桜の花の咲く頃に


***改行ゾーン***







「あッ…う…はん…はぁ…う、寛見…ひろみ……あ…イ、イクっ…」
「ち、脹相…くッ…」

情事のあと。
ふと思いついて俺の腕の中に収まっている脹相に問いかけた。
「君は桜を見たことはあるか?」
黒髪を白い顔に散らし、やや気怠げな声で彼が答える。
「いや…器の知識で美しいものと理解してはいるが」
「そうだな、とても美しく儚い」
まるで君のような…と柄にもない事を言いかけて言葉を飲み込む。
「どうした?」
「いや…桜は出会いと別れの象徴でもあるんだ」
「そういう時期に咲き揃うらしいな」
少し遠くを見るような目で彼が言う。

愛し合う時、脹相の雪のように白い身体は満開の桜のような色に染まる。まるで凍てつく冬が溶け出し陽光の季節に変わるが如く。
潤んだ切れ長の瞳で俺を見つめ、艶やかな声で俺の名を繰り返し呼ぶ。
その美しさを目にする時だけは己の罪深さを忘れられるような気分にしてくれる。

彼の黒髪を優しく撫で、紅色の唇に口づけし、心の中で唱える。
(愛している、脹相)
俺達は桜の季節はおろか1ヶ月先の自分すら予測がつかない状況にある。
クリスマスイブの頃…俺は力を必要としてくれる者達の為に戦い、いずれは罪を償う。彼は弟の為に命をかけて戦うと言う。

いつの日か、叶うならば、満開の桜を背にした彼をこの目で見てみたい…かすかにそう思った。
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