【閲覧注意】アレクセイ・コノエ×TSアーサー・トライン


(甘酸っぱいコノアサ♀×nと自分に念じながら書きました。自覚済両片想い→一応成立です。いつもの芸風かつ幻覚ねつ造他諸々コミコミセットです)


 昔から好きになる人は年上ばかりだった。父の部下、2つ上の先輩、ゼミのOB……。
 年上の全員がそう、という訳ではないけれど好きになった人には共通点がある。
 同級生や後輩と違ってアーサーを最初から使えない奴と言って馬鹿にはしなかった。節度をもって、適切な距離感を作りながら心を砕いてくれていた。
 その誠実さが好きだっただけだ。付き合いたいとは考えることはなかったと、それだけは胸を張って言い切れる。
 そんなこともありながらZAFTに入ったが、ここからは誰かを好きになるということはなかった。業務に精一杯でそんな余裕すら無かったし、憧れが消えたというのもある。
 だからこれからはウィリアムの後見人をしつつ、仕事と結婚しようと思っていたのだ。
 コンパスで『あの人』に出逢うまでは。


 昔から好きだと思う人は穏やかで愛嬌のある笑顔が可愛い女性ばかりだった。年に拘りは無い。同級生や音楽の教師、ゼミの後輩に心を寄せていた。
 だが、口は回る癖に肝心な時に口下手になってしまうところがあったコノエは告白どころかデートへの誘いすら口にできなかった。そうこうしているうちに彼女達はそれぞれ誰かのものになり、結婚していった。
 あと、これは人によっては自慢話かと揶揄されてしまうのだが、有難いことに近寄ってきてくれる女性達もいた。
 だが往々にして勝ち気というか……可愛さの対極にいるような人達ばかり。
 肉食獣のような猛追に負け何度か付き合ったこともあった。付き合えば何かが変わるかもしれないと一縷の望みを持ったが、彼女達の行動は恐怖心を煽るものでしかなく長続きすることはなかった。
 独り身に戻った後だけはハインラインが珍しく気遣って──彼なりのという前提がつくが──くれたのが唯一の慰めだった。
 だからもう恋愛はしないと心に決めていたのだ。
 コンパスに来て『彼女』に逢うまでは。


(僕のことなんて部下で娘みたいな存在って思ってるだろうけど、やっぱり好きだなぁ……)
(向こうは僕のことなど上司かつ、父親と同じくらいの年齢の人だと思っているだろうが、誰にも渡したくないな……)

 告白なんかをして向こうを困らせたくない。けれど、振り向いてくれたらな、とも思ってしまう。
 二人は深く溜め息をついた。


 ハインラインは頭を掻き毟りたかった。無論気持ちだけである。
 別に自分にとって例の二人の動向は本当に、微塵もどうでも良かったのだ。興味などないと断言してもいい。
 だがそれを許してくれなかったのがブリッジクルーを始めとしたミレニアムの面々(と面白半分のアークエンジェルクルー)だった。彼等はハインラインとコノエが旧知の仲だと(何故か)知っていたので、我等の艦長と副長の恋路をどうにかしてくれ、もしくは成就させる為に手伝ってくれとド真面目に言い放ってきたのだ。
 まず最初に思い浮かんだ感想は『こいつ等は正気か?』だった。
 何故他人の恋路を応援する必要がある? 何故気にする必要がある? 何故胃薬を用意する必要がある?
 だが艦長達を放置している所為でブリッジクルー達の業務効率が下がっているのも事実。
 自分のスケジュールとストレス値、クルーの業務効率の低下を天秤にかけ、仕方がないとハインラインは大きな溜め息をついた。
 ……大した理由は無い。ただ、昔見た疲れ切った恩師の表情を思い出しただけだ。


「『二人が真実を話さないと出られない部屋』……? え、ナニコレ」
「ふむ。謎解き……か?」
「ですがハインライン大尉がミレニアムに謎解き部屋なんて用意しますかね……?」
「肯定したいところだがアルバートだからな……。仕方ない、あいつの閃きに付き合ってやるか」


 揃って唸りながらテーブルに置かれたメモを見つめる二人の応酬を聞いて早速中止しようとしたハインラインをマリューとノイマンが慌てて止める。謎の人選だがコノエとアーサーが彼のフォローに(当たり前だが)回れないので急遽名乗りを上げてくれた。決して最前列でラブコメが見たい訳ではないという話だがハインラインはほぼ確実にそうだと疑っている。
 だが彼等の言い分も分かる。ここで中止してしまえば二人共警戒して二度と同じ手は使えないだろう。アーサーは引っかかるかもしれないが。
 作戦は至ってシンプル。
 ハインラインが『ミレニアムの新規兵装について説明したいことがあるので第1ブリーフィングルームに来てほしい』という嘘の呼び出しをコノエとアーサーに送り、まんまと引っかかった二人を部屋に閉じ込めて無理やり告白させるというものだ。兵装の話を持ってこられたら確認せざるを得ない二人だからこそ使える手である。
 二人共ハインラインの機器操作能力に勝てないので外に出ることも叶わない。これで否が応でも指示に従わなければ出られない部屋の完成である。
 こちらは答えを知っているので、それを言わせればミッションクリアだ。

