【閲覧注意】お母さんみたいな人


アーサー♀ママ概念です。
読んでて違和感を感じる箇所が出てくると思いますが…雰囲気で読んでいただけると幸いです

「母さん…あっ」
休憩室の空気が緊張する。母親を呼んだのはシン・アスカ、母親と呼ばれたのはアーサー・トラインである。普通ならば周囲に揶揄われ、思春期の繊細な尊厳を壮大に傷つけて終わる出来事である。
しかし、シンが相手となると話は変わる。この青年にとって家族というのは非常にセンシティブな話題だ。四年前のオーブ解放作戦で家族を喪った過去を持つ彼に対し、トラウマを抉りかねない下手な言動は憚られる。誰もが身動き一つ取ろうとしない中…最初にリアクションしたのはアーサーその人であった。
「えぇ〜何ぃ?シンってば僕のことそんな風に思ってくれてたの?お母さん…だなんて!」
「は!?バッ…!違いますって!!」
「はいはいシンちゃん、そうカッカしないの」
「うるさい!…じゃなくって!からかわないでくださいよ!!」
にやにやといつもと変わらない調子で話すアーサーにシンが食ってかかる。先ほどの緊張と打って変わって和やかな雰囲気になり生あたたかな空気が漂う。
シンの地雷を踏まないように、しかし気を遣ったようには見せない言葉選び。
トライン副長の手腕は大したものだ、とキラは場に流れる空気に浮かされながらぼんやりと思った。

「…へぇ、そんな事が」
「その時のシンの顔がそれはもう真っ赤で…」
「ふーん、アイツにも可愛いところあるのね」
「うげっ…ルナ、その話掘り返さないでくれよ…ってか口外しないでくれって俺言ったよな!?」
後から来たシンは休憩室に入ってくるなり恥ずかしそうに項垂れた。
その日休憩室にいたのはヤマト隊の面々とコノエ艦長。悲しいかな、スクランブルも急ぎの仕事もないひと時の平和にしか叶わぬ面子である。
「でもシンの気持ちは分かるよ。トライン副長、お母さんみたいな人だもんね」
「そーですねぇ。結構そそっかしいところもあるけど。ミネルバの時もあんな感じだったわけ?あの人」
「うん、全っ然変わんない。抜けてるところも、一言多いところも…私たちのこと、よく気にかけてくれるところも」
「俺たちを心配してコンパスに入ってくれたみたいですけど…俺たちは副長の方が心配ですよ。一時期退役も考えてたって言うじゃないですか。それだけあの戦いがショックだったって事でしょ?…どんだけお人好しなんだ、あの人は」
正に子供を見守る母親だな、とコノエが言うと二人は頷く。それに乗じてアグネスは「さっさと親離れしなさいよね」とデリカシーのない発言をするが、自分の恥ずかしい失態を認めたくないシンの「あの人はお母さんぽいだけでお母さんじゃないから」などという意味不明な反論に首を傾げることになった。
「二人共、副長のことを信頼しているんだな。直接その事を伝えてやってもいいんじゃないか?」
「いや絶対言いませんよ。言ったらあの人調子乗るじゃないですか」
「へぇ?じゃあアンタ、やっぱり副長のことお母さんみたいとは思ってるのぉ?」
「だからお母さんとは思ってないって!副長は何かこう…なんて言ったらいいかわかんないけどさ!」
あーもー!と頭を掻きむしるシンをキラが横で嗜める。
これ以上この話を掘り返すのは、思春期のこの少年には酷というものだ。上手いこと話を転がそうじゃないか、と流石の気遣いでコノエは話題を変える。
「まあ、この話はここらへんにしておいて。それより次の休暇をどうするか決めておいた方が良いんじゃないか?当日間近になって急いで予定を立てるとせっかくの休暇が台無しになってしまう。ヤマト准将も、今度こそ早く総裁の待つ家へお帰りにならないとやきもちを焼かれてしまいますよ。」
警告を一つして休憩室を立ち去ろうとすると、今まさに話の中心になっていた件の人にバッタリと会う。おおっと…なんて大層な反応をしているが、おおよそさっきまでの話を立ち聞きしていたのだろう。
「副長、盗み聞きとは感心しないな?」
急いで駆け出していくアーサーにコノエがそう言うとぴたりと足を止めて顔だけをこちらに向ける。その顔は柔らかい笑みを浮かべていた。
「さあ…僕は何も聞いてませんよ?”聞いたら調子に乗りますから”」
そう言って今度はいたずらっぽく笑う。何とも気遣いの出来る母親なことだ。
…いつか、君も本当の母親になる日が来るのだろうか。コノエもまた大らかな教師の眼差しで、アーサーが駆けていった廊下を見つめた。
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