【閲覧注意】お父さんを自認するコノエ艦長がアーサー♀のお相手を吟味する話


時系列:劇場版前
タイトルが全て
色々捏造過多注意。
アーサーは女性ですが名前はアーサーのままです。
※コメディですが、セクハラとストーカーは犯罪です。

フロントスリットのロングタイトスカートで無重力を舞い降りた後日、涙目のアーサーから事の顛末を聞きだした女性クルー一同からハインラインへの猛抗議があった。
「無重力空間でロングスカートはアーサー副長が悪いけどバカはヒドイです!」
まぁ、ごもっともである。
艦のNO2(キラがいるので正確にはNO3)で階級上のアーサーにバカバカ連呼するのは規律を鑑みると見過ごすわけにもいかない。
(本心から反省するとはコノエも思わないのでとりあえず形ばかりでも良いから)謝りなさい、と諭したところ、シブシブといった様子でハインラインは謝罪の言葉を口にした。
「…上官に対して失礼しました」
「はぁ、まぁ、私が考えなしなところもありましたから」
ハインライン大尉がバカにしてくるのっていつものことじゃない?と何も問題に思っていなかったアーサーは女性クルー一同から後押しされ、まぁ艦内の規律のためには謝罪を受け取った方が良いかな?とハインラインの謝罪を笑いながら軽く受け止める。
これで解散し席に帰れば女性クルーからのハインラインの評価が底辺になるだけで済んだはずだった。
「本当に、どうやったらあんな太ももまで見えかねない格好で降りて来れるのか。スカートなんぞ履いてくるからだ。バカにつける薬が欲しい」
吐き捨てるような声は小さく独り言に近かったが、事の顛末を見守っていたブリッジに響いて空気が凍る。
コノエはこの後の事を思い天を仰いだ。

次の日、コノエ宛ての女性クルーからの陳情書(という名のハインラインへの文句)を当事者のアーサーが困った顔で持って来た。
こういう時の女性の噂話の広まり具合と行動力と団結力はいつの時代も変わらない。
機密扱いで艦長室に移動し、渡された端末の陳情書の一つを開き、そこに書かれたほとんど罵詈雑言のハインラインに対する処分を求める訴えにコノエはため息をつく。
図らずも当事者のはずなのに立場上中間に立たされたアーサーは困った顔しかできない。
「どーしましょー…」
「…まぁ、アルバートにはもう一度、今度は正式に謝らせる。ここまでの問題になると処分するしかないのが辛いところだが」
上官に対する侮辱罪で適当な処分はどの辺かなと思案するコノエに、アーサーはえぇー、と驚いてみせる。
「ただでさえプラウドディフェンダーの調整に手間取っているのに、ハインライン大尉に処分下したりしたらますます遅れが出ちゃうじゃないですかぁ!准将倒れちゃいますよ!」
「…それはそうなんだが」
どうにか女性クルーを説得して処分は回避しましょうと意気込むアーサーに、罵倒されたのは君なんだがなぁ、とコノエは苦笑する。
自分の事より他人の事。自分の事より艦内の維持。
副長としては申し分ない性質であるが、少しばかり頼りすぎなのかもしれないな、と思う。
先の戦争でもミネルバの副長を勤め、浮いた話も聞いたことが無い。
コノエがどちらかというと『ぐうたら』しているせいか、部下の取りまとめから艦内の人員配置にスケジュール管理、果てはコノエの自室整理から制服のアイロンがけまで…あれ、これはあまりにも頼りすぎなのでは???
