第7節 もう一度動きだす物語
作成日時: 2024-03-23 23:42:44
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テイエムオペラオー「ハーハッハッハ!グランドサーヴァント、テイエムオペラオーここに見参!」
リュージ「ようやく失意の庭から出られた——ってユーイチたち!?ここまで来てくれたんか、ありがとな」
修正班たちの前にもう一度姿を見せたテイエムオペラオー。その背には紛れもなく彼らの世界線の和田リュージが跨っており、この事件が始まる前と何も変わらない彼の姿を見た修正班たちは一斉に安堵の声を漏らす。その中でもユーイチとダイチはそのような感情が際立って強かったらしい。
ユーイチ「全く、お前はあっさりと敵に捕まりすぎやろ……結構心配したんやからな?」
ダイチ「そうだぞ!気が気がじゃなかったんだぞ俺は!ツッコミ担当が消えるなんて耐えられないぞ!」
リュージ「すまんユーイチにダイチ。思ったよりもアイツが強くて……ユタカさんが守ってくれはったんやけどな、どうにもできひんかった」
ユタカに守ってもらいながらもあっさりとオルタの手に落ちてしまった自分の弱さを悔いながら、リュージは目の前の2人にそう答えた。
ユタカ「どうや?精神に何か異常をきたしてはあらへんのか?」
リュージ「……そうっすね。正直オペラオーが来なかったら危なかったと思います。失意に飲み込まれて、この中に一生閉じ籠ろうと考えてましたから」
リュージは俯きながらユタカの質問にそう答える。その表情には彼が庭の中で痛い程味わった自分自身への絶望が微かに窺えたのであった。
リュージ「それでも、オペラオーが俺のことを引っ張ってくれたんです。コイツはこんな俺のことを必要だ、最高の相棒だって……だから俺は立ち直れたんです」
ユタカ「そうか……良かったなリュージ。いい相棒と巡り会えて」
ユタカとリュージの会話によって程よく場が湿っぽくなってきた頃、そんな空気に飲み込まれずある1人の男がオペラオーに向かって質問を投げかける。
タケシ「ねぇオペラオー!今、グランドサーヴァントって言ってたよね?グランドサーヴァントってどうやったらなれるの?」
カズオ「ちょっと、タケシ……!」
テイエムオペラオー「ん?なるほど、ボクのことをもっと知りたいとキミは思っているのかい?ならば語ろう!ボクの素晴らしい伝説を!」
リュージ「ちょ、オペラオー!一旦落ち着くんや!」
語らなければならない。自分たちの伝説を、リュージがこれまで辿ってきた道のりを……そうオペラオーが決心した瞬間、リュージは思いっきり手綱を引いてそれを制止した。それに抵抗してオペラオーが体を揺らすなど、何故か激しい攻防戦へと発展したが、最終的にはリュージが根性でなんとか彼を抑え切ることに成功した。
テイエムオペラオー「なぜだいリュージ!折角だし語っても……」
リュージ「お前が話すと絶対長くなるやろ。ここは俺に任せてくれや」
オペラオーはまだ納得していないように顔をリュージから背けるが、どうやらすぐいつもの状態に戻ったらしい。そんな様子を笑顔で見つめながらタケシは質問の答えを待っている。
リュージ「これはオペラオーに跨ったときに頭ん中に流れてきた知識なんやけどな……お前ら、顕彰馬投票は知っとるよな?」
タケシ「顕彰馬投票?確か年に1回行われる記者投票だよね?でもそれがグランドサーヴァントと何か関係があるの?」
リュージ「あれな、ただの投票やないねん。あの投票の実態はな、冠位競走馬の選定なんや。」
タケシ「えっ!?そうなんですか!?」
リュージの口から発せられた殿堂馬投票の秘密をその場にいたユタカ以外の人間が驚愕の表情をしながら聞いていた。今リュージが話したのは騎手界の人間でもほんの一握りの人間しか知らない機密情報なのだ。そのことを元々知っているのは騎手クラブ会長を長年も勤めているユタカだけであった。一同の驚きを身に浴びながらリュージは話を続けていく。
リュージ「競馬ファンの一般人や大多数の競馬関係者には殿堂馬投票は競馬記者たちの行う投票っていう言い分で報告してるんやけどな。あれの実態は魔術協会が選ぶ『冠位に相応しい競走馬は?』っていう投票なんや。それの結果が抑止力に承認されてはじめて、オペラオーたち競走馬は冠位を得ることができるんや」
タケシ「殿堂馬が冠位を得る、か……ってことはディープインパクトも冠位を得る資格があるはず……なのになんで今回は冠位サーヴァントとして顕現してないんですか?」
ユタカ「あー。それは俺から話してええか?リュージ」
リュージ「別に構いませんけど……」
ユタカ「ん、ありがとな」
ユタカはリュージが握っていた発言権を彼から貰うと、目の前で首を傾げながら斜め上に視線を向けているタケシに対して説明を始める。
ユタカ「冠位サーヴァントってのはな、この世界を滅ぼしかねない危険因子——超克対象のカウンターとして召喚されるんや。今回のケースやとリュージオルタの存在がそれに該当するんやが」
タケシ「超克対象のカウンター……あっ!わかりましたよ!今回の特異点だと和田さんのオルタを倒すにはディープよりもオペラオーの方が適してるって抑止力が判断したってことですか!?」
ユタカ「正解や!後でええもんあげるで?」
もしかしたら新しいポケモンカードが貰えるのだろうか。そんな想像に胸を膨らませながらタケシはユタカの話をさらに聞いていく。
ユタカ「まぁ総括に入るとやな……冠位を持った競走馬は魔術協会によって決められる。そしてその中からある超克対象に対応したカウンターとして召喚されるのがグランドサーヴァント……ってことなんや。どうやタケシ、わかったか?」
