『魔王は真の姿を見せられない!』


 漆黒の雲に覆われた空から雷がそこら中に落ちる。周りには誰もおらず、ただただ荒れ地と岩ばかりが広がる中、二つの存在が向き合っていた。
 一人は聖なる剣を持ち、聖なる白い鎧を身に纏った勇者と呼ばれる存在。そしてその勇者の前に立つのは、十五メートル以上の大きさを持つ、雄牛のような角を頭から生やし、背中に巨大な翼を持つ筋骨隆々とした魔王。その魔王が、分厚く重厚な声で勇者に語る。
「勇者よ、よくここまで我を追い詰めたな。我とここまで戦える人間は久々だぞ……」
「ハァ……ハァ……そっちこそ、化け物め!」
「ハッハッハ……化け物か。だが、我が今以上の化け物になるとしたら、どう思う?」
「な、なんだと……!?」
「我の力は強すぎる。故に我は力を抑えるために、本来の体をこの巨大な肉人形に封じ込めた。つまり、今まで我が出していた力は、本当の力ではない」
「……!」
「光栄に思え、勇者よ! この窮屈な肉人形から我の本当の体を解放できる相手が、お前だったということに!」
 その瞬間、地面が揺れ始めた。すると、魔王の巨体がは滅茶苦茶な動きをし出した。ミシ、グチィ、メキメキ、ボキィ、バキィといった音を立てて首や腕や足があり得ない方向に曲がったり、体がグニャグニャと波打ったりする。
 そして最後に、魔王の体全てがボコボコ泡立つように膨らみ……ブルブルと震えた後、バァンと魔王の巨体が破裂し、衝撃波が辺り一面と勇者を襲った。
 魔王の巨体を形勢していた頭や腕がそこらに散らばっている中、空中に浮かぶ人間大の何かがいた。
「ふう……我の肌が外の空気に触れるのは久々だな……」
 そこにいたのは、元の姿のように雄牛のような角を頭から生やし、背中から巨大な翼を生やした、黒髪黒眼の美しい男だった。身に纏う衣服は黒のビキニパンツだけだった。
「さあ勇者よ! 真の姿を解放した我と戦って……あれ?」
 そこに勇者はいなかった。魔王が真の姿を解放した衝撃で、勇者は跡形もなく消え去ってしまったのだ。それを理解した魔王は。
「またこれか……真の姿を見せたと同時に、勇者も消えてしまう……何度目だ、こういうのは……」
 魔王がそう独りごちると、辺りに飛び散った肉片が、魔王の体に集まってどんどん包んでいって巨体を形勢する胴体になると、両腕と両足が胴体にくっつく。そして、転がっていた頭を拾って両腕で胴体にぐちゃっとくっつけると、荒れ地に体育座りをした。
「またこの窮屈な肉人形の中で、真の姿を現せる勇者が来るまで待つのか……」
 強すぎる力というのも、考え物であることを魔王は思っていた。

『登場キャラ』

「勇者」
白い髪の毛と白い鎧、白い剣を持った優男。魔王が真の姿を見せた衝撃で吹っ飛んで消えた。

「魔王(肉人形)」
 魔王が自身の強すぎる力を抑えるために中に入っている巨体。十五メートル以上の大きさを持つ、雄牛のような角を頭から生やし、背中に巨大な翼を持つ筋骨隆々とした、魔王のパブリックイメージのような姿。

「魔王(真の姿)」
 肉人形のように雄牛のような角を頭から生やし、背中から巨大な翼を生やした、黒髪黒眼の美しい男。身に纏う衣服は黒のビキニパンツだけ。
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