流石に歳が離れすぎていてアーサーとそういう関係になろうだとかは思わないが、娘のようには思っている。
しかし、もしかしてこのままコノエの世話ばかりさせていては父親の世話をやいて行き遅れる娘のようになってしまうのではないだろうか。
「アーサー、君幾つだったかな」
「へ?何ですか唐突に。年齢ですか?この前28になりました。そうそう、先日アカデミー時代の友人にようやく子供が出来たんですけどね、30手前でまだ結婚して無いって行き遅れ扱いされちゃったんですよー」
アカデミーの友人はプラントのコーディネーターらしく10代で結婚して、10年目でやっと待望の子供が出来て喜んでたんですけど、やっぱり出生率って段々悪くなってますよねー。でも出会いとかありませんし仕方ないですよねー。とのほほんと笑うアーサーにコノエは内心焦る。
人様の娘さんを預かる親代わりとしては、これは、とても、マズイのでは無いだろうか。
父(ではない)としては娘の幸せも考える時期なのではないだろうか。
深く考えこむコノエにアーサーは首を傾げながら「見回りついでに陳情書送ってきたクルーの様子見てきますねー」と艦長室を出て行った。

陳情書を送って来た女性クルー達にはアーサーを橋渡しにコノエ自ら個別に話しかけて宥め頼み込み、さらにはハインラインの能力がいかに天才的であるかとプラウドディフェンダーの重要性と准将の疲労度まで匂わせてどうにかこうにか怒りを納めてもらい、ハインライン大尉には衆人環視の中アーサーに正式に謝罪させる。
たが、その解決案としてなぜかアーサーがスカートを履く事になった。
「えぇー、何でぇー?」
履き替えてから言うことではないように思う。
アーサーが履いているのは色は黒だがブリッジクルーのアビーなども履いている標準的な膝下のタイトスカートだ。
怒りを収めた女性クルー一同曰く、『アーサー副長にもスカートを履く権利はあります!』
まぁ、これまたごもっともである。
コンパスに正式に認められた制服にスカートがあるのに『スカートなんぞ履くからだ』というハインライン大尉の言葉だけは見過ごせない!あんな言葉でアーサー副長がスカートを履けなくなるなんて!と意気込む彼女らの気持ちを鑑みて、しばらくは頼むとコノエはアーサーに頭を下げてみせる。
「わー!?やめて下さい。わかりました、とりあえず今月いっぱいはスカートにします!」
それくらいで良いでしょー!?その後履きたかったらスカート履くけど、ズボンの方が楽だったら戻して良いよねー!?と慌てるアーサーに女性クルー達はまぁ、アーサー副長がしばらくスカート履いてもズボンが良いなら仕方ないですけど、とようやく納得してくれた。
アーサー1ヶ月スカートチャレンジスタートである。

まぁ、アーサーがスカートを履いたところで仕事に特に支障は無い。
当のアーサーも小一時間も経つとスカートである事を忘れているかのように、いつも通り仕事を捌いている。
アークエンジェルとの合同の作戦が近く、手続きは多岐にわたる、スカートだろうがズボンだろうが仕事が出来るなら何の支障もない。
そうそう問題も起きないかとホッとしたところで、ブリッジに珍しいクルーがやって来た。
「お邪魔します」
「あれ?マッドどうしたの?」
整備班長のマッド・エイブスは基本的にはモビルスーツ格納庫であれこれ指示を出す現場監督者だ。
必要であれば会議などには出席するが、あまりブリッジには立ち寄らない。
珍しいとは思いながらマッドがアーサーに近づくのを横目で見る。
「今、ハインライン大尉が格納庫に来っぱなしだから、お前がこっちに来ないように書類持って来た」
「えー、仕事はちゃんとするよー」
ニコニコ笑顔のアーサーにマッドはため息を吐く。
「お前なぁ…整備クルーは女っ気に飢えてるんだからああいう、あー…無防備な格好はして来るなよ」
なるべく言葉を選んだであろうマッドにコノエはもっと言ってくれと心の中で応援する。
ミネルバ時代からの付き合いと部門責任者でそれなりに絡むことが多いのか、マッドとアーサーはだいぶ気安い。
(リラックスはしているな。相性は悪くなさそうだが…ん〜、しかし歳が離れすぎてるか?)
