21歳サンジ×10代前半頃?の♀ルフィと10代半ば頃?の♀ゾロ


21歳サンジ×10代前半頃?の♀ルフィと10代半ば頃?の♀ゾロ




 確かに昨晩もいつもと同じように0時を少し回った頃に床についたはずだ、とサンジは記憶している。だがしかし、目を開けたらそこはダイニングキッチンのいつもの食事を取るテーブルだった。
 どうやらそこで突っ伏して寝てしまったらしく、頬には拳を押し付けたような赤い跡があるだろう。まさか寝落ちしたのかと辺りを見渡そうとも、何故かいつもならそこに掛かっているはずの時計も無い。事情を知るものはいないかと扉を開けて他の部屋に出ようとするものの、力では解決出来ようのない不思議な力で鍵が掛かっているのかビクともしないのだ。
 ははぁ、こりゃあまた何らかの不思議現象に巻き込まれたか、はたまたそういう海域かはたまた島の呪いにかかったか、最悪誰かしらの悪魔の実の力かもしれない、とサンジは務めて冷静に分析していた。女性陣の身の確保や食料問題などその他の懸念事項は山ほどあったが兎角、サンジは落ち着き払っていて煙草を吸う余裕さえ見せていた。
 
 何故か。
 
 「なぁ! ここもしかして海賊船じゃねェか!? お前もしかして海賊だったりするのか!?すんげェ!なぁなぁ、シャンクスって海賊知ってるか!?」
 「おれを拉致したのはてめェか、胴体に別れを言う時間をくれてやるから全財産寄越せ」
 
 目の前の、見知った誰かの面影を持った少女がいるということほど心をかき乱すことなど無いからだ。
 
 サンジはゆっくりと紫煙をくゆらせながら、さてどこから整理していくべきかと目の前の少女達と向き合った。
 
 「お前ら……名前は? どうしてここにいた? 何か覚えていることはあるか?」
 「おれはモンキー・D・ルフィ! 目が覚めたらここに居た!なんも覚えてねェ!」
 「誘拐犯に言う名前なんざねェ、てめェがおれを勝手に連れて来たんだろうが」
 
 あちらこちらを興味深げに見渡している、麦わら帽子を被った少女はやはりサンジの憶測通りに我らが船長、ルフィであったようだ。だが、何らかの能力の影響か記憶が飛んでいるのか、先程からサンジの名前も自分のすぐ横に座っている少女の名前も呼んではいなかった。
 
 記憶喪失、という単語が真っ先にサンジの脳裏に思い浮かんだが否定材料がある。ルフィの胸の傷がないのだ。最低でも2年前……いやそうだとしたらサンジの名前くらいは知っているだろう。他にも傷や特徴はないかとサンジがまじまじと見つめると、記憶の中の2年前のルフィよりも更に頬がふっくらとしていて瞳も大きく、どこか幼げな雰囲気を醸し出していることに気づいた。
 筋肉がついている、というよりも柔らかな肉も同じくらいについているような、二次成長期真っ最中の女性特有の柔らかな身体付きであるように見えた。
 胸はパッと見2年前と同じくらいの大きさに思えるがそれは胸筋というより脂肪で膨らんでいるかのようであり、ノースリーブからちらりと見えている腹部は薄らと縦筋が浮かんではいたが、それでも固く筋肉質であるというよりも愛されて育った健やかな少女という印象を受ける。座っている体勢からサンジと視線の合う位置から見て、背も伸びきってはいないようだ。
 
 2年前のルフィは17歳だったが、そこから見るに15か、14歳程度だろうか、とサンジは憶測する。身体が縮んだついでに記憶も飛んだか、もしくはまだ海賊を夢見る少女であったところのルフィとそっくり入れ替わったのか。どちらにせよ、サンジと面識が無いことは確かだった。
 
 「そうか、そりゃあ災難だったな、おれはサンジ、この海賊船でコックをしてる、シャンクスは……話くらいはまぁ、聞くな」
 「なら海賊だな! なぁなぁ、なんて海賊だ? 船長はどんなやつだ? この船すげェ広いな! 他に部屋見せてくれよ!」
 
 流石に未来の自分が海賊の一味の船長をしているということを伏せた方がいいかと考えたサンジは曖昧な返答をしたが、それでもルフィは前のめりに食いついてきた。人を疑うことをまだ知らぬような年頃の少女の人懐っこさに絆されぬ男など男では無い、とサンジは持論を持って笑顔で話を続けようとしたが、ビュン、と風切り音と剥き身の刃がサンジの眼前に向けられる。
 
