――今夜も聴いてくれてありがとう。
<比率>
0:0:1
<時間>
5~10分
<登場人物>
ある人
【ある人(あるひと)】性別不問
忘れられそうな星で一軒だけのコーヒー店の店主。ラジオ放送をしている。
※一人称の変更はご自由にどうぞ。
<利用規約>
https://writening.net/page?bmsmZi
------------以下台本—----------
ある人:
こんばんは。
星間(せいかん)ラジオのお時間です。
今晩の星間ラジオはこの曲、「スリープレス・シープ」と共にお送りしたいと思います。
この曲は、先ほど家にやってきた流星郵便局の配達員さんが教えてくれました。「眠れない羊」なんて、なんだか私たちにぴったりだと思いませんか?
ちなみにその配達員さんは、最近とても眠くて仕方ないそうです。宙を飛んでいる最中に居眠りをして、バイクから落ちてしまわないといいのですが。
さて、今夜は皆さんにご報告があります。
突然ですが、星間ラジオは本日で最終回です。
星々に「眠りの花」が咲くようになって、もう何年も経ちました。
いつ、どこで、どうやって生まれたのかも分からないガラス細工のような「眠りの花」。その花粉で人々を深い眠りに誘い、やがて「眠りの花」そのものに変えてしまう、名前の通りの、「眠りの花」。
私の星でも、もうほとんどの人が「眠りの花」になりました。私のお気に入りの水上図書館の司書さんも、行きつけの鉱石煙草のお店のマスターも、もういません。この星が「忘れられた星」になるのも、間もなくだそうです。流星郵便局の人から受け取った手紙は、その報せでした。
この不可思議な現象を止める術は、まだ発見されていません。でも私はなんだか、それはそれでいい気がしています。こんなことを言ったら、惑星管理局の人に怒られちゃいますかね。
なので、どうしてそんなことを言うのか、ここで少し、言い訳をしたいと思います。
誰もが眠りについた星ではどうしても時間を持て余すので、私は今日まで星中を巡って、この星のみんなの花をスケッチしてきました。同じ「眠りの花」なのに、みんな少しずつ色や形が違うんですよ。まるでその人の姿や記憶を留めているようで。
面白いでしょう?でも、どの花も本当に美しいんです。きっとみんな、すごく素敵な夢を見ながら眠りについたんだと思います。
だから、このままでもいいかなって。
それでも、やっぱり私はこの星が好きだから、忘れられるまでは、 私が眠りにつくまでは、とこの星の情報をこの星間ラジオでお伝えしてきました。
だから最終回の今夜も、いつも通りの話をしてお別れしたいと思います。
明日深夜、名物「星海(せいかい)鉄道」の最終便がこの星を出発します。全てのお客様が下車した後、車体は「暁の海」へ向かい、そこでゆっくりと粒子分解され、宙に還るのだそうです。
予報では、明日は雲ひとつ、風ひとつない静かな夜だとか。なので、汽笛の音が聞こえたら是非夜空を見上げて、あの古めかしい車体を見送ってもらえたらと思います。
そろそろお別れのお時間ですね。
いつか――いつかこの星を訪れることがあったら、まずは水上図書館へ行ってみてください。夜がおすすめです。なんといっても夜です。ぴかぴかと明滅する光虫(こうちゅう)が泳ぐ暗い水の上に点在する書架も、その間を滑るゴンドラも、すべてが幻想的です。それに、気に入った本を手にゴンドラに揺られていると、眠るのがとても惜しくなりますよ。
夜明けが近づいたら、鉱石煙草のお店でお好きな味の煙草を買って、私の店にいらしてください。星砂(ほしずな)コーヒーをたくさんご用意してお待ちしています。ちなみに私のいちばんのお気に入りは、ラニットベリーの鉱石煙草です。あれと同じ味には、まだ出会ったことがありません。配合は、マスターだけの秘密なんだとか。星砂コーヒーとの相性も抜群ですよ。もちろん他の味も最高ですが。
なんだか一服したくなってきました。
今度こそ本当におしまいにします。
今夜も聴いてくれてありがとう。
「静かな海の星」ユーラに一軒だけのコーヒー店より、皆さんの明日の、素敵な目覚めを祈って。
おやすみなさい。
【幕】