そもそも彼は結婚したりしてただろうかと調べようとして、だがこんな事でパーソナルデータを見て良いものかと思案しながらアーサーとマッドの会話を聞く。
「まぁ、しばらくはブリッジに詰めてろ。下手にお前が動き回ると動揺する奴らが多そうだ」
「えー!?なにそれー。マッドお父さんみたーい」
「お前みたいな出来の悪い娘を持った覚えは無いけどな」
ひどーいと笑うアーサーを見つつ、相手としては無いかなとコノエは思った。
【ミレニアム整備班長:マッド・エイブス】△

「あ、本当だ。アーサー副長スカートじゃん」
「そうだよー。スカートチャレンジ?みたいな?」
「なにそれ」
昼になって食堂に向かい、トレイを受け取ったところでシンがアーサーに話しかけて来る。
「スカートってチャレンジするもの…なんでありますかぁ」
「チャレンジする事になっちゃったんだよ〜。似合わないでしょ〜」
アーサーの向かいに座ったコノエを意識したのか、たどたどしい敬語で話すシンにアーサーは休憩中だし普通で良いよぉ、と笑いながら横の席を進める。
「シンも休憩?」
「俺はもうそろそろ終わりっス。ヤマト隊長またメシ食ってねーみたいだからなんか差し入れするもの無いかなって見繕いに来ました」
「…あのシンが気遣い出来るようになって…」
「はぁ!?何なんすか!俺だって隊長の事くらい気遣うに決まってんじゃないですか!」
よよよ、と大袈裟に泣き真似するアーサーにシンは喰ってかかる。
「ルナマリアとの仲も良好なようでおねーさんは安心ですよー」
「誰が姉っスか。アーサー副長みたいな頼りない姉とかいらね〜っス」
「ひどくない!?」
私だって頑張ってるんだよー!と嘆くアーサーに流石にバツが悪そうな顔をしてシンが席を立つ。
「俺そろそろ行きますけど、スカートは似合ってんじゃないですかね」
「お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ。ヤマト隊長に少しでも休んでもらうよう気をつけてあげてね」
「了解でありまーす」
敬礼して食堂を出て行くシンに敬礼を返しながらコノエは食事に戻る。
(まぁ、シンには恋人のルナマリアがいるからナシだな)
【ミレニアム所属ヤマト隊隊員:シン・アスカ】×

「良いじゃないかアーサー副長、可愛い格好してるんだし飲みに付き合っておくれよ」
「うーん、付き合ってあげたいのはやまやまなんですけどねー。私まだ仕事中なんで」
食事の後、コーヒーを取りに行った帰りにヒルダに絡まれているアーサーを目撃する。
同性の気やすさでヒルダは顔と体を寄せ、アーサーを抱き寄せるような格好だ。
うん、ヤバいな。
後ろに控えるマーズとヘルベルトも苦笑しながらヒルダをまあまあと宥める。
「姐さん、セクハラはダメっスよ」
「副長権限でどっかにトバされたらどうするんすかい」
「えー、そんな事しないよー。あ、ヒルダさんお尻触るのは流石にアウトでーす」
アウトでーす、では無いが。
ヒルダの手を軽くツネって離させる。
「ルナマリアからも苦情来てますよ。スキンシップがすぎると懲罰ですからね!」
「うーん、どんな懲罰か教えて貰いたいねぇ」
うふふ、とさらに絡もうとするヒルダをアーサーがグイッと押して引き剥がす。
「だーかーらー、それがダメなんですよ〜」
懲罰でゴミ集めとかトイレ掃除とかさせますよ?と上目遣いでアーサーが睨むのにヒルダはニヤニヤとする。
「うーん、凄んでも可愛いねぇ。食べちゃいたい」
「はーい、セクハラでーす。ハーケン隊の皆さんでモビルスーツ格納庫のトイレ掃除お願いしまーす」
「おっとやり過ぎちまったね」
「「俺らも!?」」
「連帯責任です」
ありゃりゃ、と笑うヒルダに慣れているのかマーズとヘルベルトは肩をすくめて笑って見せる。
しゃあねぇ、こうなったらピカピカにしてヤマト隊のヤツら驚かせてやるかとガハハと笑いながら去るハーケン隊の面々を見送り、見えなくなってからアーサーはもぅ!っとため息をついて触られたお尻を撫でた。
(後で正式に懲罰辞令を出しておくか)
【ミレニアム所属ハーケン隊隊長:ヒルダ・ハーケン】×
【ミレニアム所属ハーケン隊隊員:マーズ・シメオン】×
【ミレニアム所属ハーケン隊隊員: ヘルベルト・フォン・ラインハルト】×

「お、今日はおめかししてるじゃない。良いね華やかだねぇ。似合ってるよ〜」
「やだなーフラガ大佐。からかわないで下さいよ〜」
笑いながら言うアーサーにアークエンジェル所属のフラガはいや、ほんとほんとと笑って近づいて来る。
アークエンジェルとの合同作戦を前に、主要メンバーが打ち合わせに入れ替わり立ち替わりミレニアムを訪れている。
今日はラミアス艦長が来るためフラガが護衛についているらしい。
(距離が近くないか?)