「とりあえず第一関門はクリアね。けど問題はここからだわ」
「しかし、あのメモの内容で気づきますかね?」
「話が脱線したら適時アナウンスして修正するしかないでしょうね」

 暫く口に手を当てて思案していたコノエがアーサーを見やる。何かを思いついたらしい。
 早速正解か?つまらないわねぇと身を乗り出すアークエンジェルのトップ達を呆れた表情で見る主催者(※不本意)が口を開いた。

「これくらいで済むのならこんな部屋なんて要りませんよ」


 コノエとアーサーは揃って思案していた。二人の間に隠していることなどプライベートな話題や過去のアレコレくらいだが、それが『真実』というワードには合ってないだろうとも理解できている。
 念の為訊いてみようか、とテーブルの向こうにいるコノエをチラと見てみる。
 没頭しているのかこちらの視線に気づく様子はない。真面目に思案している姿はいつ見ても惚れ惚れする。本当に素敵だ。

(カッコいいなぁ……。いつもしっかりしてて、声も渋くて素敵なのに独身だなんて……昔何かあったのかなぁ)

 格好良すぎてトラブルに巻き込まれた……この人ならありえそうだ。もっと仲良くなったら訊いてみようかな、と部屋のことなど忘れてボーっと見つめていると、漸く視線に気づいたらしくパチリと視線がかち合い、びっくりしてつい逸らしてしまう。

「うん? すまない、考えに夢中になっていた。何か思いついたか?」
「あ、いえ! えーっと……『真実』って随分と堅苦しいワードですけど、僕は全然思い当たる節がなくて……と思いまして」
「確かに。そこが僕も引っかかっていた。『本音』ではないのだな、と」
「そこですよねぇ……。真実……真実……」


「思いの外真面目に悩んでますね」
「長くなりそうねぇ……。ストレートに『相手に告白しないといけない部屋』にするべきだったかしら?」
「否、私の計算ですとあの二人なら告白なんて言葉を使っても同じ状況になる確率は96%です」

 確かに……と呆れる二人を横目にハインラインは持ってきていた端末を立ち上げると何かしら打ち込んでいく。何か策があるのかと思えば仕事をし始めたらしい。後は放置するようだ。

「少なくとも艦長の方は愚か者ではないのですからそのうち気づきます。問題はその時どうするか、副長がどう行動するかです」
「あら。コノエ艦長とは長い付き合いだとは聞いていたけれど、トライン副長についてもよく見ているのね」
「全く興味はありませんがブリッジクルーの行動を予測するくらいには観察しているつもりです」
「へぇ。こういうのが開発に活かされるんですかねぇ」


(……もしや、バレているのか?)

 突然アーサーと一緒に閉じ込められたと思えば謎解きをしないと出られないと来た。
 隠し通せていると思い込んでいたが、ここ最近やけに静かだった金髪の部下の背中を思い返す。
 よく考えたら今までの恋愛遍歴も知っているのだ。アーサーが好きなタイプということに早々に気づいていてもおかしくはなかった。
 だが彼は率先的に協力する性質なんてものは生憎と持ち合わせていない。となると、他に気づいた人がいてハインラインに協力を持ちかけたと考えるのが自然だろう。どうやってあの男に協力を取り付けたのかは謎だが。

(アビー、もしくはマーカスか?)

 若者なら人の恋愛に敏いことが多い。だとすると、この状況は少々不味いことになる。つまりは公然の秘密になりかけているということだ。
 恐らくハインライン相手に「仕事にならない」等を言えば巡り巡って自分の業務が圧迫する、なら手を貸してやるか……という思考になるのは想像に難くない。
 これは後で謝罪しないとな、と思案しながらチラ、と目の前で紙に書かれた文字を見ながら唸っているアーサーを盗み見る。
 橙色の丸い瞳は目を引く鮮やかさはないが、ずっと見ていても飽きない。ぽってりとした唇は薄くリップグロスが塗られているのか、快活な彼女に一匙の色気を醸し出している。
 気配には敏いアーサーがこちらを見上げる。そしてふわりと笑いかけてきた。

(……ここまでお膳立てされたのなら、望みはあるということだろうか)

 ハインラインだけの読みなら正直なところ不安でしかないが、他のクルーが関わっているのなら話は変わってくる。
 当たって砕けたら精一杯くだを巻かせてもらおう。それくらいはしてくれてもバチは当たらないだろうから。

「……トライン副長、いやアーサー……聴いてほしいことがあるんだが、構わないかな?」


 閉じ込められて2時間後、扉は無事解錠された。
 中からは頬どころか首も目元も真っ赤にしたアーサーと、想いを通わせることができてご満悦なコノエが揃って退出したことは想像に難くないだろう。
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