聖杯戦争がはるか昔にあったけど、とっくに神秘も何もかも消えた世界のパロ


場面ごとに書いて並べ替える方法で小説を書いているので、急にはじまって終わります。
これはどこにも入れられなかった供養です。

「あなたが人の願望なら、それでいいんだよ」
赤色がどろりと溶けそうに揺れた。
「俺は、アスカの家はそのためにあるんだって」
瞬きもせず潤む瞳は飴細工にも似ている。
「望む誰かの願いの為の、裏切らない願望器」
上気した頬が、大人になりきれない少年の声が、甘く響く。
「議長は、あの人は俺に首輪をかけたけど、アンタはどうするの」
夢を見るためには目を閉じる必要がある。処方され続けた薬も、与えられた友(レイ)も、きっと彼を、シン・アスカの本質を眠らせる為のものだった。
「約束覚えてますよね」
子供が笑う。きっと、力に人の形があるなら彼の姿をしているのだろう。振るう人間によって害するものにも、守るものにもなる。善悪のない純粋なもの。
「守るためなら、おれはいーよ。なんだってできるよ」
きっと力ない人はこんな気持ちだったのだろう。願望器を前にして、抗える人なんていない。
「オーブのためになんて嫌だけど、キラさんならいーよ」
とんだオカルトだ。科学の時代に、人は、人の欲は、罪深い。
「ねぇ、首輪をつけてそばにいてよ」
ひとりぼっちのこどもが泣いている。僕はなんて答えたらいいんだろう。どうすればこの子を救えるのだろう。
健気で、孤独で、一人では生きていけないと泣いている子供に、どんな言葉をかけるべきだろうか。
甘えるように伸びた手は、いつの間にかベッドに落ちた。医務室の雑音が耳に入るようになって、自分が緊張していたことを知る。どくどくと、緊張に胸が痛む。
「……なんて、冗談です。一人だって問題ありません。首輪なんて必要ない」
まばたきひとつ。どろりとした湿度は消えて、澄んだ赤色が室内灯を反射している。
きっと僕は対応を間違えた。独りぼっちの子供にかける言葉なんて持っていないのだから。
「俺は誰の願望器にもならないし、人間をやめる気もない。だからこの話は終わりです」
シンはそういうとキラから距離を取り、いつも以上に崩れた軍服を正した。お互いの吐息がわかるほどの距離だったから、思わず詰めていた息を吐き出す。
「今日のことは二人の秘密ですよ。……だれもこんな馬鹿げた話なんて信じないだろうけど」
声をかける隙もないままシンは部屋を出た。あとに残ったのは空調の鈍い音と、少しだけ残るシンのにおいだけ。
一人残されたキラはただ、無力感を噛みしめることしかできなかった。
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