「俺がフリーならほっとかないよ〜」
「えー、誰にでも言ってますよねそれ〜。と言うかラミアス艦長に見られてますよぉ」
まったく、頭が痛いという困った顔をするラミアス艦長におっと、という顔をしてフラガは慌ててラミアス艦長の肩を抱く。
「ごめんごめん。俺には君だけだよ、マリュー」
軽くフレンチキスするのにアーサーがきゃーっと黄色い悲鳴をあげる。
(仲がよろしいのは結構だが、余所でやってくれないかな)
赤くなったラミアス艦長に頭を叩かれてあいたー!?とおどけて見せるフラガに例えフリーでも軽すぎるのはちょっとな、とコノエは咳払いをして場の空気を切り替えた。
(軽すぎるのは無しだな)
【アークエンジェル所属:ムウ・ラ・フラガ】×

「えぇー、こんな風にして回避間に合うんですか!?流石ですねー、知らなかったなー。スゴイです!ノイマン大尉!」
「あ、はい。まぁ…」
アーサーが手放しでスゴイスゴイと褒めちぎるのに、ノイマンが横に立ったアーサーを振り返って、直後にものすごい勢いで目を逸らした。
合同作戦前、ミレニアムのシミュレーションルームでの打ち合わせを兼ねたテストでノイマンは何でもないことのように変態軌道をしてみせる。
流石にミレニアムの正操舵手にそれは無理と判断して艦長同士で作戦の練り直しをしている間、手持ち無沙汰なのかあのエンジェルダウン作戦のシミュレーションをしていたらしい。
訳がわからない軌道で避けるアークエンジェル側では、あの時どんな判断をしていたか見たかったようだ。
「どうかされました?ノイマン大尉」
「…いえ、その」
急に顔を逸らされて不思議そうなアーサーにノイマンの返事は小さく消えそうになっている。
操縦席に座ったノイマンの横にアーサーが立ってシミュレーション結果が表示されたモニターを覗き込んでいた。
2人の間は20cmも離れておらず、アーサーを見上げた位置的におそらくノイマンの視界はアーサーの胸で覆い尽くされていたのだろう。
そして慌てて視線を降ろしたらスカートの裾でも目に入ってもう視界からアーサーを外すしかなくなったのか。
そりゃあ健全な成人男性なら目を逸らすし振り向けない。
むしろ立ち上がれなくても仕方ないんじゃ無いかなぁとコノエは同情する。
たまにコノエもされてセクハラと軍紀違反とその他もろもろが頭をよぎってスンッ、となる時があるのだ。
正直あと10歳若かったらヤバかったと思う。
そしてそろそろ指摘しづらいが誰か女性クルーから指導して貰うべきだろうか。
ラミアス艦長あたりが階級的には良いのかも知れない。
チラリとラミアス艦長を見ると苦笑しながら「今度飲みに誘ってみますわね」と言われた。
とてもありがたい申し出だった。
「ち、近いので…」
「あ、すみません!たまに他のクルーにも注意されちゃうんですよねぇ。誘っちゃってるんですかぁー?なんて言われちゃったりもして」
よし、お父さんにソイツの名前言ってみようか?
ちょっと艦長室に呼び出して「教育的指導」する必要があるから。
『コノエ艦長ちょっとお顔が…』
『ああ、すみませんラミアス艦長、娘にちょっかいかける虫がいるようなので』
『…そんな年齢差ございませんよね?』
呆れたようなラミアス艦長がその辺も「飲み会」で聞いておきますから、とフォローしてくれる。
「え、大丈夫なんですか?」
「あ、もちろん相手の方は冗談ですよ、冗談。大体私こう見えてもコーディネーターだし、艦長の警護役でもあるんで護身術とか学んでますし、成人男性くらい持ち運べちゃいますよー」
実践してみましょうか?という問いに意味がわからなかったのか「はい?」と言ったノイマンの言葉を了承とみなしたのかアーサーがヒョイと席に座っていたノイマンを抱き上げる。
「コツがあるんですけど、意識あるならもたれかかって貰った方がバランス良いですかね?」
訳がわからず、アーサーに横抱き(いわゆるお姫様抱っこ)をされたノイマンは言われた通りにアーサーにもたれかかろうとして…アーサーに顔を近づける事に気がついて仰け反った。
「わぁ!ダメですよバランス崩れちゃいます!」
「いや!無理!無理ですコレ!勘弁して下さい!」
真っ赤な顔で逃げようとするノイマンを、落としちゃう!と抱きかかえ直そうと引き寄せるアーサー。
「こらこらノイマン。女性に恥かかせちゃダメでしょ〜、もっとしっかり運ばれなさいよ」
などと揶揄うフラガをノイマンは涙目で睨みつける。
「どうせならあっちにして下さい!」
「あれ?ヤブヘビ?」
「うーん、フラガ大佐は体格差的にファイヤーマンズキャリーですかねー」
何とかノイマンを床に降ろしたアーサーが、こう、と風呂敷を肩に背負うようにかついで片手足首を持つ抱え方をジェスチャーで示す。
「うーん、肩越しかぁー」
フラガがアーサーの頭から足首まで視線を降ろす。
アウトでは?
