと水を滴らせながら立ち上がると、湯を吸った重みで紫の胴巻がべしゃりと湯船に滑り落ちた。
「む…お湯から出ると重いな……日車?」
途中で言葉を切った日車に顔を向けると、彼は目を見開いて硬直していた。
瞳だけが忙しなく上下に動いていて、酷く動揺しているのが分かる。
今日は日車の珍しい顔がよく拝める日だ。
その事に少し嬉しさを覚えながら観察していると、肩を掴まれ湯船に座らされた。
「君は…、少し…無防備すぎる」
深い溜息と共に吐き出された言葉に首を傾げていると、日車が右手で目を覆った。
疲れているのだろうか。それならば。
「疲れを癒すには湯船に浸かると良いと聞いた」
赤燐躍動して日車の脇腹を掴んで持ち上げ、湯船に浸からせる。
これで疲れは取れる上、服を着たまま風呂に入ると気持ちがいいというのだから、一石二鳥とはこの事だろう。
「ゆっくり浸かると良い」
そう言って湯船から出ようとしたら、また腕を引かれ日車の膝の間に後ろ向きに座らされる。
「…日車……?」
振り向いて名前を呼べば、腕を回されてぎゅうと抱き締められる。
耳の裏に吐息を感じ、肌がぞわりと粟立つ。
「…ぁ…っ」
そのまま付け根に口付けられ、ちうと吸われる。
「んっ…はぁ…っ」
前に回されている腕が胸の突端を濡れた布越しに撫でる。
「あっ!?んん…っ、ま…て、ひ…ぐる、ま……っ!」
なんだこれは。
こんな感触は知らない。
直に触れられているのとも、舐められているのもと違う、未知でありながら強い快感に否応無く身体が跳ねる。
その度にばしゃばしゃとお湯が波立ち、揺らぐ布地が触れられていない肌を擦りさらに快感を高めていく。
「んぁっ、あぁ…っ、これ、だめ……っ、あっ、ん…っ」
「……君は少し、自分がどう見られているかを理解した方がいい」
「な…にを…、うぁっ、あ、や…っ、ぁう…っ」
日車の声に籠った熱が、耳から背筋を通って下腹に流し込まれていくようだ。
腰に熱く硬いものが当たっている。
期待で腹の奥がきゅうと収縮する。
「あっ…ひぐるま……っ」
先を強請って彼の名を呼ぶ声は、甘くどろりと蕩けたものだった。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening