【閲覧注意】 アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


「僕、ハインラインさんのコノエさん取っちゃってる気がします」
「は?」
「え、そうじゃないですか。ハインラインさんのコノエさん、でしょう?」
「はぁ?」

何だこの男、頭でも沸いているのだろうか。…いや、この男は元々突拍子もない上に、素っ頓狂なのを忘れていた。能力は良い上に、社交で人をまとめられ緩和させられるんだが。いかんせん、その性根が抜けているうえに、人の善悪共々鈍い。
私がこうやって訳が分からないという反応をしても、何食わぬ疑いの目も無い純粋な気持ちで…コノエさんを私のモノ、と扱いしてきている。
おそらく、一般的に尊敬し慕っていることを知った上で。私からコノエさんを取ってしまったという罪悪感に似た気持ちが、湧いたのだろう。
馬鹿だ。ため息しか出ないくらいに、馬鹿だ。
私のコノエさんに向ける感情は親愛。行き過ぎる重い情愛を一身に受ける彼は、この違いも分からないのか?とは言え、彼は性格とは裏腹に自己評価が低い…。コノエさんに対し女性相手に慣れている、と軽く見ている。小僧程度、本気にするはずがない、と。

私から見れば、コノエさんは人間臭いと同時に面倒くさい男だ。

ひとたび下心ある視線を彼に向けられれば、顔に出さずとも抑制する。男であれ、女であれ独占欲をくすぶらせ、目に見えぬ場所に隠したい、とそう思っている。あの人は大事なモノは手放すことなく、一切人目に見せようとしないし自慢すらもしない。なんなら、彼女を親しい友人や同僚たちから隠して目に入れさせなくすることすら、戸惑わない。
それくらいに、独占欲の高い重すぎる男なのだ。
一度、彼がそうさせてしまった女は副長よりもいい性格出なかったが…、精神的に参っていたのを覚えている。何なら、距離を置き音信不通になるほど。
「私の向ける感情は情愛ではありませんよ。親愛です」
「え、変わらないのでは?」
「辞書を引いてみてはどうです?違いすぎますよ」
「性欲を抱いていなくても、大事な人に変わりないでしょうに。心から信頼できる、艦長のそういった人物…。それがあなたでしょう」
しょんもり、と気分がやや沈んだ様子を見せる。ただ、その意志の強い目はしっかりとこっちを見つめ、あわせている。
何でこの男は真正面きって、そういう言葉を言い切るんだ。恥ずかしいという気持ちと共に、余計なことを言ってくれると毒づいてしまうほど。
…それが副長なんだろう、純真で真面目な平凡な軍人。そこに意志がはっきりとしている、それが彼の強みだ。
「…はぁ」
「もう、人が大事な話をしているというのにっ」
むすり、と不機嫌な感情を露わにする。元々喜怒哀楽がはっきりしているから気にすることはない。
こう見ると、実家で飼っていた飼い犬を思い出すな…。
「あの人も随分な人に惚れたな」
ぽつり、と副長が聞こえないよう呟く。彼はと言えば、怖くもない様で怒っている。
ますます飼い犬を思い出す、…実家に帰ってみようか。最近の情勢で色々とごたごたとしていた、仕事も落ち着いてきている。その方がいいだろう。
その時、副長の後ろから渦中の人物がぬるり、と音もなく姿を現した。元々静かに動く人だから、余計に怖い。ザフト時代、何度その手をやられた事か…。
それと…どさくさに紛れて副長の腰に手をやるとは、恐れ入りましたよ…先生。

「いいだろう?やらないよ」

目が笑っていない。昔からだ、この目をするのは大抵黒い感情を沸かせている。たとえ信頼出来ると言われた教え子であっても、だ。
「はぁぁぁ。取りませんよ」
「そんなため息を吐かれると傷つくんだが」
「嘘をつかないでください」
「本当なんだがなぁ…」
確かに、傷ついているんだろう。私や友人、それに彼のような仲くらいにしか見せない笑み。純粋な気持ちで困ったように表情を浮かべ、申し訳なさそうにする。
「相変わらずお二人は仲が良いんですね。見ていて微笑ましいなぁ」
裏表もない純粋な好意、本心だからこそ質が悪い。
ザフト時代はそんな感情を向けられることはほとんどなく、せいぜいコーディネイター至上の感情ばかりで押しつけられていた。コノエさんの考えもひと蹴りされるくらいに、傲慢さが目立っていた時代。
そんな時代に飲まれ揉まれ、さらには後ろ指差される。その中で、ようやく考えが近しい同志とも言える人物を見つけ、慕われ、好意を向けられる。長年求めていた考えを、否定すらしないのだから…まさか、コノエさんと同じような人が居るとは思わなかったが。見つけようとすれば、見つけられたのかもしれないが。
…たられば、だな。
ともかく、こういった事をされ落ちない人間は居ないだろう。
副長に目をやる、何か熟考しているようで口を薄く開け明後日の方向を見ている。そうして、こちらの視線に気づくと、ニコリと笑みを一つ浮かべた。
「…船は自分が見てますから、艦長たちは休憩を。ここ最近出ずっぱりだったでしょう、休めるときは休んだほうが良いですよ。いつデスマーチになるか分かりませんからね」
あはは、と抜けた笑いと取りだす。この男は気の良い性格を持っていながら、たまにとんでもないことを言い切る。
まるででソレを体験したと言わんばかりに。確かに、経歴からして急ぎ足な上に相当な修羅場を潜り抜けた猛者と言える。場数は少ないが、一個一個の戦場経験が濃すぎる…あのエンジェルダウンや、ベルリンを体験しているのだ。
「それじゃあ、自分はブリッジへ行きますね」
そう言い残し、するり、といとも簡単に艦長の手を抜けてしまった。
後腐れが無い、…いや境界線がキッチリとしているんだろう。

「…簡単に手放しますね」

そんなこと言えば、至極残念そうな感情を露わにしている。同時に、こちらに向かって口を開く。
「彼は留まれないだけだよ。…さて、私は君がちゃんと休めるよう監視でもしておこうか」
「穏やかじゃないですね」
「そう思うんだったら、ちゃんと休みなさい」
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