ケルト神話とヌオー


① ケルト神話の始まり 大洪水前
はるか古の時代、大洪水で一度世界が滅びるよりも、さらに昔、神より与えられし仕事を終えたヌオーがいました。

 ヌオーは隠居するために、泥を捏ねて島を作りました。
これが、エリン(現代のアイルランド)の始まりです。

とはいえ、出来あがった当初のエリンは、何も無い島でした。
そこでヌオーは鳥たちに頼んで植物の種を運んでもらったり、遠方から動物たちを呼んできたりしました。
ヌオーと鳥たちや動物たちによって、エリンは、それはそれは、素晴らしい島になったそうです。
アヴァロン(りんごの島)にも匹敵するほどに。

② 来航神話 
そのような島での穏やかな日々も、大洪水によって終わりを迎えます。
大洪水じたいは、ヌオーが事前にエリンそのものに、祝福を与えたので、まるで問題がありませんでした。
むしろ、エリンの生き物たちは、海で暮らせるようになったことを喜んだそうです。

 ですが、その後にやってきた来航者達は、基本的に血の気の多い野蛮な者たちでした。
彼らは、島で暴虐を働いては、災害や自滅で滅びかけました。
その後、ヌオーに救われ、悔いあらためて、正式な島の一員になるという繰り返しが4度行われました。

 5度目の来航者である、ダーナ神族は基本的に以前までの来航者に比べれば温和でした。
出会い頭での、歓迎会でダーナ神族との勝負にヌオーが勝利したからというのも大きいでしょう。

 なお勝負の内容が、どういうものだったかというと下記のような物だったそうです。
 
 来航者であるダーナ神族を迎えるにあたり、ヌオーは彼らを持て成すために、様々な魔法の品を用意しました。
その中の一つ、無限に粥の出る壺に、ダーナ神族で最強の神ダグザは興味をそそられました。
彼は「実に美味しそうな粥だが、残念だ。俺は大食いでな。その壺にどれだけ粥が入っていても食いつくしてしまうだろう」とヌオーを挑発しました。
それに対しヌオーは「ご心配なくダグザ殿。この壺一つで、あなたも含めたトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の皆様は満足するでしょう」と微笑みます。

 ダグザは快活に笑うと、壺そのものを持ち上げて、粥を口の中に放り込みました。
お粥は、ダグザが今までに食べた、どんな物よりも美味しかったそうです。
しかも、口に放り込むうちに、色々な味に変化し、ダグザの舌を楽しませます。
最終的に、壺の中身の七割を飲み干した後に、ダグザは満足してしまい、横になって眠ってしまいました。

 残ったダーナ神族たちは、大食らいのダグザが満腹になったさまを見て戦慄しました。
とはいえ、残り三割ならダーナ神族総出ならば、なんとかなると考え、壺の中の粥を食べ始めたのです。
結果的には、ダーナ神族は壺の中身を食べきる前に満腹してしまいました。
その後、ヌオーが壺の中をかき混ぜると、またお粥で壺が満杯になり、エリンに住む住民たち全員のお腹を満たしたそうです。

 この勝負の後、ダグザはヌオーに非礼を詫びると、ダーナ神族の至宝の一つ、ダグザの大釜を譲りました。
ヌオーも返礼で、歓迎会に用いた壺を、ダグザに譲りました。
この交換の結果、ヌオーはダーナ神族にも敬意を抱かれるようになったと、言われています。
ヌオーが“アロード”(海)とダーナ神族に呼ばれるようになったのは、この頃からだそうです。
なお、“アロード”(海)と名付けた理由は、ダグザが『あいつの粥と、海を飲みほすことは俺でもできない』と笑い話をしたからだとか。


 その後、ダーナ神族と先住民族のあいだで争いが起きたりもしましたが、ヌオーことアロードが重しになることで、ある程度の秩序が維持されました。
暴君ブレスや、邪眼のバロールなどはアロードを排除しようと目論見ましたが、それもルーと呼ばれる輝く神によって阻止されました。
なお、ルーは数多くの神に師事し、その奥義を習得しましたが、“アロード”の奥義だけは全部を手に入れるには至らなかったようです。

 やがて、ルーはエリンの王となり、神話サイクルでもっとも平穏な時代は100年以上続いたようです。

 神話サイクルの最後はミレー人とよばれる、現在のアイルランド人の先祖がエリンに訪れたことで終わります。
彼らは、凄まじく強く、ダーナ神族を筆頭とした神々や、それに匹敵する巨人や魔獣達相手に勝利しました。
とくに、のちに影の国の女王になるスカアハなる女戦士は、人間とはもはや呼べない強さで、数多くの神々や巨人に魔獣を討ち取りました。
このままでは、エリンの先住民族が全部殲滅されるというところに、“アロード”が現れ、ミレー族に和平を提案します。

