【星屑レイサSS前編】星屑レイサ


「トリニティの真なる守護騎士宇沢レイサが来たからにはどんな悪も逃げられませんよ!」
銃声と爆音に混じり溌剌とした甲高い少女の声がスラム街に響く。トリニティ自警団、宇沢レイサ。
自ら定めたパトロール区域で星を散らすように不良生徒を薙ぎ倒していくのもいつもの光景だ。しばらく前、ここら一帯のスケバンたちを巻き込んだとある騒動を経てからは、頻度こそ減ったもののパトロールで振るわれる腕の精度は増していた。それこそ、本人の言うようにどんな悪も逃さないほどに。
けれど、そんな彼女は自身に向けられる悪意にあまりに無防備だった。

「ふぅ、今日はこんなもの──」
あらかたの不良生徒をのし、ひたいの汗を拭うレイサ。
その視界を埋めたのは、スラムの端で乗り捨てられていた筈の大型車のバンパーだった。
「にゃがぁっ──!?」
人が轢かれる特有の音。
何かを考える暇もない。全身に衝撃が広がり視界が高速で回転する。
二度三度アスファルトの上を小さな体がバウンドし、微かな痙攣を残して動かなくなる。同時に手ずからカスタマイズされたショットガン、シューティング☆スターも軽い金属音を立て彼方に転がっていった。
「なに……が…….」
「改造エンジンヤベー、掘り出し物だったね」
「……無駄口叩くな。これで間違い無いな?」
「もちろん。昔キャスパリーグとじゃれてるの見た記憶あるある。全然変わってないねぇ」
「……チッ、さっさと回収するぞ」
二人だろうか。レイサをはねた車から誰かが降りてくる。声からして女性、どこかの生徒か。
キャスパリーグ。
訳も分からず、視界が歪み痛みに震える中でも、レイサの耳はその単語を聞き漏らさなかった。脳裏によぎるのは最近再会した黒髪の少女。何度も挑み、一度も勝てなかった強敵。恐るべき獣。それから──。
今の彼女はごく普通の生徒として日々を過ごしている。彼女が危険な争いに巻き込まれるようなことはあってはならない。
「やって、くれましたね」
自分のすべき事を思い出す。レイサは痛む体に力を入れて立ちあがろうとした。そこかしこが痛むが、大きな怪我は無さそうだ。大丈夫。自分は自警団でスーパースター、これくらいのピンチなんてことない。
そう言い聞かせて顔を上げた彼女が見たのは自分に向けられた大きな銃口だった。その向こうに、先程まで相手にしていた不良たちとは比べ物にならない暗く澱んだ眼があった。
恐怖。それでも勇気。
だが、銃弾はわずか数秒の彼女の決意も待たない。一際大きな銃声と共にレイサの意識は闇に落ちた。

「う、ぁ……コホッ、コホッ!」
目を覚ますと埃っぽい空気が喉をくすぐる。思わず咳き込むと胸のあたりが痛んだ。その痛みで、全てを思い出す。
「ここは……?」
薄暗い廃墟。スラムの建物だろうか。咄嗟に立ちあがろうとして、体が動かせない事に気づく。ジャラと鎖の擦れる音。手足が拘束されていた。
薄暗い廃墟、動かせない手足、痛む体。自身の置かれた状況に顔から血が引く。切った張ったはいつもの事。手痛い反撃にあうことだってある。気づけば公園のベンチなどで朝を迎えることもあった。それでも、ここまでの状況に見舞われるのは初めてだった。
「目が覚めたかた」
部屋の隅、パイプ椅子に座っていた少女が声をかける。あまり印象に残る容姿ではない。ただ、その暗い双眸は意識を失う直前、銃口の向こうに見たものだった。
「あなたは先程の!くっ、不意打ちとは卑怯な!このような事をしてただですむと思っているのですか!」
いつものようにレイサは威勢よく声を張る。身振りを交えようとする度、鎖がジャラジャラと鳴り耳障りだが、気にしない。
「……不意打ちはお前もやってただろう」
「失敬な!私はいつだって名乗りを上げてから突貫しています!」
「……」
「ぬぅ……」
旗色が悪い。それでも、レイサは怯まない。戦いには勢いが大切なのだ。
「あなたのような不良生徒が何をしようと私は負けません。これ以上、罪を重ねる前に大人しく降参するのが身のためですよ!」
