時には贖罪も


 とある町にて、そっと弟子の髪を撫でながら、師は過去を思い出す。
それは、弟子には絶対言えないし、そもそも知っているとも思えないような過去のこと。
そして、思い出せば胸を刺すようなもの。


――かつて存在した、宮廷と官僚機構を持つ国。
その暗部を支配する巨大な組織の長は優れた美貌と頭脳、そして圧倒的な妖怪としての実力を以て"統治"をしていた。
そんな彼女の戯れであり策として、こんなものがあった。

「試練をこなせば貴方をアタシの直弟子として、良い暮らしをさせてあげる」
「ただ、試練は単純。適当に指定する建物に行って、この札を壁に貼ること」
「戻ってきたら直弟子にしてあげる。アタシの弟子になれば、食いっぱぐれもないし金子も銀子もあげる。当然、人を使える立場になるわ」

金子も金子も貨幣のことなれば、至極単純。試練をこなせば立身出世の道をやると言ってるのである。
しかし、その試練には大きな罠がある。
札は"傾城"の細工がしてあり、無機物に貼れば、貼った者の魔力を吸って爆発する――というもの。
当然、魔力を使い果たせば危ういし、仕掛けを知らない子供がもろに浴びれば死を免れず。つまるところ、体の良い自爆特攻の駒を集める策でしかなかった。
これの怖いところは、一見普通の子供でも自爆特攻だとわからずにやらせるところ、仮に策を知っていたとしてもうっかり下っ端が悪戯で貼ってしまえば同じ効果が見込めること、そして普通の子供と札を貼った自爆特攻の子供の見分けがつかないところであった。
だいたいNARUTOの穢土転生である。アレと違って敵の兵士ではなく、名声を求める子供や孤児を使ってるのが質が悪いが。

ともあれ、当然ながらそんなことを繰り返していたのであれば魂からの恨みも買うが、相手は白面金毛九尾の狐。所詮木っ端の餓鬼の怨みなぞ余裕で祓えるのが尚更鬼畜外道であった。
ハナから反撃される心配をしてないのも鬼の所業だ。
何より、仮に生きて帰ってきたとしてもそれは偽の札を貼ったかそもそも貼ってないかで誤魔化してる場合ばかりなので容易に試練失敗として突っ返せるのも酷かった。
ハナから完遂して戻ってくる想定はしてないのである。
例外的に、策か何か弄して貼った上で戻ってきた場合だけはちゃんと拾われて直弟子にされる。
そうして育てられた直弟子は彼女の近衛兵になるのだが。

しかし時が経ち、出会いがあり。恨まれる心配は絶対ない(何故なら恨むような魂は全て祓った後だから)のにも関わらず、罪の意識がやってくる。
なまじ同業の連中を弄ぶのはまだしも、罪も何もない孤児を弄ぶのは罪。そういう意識が芽生えたのである。
――だからこそ、十二次元刑務所で贖罪として留まるのも仕方ない、むしろ当然のこと。そういう考えもあったのだが、当の刑務所は大暴動で壊滅して再建中。そして、己はまだしも愛弟子は戻れば命が危うい。
そうなれば、せめて愛弟子の一生を見届けてから戻ろう。そのために己の刑期が長くなろうと問題はない。そういう考えもなくはなかった。

そういうことを考えながら、師は弟子の髪を手櫛で鋤く。出会ったその頃より何倍も柔らかくて絡まなくなった髪を撫でながら、師はそっとこう考えた。

「自己本意で悪辣な狐は、罪を償うことも出来ずに苦しむのも当然のことだ」と。
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