 「勝手に話進めてんじゃねェぞ……!」
 
 椅子に乗りあげて左腕で刀を向け、右手でもう一本の柄を掴みかけている。当然のようにその右腰には三本の鞘が下がっている。刀を数本所持している者など珍しくは無いが、三刀流などこの広い海だとしてもそう何人もいる訳もない。やはり、この少女もロロノア・ゾロなのだろうとサンジは確信した。
 
 ゾロも左目の傷がなかった。2年前、いややはりもっと前の肉体と記憶を有しているのだろう。初めてバラエティで姿を見た時よりもふた周り程身体が縮んでいるかのようにサンジは感じていた。
 左耳の三連ピアスも二の腕に巻き付けてある手拭いもそのままであるが、新緑の髪色はしかしどこかパサついているようだった。風呂に入らないせいではなく、栄養が足りてない為であろう。刀を振るう腕も、それらを支える肩から胸筋にかけてもその辺の女性よりは鍛えているとはいえしかし年頃の男性と比べたら劣るだろう。肌ツヤも悪く痣や切り傷が目立ち、頬もこけ、目の下にはうっすらと隈が目立っている。
 
 ゾロがいつ頃村を飛び出して海賊狩りを始めたのかサンジは詳しくは知らないが、衣食住に満足しているようにはとても思えなかった。金がなく食費を削っているのか酒に全て当てているのか。艶々として健康的に見えるルフィと並ぶとその違いが歴然としている。21歳の現在こそ、ルフィとは差があるように思えるが何なら、今のゾロはルフィよりも発育不良で胸も尻も膨らんでいないように思える。ルフィの方がゾロの身体的特徴を上回っている貴重な時期なのではないだろうか。背丈もまだサンジよりも低く、筋肉も脂肪も着いてない身体は酷く頼りなさげで薄っぺらだ。警戒心を丸出しにしているのは当然とはいえ、野良猫の様ないじらしささえ覚える。全く怖くは無い。
 
 「止めとけよ、おれを斬ったらここから脱出する為の手がかりが減るかもしれねェぜ? それに、おれとの力量差が分からねェわけもないだろ?」
 
 サンジが持っている情報など2人と殆ど変わらないものであったが自分には価値があるとハッタリをかましたのが効いたのか、はたまた力の差を察したのかゾロは大人しく刀を収めた。不意打ちを取られたとしても、覇気も使えないゾロに負ける気はしなかった。勿論、ルフィにだって勝つことも容易だろう。
 
 「お前、刀三本も持ってんのかすげェな!どうやって使うんだ?」
 「てめェも誘拐されてきてんだ、ちっとは警戒しろ」
 
 どうやらゾロはサンジを誘拐犯と確信してはいるが、馬鹿に素直に名前を名乗り、海賊船だと浮かれている横の少女のことは世間知らずな一般人と認識したらしい、嫌そうな顔をしながら適当にあしらう姿は、まるで普段のルフィとゾロのようでサンジの心を少し和ませる。が。ほっこりしている場合では無いのだ。
 
 こういった搦手、又は局地的現象に巻き込まれた際に知識や文献を元に分析を始める考古学者も、波風や海に変わった様子がないか確認する航海士や操舵手はおらず、荒事以外に関しては全く役に立たない船長と戦闘員が更に身体と記憶も海に出る前に戻ってしまっているのだとしたら、いよいよこの状況を打破できるのはサンジただ1人と言うことになる。
 
 さてどこから始めるべきか、とサンジは改めて自分の城ともいえるダイニングキッチンを見渡して。ぐうううぅ、と大きな腹の音がサンジの思考を遮った。見れば、先程までゾロの刀に興味津々であったルフィがテーブルに突っ伏して、腹が減ったと呻いている。見慣れていないルフィと見慣れた様子に思わずサンジの頬が綻んだ。腹が減ったという少女を前に、サンジがするべきことはこの摩訶不思議空間の把握でも解決でもない。
 
 「うっし、まぁ、とりあえず飯にすっか、腹も減ってちゃ頭も鈍る」
 「ハッ、見ず知らずの奴の飯なんざ、」
 「えっ!? いいのか!? 飯食いてェ! あっでもおれ金持ってねェんだ……宝払いでいいか?」
 
 飯と聞けば何でも食いつくルフィがサンジの表情を上目遣いで伺うようにもじもじとしている様は新鮮だった。宝払い、いつか聞いた覚えのある単語の意味はよく分からなかったが、サンジは勿論金を取るつもりなど全くなかった。ここはそもそもルフィの船であるし、それに。
 