何より自分を奮い立たせる為に必要だった。
けれど──。
「不良生徒……"生徒"、ね」
「ひっ……!」
ニヤリと三日月のような笑みを向けられて本能的に喉の奥が鳴る。
怖い。見たことのない表情。触れたことのない感情。突然、肺の中の空気が重くなったような気がした。
「何……ごっ、うぷ!?」
表情を変えずに近づいて来た少女が、そのまま歩く様に爪先をレイサにねじ込んだ。肋骨の間、柔らかな箇所を抉られて思わずえずく。
口元に手を当てたいのにそれすら出来ず、溢れた唾液と胃液が冷たい床を濡らした。
「……悪いけど、あたしら生徒じゃないんだ。あのクソ野郎のせいで」
「クソ野郎……?」
「そ、お前もよく知ってるクソ猫野郎。キャスパリーグのせい」
その名前に目を見張る。
「アイツに負けてからケチのつけっぱなしだ。周りには舐められて、やってたバイトのこともガッコにバレてさ。挙句退学。……アイツのせいで何もかも失う羽目になった」
喋りながら爪先に力が入る。痛いし、気持ち悪い。
「思い出しただけで腹が立ってきた。あの野郎、絶対……絶対許さない」
それでも、レイサは言わずにはいられなかった。
「そんっ……なの、逆恨みじゃないですか!!」
「……」
「彼女にやられて全て失うなら私なんてとっくの昔に一文なしです!」
痛みでいつの間にか目尻には涙が浮かんでいた。それを必死で堪えてレイサは自分を嬲る暗い瞳を睨み返した。
「あなた方が全てを失うことになったのは、そうなる事をしていたからというだけです!仮に、当時彼女に非があったとしても、その後に退学になった事はあなた方の責任です」
気持ちが奮い立つ。
今のキャスパリーグ、杏山カズサにこんな奴らは近づけさせない。彼女と、彼女の周囲の、あの温かな空間に見当違いの憎悪が触れる事など許されない。ここで、どうにかしなければならない。
決意を支えに必死にこの状況を打開する手段を考えるレイサ。その頬が乱雑に掴まれる。
しゃがみ込んだ不良A ──生徒ではないのならただそう呼ぶ──に顔を間近で覗き込まれる。
「やっぱり仲良いんだ、お前ら」
「……え?」
「いやさ、彼女に手は出させないって顔してただろ?」
「……」
仲がいい。思わぬ言葉にレイサは混乱する。何より、自分とカズサを仲がいいと言われて頷いていいのかわからない。あの放課後スイーツ部のメンバーであれば間違いはないだろう。
けれど、自分は?
昔は立ち向かう相手で、今はそんな過去を共有する存在だ。
それをなんと呼ぶのだろうか。
レイサは意図的にそこに名前をつける事を避けていた。
彼女は果たして自分のことをどう思っているのだろう。
「なぁ、アイツは今どこで何してる?」
「……!」
「トリニティにいるってのはわかるんだけどさ、そこからサッパリ。ゲヘナとかなら簡単だったんだけど、あのガッコはな」
通っている奴らと同じで情報料も高いんだとケラケラ笑う。その声はひどく耳障りだ。
「このっ……!」
仲がいいかなんてわからない。彼女との関係がどういうものかも正確には即答できない。それでも。
彼女が自分にとって唯一無二のつながりであることは間違いなかった。
「言うと思いますか?」
だから、挑むように聞き返す。
不良Aは不気味な笑みを更に深めた。先程までは欠片も笑っていなかった眼に昏い愉悦が宿る。
「言うように、してやるよ。自分から言わせてくださいって地面に額擦りつかせて懇願させてやる」

薄暗い廃墟の一室に文字通りに絹を裂く音が響く
「なっ、何を!?やめ……やめてください!!」
一際大きなレイサの声。これまでで一番切羽詰まった声音だ。
なんとか抵抗しようと身をよじる度、手足を拘束する鎖が音を立てる。それだけしかできない。
「お前、自分が何されるかも分かってなかったのか?」
嘲るような不良Aの声がレイサのプライドを傷つける。だが、今はそれ以上に無残に切り裂かれた制服から覗くブラジャーに意識が向いていた。奇怪なキャラクターのプリントされたそれの下に、制服を裂いたナイフが潜り込んでいる。最近になって子供っぽいのではと気にし始めたものだった。それが余計に恥ずかしい。
