イオク&MA融合ルート


モニター越しにラスタルが見たのは驚愕の光景だった。
「馬鹿な!?」
そう叫ぶのも無理は無い。
戦場にゼパルと合体したMA…ハラエルと現れたイオクが護衛のデストロイ諸共にそのMAから伸びるテイルブレードの様な触手に絡め取られ、身動きが取れなくなった所にアスラン達が飛び込んだ姿に、先程までラスタルは勝利を確信していたのだ。
しかし、現実にはアスランも三日月もマクギリスも、イオクを捕らえることなく触手の渦から弾き出される姿が映っていた。

「お待たせした」
渦が解けていくと通信越しにイオクの声が響き渡った。
そしてその姿にまた驚愕する他なかった。

中心にあったのはまるで過去の宗教芸術の様に複数の腕を持つデストロイであるが、下半身はハラエルに取り込まれたのか下肢は消失し、複数の巨大な蛇のような構造に置き換わっていた。

「あり得ない…」
技術的助言のためにミレニアムに乗艦していたヤマジン・トーカもまた驚愕する他無かった。
そう、あり得ないのだ。
仮にモビルアーマーの部品だけを制御するとしても、阿頼耶識の施術は必須、しかしその為の技術も設備もギャラルホルンから接収したコンパスの管理下にある。
かつての鉄華団員達が受けた低精度の施術もあるにはあるが…成功率も性能も低すぎる、そもそもあれだけの無茶苦茶な継ぎ接ぎの機体を組み上げることすら出来ないはずだ。
ならば…
「阿頼耶識以外のインターフェースを使った?」
トーカは今まで目にした資料を必死に思い出そうと頭を抱えた。思い当たるものが無いわけではなかった。
「ザフトで開発された非侵襲型神経接続?」
エイハブ・リアクターやモビルアーマーが居なくなって久しい戦場では一般的な技術であった。
だが所詮は無線通信であり、モビルアーマーの動力であるエイハブ・リアクターの干渉波で無意味になる筈だ。
しかし、優秀な技術者である彼女は今まで考えられなかった組み合わせに気が付いた。
「もしエイハブウェーブを遮蔽した上でモビルアーマー内部にコックピットを直接設置出来たなら…」
仮定に次ぐ仮定だが、恐らくはブルーコスモスにはエイハブ・リアクター機を扱えるパイロットが居なかったために入手が用意なインターフェースをゼパルに無理矢理組み込んだのだ。それが十全でなくとも阿頼耶識の代替を果たしたのだろう。
だとしても異常な事が多すぎる。
「何らかの方式でモビルアーマーと接続出来たとして、アレ(イオク)は只の人間だ、ガンダム・フレーム以上に流れ込んで来る情報に耐えられる筈がない!」
通信越しのラスタルの指摘が本来は正しい筈なのだ。
それなのにモビルアーマーの中心、デストロイに抱かれた様に取り込まれたゼパルの中から、イオクは何事も無かったかのように演説を始めていた。

ヤマジンの仮定はかなりの所が当たっていた。
ゼパルに無理矢理据え付けられたゲルズゲー用のコックピットは確かに機体とパイロット、そして直接の操縦はしないにせよ、サブパイロットの位置に収まるイオク達とハラエルを接続していた。
此処にいくつかののイレギュラーが存在した。
一つには系統の異なる技術間の接続だった為にやり取りされる情報の正確なコンパイルに失敗した上に、ゼパルから物理的に内部に接続された為に、MA側がイオク達を敵対する人類だと認識できず、命令を下賜する上位AIの様なものと認識した事である。
そしてもう一つは、イオクがモビルアーマーから流れ込んで来る情報に耐えられてしまった事である。

いや、イオク・クジャンは耐えてすらいなかった。
そもそも彼は此処に至って自身で思考する事を放棄していた。故に流し込まれる情報を膨大な光の流れとしか認識しなかった
その処理を代行していたのは諸共に取り込まれた手の指の数を超える生体CPU、それも意思に反した強化処置を受けた者達ではなく、自らの意思でイオク・クジャンに殉じることを志願した、ある種の狂信者達…
この世で貴族にもコーディネーターにもナチュラルにも見向きもされず、ただ空虚なイオクの善意によって済われたまつろわぬ者達。
彼等の覚悟の献身を、イオクは受けとめていた。
まともな人間なら発狂する複数人の他者の意思を流し込まれて尚、イオクはそよ風を浴びる程度の負担にしか感じていなかった。

今までの世界の何処でも発揮され得る事のなかった才能が、イオクには開花していた。
機械を通して流れ込んで来る他者の意思を、人間もMAも問わずに、一切拒絶せずにイオクは受入れていた。
それが、貴族の役目であるならば
それが、上に立つ者の責務であるならば
それが、自分に求められた事であるならば

溢れ出る善意を元にして、半端なノブリスオブリージュと欲望で形作られた器は、弾け飛ぶ事もなく虚像のように膨れ上がった。

高貴なる者の義務も、蒼き清浄なる思想も、人類抹殺の意思も、彼にとっては矛盾無く受け入れられ、彼の形となる。

故に彼はこの姿に至った。
それは円環の大蛇(ニーズヘグ)にして八岐の大蛇、大災害を駆る虚無の王。

「『私』が導き、『俺』が刈り取ろう」
蒼き清浄なる世界にするため、新人類を刈り取らんと、
空っぽの聖者は神々の黄昏を開始した。
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