【閲覧注意】アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


(前々から書いてみたかったけど機会がなかったポメガバースパロなコノアサ……じゃなくてコノ→アサ小咄です。とは言ってもかなり独自改変していますし謎の造語も爆誕してます。相変わらず幻覚と捏造のオンパレードです。今回は艦長:自覚済、副長:無自覚でお送りします)


 ポップコーンが弾けるような音を立ててコノエが真っ黒のポメラニアンになった。

「おぉっ?」
「パゥ……」

 場所は艦長室。時間は交代直前の報告時。目の前で発生したアクシデントにアーサーは数秒程固まった後、仕方ないとばかりに苦笑した。


 C.Eよりずっと昔、それこそ松明を持って狩猟をしていた頃から、人類は短期間かつ急激なストレスを感じると防御機能の一つとして一時的に他種の動物態へと変化してしまう『急性ストレス性心理防御症候群』という可能性を持ちながら文明を築いてきた。
 これはコーディネーターという種が誕生しても克服できず、むしろ該当の遺伝子に手を加えると悪化の一途を辿る事が判明している。
 だが他種とはいえ種類は多くない。殆どの場合犬か猫の2種類に分類される。更に言えば周囲がケアをしたくなる心理になりやすい小型の品種ばかりだ。最近では犬はポメラニアン、猫はスコティッシュフォールドが変化の品種として多いらしい。
 なんにしても人類が攻略できない数少ない遺伝子。今もナチュラル・コーディネーター問わず克服の道を探っているが、解決の糸口は見つかっていない。


「ということで艦長がポメラニアンになったので暫くは自分が代理で対応するからね。皆よろしく頼むよ」

 了解しましたーと優秀なブリッジクルー達が返事をする。アビーに各責任者に連絡を流しておいてと伝え自席に座って副長権限でも対応できる業務を回収し始めた。

「艦長は自室ですか?」
「うん。とりあえずハインライン大尉にお願いしてきたけど、リラックスできるかはちょっと……」

 あぁ……と声を漏らしアビーが少しだけ遠い目をする。
 ハインラインとコノエは旧知の仲だ。恩師と教え子らしいというのはミレニアムに乗艦する際に話の流れで聞いたことがある。
 本来ならこの後のシフトはコノエだったのだが、この状態で業務に当たってもらう訳にはいかないのでアーサーが数時間だけ延長して、後はハインラインとキラに責任者をお願いすることになっている。
 最近は急を要する開発兵装が無いのを差し引いてもハインラインがストレスのケアができるかと言われたら……正直なところ無理だろう。
 だが他に航行中のミレニアム内に彼のストレス緩和を頼める人はいない。
 さしものハインラインも自分の苦手分野と理解しているのか話をした時には『なんで自分が?』と言いたげな表情を浮かべたが、少し考えてた後あっさりと了承してくれた。案外ケアをしたことがあるのかもしれない。
 とりあえず緊急タスクだけ片付けたら様子を見てくるよ、と言ってインカムをオンにすると音声会議をしながらキーボードを叩き、稟議書の中身を目で追う。
 中身を隅々まで読み、ハインラインが提出してきた資料に『否決』と書いた。これはこれ、それはそれである。


 キラに一時的に付与してもらった権限で艦長室に入室すれば、ハインラインが来客用テーブルで作業をしていた。コノエは居ない。
 隣に併設されている生活エリアを覗き込めばベッドの上にぽつねんと転がる黒い毛玉がいた。小さく動いているのでとりあえず今は寝ているようだ。

「軍医はなんて言ってました?」
「曰く『休むしかない』と。ファウンデーションの件から続いて最近ミレニアムは出ずっぱりでしたし、先日は艦の外で作業の指示をしていましたからね」
「やっぱりかぁ……」
「……まぁ、それだけではないでしょうけど」
「えっ? 他に悩み事が?」
「っ、……えぇ、まぁ」

 軍帽を脱いでハインラインの向かいに座る。相変わらずとんでもないスピードでキーボードを叩くよなぁと思いながら会話を試みれば意外にあっさりと乗ってきてくれた。
 更に意外な台詞に目を瞬く。言外に最近はストレスを増やしていたと言わんばかりのハインラインに思わずテーブルに乗り上げて続きを聞かせてくれと覗き込めば彼はすごく嫌そうな顔になった。……否。

(庇ってる? あのハインライン大尉が??)