思わずラミアス艦長を見ると、とてもニッコリ微笑んでいたのでコノエはそっと目を逸らした。
「…いや、フラガ大佐はダメです」
「???、えぇと、じゃあノイマン大尉をファイヤーマンズキャリーします?」
思わず立ち上がってフラガの視線から隠すように間に入ったノイマンが頭を抱える。
アーサーはもうちょっと男の視線に気がついた方が良い。
「ええと、その、じょ、い、異性の体にみだりに触れるのは良く無いと思いまして」
「…あ!すみません、セクハラですね!」
すみません、そんなつもりは無かったんです!と謝るアーサーにノイマンは目を白黒させ、フラガは爆笑する。
アーサー「が」ノイマンにセクハラしたのだと解釈されたのに気づいたのは一呼吸後のことだった。
「あ!違います!セクハラとかは思ってないんで!」
「えっ!そうなんですか?」
「そうなんです!」
「お前ら面白過ぎだろ。もう付き合っちゃえよ」
「えー!?」
「フラガ大佐!揶揄わないで下さい!」
ますます顔を赤くしたノイマンがほとんど叫ぶ。
「あのですね!女性にみだらな視線向けるのもセクハラですからね!大体トライン少佐に失礼でしょう!所属が違うとはいえ私より上官なんですよ!」
「あー、スマンスマン。悪かったなトライン少佐。ちょっとおふざけが過ぎちまった」
「いえいえ、大丈夫ですよー。ノイマン大尉も庇ってくれてありがとうございます」
「…いえ、当然のことですから」
ニコニコ笑うアーサーにノイマンは照れくさそうに笑い返す。
「そういえば今日はス…いつもと制服が違いますね」
おっとスカートを直接指摘するのを回避した。
「そうなんですよ、1カ月スカートチャレンジ中なのです」
「ええと、お似合いだと思います」
「ありがとうございまーす」
うーん、素直で好青年。
これはかなりの好物件なのでは?あえて難を言うとすればナチュラルで国籍が違うところだが…
ここばかりはアーサー次第ではあるなぁ。
(思わぬ良物件)
【アークエンジェル所属:アーノルド・ノイマン】○


なんだかんだとアークエンジェルとの合同作戦が始まり、地球から追い込み漁をされて宇宙に上がってきた戦争幇助者をミレニアムで一網打尽にする。
地上でアークエンジェルが拿捕することも出来たが、相手がコーディネーターでザフトに縁があると聞いて、面倒でも合同作戦としてミレニアムが最終的に拿捕する事となった。
政治的な問題を鑑み、シャトルからミレニアムに移送させた捕虜に一応コノエが挨拶をする。
お手本のようなナチュラル蔑視に遺伝子崇拝にため息をついたところ掴み掛かられ、護衛として控えていたアーサーにあっさり拘束される。
コーディネーターといえど鍛えてない一般人が軍人にかなうはずもない。
反抗したおかげで独房に突っ込んでもどこからも文句は言わせないように出来たなぁと艦内憲兵に引き渡した。

アーサーとブリッジに戻り、作戦終了からの各種指示を出した上で、ザフト参謀本部へ捕虜を引き渡すための資料を作成しようと艦長室で作業をしようと席を立とうとして…
ハインラインがブリッジに入ってきた。
空気が若干冷えた気がした。
今席を立って移動したら、もしかしてブリッジで取り返しのつかない問題が起きるのではないだろうか。
アーサーとハインラインを除くブリッジクルーからの視線を集め、コノエは深く席に座り直す。
まあ、あれだけ非難を浴びて謝罪する羽目になったのだし、流石に問題を起こす気も無いだろうから大丈夫では無いかと思っていたら、ハインラインがアーサーに近づく。
『『『『なんで?』』』
ブリッジクルーの心が一つになった瞬間だった。
「アーサー副長、今回の作戦で使った耐熱耐衝撃結晶装甲の改良と補充の予算申請を提出します」
「はーい、申請受け付けました」
ハインラインが手元の端末を操作し、アーサーがモニターの申請書類をチェックする。
「えー、コレ追加申請予算多すぎじゃ無いですかー」
いくらザフト・コンパスに多大な貢献をするハインラインと言えど、予算を無尽蔵に引き出せる訳では無い。
開発費と同じくらいの改良予算申請にアーサーはうーん、と唸る。
「この額は難しいんじゃ無いですかねー、一応本部には通すのでありったけ添付資料作っといて下さいねー」
くるりと向き直ったアーサーをハインラインがガン見する。
