真心のCucinando
作成日時: 2024-03-13 00:05:11
公開終了: -
「はい?料理対決?」
「おう!ジェンティルはいずれやべー焼きそば職人になる!このゴルシちゃんの目に狂いはねぇ!」
突然のゴールドシップからの宣戦布告に目を丸くするジェンティルドンナ。もはやゴールドシップの破天荒ぶりには慣れているが、それでも如何なる対応をすべきかはまだ掴み切れていない。
「低俗な……貴女にはレースで勝ってこそ価値があるというのに」
「んだと!?あ、もしかして料理の方は “弱い” のか?」
「……なんですって?」
ゴールドシップの挑発にムッとするジェンティルドンナ。食いついたのを感じたのか、ゴールドシップはニッと笑い、更に言葉を繋げた。
「まあ弱けりゃ別にいいぜ?誰だって、アフリカゾウだって、ネッシーだって弱点の一つや二つあるからな?」
「この私が貴女に劣るとでも?いいでしょう。剛毅なる貴婦人の手腕、とくと味わいなさい」
「よーし言ったな?んじゃ、明日これに入れて来い!お互いに食い合って先に美味いって言った方が負けだ!」
そう言うとゴールドシップはジェンティルドンナにタッパーを投げ渡した。強気な言葉に、ジェンティルドンナも不敵な笑みを浮かべた。
「ええ、後悔しても知りませんわよ?」
・・・
「とは言ったものの……これで良いのかしら……」
ジェンティルドンナは担当トレーナーの部屋のキッチンで不安と苦悩に頭を抱えていた。寮のキッチンで調理するのは気が引けるのでトレーナーから部屋を借り、そしてレシピも書いてくれたはいいものの、料理の経験は皆無だった。
「手伝いは無用とは言ったけれど、流石に無茶かしら……いや、一度決めたんですもの。貫かねばなりませんわ。しかし焼きそば……スパゲッティの一種かしら?」
ましてや焼きそばなど食べた事も無ければ聞いた事もない。どういった種類が好評なのかも全く知らない。
「まずは具材を切らねばなりませんわね。ん……あら、意外と固い……?」
包丁を手に取り、キャベツから切り始めるも、なかなか刃が入らない。それを不思議に思いながらも、早く料理せねばと力を込める。
「ふんっ!……!?」
青ざめたジェンティルドンナの目の前には、真っ二つになったキャベツと……まな板があった。
「あの人になんて言おうかしら……でも今は、スパゲッティを作らねば」
豚肉が入ったパックを両手に取り、今度は手際良く開封した。
「ひゃっ!?」
……と思いきや、勢い良くパックが音を立てて破れた。豚肉が床に四散し、思わず情けない声を上げる。
「……はぁ」
ジェンティルドンナは失望など色々混ざった感情を抱きながら、スマホを手に取った。
・・・
「よお、628年ぶりだな?」
「昨日の事でしょう……」
翌日の昼間、得意げな顔でタッパーを持つゴールドシップに、ジェンティルドンナは呆れ混じりに返した。
「ほら!約束の品だぜ?」
「ええ。ではこちらも、どうぞご賞味なさって」
お互いに交換し、タッパーを開く。
「じゃ、いただくぜ〜」
「いただきますわ」
同じく渡された割り箸を使い、2人はそれぞれの焼きそばを食べ合った。
「塩焼きそばか。なかなかこだわりあるじゃねぇか。で?どうだ?ゴルシちゃん特製焼きそばは?」
「うっ……!」
初めて口にした焼きそばは、舌鼓を打つほどの味だった。しかし勝負の内容を思い出し、溢れてしまいそうな言葉を堪えた。
「あ、マヨネーズ忘れてた。ほら、かけると美味いんだぜ?」
そう言うとゴールドシップは持っていたマヨネーズをサッとかけた。
「え?ちょ、ちょっと!?」
「おっと?ジェンティルまさかの食わず嫌いか?ゴルシちゃん泣いちゃうわよ?」
「そういう話ではなく……!全く……」
ゴールドシップの強引さについて行けず困惑するも、ジェンティルドンナは再び焼きそばを食べた。
「……!?」
美味。ただそれだけが脳裏に浮かんだ。一度舌に染みついて忘れられない味。まるで今まで世界の半分を知らなかったような、そんな感覚だった。
「美味しい……」
「おっ?」
「はっ!?いえ、これは!ううっ…」
思わず呟いてしまった事、貴婦人ともあろう自分が段々余裕がなくなっていく事に、ジェンティルドンナは心が締めつけられる感じだった。
「オメーのも気に入ったぜ?スゲェ美味い」
「……え?」
予想外の言葉を聞き、ジェンティルドンナは目を丸くしてしまう。
「まさかオメーがこんな美味ぇモン作れるなんて意外だったぜ!引き分けでいいくらいにな!」
「それは何より……ところで、なぜこのような勝負を?」
ジェンティルドンナはどこか気が抜けてしまい、先日から気になっていた事を聞いた。
「あ?理由?ねぇよ」
「無いの!?」
「でも美味かったのはマジだぜ?こりゃ一緒に店でも開きてぇくらいだな!焼きそばを語り合える仲間としてな!」
「やりませんわよ?……あっ」
ふとゴールドシップの言葉にハッとする。語り合える……それも自分の好きな事を。これまで自身の家族や担当トレーナー以外とは全く話す事は無かった。
(談笑の相手くらい、1人2人増えても良いかしらね)
ジェンティルドンナはゴールドシップの強さを分かっていた。それだけに対抗心も、嫉妬も抱く事はあった。それでもどこか憎めないのは、彼女に惹かれるところがあるのだと気づき、微笑を浮かべた。
「それはそうと、引き分け?私は誰よりも抜きん出てこそ価値があるのよ。有耶無耶に終わらせはしませんわ」
「おっ?乗り気じゃねぇか!こりゃ再戦しかねぇな!今度は審査員も呼んで来るぜ!ナカヤマ、マックちゃん、あとはニシローランドゴリラ!」
「ええ、お好きになさい」
(……今度は、トレーナーさんの手を借りずに作らないとね)
ジェンティルドンナは、最後まで気づかれなかった指の絆創膏に安堵しながら、次回の勝負に思いを馳せていた。
……その後、『ジェンティルドンナもやってる』と聞いたヴィルシーナ、『苫小牧発展のアイデア作り』と聞いたホッコータルマエが焼きそば勝負に参加するのは、また別の話。
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