アルジュナオルタが夜這いしてきた話


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↑のスレの>>57のネタ(レスした本人)


「ある方からのアドバイスで、“夜這い”をしてみてはどうかと言われまして……」
「はあああ!?!?誰だよそんなこと言ったの!」
「それは言えません。内緒だと言われましたから」

微笑んだままベッドに乗り上げて、彼は横たわる。ふたりぶんの重みを乗せて、スプリングが軋んだ。
アルジュナは、これを悪だと思ってないのだろうか。入室許可はしたけど、特に用もなく、そしてアポなし訪問というものを礼儀正しい彼は基本しない。ましてや、夜這いのためになんて。
意図が掴めない。忘れてしまったことは多くとも、思考・判断する力はそれこそ神様のように大らかで、人のように温かみがあってしっかりしているはずなのに。

「本当に、いいの……?」
「いいも何も、共に寝るだけですが……」

口の中が乾く。飲み込む唾もない。
オレの掠れた声とは対極に、アルジュナの声には随分と余裕があるように見える。
手足の金色の装備を消し黒い衣服のみになると、神となってもなお永い間保たれていた完全なる肉体が顕現する。黒に覆われているというのに、身体のラインが際立って映る。
こちらを見上げ、真っ直ぐに見つめる彼の姿は、清純と淫靡が両立していて、美しい。

──いや、違う。夜這いとか共に寝るとか、そういう言葉で惑わされただけだ。きっと抱くとか抱かれるとかが目的ではない。その気になれば抱けそうだと思わなくもないが。
首を振って余計な思考を振り落とす。きっと言葉通りの意味で、隠された意味はないだろう。
鼓動の音がうるさく響いているのを無視して、オレも寝転んだ。

すぐそばにアルジュナの顔がある。寝息も感じ取れそうなくらい近くだからあおむけにもなれない。どうやっても彼の存在を視認してしまう。背を向けていなかったら、情けなく赤くなる顔を晒すところだった。
感触は確かにアルジュナがここにいることを伝えている。でもこれ以上彼を感じたら身体も心も保たない!
ギュッと目をつぶって必死に意識を沈めようとしていると、背後から布擦れの音が聞こえて、脚に柔らかな熱が巻きついた。そして、腰元に手が回されアルジュナの身体がぐっと密着する。

「あ、あああアルジュナ!?!?」
「おや、驚かせてしまいましたか……?」
「ひうっ」

ほんの少しだけ悲しんでいるような声が聞こえた。が、それどころじゃない。
今まで、アルジュナとここまで近づくことはなかった。尻尾が太ももにまで巻きつくことも、彼の声がこんなにも側で鼓膜を震わせることも初めてだ。さらに瞼に力が入って悲鳴が上がるのも無理はない、はず。

「ちょっとびっくりしたけど大丈夫。一緒にご飯食べたりとか戦闘したりとか、そういうことはあったけど、アルジュナとこんなに距離が近いのはなかなかないから慣れなくて」

そうでしたか、と感嘆するアルジュナの声がやたらと頭の中に響く。
なあやっぱりこれ誘われてるんじゃないか。相手が誰だろうと、じわじわと誰かの体温を感じる状況は思春期の男子にとって刺激的すぎる。
自分の激しい拍動も伝わっているだろうに、そんなことまるで知らないみたいに彼は口を開く。

「……人の体温は、とても暖かいものですね」
「確かに。ぽかぽかしてくるんだよね」
「ぽかぽか、ですか?」

アルジュナのぼやきに反応してみれば、彼はポカンとしたようだった。それにしても、彼がそんな気の抜けたオノマトペを発するのはなんだかシュールだ。

「うん。さすがにここまで抱きしめられることはなかったけどさ。こうしてゆっくりと人の暖かさを感じると、物理的にもあったかくなるけど……やっぱり心があったかくなる気がする」
「こころ、が」
「寂しくなくなるんだ。自分は独りじゃないんだって、この熱が教えてくれる」

尻尾がぴくっと動いたのがわかった。

「……ああ、なるほど。そうだったのですね。私の、この感情は……」

寂しく、と口にしたところで思い出した。かつて、あの世界を「寂しい」と言い表した人がいた。もしかしたらそこにいたアルジュナは、漠然とそんな思いを抱えていたのだろうか。
だとしたら今はどうなんだろう。自分やカルデアの存在は──このアルジュナをこそ殺した張本人だけど──それでも、彼の心を少しは満たしているのだろうか。
納得したような、感心したような声が後ろから届いて、互いの身体の触れる面積が増える。
うん。やっぱり、アルジュナは幸せを確かに感じているのだと信じたい。

「マスター、ありがとうございます。やはり、あなたは私の──」

言葉が続いているのに、もうそれすらも意味を持って頭を通らない。かろうじて、どういたしまして、と呟いた声は、ちゃんと発せられていたか。わからなくなってきた。

「……ふふ。おやすみなさい、立香」
「うん、おやすみ……」

彼の声がいっそう低くなって、鼓動もゆっくりになる。家族に寝かしつけられるというのは、こういう気分かもしれない──なんて。瞼の力が抜けて、変なことを考える余裕もできた。
いつか、背ではなく顔を向けて寝られたら、とも思う。
後ろから抱きしめられて感じる熱も、うなじにかかる寝息も気にならなくなって。オレの意識は驚くくらいあっさりと暗い底に沈んでいった。



「……ですが、立香。あなたが望むのでしたら、私は。あなたに抱かれてもいい。そう思っていますよ……?」
一対の紫光が熱を持ち輝いて、閉じられた。
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