【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


「つ、ついに買っちゃったー。あー、でもこれはコンパスのためだし、資金難だから、仕方ないよ。うん。仕方ない…んだ」
ぐるぐると罪悪感と羞恥心、さらには愉悦感が交じり合ってなんとも言えない複雑な感情ばかり。
こんな感情に振り回されている原因が、手元に鎮座している。
それはややぶ厚めのCDが一枚。今となってはデータが主流のこの時代、こういった手元に残るCDはまだまだ現役の資金源であった。ジャケットにプリントされたコノエ艦長、ポーズからしていつも通りの格好なんだけど、こういった形で見るとなんだか危ない大人って感じ。それに、軍帽をひざ元において頭全体が晒されている。
黒髪の七三分けな髪型。普段通り、見慣れているのだが…きっと目の錯覚で、気持ちの問題だろう。
「…かっこいいなぁ、もう」
惚れた弱みからか、かっこよくて仕方ない。
厚めの顔立ちで、とろんとした垂れ目ながら眼光が鋭く、口元は猫のように緩いギャップ。軍人だから細いけど、鍛えられ引き締まっているし。袖から伸びる武骨で骨がややくっきりとした手が、普段から触れられ、目にするもの。それを見るたび、心臓が高まってしまう。
ジャケットでこんな気持ちなのだから、音源を聞いたらと思うと…ドキドキする。

これを買ったのはひとえに、興味を引いたからだ。
コンパスは発足当初からの資金難であった。
資金難であるにはあるが、一種の広報的仕事で世界に人々に認知させるためでもある。いかんせん、コンパスはまだまだ新参者の組織。
コンパスを身近に感じてもらうために、総裁みづから指揮を執って、キラくんをはじめ、シンやルナ、それにエイブスたちにも声をかけ、モデル雑誌に、カレンダー。さらにはデフォルメのぬいぐるみといったグッズなんかも手を出し、販売に至らせるほど。
総裁自ら歌声を収録したCDも発売。…これは、変わらぬ延長線だ。
ともかく、こういった形でコンパスメンバーが関わり選出され、発売に至る。コノエ艦長が出している者と言えば、勉強に使える数学の音声解説に、名作の書籍の朗読くらいだろうか。それと同時に、こういったCDを買ったおまけとして、コノエ艦長の…その、シチュエーション特化のギーク、オタク向けなボイスが収録されているらしい。
SNSではこのおまけが強い人気があり、渋い声に引かれて撃沈した声が上がっている。
中には熱量の凄いコメントもあり、ちょっと…申し訳ないけど、引いちゃった。ただ、一番根強く人気を独走しているのがキラくんとシンたちだった。彼らはいろんなシチュエーションが多く取り揃えられ、中にはちょっとニッチ過ぎるものも、あるとか。
「…アレクセイさんの声、いつも聞いているけど…良いよね、別に。コンパスを応援するためだし」
言い訳を延々とつらつらと独りごち、ノートパソコンにCDをセット。コノエ艦長のCDはすべて買い揃えているため、今回のは新しく出た著名な作家の書籍の朗読。
オサム・ダザイとユキオ・ミシマ。
シンからこの作家を聞いてみた際に、なかなかの曲者だとか…シンの勧める書籍は年齢に反して、大人の年齢でも刺激的なものが多い。多感ゆえに、こういったものを求めちゃうのかな。
さて、…聞くぞー。
そう意気込み、ヘッドセットをかけ…最初から、流した。


二時間ほどが経って、一度ヘッドセットをはずす。
深く深呼吸し、長めに息を吐く。それだけ、息をするのを忘れてしまうほどの出来の良さだった。
「…すっごかった…。てか、オサム・ダザイ…ちょっと、アレ過ぎない??」
朗読内容はすごくよかった、すらすらと耳に入るし情景が浮かぶ。それに、主人公たちの声がやけに感情が籠っており、本当にその人の言葉を聞いているみたいだった。ただ、内容は…中々のモノだ。作者の人となりが分かるし、人間性も理解してしまうほど。
「…次、おまけだぁ」
残るはおまけの、例のシチュエーション。
学校の先生と、会社の上司に…こ、恋人かぁ。最後以外は、理解出来ちゃうから良いとしても、肝心の最後がなんとも。
…僕以外で、そういった関係になる。そりゃあ、あくまでシチュエーションだからしょうがないとしても。
「…これくらいで嫉妬するのかぁ。バカみたい」
情けなさを沸かせながら、覚悟を決めて最後のおまけのボイスを聞く。
ヘッドセットをかけ、マウスを動かし…クリックした。

