【捏造注意】復活のママラン


もうどうすればいいのかも分からないまま、それでも足はクライン邸へと歩を進めていた。

キラを、討った・・・自分が・・・この手で・・・。
優秀なくせに甘ったれで、いつも自分に泣きついてばかりいた幼馴染。
しょうがないと思いながらも最後には手を貸してしまって、そんな事ばかりを繰り返していた。でも幸せだったのだ、あの日々は。自分にとっても眩しいもので、大切なものだったのに。
ニコルを死なせたのはこうなるまで決断できなかった自分の責任だ。だから自分が決着をつけねばならなかった。その為ならキラと一緒に死ぬ覚悟だってしていたのに、軍人として訓練されていた自分は無意識に脱出してしまっていて、気が付けば全てが終わっていた。

『お前は死んじゃいけない!!キラの事を思うなら死ぬな!!』
カガリが持っていた銃のトリガーに手を重ねて引き金を引こうとした時、キラの仇であるはずの自分を泣きながら怒鳴りつけた彼女。
別れ際、ハウメアの護り石を首にかけながら「もう誰にも死んでほしくない」と、その瞳は涙を浮かばせながらも眩しいくらいの光が宿っていた。
ぼんやりとした意識の中で、自分を思ってそう言葉を投げかけてくれた事と、その黄金の瞳が美しかった事だけは覚えている。

その後クルーゼ隊長からネビュラ勲章の授与と特務隊転属の話を聞かされ、もうどうにかなってしまいたかった。人を殺して何故称えられる?
きっとそれが顔に出ていたのか、「そんな腑抜けた顔をした奴が特務隊とは片腹痛い!今度会った時には俺が隊長になってお前を部下にしてやる!」とイザークに怒鳴りつけられた。
ああ、ディアッカもいない上に俺までいなくなるとなれば物凄く心配だ。直情的で喧嘩っ早くて、ある意味純粋なやつだから・・・イザークには生きていてほしいな。
いざとなればコイツの盾になるというのも悪くなかったかもしれないのに。

そうしてプラントに戻って知らされた、ラクスがスパイを手引きした罪で指名手配されているという事実。
もう何が何だか分からなくなった。キラも、ラクスも、ニコルたちも、命を懸けて守りたいと思っていたはずなのに、全てが手から零れ落ちるこの現実がひたすらに痛くて。もし自分が早くから決断していれば全て上手くいっていたのだろうか、何故、こんな事になってしまったんだろう・・・。
そして命じられた、最新鋭機フリーダムガンダムの強奪者の追討、機体の奪還もしくは完全破壊、接触した人物・施設の排除。キラを討ったこの手でラクスも討たねばならないのか?
ラクスがスパイを手引きしたなんて思えない。もしかするとラクスは、彼女は優しい人だから、誰かに騙されたか、脅されたのかもしれない。そうだろう、いやそうであってほしい、ラクスは、優しくて、可愛くて、歌うのが好きで、ペットロボットと戯れるのが好きな、女の子なのだから。

覚束ない足取りで辿り着いたボロボロのクライン邸を見て思わず倒れそうになったが、飛び出してきたピンクハロが指し示したものを理解して全速力でその場を後にした。
ホワイトシンフォニー、クライン邸に咲いていた白いバラと同じ名前のこの劇場はラクスが初めて歌った場所。今はもう廃れてしまっているが、降りしきる雨の中劇場に足を踏み入れると、かすかに歌が聞こえてきた。
慎重に、ただ素早く移動して分厚い扉を肩で押し開けると、瓦礫まみれのステージで歌うラクスがいた。
歌に導かれるように階段を下りていくと、持っていたピンクのハロがラクスの元へ飛んで行った。自分もステージに飛び乗って、改めてラクスを見た。
ステージ衣装をまとったラクスの目は、なんとなく、いつもとは違う空気を纏っている気がした。