 この顔は恐らく嫌なのではなく、失敗したという表情だ。つい口を滑らしたのだろう。
 
(掘り下げた方がいいんだろうけど……)

 コノエは艦長だ。今は平常航行なのである程度は融通が効くが、万が一戦闘体制に入ってしまう可能性も十分にある。副長としてこのようなアクシデントは解消しなければならず、その為にはハインラインから聞き出さなければならないのだろう。

「それ、自分が聞いてもいい話ですか?」
「ハァ……。……アーサー・トライン副長になら多少は話をしましょう。ですがただのアーサー・トラインには一切話しません」

 あの人に叱られるならまだしも『怒られる』のは御免なのでと付け加え、ハインラインは再びキーボードを叩く作業を再開させた。
 上司命令なら話してもいいということはつまりはプライベートな話題か。

「……分かりました。明日の午後にはアプリリウスに着きますし、訊かないことにします。ですが休暇中に戻られないようでしたら……教えてください」
「いいでしょう。……艦長も構いませんね?」
「えっ?」

 確認を取る話しぶりとアーサーの背後へと向かう視線を追えば、そこには何やら不満気な様子の黒いポメラニアンこと、コノエが佇んでいた。

「ワフ!」
「何を言っているかさっぱりですが、これを期に行動してみたら如何ですか? ちなみに自分には全く関係のない話ですのでこれ以上はお助けしませんよ」
「ヴゥ……」

 さっぱりと言いつつ会話できているような気がするのは自分だけだろうか。
 大真面目に話すハインラインへそんな感想を浮かべつつ、すっかり可愛い姿になってしまったコノエを見やる。
 ポメラニアンになってしまった所為かいつもの泰然さは見る影もない。それどころか感情をうまくコントロールできないらしく、今にも怒って走り回りそうな勢いだ。
 いつだって冷静沈着な姿ばかり見てきたから……なんというか……。

「……かわいい」
「は?」
「ギャウ?!」
「…………ハッ?! す、すみませーん!」

 上官、それも歳上の男性に大変失礼な物言いをしてしまい真っ青になって謝り倒す。
 床に座り込んで正座スタイルで誠意を見せればコノエはテチテチと近寄り、何故か膝の上に前脚を乗せてじっと何かを訴えてくる。

「えっと、どうかされましたか……?」
「……私は居なくてもよさそうですね。このままブリッジに向かいます。では」
「ちょっまっ、ハイ」

 嵐のように去ってしまった。
 そして言わずとも次のケア役を任されてしまったことに気が付き、一つ息をついて上官に視線を移す。
 黒いフワフワの毛玉の中に、地球の海のようなくりくりとした目玉が二つ。これがコノエだと分かっていてもやっぱりかわいいなぁと思ってしまうのは許してほしい。
 毛並みに沿うように額から頭と胴体の境目まで撫でた後、抱えるように腕を回した。

「えーっと……とりあえず持ち上げますね」
「ウゥ、ギャウ!」
「んーっ、待って、待ってくださいかんちょ、うぶ」

 持ち上げられるのは嫌だけど爪を立てたりするのは避けたかったのか、代わりにベロリと顔を舐められてしまう。そんなに嫌?! とショックを受けながら甘んじて舐め攻撃を受け入れているとワサワサと尻尾が揺れ動いていることに気づく。もしや。

(嬉しい……のかな……?)

 嬉しさのあまりということだろうか? あのコノエが?
 目を白黒させながらも実は嫌じゃないに認識を改めて、抱かえたまま来客用のソファーに座り直して膝の上に降ろす。コノエは定位置を決めたいのか暫くはモゾモゾと落ち着かなかったが、やがて決まりの良い位置を見つけて見上げるように座って首を傾げた。かわいい。
 よく分からないけど楽しいか、嬉しいらしい。とりあえず嫌な気持ちにはなってないと判断してこちらもケアらしく、甘やかし倒そうと決めた。艦長のストレスを回避するのも副長の役目だから。そう自分に言い聞かせて。

「わは、柔らかい毛並みですねぇ。自分は動物を飼ったことがないので今までちょっと憧れがありましたね〜。帰ったら待っててくれるかわいい存在がいるというのはいいかもしれません」
「グ?」
「いや、実際は飼いませんよ。いつ帰れるかも分からないですし、艦に連れてくる訳にはいきませんから」
「ワフ」
「……僕の経歴で既にご存知かと思いますが、両親は血のバレンタインで亡くなっています。祖父母も既に他界していますから家族は一人もいません。いや、ウィリアムがいますよ? いますけど……」
「……」
「……いつかは艦を降りる日が来ます。そうしたらこうやって家族を迎えたら家に帰っても……、…………」

 はた、と気づく。これではコノエのケアにならない。むしろ自分がケアされている。
 見下ろせば淋しげに鼻を寄せてなにか言いたげに見上げるかわいい姿の上官の姿があった。やはり心配させてしまったようだ。
 慌てて笑ってこの話は終わりです、と無理やり話を終わらせる。一応佐官としてストレスケアの教育は受けているが、あくまでそれは部下に対して行うもので上司へのケアはさっぱりだ。
 でも今までの様子から見て甘やかす方向は間違ってないと見えた。どうすればいいだろうか。

