題名:人間と魔女の話(女性Ver) 作者:草壁ツノ
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<登場人物>
人間:人間の青年。魔女の身の回りの世話を妬く。苦労人。
魔女:年齢不詳の魔女。変な物を拾って来るのが趣味。甘い物が好き。
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<役表>
人間:男性
魔女:女性
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■注意点
・人間と魔女の性別を逆転したバージョンも用意しています。
内容は大きく変わりませんので、お好きな方の台本をご利用下さい。
性別逆転バージョン:
https://writening.net/page?rXtdYt(男女比:1:1:0)
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■利用規約
・過度なアドリブはご遠慮下さい。
・作中のキャラクターの性別変更はご遠慮下さい。
・設定した人数以下、人数以上で使用はご遠慮下さい。(5人用台本を1人で行うなど)
・不問役は演者の性別を問わず使っていただけます。
・両声の方で、「男性が女性役」「女性が男性役」を演じても構いません。
その際は他の参加者の方に許可を取った上でお願いします。
・営利目的での無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見は Twitter:
https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
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人間:「――魔女様」
魔女:「なにかな」
人間:「ひとつ、気になっていることがあるのですが……」
魔女:「ほう? なんだい、言ってごらん」
人間:「……その、魔女様が持っている"悪趣味な物"は、一体なんなのでしょうか」
魔女:「クスッ。ああ、これかい。
"良い形の頭蓋骨"だろう? ――この間、西の大陸で大きな戦争があってね。
そこでたまたま見つけて、拾って来たんだ」
人間:「……ハァ」
魔女:「ずいぶん大きな溜息だね。働きすぎじゃないのかい?
ほら、このキャンディをあげよう」
人間:「要りません」
魔女:「そうかい? 美味しいのに」
(※魔女、手にした頭蓋骨を観察しながら微笑む)
魔女:「……やや、こんなところに虫歯があるじゃないか。
もしかして君は生前、甘い物が好きだったのかな。私と同じだ」
人間:「……あなたという人は、本当に毎回変な物ばかり拾って来る」
魔女:「変な物じゃないさ。この子は"チャーリー"だ」
人間:「頭蓋骨に名前を付けないで下さい。
……まったく、どんな美的センスをしているんだか……」
魔女:「クスッ。なんだい、そんなに褒められると照れるじゃないか」
人間:「褒めていません。どうやったら今の発言をそう前向きに受け取れるんですか」
魔女:「違うのかい?
てっきり私のこの審美眼を褒めてくれたものだとばかり思ったが」
人間:「……魔女様がそうやって物を持ち帰って来るたび、
物で溢れ返る屋敷の片付けをする私の身にもなって欲しいものです」
魔女:「はは、これは耳が痛いな。
(髑髏に話しかける)……でもねチャーリー、知ってるかい?
これは彼なりの不器用な"愛情表現"というやつなんだよ。
(髑髏の声真似をして)ヘエ、ソウナンダ!」
人間:「ゴホン。……とにかく。
これに懲りたら今後はもう少し、物を拾って来るのを自重なさって下さい」
魔女:「いくら可愛い君の頼みでも、それは難しい提案だ」
人間:「何故です? 拾って来るものなんて、殆どが粗悪品ばかりなのに」
魔女:「稀に掘り出し物があるからさ。そう、ミシェルくん。君のようにね」
人間:「……私、ですか?」
魔女:「そうさ。これまで私が拾って来た物の中で、君が一番の掘り出し物だ」
人間:「……よほど、私の”頭蓋骨の形が良かった”、ということですね」
魔女:「中々に捻くれた性格をしているねぇ、キミは」
人間:「主人に似たのかもしれません」
魔女:「クスッ。――まぁ、冗談はさておきだ。
