【閲覧注意】アレクセイ・コノエ×アーサー・トライン


(自覚なし新婚熟年夫婦(概念)だったコノアサが本当に恋人関係になる前の小咄。引き続き幻覚と捏造モリモリです。ところで新婚熟年夫婦(概念)ってなんですか?)


 人の好みを見た目で判断するなとは言うが、こんな感じだろうな、というのはままある。
 食の好みを例にするとミレニアムのコノエ艦長は甘いものが得意ではない。コーヒーは目が醒めるような深煎りの味を好んで飲む。
 対するトライン副長は積極的に甘いものを食べる訳ではないが、甘いものは好きだ。コーヒーはたっぷりのミルクを入れて飲みたい派である。
 なので、こうなるのもまぁ、自然なことなのかもしれない。
 ……本当に?


 もぐ、と一口噛んだ瞬間眉を顰めたコノエにルナマリアは苦笑を零した。風の噂で甘いものは好まないとは聞いたことがあったが、想像以上だったようだ。
 メイリンがコンパスに立ち寄った際に持ってきてくれたとある有名店のクッキー缶。一緒に行動しているアスランも資金を出してくれたのか、中々に多いそれをルナマリアとシンの二人で食べるには勿体なく、とりあえず談話室に行ってみればハーケン隊の三人とちょうど休憩に入ったところのコノエと遭遇したので渡したのがつい先程。
 キューブ状のチョコレートがふんだんに練り込まれたクッキーは若者や甘いもの好きには堪らない一品だ。
 だが一番甘くないとされるビターチョコレートでさえこのような顔になってしまうのだから、本当に好きではないのだろう。

「残しちゃって大丈夫ですよ」
「いや、うん、大丈夫だ……」

 とは言いつつも完全に手が止まっている。
 プラント育ちは食に関して特に厳しく教育されるので、食べ残しは基本的に不寛容だ。苦手なものでも出されたら食べ切るか、もしくは前もって除外してもらうよう言っておくのがマナーとされている。
 一方のコノエは地球育ちなのでそういった文化の人間ではないが、部下から貰った手前残したくはないというのが雰囲気からも滲み出ている。
 どうすることもできず固まってしまったコノエを見ていられず、いっそ捨ててしまうか、とルナマリアが手を伸ばそうとした時、後ろからコノエを呼ぶ声が談話室に響いた。
 振り返ればアーサーが右手にインカムを持ちながら真っ直ぐ向かってくるところだった。

「艦長、インカムを忘れていましたよ〜」
「……トライン君」
「はい? ……あぁ、どうぞ」

 え、と思う間もなかった。二人の元へ辿り着いたアーサーはインカムを渡す前にカパリと口を開け、コノエが当たり前のように食べかけのクッキーを食べさせる。さくりさくりと飲み込むのをコノエはじっと見ながら待ち続け、食べさせられているアーサーも眉を寄せることはない。それどころか味を気に入ったのか目元が綻んでいる。
 最後に、食べさせた際に唇の端に付いてしまった欠片を取り、それすらも押し込めば、はい完食である。
 たが、ルナマリアはガッツリと見てしまった。コノエの親指と人差し指がアーサーの唇の内側にほんの少しだけ入り込んだのを。
 横からオォ……とかえっ? という声が漏れ聞こえてくる。周囲も見ていたらしい。ルナマリアも喉まで出かかっていたが、既のところで耐え切った。
 家族なら食べかけを代わりに食べてあげるというのは分かる。
 恋人もあり得るだろう。ルナマリアとてシンがコノエと同じ顔をして食べるのを止めてしまったら仕方ないわねと言いながら残りを食べてあげる選択肢を選んだと思う。
 だが、欠片は……口に押し込むだろうか。それくらいなら自分で食べてしまうかもしれない。
 だが、この二人はあくまでミレニアムのクルーの命を預かる責任者達だ。休憩時間は楽しそうに談笑している姿を見かけるが、それ以上の関係ではない、筈。
 筈、という曖昧な表現をしたのはコンパス内で薄っすらと漂っている噂の所為だ。
 曰く、『ミレニアムの艦長と副長は恋人関係であるらしい』。
 最初にその噂を聞いた時は暇人の考えだと一笑したが、もしかしたらこういう光景を見た誰かが流したのかもしれないと気付き、一気に憂鬱になってしまう。
 信頼する艦長が同性愛者であろうとなかろうと、それは方向性の一つなので気にする必要性はない。
 問題は片割れの方である。アーサーは戦艦ミネルバからの付き合いであり、人の善意を無条件で信じてしまう傾向がある。言うなればお人好しの代表例なのだ。
 あり得ないとは思うがコノエに囲われているのではないか。それともアーサーの方が敢えて近づいている?
 そんな風にルナマリアがぐるぐると煮詰まっている間もコノエとアーサーは会話を続けていく。

「チョコレートで手が汚れてますから僕がつけますよ」
「ありがとう。わざわざ追いかけてくれたのか」
「だって艦長と話せないなんて問題になるでしょう? ……よし。これでいいですか?」
「問題ないよ。……そうだ、訊いてくれたか?」
「確認済です」
「了解した。すまないが進めておいてくれ」
「承知しました」

 ニコリと笑い、ルナマリア達に手を振るとアーサーはあっさりと談話室を出ていった。コノエもいつもの微笑を浮かべながら「手を洗ってそのまま自室に戻るよ」と言って去っていく。
 完全に二人の気配が消えた瞬間目を輝かせながら端末で誰かに連絡をいれるハーケン隊の三人の横で、クッキー缶の蓋を抱き締めながら思考を宇宙に飛ばしているシンとこれから起こるであろう騒ぎに頭を抱えたくなったのにクッキー缶を持っているのでできないルナマリアが談話室に取り残されることになった。

 噂がハーケン隊の面々によって『コノエ艦長とトライン副長は絶対に付き合っている!間接キスしてた!』に上書きされるまで後3秒。
 そして噂は噂、どうせ飽きるだろうと聞き流していたコノエとアーサーが突然燃え広がった火力の高い噂を耳にして、顔面蒼白で火消しの為に奔走を開始するまで2時間半。
 最終的に噂によって互いを意識してしまい、紆余曲折の末に本当に付き合うことになるまで……1ヶ月。
 ミレニアムは今日も様々な想いを乗せて航行する。
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