「・・・ラクス」
「はい?」
「脅された、のか?・・・ラクスがスパイの手引きなんて、そんな事、していないよな?」
「・・・スパイの手引きなどしてはおりません」
「!よかった、じゃあ」
「キラにお渡ししただけですわ。新しい剣を」
キラ、その単語が一瞬理解できなかった。
笑ってそれを言ってのけたラクスが信じられないと思ってしまった。
「キ、ラ??・・・ラクス、何を、だって、あいつは・・・」
「貴方が、殺しましたか?」
「・・・!!!」
目を背けたくても、それから目を背けてはならないと分かっていても認識したくない事を、目の前の彼女に突き付けられてしまった。
自分は、自分が、キラを・・・。
「大丈夫です。アスラン。キラは生きていますわ」
「嘘だ!!!」
ああ何故、自分はラクスに銃を向けている?目の前の彼女はラクスなのに。なのに違う誰かに見えてしまって。もう何もかも信じたくないと思ってしまって。
銃口を突き付けられてもラクスは笑って言ってのけた。
「マルキオ様がお連れになったのです。キラも貴方と戦ったと言っていました。きっと生きていると思う、でも誰よりも自分を追い詰めているんだろうと。本当にその通りでしたわね」
「・・・」
「アスラン・・・貴方は、何を信じて戦いますか?」
「・・・え」
「勲章ですか?それともお父様の命令ですか?でも貴方は、それを信じて戦うようなことはしない、したくないと思っているのでしょう?貴方は、優しい方だから」
「・・・俺、は」
その時バン!!と音を立てて扉が開き、黒ずくめの集団が一斉にホールへ入ってきた。咄嗟にラクスの前に躍り出たが、座席側にいる男たち3人に加えステージ上にもう3人現れた。このタイミングで突入してきたという事は・・・
「ご苦労様でした。アスラン・ザラ」
「何を!」
「流石婚約者ですな。助かりました。さあお退きください。国家反逆罪の逃亡犯です。やむを得ない場合は射殺しろと命を受けております」
「そんな!」
やはり父上の差し金だったか。軍人であれば、ラクスを引き渡すのが正解だ。でも、ラクスをこいつらに引き渡せばラクスは・・・。
その時鳴り響く銃声と共に客席側にいた1人が倒れた。ラクスが1人でここにいるはずがないと思っていたがやはり護衛は付いていてくれたらしい。
銃を投げ出してラクスを抱えて瓦礫の裏へ避難する。次々と刺客が撃たれていく中その1人がラクスと自分がいる場所に向かって銃弾を浴びせ続ける。下手に出ればラクスが危ない。弾切れまで待つしかないか?それまでもつか?
その時こちらに向かって放たれていた銃弾の音が止んだ。瓦礫から身を出してみれば、ザフトの緑服をまとった赤茶色の髪の青年と数名の兵が立っていた。どうやら彼らが護衛らしい。
「ラクス様、もうよろしいですか?我々も行かなくては・・・」
そう言われ、背後にいたラクスが彼らに歩み寄った。別れの時、ということなのか・・・?
「・・・!ラクス様!」
客席にいた1人が声をあげた。ハッと見ると倒れながらもラクスに銃口を向ける刺客がいた。舞台上の護衛達が一斉に攻撃しようとする中で、身体は勝手に動いていた。
「ラクスに手を出すなあああ!!!」
飛び上がった勢いそのままに刺客に対してかかと落としを決めると刺客は再度舞台に倒れ伏した。護衛の一人が慌てて止めを刺し完全に制圧が完了した事を悟る。
ハッとして離れていたラクスに駆け寄った。護衛が銃を構える音がしたがそんな事はどうでもいい。それ以上に確認しないといけないことがある。
「ラクス!怪我は?先ほど咄嗟に抱えてしまってすまなかったお腹は痛くなったりしていないか?」
銃を構えたままの護衛が何やら固まっている。ラクスの無事を確認するのはお前たちの役割のはずだろう、何をボケっとしているのか。
一瞬の空白の後でふふ、と笑うラクスの声がやたらと響いた気がした。
「お腹は痛くありませんし、怪我もしておりません。ありがとう、アスラン。助かりました」
「・・・そうか、よかった」
「もう大丈夫ですわね?」
「え?」
「わたくしの知っているアスランに戻っていただけてよかったです。これで安心して行けますわ」
「ラクス・・・」
彼女には明るい場所にいてほしかったのに。自ら危険な場所に行くなんてことなどあってはならなかったのに。
だが、今は自分のそばも危険だ。自分は見送らねばならない・・・。
「アスラン、キラは地球です」
「え?」
「お話をするべきです。お二人は」
「・・・会った瞬間何をしてしまうか、分からないのに?」
「きっと大丈夫ですわ。今のアスランなら」
先程は別人に見えた顔が、今はよく知るラクスの顔で笑っている。
何となくだが、大丈夫かもしれないと思えた。
「・・・ラクスは?」
「大丈夫です。皆様がお守りくださいますし、いずれまたお会いするでしょう」
「・・・そうか」
自由になる右手をそっと背中に回して抱きしめた。
「無事でいるんだぞ」
「はい」
「ハロの仕込みは覚えてるな?万が一の時はちゃんと使うように」
「使う事のないようにきちんとしますわ。アスランが考えている以上にわたくしもしっかりしてますのよ?」
「ふ、そうか・・・」
身体を離して彼女を見ると、強い意志が見てとれた。自分が思っている以上にラクスは強い女性なのだと感じる。少しばかり心配が残るが、不思議と大丈夫だとそう思えた。
彼女に背を向けて走り出し会場を後にする。
行くべき場所は決まったのだ。

星の海に飛び出した赤い機体は一目散に青の星へと向かっていった。
オーブにて連合所属の新型3機と交戦中だったフリーダムの前に現れたその機体は3機を圧倒して退ける活躍を見せ、対となるフリーダムとそのパイロットを守りぬいたという。
いきなり現れたその赤い機体の正体も分からぬままに一時休戦となり、地上に降り立つフリーダムとその隣に赤い機体が並んだ。そこから出てきた両パイロットが歩み寄りしばらく黙ったまま見つめているかと思いきや、二人を見ていたカガリが駆け寄り二人の首に腕を回して二人をさらに近寄らせる。するとザフトレッドのパイロットスーツを着た青年が感極まったように思いっきりフリーダムパイロットとカガリを抱きしめるのを見て、アークエンジェル乗組員とオーブ軍人たちは一体何が起こったのか訳も分からずただ見ていたが、誰も彼らを引き離そうとはしなかった。
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