【星屑レイサSS】鎖の先


トリニティ学区内で大規模な誘拐未遂が起きたのはほんの少し前のことだ。
狙われたのはなんの変哲もない普通の学生たち。放課後にスイーツを食べ歩くなんて活動を部活にする、甘いもの好きな女子高生たちだった。
陽動を交え、周到に準備されたその犯罪は正義実現委員会と狙われた部活に所属していたある女子生徒の手によって未然に防がれたという。
キヴォトスでも特に治安のいい地区での事件は、ニュースでも取り上げられ注目を浴びるものとなった。

「では、レイサさんも気をつけてください」
「ええ、これまで以上にしっかりとパトロールをしてきます」
「いえ、私が言いたいのは……」
トリニティ自警団。スズミが言いかけた言葉をレイサはいつもの、けれどまじめな声音で遮った。
「この前の事件……あんな事、二度と起こさせるわけにはいきません!」
「狙われたのはあなたの友人たちでしたね」
「ゆ、ゆう……!?」
「変なことを言いましたか?」
「い、いえ!兎に角!不肖、宇沢レイサ見回りに行ってきます!」
「あ、レイサさん、話は……!行ってしまいました」

「とりゃーー!」
トリニティ郊外。スラム街と呼ばれる地区でレイサは愛銃シューティング☆スターを片手に走り回っていた。声を張り、スラムに不似合いな小綺麗な格好のレイサはよく目立つ。彼女自身が誘蛾灯のように良くない考えを持つ不良たちを引き寄せ、そして返り討ちにした。
「ふぅ、こんなものでしょうか」
あらかたの決着をつけ、一息つく。思い出すのは大怪我をおい今もベッドで眠り続ける放課後スイーツ部のメンバーたち。誘拐こそ未然に防げたが、あの事件で発生した被害を思えば防げたと言うことも躊躇われてしまう。
「……いえ、まだいけます」
せめて自分の手が届く範囲は全力で。
そう思いパトロールを再開しようとしたレイサは、不意に背筋をゾッとさせる気配にその場を飛び退った。
ダダダダダダダダダダ
レイサの立っていた地面に銃弾が打ち込まれる。
パトロールと気を張っていたおかげだろう。
「いきなり撃ってくるとは!この私をトリニティの守護聖騎士、宇沢レイサと知ってのものですか!」
ポーズを決めつつ銃声の鳴った方を睨む。レイサの毎回変わる口上や大仰な身振りは、自らの居場所を誇示し他へ被害が及ばぬようにという自警団としての思惑があった。9割9部はレイサの趣味嗜好によるものではあるが。

狙われて、撃たれるのなら自分が。

だが、そこでレイサの表情が驚きに変わる。
「杏山、カズサ……?」
「宇沢……私言ったよね。パトロールなんてやめなって」
「なんで、あなたがここに」
「前の事件、目的は私への復讐だった。昔にバカしてた私への……。あんただって狙われるかもしれないんだよ。なのに……」
会話が、噛み合わない。
「……っ、私はあんな事件がもう起きないようパトロールしてるんです!こんな時だからこそ必要なんです!自警団ですから!」
「あんたがやらなくたっていい。他の人に任せなよ」
「誰かがやらねばならない事を、私はやるんです」
「誰かがやらなきゃいけないなら、誰かにやらせればいい」
「っ、杏山カズサ!」
その言葉は自警団として聞き捨てならなかった。いつになく怒りの感情を見せるレイサ。
だが、カズサはずっとトーンの変わらぬ声音で更にレイサの心を抉った。
「自警団なんてやめなよ、弱いんだから」
カッと、レイサの頭が沸騰する。
「あなたみたいにですか?キャスパリーグ?」
笑いを堪えるような引き攣った声。
普段のレイサからは考えられないような皮肉。その言葉に、カズサが僅かに傷ついた顔をしたように見えて。
すると上がった時と同じようにレイサの頭が一瞬で冷えた。
「あ……いや、ちが…………私、そんなつもりで言ったんじゃなくて……でも……その、ご、ごめんなさい」
自分の言葉で目の前の少女を傷つけてしまった。レイサは困り眉になってカズサに謝る。
だが、カズサから漏れたのは乾いた笑いだった。
「ほんっと……向いてないよ」
「?」
小さすぎてレイサにも届かない声。それから──
「杏山カズサ……!」
マビノギオンの銃口がレイサの眉間を狙う。
「最初からわかってた。どうせ言っても聞かない。もしその場で納得したって、どうせその内フラフラ出歩くに決まってる」
レイサの体に緊張が走る。
再開してからだって、レイサは何度もカズサに挑戦を繰り返し、その度に返り討ちにあっていた。
けれど──。
今、カズサを前にして感じるのはそれまでと比にならない危機感だった。
「だから、ちゃんと教えてあげる。あんたがどれだけ弱いのか。そんな弱っちいあんたがならず者に負けちゃったらどうなるのか」
今日、ここで負けるわけにはいかない。自警団として、宇沢レイサとして、杏山カズサに挑むものとして。
自分は弱くないと証明しなければならない。
グッと腹の底に力を入れる。
「私は負けません」
対峙するは魔猫キャスパリーグ。
久方ぶりの決闘の火蓋が切って落とされた