アーサーの顔では無く、その下半身を包むスカートを。
『『『『セクハラー!それセクハラだからー!!それで処分されたばっかりでしょーがアンター!!!』』』』
ブリッジクルーがハラハラと2人を見守る。
コノエとしては、こうなればもうどうとでもなれ、である。
「そこの裾が破れてます」
「へ?あ、本当だ。スカートほつれてますねー。すみませんお見苦しいところをって、前もこんな会話しましたねー」
あははーとアーサーが笑うが、ハインラインはじっとスカートをガン見したままだ。
「えーと、暴れる捕虜を取り押さえまして、その時にちょっと引っ掛けちゃいましたかね?」
スカートだとやっぱり動きに制限ついちゃいますかね、それに似合いませんよねぇ、と照れくさそうにアーサーは笑う。
『『『『頼むから何も言うなよ?』』』』
「いえ、お似合いですが無防備だとは思います」
「ひぇ!褒められた!?ええと、ありがとうございます???」
アルバート、お前人を褒める機能あったんだなとコノエは驚いた。
褒め方はとてもおかしいが。
「そもそも憲兵は何をしていたので?いえ、もちろんアーサー副長が艦長の警護役であるのは事実ですが、捕虜の面会時には憲兵も立ち会いしているのですから、取り押さえるなら彼らの方が適任ではありませんでしたか」
「私の方に向かってきてたんですよー」
私が適任だったんですよ、とアーサーは笑う。
話題がスカートのほつれから始まり、ハインラインがアーサーの下半身をガン見している事を除けば、今までで一番2人の会話が和やかに進んでいるのでは無いだろうか。
見守るブリッジクルーの胃は死にそうだが。
「じゃあ、資料作成お願いしますねー。私着替えてきまーす」
雑談を終わらせてアーサーが離席を告げてくるのに「気づかなくてすまんね」と労う。
どうせなら休息も取ってくると良いとコノエが言うとアーサーは良かった〜と笑う。
「いや〜、実はさっきの捕虜取り押さえる時に肘鉄とかくらってたんですよね。打撲だと思うんですけどちょっと痛いんでついでに医務室行ってきます!」
「運びます」
………。
間髪入れないハインラインの爆弾発言に、一瞬フリーズしてからブリッジクルーは心の中で総ツッコミする。
『『『『お前は何を言っているんだ』』』』
おかしい、あからさまにおかしい。
コレなんかヤバいやつなんでは?どうにかしたほうが良いのでは?と言うブリッジクルーの視線をコノエは一身に集める。
「えっ、大丈夫ですよ。くらったの右胸なんで脂肪ありますから打撲程度だと思います。足には問題ないので自分で医務室行けますよ」
コレくらいは骨は折れてはいませんよ〜。とのほほんと言うアーサーに、肘鉄とはいえ胸触られたんじゃないかとブリッジクルーは動揺する。
「胸、触られてますよね」
『『『『言うな』』』』
止めて、コノエ艦長止めて!とブリッジクルーの視線に後押しされてコノエがんんっと咳払いをする。
「やめなさいアルバート、またセクハラになるぞ。アーサーは医務室に行きなさい。それと今後は負傷は速やかに報告するように」
「すみません、報告書先にまとめておきたくて…」
シュンとするアーサーにコノエは優しく諭す。
「仕事熱心なのは良いが無理はしないようにしなさい」
はい!と元気良く返事を返すアーサーにブリッジの空気が若干緩む。
さあコレで何もかもうやむやに…
「貴方は本当に無防備だと思います」
させてはくれなかった。
「す、すみません」
「そもそもスカートを履くのは良いですが、女性としての意識に欠けるのではありませんか?前回モビルスーツ格納庫に降りて来られた際の様子を、口さがないものが些か品位に欠ける発言をしたのも耳にしています。それ自体は彼ら自身の品性の表れなので私の方から注意しましたが、やはり自衛意識がないのは大いに問題だと思うのです」
とりあえずそいつらをリスト化してよこしなさいアルバート、お父さんからも叱るから。
まあ、あのハインラインに「注意」されたので罵倒による罵倒でおそらく生きた心地がしなかっただろうが。圧力はかけておかんとイカン。
「被害に遭ってからは遅いのです。こちらに軍におけるセクシャルハラスメント被害の傾向と対策を資料としてまとめました」
そのうち1件がハインラインなのはギャグだろうか。