素肌に触れる刃物の感触、そして生地を引き上げ今にも突き破ろうとする切っ先がレイサの羞恥を更に煽った。
「何って……」
「別に恥ずかしがる程ないだろ」
「そんなこと……あ!」
わずかな問答の内に伸縮性のある生地をたやすく突き破ってナイフが胸を覆う最後の一枚を取り払った。
「見たまんまだったな」
小さな体躯の通りにほんの僅かにだけ膨らんだレイサの胸が外気に晒される。まるで赤子のようにすべすべとした白い肌が、それでも思春期を迎えた少女なのだと主張するようになだらかな丘を描く。その先端を、同じく小さく可愛らしい桜色の乳首が飾っていた。
普段人目に晒されることのない部位に視線を浴びた緊張で、胸と同様に白く滑らかな腹部にキュッと力がこもり、臍の陰影が僅かに深くなる。
「…………なんで、こんな」
羞恥に頬を染めてはいたが、レイサの瞳には変わらぬ力強さが宿っていた。
キャスパリーグ──杏山カズサを逆恨みする不良たち。彼女たちの目的は所在がわからないというカズサを見つけ出し復讐することのはずだ。であるならば、少なくともレイサが口を割らない限りその目論みは叶わない。
未だこの状況を抜け出す方法は見当もつかない。けれど、情報を漏らさないという抵抗はできるのだ。
だから、レイサはこの程度で気圧されることはない。
「ハハ、本当にわかってないんだな」
なのに。強い意志を込めて見返す程に相手の笑みは深まっていく。それが不気味で恐ろしかった。
ナイフの腹がレイサの体を撫でる。緊張にこわばった腹筋をなぞり小さな胸へ。その頂点の突起のすぐ手前で僅かに刃を立てる。びくり、鋭利な感触にレイサの体が跳ねる。触れていないはずの乳首に金属の冷気を感じる。
少しだけそこが固くなっていることにレイサは気づいていない。
「そ、そんなもので脅しているつもりですか?」
硬い笑みを浮かべて挑発し返すレイサに不良Aの笑顔がストンと抜け落ちた。
ナイフを持つのとは反対の手が固くなり始めていたレイサの乳首を力強く摘む。
「痛っ!」
それまでとは種類の違う痛みにレイサの悲鳴が上がる。
「笑う時はもっと媚びたように笑え」
「そんなこと、するわけないでしょう」
一度強くつねられたそれを今度は触れるか触れないかの感覚で撫で回し始める。
痛みの中に微かなこそばゆさを感じてレイサは眉をしかめた。

「もうやってるねぇ」
不良Aと睨み合っていると足音が聞こえ、新たな人物が部屋へと入ってきた。
自分があられもない姿であることを思い出し改めて羞恥に襲われる。
不躾にレイサを見下ろす表情は軽薄な笑みだ。髪の色も長さも、背丈も違う。けれど瞳の奥の濁った闇だけは不良Aと同じものだった。
彼女──おそらく同じような動機と境遇だろう──不良Bは手にした奇妙な器具を相方に掲げて見せた。
「コレ、持ってきたけどどうする?もう使う?」
「……いや、後にしよう。まだまだコイツは元気そうだし、時間もある」
「?」
薄暗い部屋の中ではそれがなんなのかはっきりと見ることができない。そもそもレイサの知る道具かすらもわからない。
なんとなく、フライパンに似た形状をしている。ただそれにしては妙に角張っているようにも思えた。もう少し似たものを何処かで見たことがあるような……。
レイサが記憶を手繰り寄せる前に不良Bはそれを部屋の隅、パイプ椅子の側にあった長机に放ってしまう。
レイサはずっと不良Aに意識を向けていたせいでそんなものがあることに今まで気づかずにいた。
何か状況を打開できる手がかりはないかと視線を向ける、が直ぐに意識が逸らされてしまう。
「レイサちゃんめっちゃ肌キレー。ウワ、羨ましぃ」
「な、や……!」
無造作に腹をまさぐられる。他人の皮膚の感触、温度に鳥肌が立つ。先程までの、不良Aの時にはもっと暴力的で痛みが伴っていたため意識しなかった感覚がレイサを翻弄する。
「胸もちっちゃいし」
「ぐ、この!」
「ほっぺはプニプニ」