タケシ「はい!ありがとうございました!」
また一つ魔術への造詣が深まったことへの嬉しさを噛み締めるタケシ。そんな息子の様子をノリヒロは穏やかな笑顔で見つめていた。普段はカズオやタケシに厳しく接するノリヒロであったが、息子が成長していく姿を見るのは何度見ても嬉しいことなのだ。
テイエムオペラオー「話は済んだみたいだね。では早速彼が待つ城に向かおうではないか!」
ユーイチ「ようそんな簡単に言ってくれるな……ユタカさんの魔術も使えへんのにどうやって入るっていうんや?」
テイエムオペラオー「?真正面から突入に決まってるだろう?」
ユーイチ「……ごめん、聞こえへんかった。今何て?」
テイエムオペラオー「真正面から突入するしかないだろうってボクは言ったよ」
ユーイチ「はぁ!?」
身も蓋もない世紀末覇王の言葉を聞いてユーイチはたじろいながら反応する。オペラオーの言葉や口調にはユーイチたちがオルタに感じている恐れや畏怖など一切隠れていなかった。それほど自分たちの力に自信を持っているのだろうかと考えながらも、やはり彼の言葉をユーイチは受け入れられずにいた。
ユーイチ「ユタカさん!なんとか言ってくださいよ!ほら、何かこう……」
ユタカ「……いや。もうオペラオーが言うてる通り、俺たちにはもう強行突破しか手段がないと思うんや。さっき使った結界術はアイツに封印されてもうたしな」
ユーイチ「やっぱりそれしか方法はないのか……」
ユーイチにとって頼みの綱であるユタカももう他に手段はないと言い切ってしまった。結界術による不法侵入ができない今、彼らは1からリュージオルタが作った城の攻略を強いられることになったのである。
ユタカ「覚悟を決めるんや、ユーイチ。もうここまで来たんや、ならもう最後まで踏ん張ろうや?」
ユーガ「そうですよユーイチさん!このまま和田さんのオルタに負けたままで納得できるんですか?」
ユーイチ「ユタカさん……ユーガ……」
ユーガ「俺は嫌ですよ。俺たちにとって大切な競走馬をあんな風に言ってしまえる人間に、俺は負けたくないんです」
闘志と決意に満ちた目つきでユーガはユーイチの目をじっと見つめている。彼の覚悟を見定めるかのように、その両眼はユーイチをしっかりと捉えていた。そんな彼に感化されたらしく、ユーイチは一度自分の頬を強く叩き、そして叫んだ。
ユーイチ「確かにそうやな……よし。じゃあ行こうや、あの馬鹿の所に!」
テイエムオペラオー「どうやら決意は固まったみたいだね……では早速出発しようではないか!」
そうして彼らはもう一度、特異点の中央に鎮座している漆黒の城へと歩を進めるのであった。
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ケンイチ『特異点の中心まで残り10km……敵の数も少なくなってきましたし、ここで一旦休憩しませんか?』
ユタカ「確かにケンイチの言う通りやな。よし、一旦ここで休憩するで」
あいも変わらず襲いかかって来るエネミーを撃破しながら探索を続ける中、ケンイチからの提案により彼らは一度休憩することを決めた。ユタカはどこからともなく着火剤や木材を取り出すと、そのまま宝石魔術を使って焚き火を作った。その周辺を取り囲むように修正班たちのメンバーは次々と座っていく。そうして数分程彼らがのんびりとしている中、ユーイチが突如として口を開いた。
ユーイチ「そういや、オルタの世界線のユタカさんって何してたんすかね?」
ユタカ「?どういうことや、ユーイチ?」
ユーイチ「いやだって、並行世界からやってきて暴れてるのがあのオルタやないですか。だったらその世界にもユタカさんはいるはずで、それならこんな暴挙とか防げてると思うんすよね」
リュージオルタが元々存在している並行世界での武ユタカは何をしていたのだろうか。突然湧いてきた疑問に頭を捻りながらユーイチはそうユタカに話をする。
ノリヒロ「あっ、それは俺も気になってたな。ユタカもあっちの世界におそらく居るわけだし。本来なら多分こんな事態になる前に止めてたと思うんだけどなぁ」
リュウセイ「確かに……ちょっと不自然ですよね」
そんなユーイチの疑問に呼応するように自らも謎を考えていく修正版たち。そんな場の空気を感じ取ったユタカはある一つの決断をした。
ユタカ「ん、なら聞いてみるか。並行世界の自分に」
ユーガ「えっ!?そんなことできるんですか?」
ユタカ「できるで。ちょっと疲れるけどな……」
少し黙っててなと言いながらユタカは静かに目を閉じ、自分の魔術を行使することに意識を完全に集中させていた。そんな様子を誰もが固唾を飲んで見守る中、ふとユタカが目を開き、そしてそのまま何もない虚空に向かって話しかける。
ユタカ「あーもしもし。俺、聞こえてるか?」
ユタカ?『あぁ、聞こえてるで。そっちの世界線の俺』
リュージ「あ、本当にできるんやな……」
どこからともなく聞こえてきたユタカのような声を聞いて、リュージは1人そう呟いた。
ユタカ「単刀直入に聞くんやけどさ、なんでそっちの俺はあのリュージを止められなかったんや?聖杯を使って並行世界にゲート作るって、相当なことやってるでアイツ」
ユタカ?『止められへんかったわけか……』
並行世界のユタカは一旦静かになると、もう一度話を切り出した。
ユタカ『実を言うとな、俺たちは聖杯がそんな身近に発生するなんて知らなかったんや。今こうしてリュージが暴れて特異点なんか作る前はな』
ユタカ「え?」
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