真心のCucinando


「はい?料理対決?」

「おう!ジェンティルはいずれやべー焼きそば職人になる!このゴルシちゃんの目に狂いはねぇ!」

突然のゴールドシップからの宣戦布告に目を丸くするジェンティルドンナ。もはやゴールドシップの破天荒ぶりには慣れているが、それでも如何なる対応をすべきかはまだ掴み切れていない。

「低俗な……貴女にはレースで勝ってこそ価値があるというのに」

「んだと!?あ、もしかして料理の方は “弱い” のか?」

「……なんですって?」

ゴールドシップの挑発にムッとするジェンティルドンナ。食いついたのを感じたのか、ゴールドシップはニッと笑い、更に言葉を繋げた。

「まあ弱けりゃ別にいいぜ?誰だって、アフリカゾウだって、ネッシーだって弱点の一つや二つあるからな?」

「この私が貴女に劣るとでも?いいでしょう。剛毅なる貴婦人の手腕、とくと味わいなさい」

「よーし言ったな?んじゃ、明日これに入れて来い!お互いに食い合って先に美味いって言った方が負けだ!」

そう言うとゴールドシップはジェンティルドンナにタッパーを投げ渡した。強気な言葉に、ジェンティルドンナも不敵な笑みを浮かべた。

「ええ、後悔しても知りませんわよ?」

・・・

「とは言ったものの……これで良いのかしら……」

ジェンティルドンナは担当トレーナーの部屋のキッチンで不安と苦悩に頭を抱えていた。寮のキッチンで調理するのは気が引けるのでトレーナーから部屋を借り、そしてレシピも書いてくれたはいいものの、料理の経験は皆無だった。

「手伝いは無用とは言ったけれど、流石に無茶かしら……いや、一度決めたんですもの。貫かねばなりませんわ。しかし焼きそば……スパゲッティの一種かしら?」

ましてや焼きそばなど食べた事も無ければ聞いた事もない。どういった種類が好評なのかも全く知らない。

「まずは具材を切らねばなりませんわね。ん……あら、意外と固い……?」

包丁を手に取り、キャベツから切り始めるも、なかなか刃が入らない。それを不思議に思いながらも、早く料理せねばと力を込める。

「ふんっ!……!?」

青ざめたジェンティルドンナの目の前には、真っ二つになったキャベツと……まな板があった。

「あの人になんて言おうかしら……でも今は、スパゲッティを作らねば」

豚肉が入ったパックを両手に取り、今度は手際良く開封した。

「ひゃっ!?」

……と思いきや、勢い良くパックが音を立てて破れた。豚肉が床に四散し、思わず情けない声を上げる。

「……はぁ」

ジェンティルドンナは失望など色々混ざった感情を抱きながら、スマホを手に取った。

・・・

「よお、628年ぶりだな?」

「昨日の事でしょう……」

翌日の昼間、得意げな顔でタッパーを持つゴールドシップに、ジェンティルドンナは呆れ混じりに返した。

「ほら!約束の品だぜ?」

「ええ。ではこちらも、どうぞご賞味なさって」

お互いに交換し、タッパーを開く。

「じゃ、いただくぜ〜」

「いただきますわ」

同じく渡された割り箸を使い、2人はそれぞれの焼きそばを食べ合った。

「塩焼きそばか。なかなかこだわりあるじゃねぇか。で?どうだ?ゴルシちゃん特製焼きそばは?」

「うっ……!」

初めて口にした焼きそばは、舌鼓を打つほどの味だった。しかし勝負の内容を思い出し、溢れてしまいそうな言葉を堪えた。

「あ、マヨネーズ忘れてた。ほら、かけると美味いんだぜ?」

そう言うとゴールドシップは持っていたマヨネーズをサッとかけた。

「え?ちょ、ちょっと!?」

「おっと?ジェンティルまさかの食わず嫌いか?ゴルシちゃん泣いちゃうわよ?」

「そういう話ではなく……!全く……」

ゴールドシップの強引さについて行けず困惑するも、ジェンティルドンナは再び焼きそばを食べた。

「……!?」

美味。ただそれだけが脳裏に浮かんだ。一度舌に染みついて忘れられない味。まるで今まで世界の半分を知らなかったような、そんな感覚だった。

「美味しい……」

「おっ?」

「はっ!?いえ、これは!ううっ…」

思わず呟いてしまった事、貴婦人ともあろう自分が段々余裕がなくなっていく事に、ジェンティルドンナは心が締めつけられる感じだった。

「オメーのも気に入ったぜ?スゲェ美味い」

「……え?」

予想外の言葉を聞き、ジェンティルドンナは目を丸くしてしまう。

「まさかオメーがこんな美味ぇモン作れるなんて意外だったぜ!引き分けでいいくらいにな!」

「それは何より……ところで、なぜこのような勝負を?」

ジェンティルドンナはどこか気が抜けてしまい、先日から気になっていた事を聞いた。

「あ?理由?ねぇよ」

「無いの!?」

「でも美味かったのはマジだぜ?こりゃ一緒に店でも開きてぇくらいだな!焼きそばを語り合える仲間としてな!」

「やりませんわよ?……あっ」

ふとゴールドシップの言葉にハッとする。語り合える……それも自分の好きな事を。これまで自身の家族や担当トレーナー以外とは全く話す事は無かった。

(談笑の相手くらい、1人2人増えても良いかしらね)

ジェンティルドンナはゴールドシップの強さを分かっていた。それだけに対抗心も、嫉妬も抱く事はあった。それでもどこか憎めないのは、彼女に惹かれるところがあるのだと気づき、微笑を浮かべた。

「それはそうと、引き分け?私は誰よりも抜きん出てこそ価値があるのよ。有耶無耶に終わらせはしませんわ」

「おっ?乗り気じゃねぇか!こりゃ再戦しかねぇな!今度は審査員も呼んで来るぜ!ナカヤマ、マックちゃん、あとはニシローランドゴリラ!」

「ええ、お好きになさい」

(……今度は、トレーナーさんの手を借りずに作らないとね)

ジェンティルドンナは、最後まで気づかれなかった指の絆創膏に安堵しながら、次回の勝負に思いを馳せていた。

……その後、『ジェンティルドンナもやってる』と聞いたヴィルシーナ、『苫小牧発展のアイデア作り』と聞いたホッコータルマエが焼きそば勝負に参加するのは、また別の話。
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