「……よし、こうしようかな」
「フワン?!」
「こうして〜。よいしょ……えへへーお腹に乗せちゃいました」
「ワン、ワフ………?」
「あーぬくい……」

 ソファーは大の大人二人が座っても余裕がある。アーサーが寝転がっても足首から下が出るくらいだ。行儀が悪いが許してもらおう。
 さっきよりも全体的に撫でてみる。最初だけびっくりしたようだが段々と気持ちよくなってきたようで、やがてお腹をアーサーの胸下くらいにくっつけてリラックスし始めた。

「ここのところずっと忙しかったですもんね。明日には着艦できそうですから少しは家で休んでください。自分はスケジュールの融通が効きますから気にしなくていいですよ」
「グル……」
「ヤマト准将も総裁とお会いしたいでしょうし。今度こそハインライン大尉は艦から降ろして休ませないとZAFTの軍務規定に引っかかっちゃうって話をしたじゃないですかぁ。設計局からも顔出せって言われてるらしいですし。本人がブツブツ言ってましたよ」
「クゥン」
「うーん……。じゃあ着艦するまでにお戻りになれなかったら准将か大尉には少しだけ待機してもらって、自分が艦長の家までお連れしますよ。あ、でも大尉の方がいいか……?」
「ワン!ワゥ……ワン!!」

 駄目らしい。ハインラインなら勝手知ったるなんとやら楽だと思ったのだが。フワフワに溶けていたコノエが途端にポメラニアンの形に戻ってしまったので慌てて否定する。どうやら自分でいいらしい。

「それだけ頼られている、のかなぁ……」
「ヴゥ!ワンッワンッ!!」
「あ、えーっとすみません! まだまだですよね。うんうん、頑張りますよー!」

 頭で咀嚼する前に浮かんだ独り言がポロリと零れる。だがポメラニアンだって列記とした(?)犬である。しっかりと聞き取れてしまい、毛玉が膨らんで面白いことになってしまった。怒っているのは分かるのだがポメラニアンになると何もかもがかわいく見えるのだから不思議だ。
 ……しかし、本当に温かい。艦内は適温に調整されているので暑い寒いはないが、胸下からお腹にかけて心地よい温度で温められると、なんというか……眠たくなってくる。

「……僕も艦長のこと、すごく頼りにしてますよ。普段も格好良いです、好きだなぁ」
「ワンッ?」
「貴方のようになれたら、いいなぁって思ってます……。そうすれば、少なくとも貴方を含めて、クルーを死なせずに済む、だろうから……」
「……ワフ、」
「はい、ちゃんと、帰りましょう? あぁそうだ、家に着いた、ら、『おかえりなさい』って、言ってあげます、よ………。そしたら、さみし、くない、……」
「……」
「………、………、…」

 見た目より少しだけ低く、よく通る声が段々とぼやけていく。ゆっくりとアーサーの瞼が落ちていく様を黒いポメラニアンがじっと見つめている。
 やがて静かな寝息だけになった。コノエの代打として追加勤務に当たっていたのでコノエの温かさがより響いたのだろう。
 優しく撫でていた手がポトリと滑り落ちる。

 ポンッ……ギシ。

 再びポップコーンが弾ける音が聞こえたと同時にアーサーに影が落ちた。
 人間態に戻ったコノエが己の副官を潰さないように傍らに手をついて、ただただ黙って見下ろす。
 音もなく顔を寄せ、羽根が触れる程度の軽さで唇同士を触れ合わせる。勿論同意なんて無い。完全にコノエの我儘であり、彼への裏切りだ。
 今のアーサーの優しさはあくまで博愛から一歩抜け出した程度と理解している。機を読まずにぐしゃぐしゃに壊してしまえば、下手をするとコンパスから去ってしまうかもしれない。それだけは避けなくては。
 だからこれは我慢の褒美だ。いつか彼がコノエの欲望に気づいても受け入れてもらえる為に全力で努力をする時間への対価。勝手に貰われてしまっているなんて酷い男に捕まってしまったものだ。我ながら呆れてしまう。
 ゆっくりと体を起こし、生活エリアから毛布を持ってきてかけてやり、自分を狙う狼の巣穴で安心して眠る兎の髪を梳くように撫でる。そうやってどんどんハードルを下げていくといい。その方が食べやすいというものだ。
 さて、そろそろハインラインとキラに連絡を入れなければ。恐らくハインラインには長い小言を貰ってしまうだろう。アレは興味のないことに巻き込まれるのが心底嫌いだから。

「……おかえりなさいを楽しみにしているよ」
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