 当然ながら、ミレー族は和平案を蹴飛ばし、“アロード”を獲物として狩ろうとします。
ミレー族は残念ながら、知らなかったのです。
自身の領地にいる、真の“神”がどれほど恐ろしいモノなのかを。

 結論から言えば、“アロード”が天の川より降らせた泥塊の雨だけで、ミレー族は戦意を喪失しました。
なぜなら、彼らの武具が全て破壊されたからです。
そして、天そのものが落ちてくると形容すべき光景、そして“アロード”がその気ならミレー族は全員死んでいたという事実が、彼らの心を打ちのめしたのです。

 ただひとり、スカアハのみは、“アロード”に勝負を挑みましたが、当然ながら完敗しました。
いわく、全魔力を注ぎ込んだ投げ槍が、“アロード”が操作する無数の泥塊の一つと相殺がようやくだったそうです。

 その後、唯一の勝者となった“アロード”の裁定で、物質界はミレー族が、それ以外はミレー族以外の領土となりました。
こうして、神話サイクルは終わったのです。

③ アルスターサイクル
人の時代になると、ヌオーは暇になったのか、たまにしか地上に現れなくなったようです。
ただ、光の御子クーフリンと旅をしたり、妊婦のマッハを見世物にしたアルスター王国を呪ったりなど、印象がわりと強い話も残っています。

 また、ほとんどの時間を、影の国ですごしていたようで、スカアハの夫だと影の国で修行する勇士達には認識されていました。
 事実、スカアハとの間には、二人の息子と一人の娘がおり、その中でも息子の一人はアーサー王伝説に登場するヌオーだとされています。
また娘のウタアハは、母に似た美しい容姿と父親譲りの穏やかな性格で、後にコンラと恋をする物語が残されています。

 娘の恋人ともいうこともあり、“アロード”はコンラには奥義を伝授していたようですが、残念ながらコンラは父親であるクーフリンの手で最後を迎えることになりました。
そのことを、彼は大いに嘆いていたと、神話には記されています。

④ フィオナサイクル
この頃になると、直接登場する場面は一つしかありません。
どういった話かというと、それは下記の通りになります。

 フィンが最初の妻サーヴァを、ドルイドに誘拐されてから三年の月日が経った。
行方知れずになった妻に思いを馳せていたフィンの下に、“アロード”がフィンの妻サーヴァと子供を連れて現れる。
突然の事態に驚愕するフィンにアロードは、ことのいきさつを語る。

 フィンがサーヴァを誘拐されて意気消沈しているのを見た、フィンの義父であるドルイドが、自身の師匠に相談を持ち掛けた。
その師匠こそがアロードで、彼はサーヴァをすぐに見つけ出し、ドルイドに罰を与え鹿にしたのだという。
またサーヴァの望みで、完全な人間にしたが、長い間妖精卿にいた関係で、人間界でサーヴァは長生きできない。
この幼子は、フィンとサーヴァの子供で、名前はサーヴァの希望でフィンにつけてもらいと告げた。

 フィンは、サーヴァと息子が、自分の下に帰ってきたことを大いに喜んだという。
息子はオシーン(子鹿)と名付けられた。
フィンは“アロード”への感謝を忘れないために、大きなヌオー像を城に設置し、小さなヌオー像を肌身離さず持ち歩き、毎日礼拝をしたという。

余談:

 ケルト神話のヌオーこと“アロード”
 セファール襲来で生じた傷を修復するべく、創造された“はじまりの六ヌオー”直系の眷属。
世界を修復するという大任の為に、創造された眷属なので“はじまりの六ヌオー”と比較しても性能は見劣りしない。

 泥による、万物の再構築という能力を有している。
時間さえあれば、神話世界そのものであろうと再構築できる。

 長い時間をかけて、世界の修復を終えた後は、隠居先にエリン(現アイルランド)を創造したことから、ケルト神話は始まった。

 戦闘の際に多用する、泥の塊は、“創世の土”と同じ性質を有している。
形や強度、概念などを操作することで、さまざまな現象を引き起こすことが可能である。
ミレー族に、使用した際には、“人理否定”“武器限定”“ミレー族限定”の概念を付与したうえで、泥の塊をクラスター爆弾のように粉末状にしてエリン全域にばらまいた。

 その後、スカアハと交戦するが、どれだけ打ちのめされても立ち上がる彼女の姿に感銘を受け、ともに時をすごすようになったのだとか。
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