「うわー、良くまとまった資料ですねぇ。これ、クルーのハラスメント対策授業に使って良いですか?」
ハインラインが端末に示した資料を読んでアーサーが感心の声を上げる。
「貴方のために作ったので、まずはアーサー副長が熟読下さい。それ以降は好きにしてもらって結構です」
「クルーに配布する資料ですからもちろん目を通しますよ?」
「再度言いますが、貴方のための資料です。一言一句覚えるくらい熟読下さい」
「あ、はい」
ズイッと迫るハインラインに、アーサーは素直にうなづく。
ハインラインがため息を吐く。
「コレだけ言っても貴方の自覚は薄そうです。端末を貸して下さい」
「え?ええ?」
アーサーの端末のロックを解除させ奪い取ると、ハインラインが目にも止まらぬ速さで操作する。
「はい、ここにマークがありますね」
「ありますね?」
コノエの位置からはよくわからないが、端末の画面左上には何かマークがあるらしい。
「押せば私に繋がりますので」
「はい?なんで?」
アーサーは困惑している。
「後でプライベートの端末も貸して下さい。同じ設定をします」
「え?えぇ!?」
アーサーの困惑は頂点に達した。
助けを求めるようにアーサーに見られて流石にコノエは席を立って割って入る。
「待て待てアルバート、何をしているんだ」
セクハラどころではないような気がする。
「アーサー副長がこのまま自覚なく行動すると私の計算だと90%以上の確率で近日中にセクハラ被害に遭うと考えられます」
今、まさにお前に100%のセクハラをされているような気がするのだが。
「被害に遭うアーサー副長の自覚が薄く、不埒なことを考えているバカどもの100%の制動は難しい。ならば次点として被害を最小限に抑える必要があります」
それはそうではあるのだが。
「端末のマークを五秒タップしていただくと私のモノクルデバイスに通知が入るようにしています。コレは端末が待機状態になっていても有効です。左上に配置しているのだけ覚えておいていただければ例え被害に遭われても五秒で即座に通知可能です。もちろん無音にしておりますので相手に気づかれることはありません」
「あー…」
なんだか、セクハラとかそんな次元ではなく明後日の方向に暴走してはいないだろうか。
「実を言うと端末を奪われることを鑑みて皮膚下にマイクロデバイスを埋め込んでどのような状況でも通知可能としたいのですが。流石に自重しました」
どこに自重があるのだろう。
「ご安心下さい、通知内容にはもちろん位置情報や周囲の音声をつけて飛ばすようにしてありますので即座に駆けつけることができます」
「ひぇ…」
その情報が一番安心できないと思うぞ、とコノエは頭痛に堪える。
分類としては過保護過干渉のストーカーかなと、妙な方向に暴走したハインラインにアーサーがオロオロしている。
「えっと、えっと。ご心配おかけしてすみませんが、大丈夫ですよ?危険な目にあったこと無いので」
いや、それはそれで怪しいのだが。
ヒルダにセクハラされていたのを思い出す。ああいうことが日常茶飯事なら危なっかしくて仕方ないが…
「それに通知があると思って待機されていたらハインライン大尉が休めないのでは?」
「その点は通知の振動等を他のものと変えているので問題ありません。むしろ貴方がどこかでハラスメント被害に遭われているかも知れないと心配する方が休めませんので遠慮なく通知して下さい」
うーん、どうすれば良いんだろうなコレ。
もはやブリッジクルーは怖いものを見たかのように恐れ慄いている。
ハインライン的にはアーサーがどこかで被害にあっているか心配→ならばいつでも通知出来るようにしてコトが起きたら駆けつけて解決すれば問題無し!と判断したのだろうが、例え恋人や夫婦でも過干渉とみなされるような振る舞いをするんじゃない。
うーん、とアーサーが考え込む。
「やっぱり、ハインライン大尉だけに通知がいくのはダメですよ。疲れちゃうでしょうし、ハインライン大尉がお休み中や手が離せない時には対応出来ない仕組みですよね。この機能自体はハラスメント対策の一種として良いと思いますから、憲兵の詰め所のアドレスに通知がいくようにして希望者に配れば良いんじゃないでしょうか」
とてもまともな意見が出て来た。