 「金なんざ要らねェよ、食いてェやつには食わせてやる、おれの信条なんだ」
 
 サンジは立ち上がり、冷蔵庫を確認する。どういう訳か、時計以外の船の家具や設備はサンジの記憶と一致していたから予想はしていたが、調味料棚、そして冷蔵庫の中も昨晩とは何も変わってはいなかったのだ。つまみ食い常習犯からの発見を免れていた冷や飯が数人分と、卵、幾つかの野菜と、作り置きの叉焼がある。なら炒飯だな、とさっと調味料も合わせていくつか取り出す。
 勿論、ルフィ1人の為に作るのではない。ルフィ程分かりやすくは無いし、まだ刀から手を離してはいないが、ゾロも腹が減っているのはわざわざ確認せずとも分かっていた。
 寧ろ、何食分か食えていないのかもしれない。2人は濃いめの味付けが好みであったが胃を考えてゾロの分は薄めにしておいた方がいいだろう、先にゾロの分を作り、後からルフィ好みに味を整えるとしよう。
 うし、と気合いを入れて卵を手に取ったサンジの後ろから、ひょっこりとルフィが顔を出す。もう味見しに来たのか?と呆れながらも目を向けたルフィの瞳は喜色をたたえ、きらきらと輝いている。
 
 「すっげェ! いーやつだなお前!」
 「……はは、そりゃどうも、コックになら誰にでも言いそうだな?」
 「違ェよ! お前より良いコックなんて他にいねェ、なぁ、お前、おれのコックになれよ! まだおれは海賊じゃねェけど、あと数年経ったら絶対に迎えに行くから、な、おれ、サンジが良い!」
 
 まだ。まだ、飯も食ってねェっていうのに。この食べることが何より好きな少女は、料理の腕などではなくもっと深い、サンジの人柄のみを見て気に入ったと悪の道に引きずり込むのか。
 どういう出会い方をしたって、出会う年月が違っていても。結局、サンジはルフィに惚れ込み共に堕ちる運命なのだと。サンジ、とまだ少し高めの声音で初めて呼ばれた名前が、サンジの心をどうしようもなく揺さぶる。
 
 「……、……、………………。悪ィが、おれはもうこの海賊船でコックやってんだ、他のやつを勧誘しな」
 「えぇ~! いいじゃねェか!おれと海賊やろう! ぜってェ楽しいぞ!」
 「今でも十分、人生で1番楽しいんだよ」
 
 ルフィの熱烈な勧誘を交わしながもサンジは手を止めはしない。
 
 (その、プロポーズと同意のそれは、2年前のおれと、2年後のおれに聞かせてやるといい。喜んで付いていくだろうから)
 (だけれども、今のおれにはあいにくここにいるけどここにいない船長、愛すべき彼女の誘い文句にしか乗るつもりはねェんだ)
 
 ルフィに伝えようともきっと理解はするだろうけれど納得はしないのだろうなとサンジは想像する。そんな、意固地で自分が決めたことを貫き抜く強さも、愛おしいものになるとまだルフィに出会っていないサンジは気づいていないだろう。出会って、生涯をかけて分らされるのだろう。
 
 サンジはゾロ用の更に炒飯をよそい、鍋の中に更に軽く幾つかのスパイスを追加してルフィ用の更に盛り付ける。ついでに作っていた中華スープと一緒にテーブルに運べば、ルフィは分かりやすく歓喜し、ゾロはぴく、と眉のみを動かした。どれ程サンジを疑い自分の情報を殆ど隠すことはできても、嗅覚と空腹は隠せはしないようだった。
 
 いただきます!と大きな声で挨拶をするが早いか、スプーンでかき込むように炒飯を貪るルフィをちらと見ながらやはりゾロは手を付けようとはしない。
 
 「うんめえェ! こんなうめェ炒飯初めて食ったぞ! なぁ、やっぱサンジおれの海賊になれよ!」
 「はいはい、どーも。……おい、マリ……そっちのお嬢ちゃん、食わねェの? 冷めちまうぜ?」
 「……っ、……、……、何処の馬の骨とも分かんねェやつが作ったやつなんか食えるか」
 
 タダより高いものはない。対価を払わずに提供された物を疑い拒むような生活を常としてきたのだろう、サンジもその気持ちも分からなくは無い。ゾロからして見たら、遥かに自分より強い男が海賊船に監禁し飯まで食わせようとしてくるのだ、ゾロの頭の中で渦巻いている最悪のシチュエーションを否定する穏便な最適解を、サンジは思いつかないが。
 サンジはスプーンを手に取り、ゾロの皿から炒飯をひとさじ分掬い、口に運んで咀嚼する。少し優しい味の完璧な炒飯だ。さすがに腕前は衰えてはいないらしい。
 