キミを拾って良かったと思っているのは本当だよ。
おかげで、ここ最近は退屈だと感じた覚えが無い」
人間:「……魔女様。前から聞きたかったことがあるのですが」
魔女:「なにかな? ……ハッ。もしや、私への愛情の伝え方――」
人間:「違います」
魔女:「むう。それじゃあ一体なんだい?」
人間:「――あの日、どうして私を拾い、こうして手元に置いたのですか?」
魔女:「なんだ。そんなことをずっと聞きたかったのかい?」
人間:「はい」
魔女:「うーん……それにしても、どうして拾おうと思った、か。
難しいな。私はあまり、自分が行動する時にあれこれと考えて動くタイプでは無いから」
人間:「……」
魔女:「ただ、敢えて言葉に表すのだとしたら、そう――
"君がどう育つのかを見てみたかった"から、かな?」
人間:「どういう意味でしょうか?」
魔女:「言葉の通りの意味さ。
我々に比べ、人間という種族の寿命はあまりにも短い。それは分かるね?」
人間:「はい。……ですが、それが私を拾ったこととどう関係が?」
魔女:「まぁ待ちたまえ。すぐに話の本質を問うのは君の悪い癖だ。
ゴホン。……しかし、だからこそ。
その短い生涯を全うすれば、思いもよらない才能を開花する者も、中には現れるだろう」
人間:「……」
魔女:「けれど、その大半が才能を開花するまでには至らない。
何故だか分かるかい?」
人間:「……何故でしょうか」
魔女:「"死んでしまうから"さ。
みんな、何者かに成る前に死んでしまうんだ。"髑髏(この子)"のように」
人間:「……だとしても、どうして私だったんです?
貴方の言う、"才能がある子供"の成長が見たかったと言うのなら、なにも私で無くても――」
魔女:「初めから価値のある物を買っても、つまらないとは思わないかい?」
人間:「え?」
魔女:「"これは本当に価値があるのか、それとも無いのか"――
そんな風に、将来どういう価値が付くか分からないものにこそ、私は惹かれる」
人間:「……つまるところ、"面白そうだから拾った"、ということですね」
魔女:「そういうことさ。大分私の言いたいことが分かるようになってきたじゃないか」
人間:「……」
魔女:「どうだい、こんな理由で満足してくれたかい?」
人間:「……呆れて物が言えません」
魔女:「おや、どこか不満だったかな」
人間:「どこもかしこも、不満だらけです。全く……
犬猫を拾うのとは訳が違うんですよ」
魔女:「クスッ。もしかして君にとっては、もっと"らしい"理由が欲しかったということかい?」
人間:「……らしい理由?」
魔女:「ああ。例えば……『この子供は育てば、私好みの良いオトコになる』」
人間:「なっ……!?」
魔女:「『未来の私の花婿にするため、連れて帰ろうと決めた』。
うん。どうだろう? これなんか我ながら良いと思うんだが……」
(※耳が赤くなるミシェル)
人間:「……」
魔女:「……おや? おーいミシェル君? 一体どうした――」
人間:「没収です。このお菓子も、この紅茶も」
魔女:「えっ。ちょっと、ミシェルくん!?」
人間:「こんな甘い物ばっかり食べてるから、奇怪な行動に走るんですっ。
当分の間、これらは私が没収します」
魔女:「そ、そんな! 糖分が無いと私はダメなんだよぉ~、返しておくれよ~!」
人間:「ダ・メ・です! いいですか。
言っておきますが私は犬猫のように、主人に尻尾を振るだけの存在でも、
大人しく家を守るだけの存在でもありませんからね。覚悟しておいて下さい」
魔女:「そんなぁ~、あの頃の可愛かったミシェル君はどこに行ったんだい? 元に戻っておくれよ~!」
(※やり取りをしながら、ふと思いついて質問するミシェル)
人間:「――ちなみに、魔女様」
魔女:「なんだい?」
人間:「……もしも私が骨になったら――、その時は、
私もその頭蓋骨と一緒に、並べていただけるわけですか?」
魔女:「んーー……それはどうだろう」
人間:「と言うと?」
魔女:「あまり、キミの頭蓋骨を並べたいとは思わなくてね」
人間:「それは――魔女様の美的センスに、私の骨だと不充分ということでしょうか」
魔女:「いや、そうでは無く。
少しでも長く、君には私のそばで生きていて欲しいんだよ。その姿のままで」
人間:「…………」
魔女:「ミシェル君?」
人間:「……さすがに全部取り上げたのは可哀そうでしたね。クッキーだけ返してあげます」
<終>