「ほら、弱い」
霞む視界の中で一人立つカズサへと手を伸ばす。けれど、力はちっとも入らなくて。
体中めちゃくちゃに打ちのめされて。
それでもまだと手を伸ばす。
まだ──
その手が踏みつけられる。
「……っい゛!!」
「負けたらどうなるか、しっかり教えてあげるから」
もう二度とパトロールするなんて言えないように。

「やめて……っ♡ください……!あなたが♡こんな……っ♡こと……!!」
ここは、どこだろうか?
レイサが意識を取り戻すと、どこか地下室のような場所に閉じ込められていた。
そしてカズサに服を脱がされ、全身を愛撫されていた。
「宇沢は負けたんだよ?それもすっごいガラの悪い不良に……。だったらどうなるか、わかるよね」
「っッ♡やっ♡そんな、汚い……」
カズサの指がレイサの中にぬぷりと沈み込んだ。本来人の指が触れるはずのない柔らかな場所を擦られ、弾かれ、嬲られる感覚。
「汚いって?どこのこと?ねぇ、宇沢、どこ?」
「んっ♡あっ、あっ♡」
ジュッ、クポッ、クチュッ
腹の裏叩かれるような感覚。レイサの花園の奥、特別敏感な場所を探り出したカズサの指がカリ、とそこに爪を立てた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♡♡♡」
レイサの知らない感覚。体中が震え、頭が真っ白に漂白される、快楽。たまらず吹き出した潮がカズサの腕を濡らす。
「あーあ、汚れちゃった」
濡れた指先に舌を這わせながらレイサを見下ろすカズサの視線。その冷たさに鳥肌が立つ。
「じゃあ、宇沢もお詫びに私のここ、綺麗にしないとね」
「え、や、何を……!」
杏山カズサの本来隠されてなければならない秘所が目の前に迫る。
「舌で、綺麗にして」
「は、そんなことできるわけっイギィッ!!」
髪を鷲掴みにされる。頭部に痛みを感じるまま、顔を無理やり持ち上げられる。突然、ドスの効いたカズサの声がレイサを打つ。
「ねぇ、あんたまだ勘違いしてるの?あんたは『不良』に捕まってんの。逆らったらどうなるか、わかんないの?」
「い、痛い、痛いです……!やめてください……きょう…………カズサ……」
レイサは恐ろしかった。目の前でレイサを嬲り、痛めつけているのはほんの少し前まで一緒にカフェを巡りスイーツを食べ歩いた女の子だったのだ。友達……とまでは思われてなくとも、そのようなものだとレイサは思っていた。
ガン、ガン、ガン、ガン
髪を握られたまま頭を壁に打ちつけられる。
痛い。けれど、それ以上に恐ろしい。
この相手がもし見ず知らずの不良であればレイサだってもっと毅然とした態度を取れたかもしれない。
けれど、いま理不尽にレイサに暴力を振るっているのは杏山カズサなのだ。
「ぅ、うぅ……な、め…………ます。なめ、ますから……やめて……」
怖くて悲しくて、レイサは泣いていた。
「……まずは逆らったことを謝って。宇沢がちゃんと言うこと聞いてればこんなことしなかったんだよ。ね、わかる?」
「うぁ……は、はい。す、すいません……でした……」
「何がすまなかったの?」
「それ、は……ちゃんと、杏山カズサの言うこと……聞かなくって…………ごめんなさい」
「うん、そうだね」
「うっうぁぁ……うああぁぁぁぁ」
乱暴に掴まれていた髪が解放される。
ぐちゃぐちゃになった感情が涙となってレイサの両目から流れていた。
「じゃあ、ちゃんと舐められるよね」
「……は、はい」
恐る恐る、舌を伸ばす。
こんな風に、人の体に舌を這わせるなんてはじめての体験だった。それも普通なら手でだって触れない場所。
「レッ、レロっレロ……」
「もっと舌の使い方意識して、もっと奥も、ん♡そう、ちゃんとできてるよ、宇沢♡」
股に顔を埋めるレイサの頭をカズサが撫でる。支配されているのだとレイサは感じた。それは拒むべきはずのものなのに──
「んっ♡あ、ぁっ♡上手♡もっと……もっと♡♡」
舌先を濡らすのは自分の唾液か、それともカズサの愛液か。
胸を満たす安心感に身を任せ、レイサは舌を動かすことに集中した。