 「ん、美味い。毒は入ってねェぞ?」
 「……………………」
 
 ゾロは暫くあっけに取られたようにサンジを見つめ、それから自分の隣で流し込むように炒飯を食べ進めているルフィに目をやり。恐る恐る、といった様子でスプーンを手に取り。小さく、1口目を口に運んだ。途端、つり上がった眉と、への字口が綻んだのをサンジは見逃さない。
 ゾロはサンジの渾身の出来の料理を口にしても美味いとは滅多に言わないが、表情にははっきり出るのだ。触れるもの傷つけるような刃のごとき鋭さと、冷たさを隠しもしていなかった顔が緩む。がっつく程ではないが、手は決して止まらない。美味いか、と聞くのも野暮である、とサンジはルフィとゾロが食べ終わるまでを穏やかな笑みを浮かべて見守っていた。
 
 「ご馳走様でした!」
 「…………、ご馳走様」
 「はい、お粗末様でした」
 
 ルフィは勿論、ゾロまで数人分の炒飯をスープをペロッと平らげて平然としている。ルフィは美味い美味いと繰り返しているし、ゾロも褒め言葉を言わないが文句も言ってはこない。味覚や、サンジの料理を受け入れてくれるところもやはり今とは変わっていないのだ。サンジは皿を洗いながら、嬉しくなってきて、食後のデザートでも作ってやろうかと考えているところだった。
 
 「…………おい」
 
 ゾロの声だった。ゾロの方から話しかけられるのは初めてかもしれない、と皿洗いを終わらせてテーブルに戻る。いやに真剣な顔をした、腹がくちくなったのか頬にほんのりと赤みが戻ったゾロがサンジをねめつけていた。
 
 「……借りを、作りたくはねェ」
 「借りだァ? んなもん気にするなよ、勿論金も要らねェ」
 「おれが気にするんだよ。てめェは、海賊らしいが……こんなお人好しな海賊もそうはいねェだろう」
 
 どうだか。とサンジは口の中でだけ呟く。
 もっといっぱいいると思うぜ、例えば太陽モチーフの船首が取り付けてある船の中にはもっと。
 
 「適当な海賊の首をくれてやってもいいが……ここから出られないんじゃいつになるか分からねェ、…………、だから、」
 
 ゾロは徐にシャツを脱ぎ出した。ぎょっとするサンジを意に介さず、巻き付けてあるサラシさえも外し始める。
 
 「…………身体で、払う」
 
 サラシという拘束から解放された胸はやはり2年前よりもだいぶ小ぶりであった。身体に脂肪がついていないのだからやはり女の象徴であるそこもゾロにしてはささやかだ。だが、それよりも目立つのは身体のあちこちに刻まれた傷であった。処理をする金がないのか時間がないのか、はたまた両方か。赤紫の鬱血痕、ガタガタな縫い目の切り傷、水脹れになっている火傷傷、ひび割れた皮膚と、戦いの跡がまざまざと残ったままになっている。
 
 「なに、お前、脱いでっ!?」
 「…………女らしい身体じゃねェのは分かってる。……嫌なら目ェ瞑って天井の染みでも数えてろ」
 
 動揺して立ち上がったサンジの手を取る、と見せかけて足払いを掛けてきたゾロに、普段のサンジなら対応出来たはずなのにまんまと床に背中を強かに打ち付けることになったのは、あまりにそれがゾロらしくもない行動だったからだ。
 2年後のゾロがこうしてマウントをとる時は、耳を興奮に染めカーブを描く目も釣り上がる口角も熱い吐息も隠そうとせずにただ愉しいから、気持ち良くなりたいからという自らの欲を注ぎ込んできたのだが。
 サンジが見上げるゾロは、氷のように冷たい、無表情だ。10キロは確実に軽い身体の尾てい骨がサンジの腰骨に当たっている。
 