まるで友人にじゃれつくような声音。けれどレイサは手足を拘束されていて、ここがどこかもわからない。何より楽しげに話しながらその目は変わらず澱んでいる。
その指先が唇に触れたから、レイサは咄嗟に噛みついてやろうと口を開いた。
「おっと危ない」
けれど、その目論みも失敗する。手を引かれるのではなく逆に突っ込まれることによって。
「がっ、ぁ……」
「舌、噛まないように気をつけな」
舌を、引き摺り出される。その手つきは酷くこなれていた。
「舌もキレー……裂いてもいいし飾っても良さそう。フフ、楽しみ」
指の先、爪の縁が舌を撫でる。言葉の意味は分からず、けれど恐ろしい予感が怖気を走らせる。
彼女たちが何を考えてるのか分からない。何をしようとしているのかわからない。
それでも、負けるわけにはいかない。
「カワイイねー。調教のしがいがありそう」
「えぅおぅ?」
また聞き覚えのない言葉。それでも記憶を必死に辿れば、最近できた友人が合成音声ソフトを歌わせることを指して言っていたことを思い出す。だが、この状況とは何一つ結びつかない。
あるいは、情報を吐かせることを歌にみたててそんなことを言っているのか。
「っ、私にそんなことをしたって無駄です!」
ようやく解放された口でそう言い放つ。
「本当に、カワイイ。いいよ、思い切り可愛がってあげる」
そう言いながら不良Bは眼前で指を濡らすレイサの唾液を舐めとった。
「汚っ、やめてください!!」
これまでで一番顔を赤くして怒鳴りかかる。それすら笑われてレイサは悔しさに歯噛みした。
そんなことをしていると、いつの間にか存在感を消していた不良Aがすぐ横になって来ていた。
「……時間はあると言ったが、何週間も囲っては置けないぞ」
「レイサちゃんがその気になれば問題ないでしょ」
不良Aの手には注射器が握られていた。
「なんですかっ!それ!やめっ!!」
今日最大の警鐘が頭の中で響く。何かの薬品が入った注射器。暗がりの中でも鈍く光る針の先が誰に向かうかなど考えるまでもない。
けれど。
もう何度目になるだろうか。拒絶を言葉で表すが抵抗はできない。レイサはここに連れてこられてから、ずっと無力なままだった。
不良たちは慣れた手つきでレイサを抑えつけ、その腕に注射針を突きつける。異物が肌を突き破り体内に押し入る感覚に嫌悪感が湧き上がる。
「っ……!」
「動くな、もう終わる」
勝手なことを!と叫びそうになる。けれど、それ以上の恐怖が喉をひくつかせ、声を発することができなかった。
「しばらくは様子見だな」
「じゃ今のうちに色々用意して……」
何を打ったのか。レイサは問いかけたくて、それも恐ろしくて口にできなかった。
「この格好だし……最初は上だけにしておこっか」
カズサのことを話さない。その決意は今も欠片も揺らがない。彼女たちに負ける気もない。
それでも、レイサの決意は立て続けに押し寄せる恐怖を無くしてくれるわけではなかった。

「ハァ、ハァ……」
なんだか、頭がふわふわする。全身が暑い。何かがひどくもどかしい。けれどそれが何かわからず、紛らわすかのように口で呼吸をしていた。
謎の薬を打たれてからどれだけ経ったのだろうか。窓もない、時計のないこの部屋ではレイサにそれを知る術はなかった。
何より、今のレイサは目隠しをされていた。黒い革製でベルトを金属の留め具で固定している。小柄なレイサが身につけるには仰々しいものだった。背徳的、と形容してもいい。
とはいえ、彼女自身が自分の姿を見ることはできないのだが。
視界が閉ざされ、身動きは取れず、殊更に際立った体の感覚が彼女を苛み続けていた。
今となっては体に起こっている異変と、もう一つに必死に耐えることだけに集中していた。
ヴーーーーーー
そんな振動音を響かせ続けるのはレイサの胸、その両乳首を抑えるように貼り付けられた二つのピンクローターだった。
「今からこのローターをつけてあげるからね。って言ってもレイサちゃんにはわからないか」
「それくらいわかります!」
反射でそう答えたものの、結局はその用途が分からず胸に取り付けられるのを困惑しながら見ていることしかできなかった。