それから、沢山のことをカズサとした。
羞恥を煽るような行為。痛みを伴う行為。快楽を覚えさせる行為。
逆らう度、カズサは怒り暴力を振るった。そして、本当ならこんなものではすまないのだと繰り返した。レイサはいつからかその言葉をすっかり信じるようになっていた。カズサのお陰で自分はこの程度ですんでいるのだと。

「ありがとうっ♡ございます♡クソ雑魚レイサを保護していただいて♡お礼にたっぷり♡ご奉仕……させていただきます♡」

「杏山カズサの♡言う通りでしたっあ゛♡♡♡こんな♡お゛っ♡お尻の穴ぁ゛、ズボズボされて♡気持ちっぃ゛♡良く、なっちゃうッ♡♡♡お゛ぉ゛♡私が自警団なんて♡バカだったんです♡♡♡」

「あ゛っ♡あ゛っ♡お゛っっっ♡♡♡ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛っ゛♡スーパー♡スターなんてっ♡お゛っ♡ぢょうしにのっでらしたぁ゛〜〜♡♡♡レイサは♡星屑♡ご主人様♡あっ♡おっしゃる通りっ♡にっ♡よわよわほっお゛っ♡くず……っっっ♡でしたぁ〜〜〜♡」

「宇沢もずっとここに閉じこもってちゃいけないからね」
カズサがそんなことを言ったのはレイサが彼女のことをご主人様と呼ぶことに幸せを覚えた頃だった。
「で、でも……」
レイサはこの部屋に閉じ込められてすっかり変わってしまった。カズサに支配されることを受け入れて、自ら何かしようなんて思えない。弱くて愚かな自分はカズサに従って彼女を喜ばせはるように生きるべきなのだ。
そんな風になっていたから、外に出るということが不安だった。
ここにいればずっとカズサの庇護を受けていられるのに。
そんなレイサの表情に気付いたのかカズサは優しく微笑んだ。
「大丈夫、いいものが手に入ったんだ」
そう言って細い鎖のようなものをレイサの目の前に垂らす。
「これは……?」
「ここにつけるの」
それだけ言って、カズサはレイサの頭上に手を伸ばす。カチャン、カチャン。そんな音が鳴り、何かが鎖に繋がれた。
「あ゛っっっ♡お゛ぁ゛っっっっっ♡♡♡」
「できた」
心を、魂を握られる感覚。自分の全てが目の前の人物に差し出された確信。それが悦楽となってレイサの体を駆け巡る。充血して、硬くなるレイサの乳首を何となしに弄り、カズサは満足そうに笑った。
「気持ちいい?」
「はぁ゛♡はい゛ぃ゛♡」
今も全身が弾けるような快楽の波に繰り返し襲われ、レイサの視界をぐちゃぐちゃに歪めていた。
「この鎖は今宇沢のヘイローに繋がってる。鎖の持ち主である私に宇沢はこれから一生、絶対に逆らえない」
カズサの言うことを実感としてレイサは感じ取っていた。「逆らえない」そう言われるだけで幸せと官能が同時に押し寄せてくる。
「あんたを鎖で繋いだ私には今後あんたがどこで何をしてるのか、その全部がわかる。朝何時に起きて、何を食べて、どんなことを考えて、トイレに入って何をして、誰と話をして、仲良くして、誰にいじめられて──」
目、口、首、胸、腹、股。
順番にカズサの手が撫でていく。
ご主人様からもらえるご褒美だった。
「私がやめろって思ったことはどこにいてもできなくなる。私がしろって思ったことはどんなことでも行動にうつす」
全ての主導権はカズサにあった。彼女が望まなければレイサは指の一本だって動かせない。
「これがあれば、あんたはもうどこにいたって私のモノ」
それは至福だ。
今のレイサにとって天から授けられたような最上級の幸せだった。
「明日から学校に通うこと」
「はい♡」
「あと、自警団はすぐにやめて。理由は適当でいい。他にやりたいことできたとか言っておけば止められないでしょ」
「はい♡♡」
「スイーツ部に入ること。基本的に他に優先すべきことがなければ放課後は私と一緒に過ごすこと」
「はい♡♡♡」
「あ、あと外でご主人様はやめて。今まで通り杏山カズサって呼びなさい」
「はい……♡」
「けど──」
グッと鎖を引かれるヘイローにつられるようにレイサの体も倒れ込む。その先にあるカズサの胸にもたれかかる。
「こうされたらちゃんとご主人様って呼ぶこと」
「はい♡♡♡♡♡」
耳元で囁かれた声でレイサは絶頂した。

スーパースターが空を駆けることはもうない。
星屑が一つ巨大な猫の腹に収まった。
レイサは星屑となった。
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