 「すげェ!身体で払うなんてできんのか? どうすんだ?」
 
 おれもやりたい!とルフィが言うが早いか、ルフィもあっという間に脱ぎ出していた。しかも、全裸だ。ゾロの見様見真似なのだろうか、サンジの胸部辺りにお尻を突き出すようにしてしゃがみ込んだ。
 スポーツブラに覆われていた胸部はやはり年齢にしては大きく、それでいてハリがあって瑞々しさもあり、乳首も上向きだ。胸に伴って身体中にも柔らかな脂肪を纏っており、顕著なのが下腹部と尻だ。丘のようにふっくらと盛り上がっていて生え始めなのだろう陰毛が覆い隠しきれていないほどだった。尻もやはり大きめで、ずん、と視界を覆うように突きつけられボリュームと真っ白なそれに、サンジは違う意味で言葉を失う。
 
 エロいことは好きだ。愛する彼女達が半裸や全裸になって誘惑してくるなどサンジにとって、いや、世界中のどんな男にさえ据え膳でしかなく、喜んで飛びつくべきであろう。
 
 だが、今サンジの眼前にいるルフィもゾロもただの少女なのだ。情けない告白を受け入れてくれたルフィでも、初めてで覚束無いサンジを笑わずに抱き締めてくれたゾロでもない。男女が裸ですることが何か恐らく分かっていないルフィと、己の身体を対価として生きるのを当然と思っているゾロなのだ。1番愛しているのは今現在の、19歳と21歳の2人であるとしても、幼い2人ともより深い仲になりたいかと言われれば否定できない程の低俗さをサンジは持ってはいるがしかし。
 
 無知と、自棄に目を瞑る程愚かに堕ちた訳では無い。
 
 「や、めろっ、こういうの、こういうのはっ、ちゃんと、本気で、好きになったやつと、やりたいと思ったやつとやれ!」
 
 2人分の体重がかかっているとはいえ少女2人だ、サンジは腕の力で後ろにずり下がるようにして2人の全体重をかけた拘束から抜け出して、なるべく2人の方を見ないようにしてから服を手に取り、それぞれに放り投げてやる。意気地無しだの女慣れしてないのだの言われようが、外道になる気はさらさらないのだ。
 
 「…………ハッ、偉そうなこと言いやがって」
 
 ゾロがようやく呟いたそれは突き放すような物言いではあったが嫌味でもなんでもない、全く別の好意的なものだと、サンジでなくても分かるほどだ。気持ちを隠すのが上手くなるのは数年後なのだろうか、それとも今だけ特に下手なのだろうか。サンジにはまだ判断が付かない。
 
 「えー! おれ、本気でサンジのこと好きだぞ!?」
 
 服は一応着てくれたらしいがまだ諦めていないルフィがサンジの背中に飛びついてくる。ルフィの言う、『本気』は本当にそうなのかもしれない、とは思いもするが料理人してへの好きと、男としての好きもまだ曖昧な時期なのだろう、料理への賛美は喜んで受け取るけれども、この天真爛漫な少女が恋を知るのはまだ早い、とサンジは思う。
 恐らく、数年後。ちっぽけな海賊団を立ち上げて東の海を旅するその時に、海上レストランに立ち寄った時に知るのだろうから、焦る必要はない。ルフィも、自分も、とサンジは思う。
 
 「うん、ありがとうな」
 
 サンジは半身で振り返ってルフィの頭を撫でる。まだ切り傷も大きな汚れも穴もないその麦わら帽子が似合う女性になった頃、その思いをサンジは受け入れるだろう。
 
 「てめェも、見ず知らずの他人にあんまああいうことすんなよ」
 
 そしてようやくサラシを巻き終わったらしくいつの間にかサンジの斜め後ろに佇んでいたゾロの頭も同じように撫でてやると、そっぽを向きつつも手を払うことなく何やら黙り込んでいるようだった。
 海賊狩りをしていた頃のゾロがどのような日々を送っていたのだろうか。自分の歩む道のみを信じて暴力の世界に飛び込み、傷つき続け、信頼出来る者がいない夜を幾度も越え、騙されることも見捨てられることもあったのだろうか。
 サンジには想像しかできないし、21歳のゾロに聞いても口を閉ざすだろう。けれど、飯や宿の礼に安易に身体を許すのは避けるべきだと伝えたかった。自ら選択肢を狭めてやりたくないことをやるのは、ゾロらしくもないと思うからだった。
 
 「……気に食わねェやつにはあそこまでしねェよ」
 
 ゾロの呟きを、サンジは聞いていないことにした。やはり彼女も、恋をするには視界が、世界がまだまだ狭いのだ。
 
 広い大海原でちゃんと、もう一度初めて会った時。強引な船長に勧誘されてちいさな帆船の料理人になった頃。改めて2人に恋に落ちて欲しい。いや、落としてやる。サンジはそう、こっそりと誓った。
 
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