『君の成績じゃあ、補修をするほどではないと思ったが。…そんなに、私が恋しかったかい?』
んー、成績は良いほうか。それをわざと間違った回答を埋めて、この補修を受けている…と。ありきたりだけど、まぁ好きな先生だったらやりそうかな。僕にとって縁も無い話だから、共感が湧かないけど。
こういうのって、愉しむものだから…気にしないほうが良いんだけど。ダメだ、ちょっと、数学のところが気になっちゃう。
『…そうそう、うまいじゃないか。その公式を使う…と、近かったね』
え、この公式ってこう使うんだっけ。僕の習った時期から、訂正されたのかな。…いや、コノエ艦長が監修しているんだから、それは無いと思う。僕が間違って覚えているのか…うわ、ショックだ。
あぁ、いけない…変なところで意識が持ってかれたからボイスを聞き逃してしまった。
『ほら、続けないと帰れなくなっちゃうよ。…それとも、もっと私と一緒に居るかい?個別授業、でね』
あ、あ、うぅーっ!!
低く、囁きかける声。ちょっと濁っている感じがまたいい。こんなの、好きになる人出てきちゃうのは仕方ないんじゃないかっ。それに、ちょっと遊んでいる感じが…若い子をからかっている、そんな姿勢がいじらしい。
ズルい大人な声じゃん。

『ここ最近調子が良いみたいだね。えらいじゃないか、君ならもっと頑張れるよ』
普通に嬉しい言葉だ。
なんと言うか、普段の職場で聞く言葉の数々だし…聞きなれちゃったな。でもちょっと、怒った感じ、好きだな…えへ。
『こんなおじさんからかって楽しいかい?…本気、ねぇ。…なら、こんなことをされても嫌になったりしないと?』
うひんっ!?いきなり耳元で囁かないでほしいっ!
あ、あ、ゾクゾクする。コメントの熱量の意味がようやく理解できた。これは、駄目な声だ。壁ドンされる情景が目に浮かぶし、見下ろされる感じも思い出してしまう。
こっちだって、本当は首元にいっぱい痕付けてほしいけど、そういったのはダメ。ふしだらすぎる。タリア艦長には悪いけど、僕まで羽目を外しすぎるとミネルバクルーに申し訳なさすぎるし、ミレニアムもしかりだ。
『これに懲りたら、誘惑しちゃだめだよ。でないと…逃がすつもりが無くなってしまうからね』
あー、これはもうロックオンされちゃったね。もう、眼光が鋭くなってるし、じっとりとした熱い視線でこっち見てるよ。
そもそも、最初っから逃がすつもりないじゃないか。褒めるのは口実で、ここまでが本番ってことだろう。

「次、恋人編だ」
問題のシチュエーションに来てしまった。こんなの、出して大丈夫なのか?
「なんか、やだなぁ…」
ちょっとうらやましい。これは仕事だから仕方ないけど、アレクセイさんは僕の大切な人なのに。
こんなことで嫉妬しても、みじめで仕方ない。…さっさと聞いてしまおう。

『おはよう、よく眠れたかい?…そうか、無理させたね』
…まさか、ね。
『君は始終、ずっと可愛かったよ。…あぁ、怒らないでくれ。だって仕方ないじゃないか、かわいいんだから。
他の者に見せたくないくらいに、かわいいんだ。君は自覚がないだろうけどね』
…聞きたくなくなってきた。
『可愛いばかり、言わないでくれ?それは無理な話だ、恋人が飛び切り良すぎて、こんな言葉だけじゃあ満足出来ない。
他の者たちに、君を見せたくない。その笑み、悲しみ、怒り、喜びなどすべての感情を私だけに収めていたいほど。
それくらいに独占欲はあるのさ。
君を見下ろすとき、上目遣いでこっちを見て、その小さな口で君の声を間近で聞ける。その体も、私だけが暴けるんだ』
ヘッドセット、はずしたい。
『ふふ…私と同じくらいの手だな。少し、私の方が骨ばっているな、年を取ったと感じさせるよ。
若いからか、筋肉が付いているってはっきりわかるよ。少し鍛えたかね?結構、勤勉で実直なところは君らしいな』
…?
『本当は痕を付けたいし、所有者をハッキリとさせたいんだ。だが、君は過去のことからこれらが嫌いだろう…?
いや、責めているわけじゃない。ちょっと残念に思っているのさ。
…まぁ、時間を置いてから君にまた了承を得たいと思う。君のわがままは可愛いものだが、私のわがままを通させてほしいんだ。君は無意識だが、私の背中は結構、君の爪痕でいっぱいだぞ。知らないだろうがな』
あれ、様子がおかしい…違うそうじゃない。
何だ、これ。誰に話しかけているんだ?…こんなの、既視感がありすぎる、まるで…これじゃあ。

