えーえすえむあーる


『わたしもマスター様を癒してみたいです!』

珍しく大きな声を出したパートナーに少し驚きつつ、ちらりとマスターに視線を送る。どうやら驚いたのは彼も同じなようで、キョトンとした顔で件の張本人の方を見返していた

「……えっと、まずは詳しい話を」
『すみません、つい感情が先走ってしまいました…』
「確かにサファイアらしくなかった」
「まぁまぁ、とりあえず話してみて?」
『はい………常々思っていたのですが、わたしも美遊様のようにマスターさんと…その…』

どうやら原因の一端にはわたしも関わっているらしい。とはいえ、思い当たる節はそんなにないのだが…

「えっと…わたし、そんなに羨ましがられるようなことしてた?」
『…無自覚だったのですね。まぁそれはそれで羨ましいです』
「???」
『嫌味な言い方で申し訳ございませんでした、美遊様。ですがもうこの際なのではっきり言ってしまおうかと思います…よろしいでしょうか』
「うん」
『美遊様が日頃マスターさんにしている数々の言動…どう見ても夫婦のそれです!』
「…………なっ!?…///」

予想外の言葉が飛び出してきた。確かに彼との距離感は随分と縮まったものではあるが、わかりやすくくっつこうとするクロに比べたら自分などまだそこまで腑抜けていないと思っていた…が、サファイアからはそうは見えなかったらしい

『そういうわけなのでわたしもマスター様に膝枕をして耳かきをしてみたいです!……ですが』
「うん?どうかしたの」
『…当たり前の話ではあるのですがわたしにはそういった経験はありません。なので万が一マスター様を傷つけるようなことがあれば…!』
「そういうこと。大丈夫大丈夫、多少なら全然へいk」
「『良くない(です)』」
「……はい」
『かといっていつまでも手をこまねいている訳にもいきません。そこで美遊様の力をお借りしたいのです』
「わたし?」
『はい。まずは美遊様にお手本を見せてもらおうかと』
「……えっと、それは」
「まぁ良いんじゃない?サファイアがこんな風に頼み込んでくるのも珍しいんだしさ」
「いえ、特に異論があるわけでは……わけでは」

ならなぜこんなに歯切れが悪いのだろうと思うはず。答えは簡単、誰かの前でマスターに膝枕をするのが恥ずかしいからだ。一応イリヤやクロの前でしたことはあるが、その時は見られていることに緊張していた記憶しかない

「……それなら少しだけ」
『!…ありがとうございます、美遊様』
「良かった良かった……ん?てことは…」
「マスター、わたしの膝の上に頭を乗せてください」
「…そういえば俺も自動的に協力することになるんだった」

とは言いつつも、素直にこちらへと体を預けるマスター。そのちょっとした重みの中に感じる体温らしき温かさにいつも心臓が高鳴ってしまう

「それじゃあ始めるからサファイアはちゃんと見てててね」
『はい、お願いします』
「まずはこんな風に耳の周りを傷つけないように…」

始めてみると案外緊張しないもので、あっという間に片耳分が終わってしまった

「ではマスター。逆側を向いてください」
「ん……」
「……」

…そういえば前から疑問に思っていたのだが、何故かマスターは逆側を掃除しようとするとすごく大人しくなる。いや、動いてくれない分には怪我をさせてしまう可能性が減るので良いことなのだが……それを加味しても気になるものは気になる

「……聞いても良いでしょうか」
「ナンデショウカ」
「何故、マスターはこちらを向いている時はいつもより静かなのか気になって…」
「………怒らない?」
「内容によります」
「そっかー………まぁあれだよ」
「?」
「なんていうか…美遊のお腹が目の前にあって落ち着かないというか…じっとしてないと下心がすごいことになるというか…」
「………!?」

…綿棒を手放していて良かった。多分持っていたらゲイ・ボルクと同じ要領でマスターに突き刺さっていたかもしれない

「あのー、美遊さん…?」
「……………えっち」
「返す言葉もありません…」
「今更反省してももう遅いです。口にした言葉を取り消すことはできないので」
「し、辛辣…でも反論できない…」

…こんなことは言っているが内心ではそれほど気にしていない。だって、恥ずかしいところなどもう何度も見られてしまったから。とはいえ、たまには厳しくしておかないとマスターが何かしでかしてしまうかもしれない。なのでこれは必要な処置なのだ……そんな風に自分を律しているはずなのに顔がすごく熱く感じるのは多分気のせいのはず

「……これでよし。もう起き上がって良いですよ」
「ん……ありがとう、美遊」
「いえ、わたしはあくまでサファイアに頼まれただけですので」

やんわりと自分の意思でないことを強調しながら、起きるように促す。ちょっとした事件はあったが、悪くない時間であった

『むぅ…やはり美遊様はマスター様と通じ合ってる様子…ですが!わたしも今日からマスター様を癒してみせます!』
「まぁまぁ、そんなに肩の力を入れなくても大丈夫だよ。俺はサファイアと一緒にいるだけでも十分落ち着くから」
『…そういうところですよ、マスター様……ですが、その言葉はありがたく受け取っておきます。けれどそれはそれ、これはこれです。ひとまず今習ったばかりの耳掃除から…』
「……えーっと、それは今してもらったばかりだから良いかな」
「………あ」
『そ、そんなーーーっ!?何故片耳分残してくれなかったのですか美遊様!』
「いつもの癖でつい…」

涙目でこちらに訴えかけてくるサファイアにどう機嫌を治してもらうか考えつつ、彼の方に助けを求める。そこには困り顔をしつつもなんとなく嬉しそうなマスターの姿があった

「………ふふっ♪」
『って、また2人でアイコンタクトしてるじゃないですか!わたしを仲間外れにしないでください〜っ!!』
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