誘拐特異点 1


「きゃあ」
「ユイ。その女人とマスターを守っていてくれ」
「相、分かった」
執拗なまでに協力者を狙う男から庇うために正雪を下がらせる。
戦闘の末に伊織とヤマトタケルが一刀のもとに切り伏せると男は女と正雪の方を振り向いた。
「まずったなぁ。このままじゃすくえねぇか」
仕方ねぇかと呟くと男は伊織に向かうと何かを投げつける。
伊織よりも先にそれに気づいたヤマトタケルが剣で叩き落とそうとするが、それは剣にぶつかると吸い込まれように消えていった。
「済まない、セイバー。大事ないか?」
「あぁ、何ともない。それよりもだ、イオリ。最後まで油断をするな」
「そっちの兄さんを選んだか。そりゃ、意外だ」
「貴様、何を」
「さぁな」
先程の一撃が致命傷になっていたのか今にも退去しそうな男はそれでもニヤリと笑った。
「足搔いて見せろよ」


「この特異点に聖杯はないみたいだし、そろそろ戻って来るかい?」
「うん、そうだね。ダヴィンチちゃん、お願い」
カルデアの面々の退去が始まると女は男が死んだことを実感したのか崩れ落ちた。
「本当にありがとう。これでやっと」
嬉しさのあまり顔を覆い泣き出す女を見て、正雪は女を慰めるように優しく背中を撫でた。
「邪魔なあの男が死んだのね」
そう言いながら女は顔をあげると先程までとは異なる嗄れた声で醜い笑顔を浮かべ、正雪の手を掴んだ。
「本当に可愛らしいお嬢さん。貴方は私の息子のお嫁さんに丁度いいわ」
「何を…」
「正雪!」
伊織が女の異質さに気づき、正雪に手を伸ばすが退去は始まっており、その手が届くよりも先に視界が暗転した。


「お疲れさま。特異点は解決したし、今日はゆっくりと」
「ダヴィンチ殿!」
「えっ?急にどうしたんだい?」
「先程の特異点に送ってくれ。正雪がまだ戻っていない!」
「何だって!けど、全員戻って…」
周りを見回し正雪がいないことに気づき、顔を青くし機械を凝視した。
「まさか、これは」
「ダヴィンチちゃん。何があったの?」
「由井正雪の霊基グラフが消えている。今の彼女はカルデアのサーヴァントではなくなっているみたいだ」
「なんだってー!?」


「あの特異点を何回観測してみても前回とズレているみたいなんだ。送ることは出来てもそこに由井正雪はいないかもしれない」
「それでも迎えに」
「決まっている。正雪を渡すわけにはいかない」
「疾く行くぞ。マスター」
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