『アーサー。もう解っただろう、私は結構独占欲が有るんだ。
こんな男に惚れてしまって、かわいそうに。君は意外と共感性が無いが、それでも君は私を知りたいという思いが理解できたし、実感できた。
君の本気がようやく理解出来た矢先、…君は別れ話を振ったね。いや、私が悪いんだ…君の気持から逃げてばかりだったからね。男だからだとか、年齢とかの理由で逃げてばかり…君はさぞや哀しんだろう。
以前の私を殴り飛ばしたいくらいに、後悔はしている。

アーサー。この場で申し訳ないが、今は言わせてほしい。
君を愛しているよ。死んでも離してやるものか、君が別れを切り出し女を作ろうとも、君の中でくすぶってやる。女では満足できないくらいに、私なしでは生きられないようにするつもりだ。心も、身体もすべて、私のモノだ、とね。

さぁ、後ろを振り向いて。答えを聞かせてくれ』

は?
後だって?何だよ、ソレ…まるでオカルトホラーじゃないか。
僕は恐る恐る、後ろを振り向く。

「お気に召したかな?アーサー」

後には確かに居なかったはずの、アレクセイさんが立っていた。
「ぎゃあぁああああっ!!!?」
あまりの恐怖に僕は叫び、椅子からずり落ちた。お尻から一気に落ちて痛いはずなのに、心臓がバクバクとうるさいし締め付けられる方が痛い。止めてほしい、そんなホラー演出。
「酷いな、悲鳴を上げるとは…悪い子だ」
「ひゅーっ、ひゅーっ…や、やめてください。し、心臓、止まりますから…」
本当にやめて。
心臓が持たない。もうさっきのボイスの内容、飛んでしまったから。
「っと、やりすぎたね。すまない…」
「いえ…ち、近いんですけど」
椅子からずり落ち、ジクジクと痛みが引かないまま床にへたり込む。僕の反応で少し反省してくれてるのは良いけど、そんな近くに座られたら…後ろが机で逃げることもできない。近いし、顔が…ハッキリと見えてしまう。顔を逸らしてもじっとりとした熱帯びた視線を感じる、そんな見つめないでほしい。
ゆっくりと、アレクセイさんの顔が近づいたからとっさに目をぎゅうっと、瞑ってしまう。
……何も起こらない、目をゆっくりと開ける。

「アーサー、好きだ」

「ひうっ」
「君は私の声が好きなようだから、ちょっとした細工をさせてもらったよ。君が私のCDをすべて買い上げていることは知っているからね…酷いな、そんなモノで満足するとは。
本物の声が、君は好きだろうに」
「あ、あ…やだ、声やだ」
必死に頭を横に振って、身体をのけぞるも…アレクセイさんは体を一気に詰め寄らせ、抱きしめる。
「嘘をつくんじゃない。逃げるな」
「アレクセイさん、駄目です。おねがい…ね?」
必死に懇願するが、聞き入れる気も無いようで。耳元から離れ、唇を当てられ…何度もキスをもらう羽目になった。触れるくらいの力加減から、口を塞ぎ、口内へと舌を入れられ、舌同士を絡められる。
唾液が混ざり合い、いやらしい水音が籠れ出て、また羞恥心を強くさせる。
「ん、…ちゅ…はむ、ん、ん…れる…んー」
ドン、と机に全身押し付けられ猶更逃げ場を無くす。
「ん、ちゅう、ちゅ、ちゅ…あれく、へい、ひゃ…ん、む…ぷぁ」
「それで、返事は?」
「はぁ…はぁ…僕も、好きです。好きですから、だから…ぅひっ」
太もも同士を密着させたところに、隙間にねじ込むようにアレクセイさんの手が入り込む。ずるずると下りたり上がったりと、撫でさする。太ももの外側も優しくなでられ、絶対その気にさせるつもりだと、理解するしかない。
アレクセイさんの胸元に手をやり、退けようとするも…力が入らない。その時、自分の手を取るようにアレクセイさんの手が重なり、口元へと誘われる。
ちう、とリップ音と共に手のひらにキスされた。
「まだ、逃げるかい?」
眉を下げ、少しばかり悲しそうな笑み。そんなの、ひどいじゃないか。僕ばっかりドキドキして、…そんなに欲しいなら。
全部あげます。全部、全部…あなたにあげます。
返品は、絶対受け付けませんからね。アレクセイさん。

「…もう、好きにして」
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