「ぅ……あぅ」
今も、よくわかっていない。
ただ、体の内で暴れる形容し難いもどかしさが掻き立てられているように思えた。時折こうして、意識せず妙な声が漏れてしまう。
不良たちは片付けがあるとかなんとかいって部屋を後にしていた。最初はここを抜け出すチャンスだと意気込んだレイサだったが拘束を解こうと四苦八苦している内に今の状態になってしまっていた。
目隠しをとることすらできなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ……ぅう」
自分が情けなく思える。
体が重たい。風邪をひいたかのようだ。先程の薬はこうして自分を弱らせるためのものだったのだろうか。体も、心も。
ぼんやりと、纏まらなくなりつつ思考を必死で束ねて状況を把握しようとする。
そんな風に体の感覚と考えに耽っていたからだろうか。いつの間にか不良たちが部屋へと戻って来ていることにも気づかなかった。
「思った以上に効いてるな」
「顔真っ赤だねぇ」
こちらを見下ろして話しかけてくる。その言葉も今のレイサはうまく聞き取れずにいた。
「先に遊んでいい?」
「……好きにしろ。知識がなさすぎる。躾はもう少し覚えさせてからでいい」
なにを、いってるのだろう。
「すっかり出来上がっちゃってるね。肌がキレイだから赤みも映える」
みみもとで、こえが、する。
れろ
────!?
耳、鼓膜、脳、全身と走り抜けるような感覚にレイサの体が跳ねる。
「!?!???」
「すごく敏感」
やはり耳のすぐ側で声が聞こえる。吐息が耳の穴を濡らし再び全身を未知の感覚が駆け抜ける。
「え、あ、な……なにが?」
二度の衝撃が熱に浮かされていたレイサの意識を現実に引き戻した。ようやく、言葉らしい言葉がレイサの口から漏れる。
「何を、したんですか……!」
「何って耳をこうして──れろっ」
「やっ……!」
三度目、レイサの理解できない感覚──官能が体を走る。
「ハァ、ハァ……ハァッ…………やめ、やめて」
僅かにうわずったレイサの懇願に不良Bは笑みを浮かべる。
「カワイイお願い」
「……っ!」
コソリと囁くように告げられたその言葉を挑発と捉え、レイサが奥歯を噛み締める。目隠しで見えないがその瞳は熱に浮かされながらも薬を打たれる前と変わらぬ鋭さを備えているだろう。
それこそが、加虐者を喜ばせるのだと気付かぬまま。
「フフ、じゃあ耳はもうやめてあげる。次は……」
声が耳元から離れていく。それに内心胸を撫で下ろしたレイサ。だが、すぐにそんな安堵は吹き飛んでしまう。
「最初のメインディッシュにいきましょうか」
うっすらと汗ばんだレイサの腹が下から撫で上げられる。その感覚に既にゾゾゾと這う官能を覚え始めたレイサ。そのすぐ後に、高く声を上げる。
「あんっ……!」
彼女に声を上げさせたのは、ローターの下から乳首の周りを撫でる指の感触だった。
「小さいけど柔らかい、感度もいい」
円を描くように、今度は両の手で左右の未発達な乳房が刺激される。
「うっ、あ……やだ、何ですか!これ、何ですか!」
目隠しの端から涙が滲んでいた。
混乱するように叫ぶレイサの姿に胸を揉みしだいていた側がキョトンとしてしまう。
「ここまでの反応は想像してなかったけど……レイサちゃん、自分でしたこともないの?」
「じ、自分っ、で?何をっ、あっ」
「そりゃオナニーよ」
「お、オナっ……はぁ!?」
「その反応、何かは流石に知ってるのね」
「……っ、うぅ」
体を震わせながら口を弾き結ぶ。その反応が何より相手の指摘を肯定していた。
「ふぅん、それで?オナニーが何か知ってるのにやったことはないの?」
「それ、は……」
「オナニー興味なかったの?」
「お……!そんなに連呼しないでください!」
「はいはい、それで?どうなの?」
明らかに異常な状態だった。連れ去られ、目隠しされ、薬で火照った体を弄られ、詰問される。普通ならそんなこと答えられるかと突っぱねるはずだ。けれど、火照る体、繰り返す未知の感覚、閉ざされた視界、他意のない相手の声音、いくつもの要素がレイサから冷静な判断力を奪っていた。