ちょっとコノエは感動した。
ハインラインのドン引き行動から真っ当で有効な対策が出てくるとは。
だが、この時点でハインラインのストーカー行為を自覚していないのは大丈夫なのかアーサー。
「しかし…」
「えぇー!?納得してくれないんですか?どうしたら納得してくれます?」
アーサーの言葉にハインラインはじっと考える。
『『『『頼むからこれ以上問題発言しないでくれ』』』』
なんとか良い方向で終われそうなのだ。
ブリッジクルーが固唾を飲んで祈る。
「ハラスメント被害の内容と相手を共有して頂ければ、こちらでも対応が可能なので安心出来るでしょうか?」
何故疑問系なのか。もしかしてストーカー行為に自覚が無いのか、いや無いか、そうかー。
「いえ、ハラスメント行為があったら私の方で処罰しますし、暴力行為に出られそうなら憲兵に通報しますから、ハインライン大尉が出て来て対応しようとする頃には終わってると思いますよ?」
対応済の案件にハインライン大尉がさらに対応されようとするのは良く無いと思います。と至極真っ当な意見で締める。
オーバーリアクションでいささか頼りない言動ばかりしているが、仕事は出来るのだ仕事は。
「うーん。ハインライン大尉は私が心配なんですね」
「…そうでしょうか?」
やっぱり無自覚なのか。いやでもコレは恋愛感情とかそういうものなんだろうか。なんだかそんな分かりやすいものではないような気がする。
「だって私が「酷い目」にあったら即対応したいと思ってるんですよね」
「はい」
即答だった。
「分かりました。それならとりあえずこの通知の設定は憲兵の詰め所宛てになるようにして下さい。その上でもし「酷い目」にあうようなことがあったら、「私の方から」ハインライン大尉にご報告させてもらいますね」
「アーサー副長の方から」
「そうです。それならストーカー行為に当たらないと思います」
『『『『ストーカーって分かってたの!?』』』』
アーサーの言葉にブリッジクルーはえぇー、という顔をする。
「?、ストーカー行為などを行うつもりはありません」
「えぇー!位置特定通知設定とか、コレをストーカー行為と言わなきゃ何を言うんですかー!?」
それはそうである。
だが自分に対してストーカー行為をする者に対して、これストーカー行為ですよーと声高に言うのはどうなんだ。
危機感を持ってくれ、本当に。
「…アルバート、お前の行動の是非についてはとりあえず置いておくが、まさにストーカー行為そのものになっているからやめなさい。夫婦や恋人だって理解が無ければ許されんぞ」
「…つまり、理解して貰えれば恋人なら許される?」
おい、待て、何で新発見!みたいな顔をする。
いやまさか。
「アーサー副長、恋人として付き合いましょう。それなら位置特定が許されます」
「えぇー!いえ、ハインライン大尉私の事恋愛として好きじゃないでしょー!?付き合いませんし、付き合ったとしても位置特定も許しませんよー!?」
「ええ、好きではありませんが、ソレなら位置特定が許されますし」
愛の告白から真逆の、まるで報告書を渡すような淡々とした声と表情の無機質な提案に、アーサーが許しませんよー!?と悲鳴をあげる。
「…アルバート」
「はい、艦長」

「やめなさい」

逆らえば切り捨てると言わんばかりの凄みを出して、コノエがハインラインを有無を言わさず黙らせる。
「自室で謹慎するように。追って処分を下す」
「…了解しました」
コノエの迫力に押されてハインラインがブリッジを出ていく。

出ていくハインラインを見守って、一拍おいてからアーサーの肩を掴む。
「…アイツはダメだ」
「はい??」
「お父さんはあんなヤツ認めんからな!」
「えぇー!?コノエ艦長って私のお父さんなんですかー!?」
「落ち着いて、落ち着いて下さい艦長!」
「誰か憲兵呼べ!コノエ艦長が錯乱されている!」
錯乱するコノエとパニックになるアーサーをブリッジクルーがどうにか落ち着かそうとブリッジクルーが操舵手と通信担当を除き殺到する。
どうにか引き剥がし、正気に戻ったコノエが忘れて欲しいと頭を下げるのにブリッジクルーは心底同情するのであった。
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