「一回、だけ…………一回だけ、気になって、試して……」
「どんな風に?」
「どんなって……その、胸を、少し、いじってみて……でも、よくわからなかったし。なんだか、やっちゃいけないことのような気が、して……」
ポツポツと過去の事を思い出しながら話す。なんだか、また頭の中がぼんやりとしてくる。
「いじったって、どういう感じ?」
「どうって、普通に手で揉んでみて……ち、乳首も、触ってみて……」
「普通に……こんな感じかな?」
「やっ、あっ……ちが……!」
「じゃあこうかしら?」
「んっ……ん〜ぁ、ぁ……」
撫でるように、あるいは捏ねるように、緩急織り交ぜながらレイサの胸が揉みしだかれる。そのどれもがかつてレイサが自ら触った時とは全く比べものにならない官能を彼女に与えていた。
もはや抑えることもできず、初めての官能に酔うレイサは何を聞かれても首を横に振ることしかできなかった。
「なら、こんなのとか?」
チュパッ、チュッ、チュッ、チュパッ
「な、これ、ちが……し、舌!?そんな、あんっ♡吸っちゃ、だめ♡です♡舐めないで……あっ♡」
彼女を知る者が聞いて、果たしてこの声を宇沢レイサのものと気付けただろうか。それ程に今のレイサの声は艶に塗れ、快楽に溺れているようだった。
「なっ♡あっ♡何か、くる!!や、怖い、です!」
レイサの小さな胸が指に従順にその形を変えていく。弾かれた乳首が体の芯まで快楽を届ける。
「気持ちよくなってるの。快感で、イきそうになってる。ほら、イク、イクの!イキなさい!」
耳元で甘い声が響く。耳朶を、鼓膜を、脳を震わせる声。
「あ゛ッ♡あゥ、やっ♡あ゛ーーーっ♡」
レイサの爪先がピンと伸び、震える。目隠しされ、真っ暗なはずの視界が白く明滅する。半分を目隠に覆われた顔で口を大きく開き、涎を垂らしながら彼女は生まれて初めての絶頂を迎えた。
「あ〜〜ぁ、ハァ、ハァ……ハァ」
「レイサちゃん、お疲れ様」
倦怠感に包まれた体をそっと抱きしめられる。そうすると官能の混乱で荒れ狂っていた心がゆっくりと凪いでいくのがわかった。心地良い。他者の体温をレイサはそう感じた。それが自分を攫った相手であったとしても。
「パンツどころか、スカートまでグズグズね」
布ごしに股の付け根、鼠蹊部を撫でられて落ち着きつつあるはずだった体が再び跳ねる。
「あ♡やめ……!」
言われた通りレイサの下半身はいつの間にか水浸しになっていた。いつからそんなことになっていたのか、レイサには思い出せない。
レイサは冷え始めた頭で先程までの自分の醜態に愕然としていた。それでも、触れられる官能はレイサの感情に関係なく体を悦ばせた。
「これ、以上……っ♡私の体、変に……っ♡変に、しないで……ください!」
「怖いだろうに、ガンバって、カワイイ」
「……っ♡」
意思に関係なく、肌を指が這うたび快感が体を支配する。そう、快感だ。レイサはこれが快感であると知ってしまった。心地良いのだと教えられてしまった。もう、未知の何かとして知らないと拒むことはできない。
「大丈夫、ここはお預けだから」
言葉の通りに撫でる位置を変え、スカートの縁に指を這わせる。気にしていなかった衣服と肌の接点、感触を教えられたように腰回りがゾワりと震える。
それでも、認めたくない体の物欲しさを上回って安堵が訪れる。
休める。もう感じなくていい。
そんな安堵が──
「だからこの後も他のところでイこうね」
「……え?」
その一言で崩れ去る。
「そう……あと、十回くらい?絶頂しておこうか」
「い、いや……なんでっ!いやっ♡」
「今、身体中敏感だからきっとどこでもイケるよ。よかったね。耳でも、口でも、首でも、脇でも……全部感じさせてあげる」
レイサは首を必死で横に振る。
「そんなの無理です、やめ、やめてください!」
「でも、負けないんじゃなかった?それとも降参する?」
「う、う〜〜〜〜〜〜」
何も、答えられない。それでも負けたとは言わない。それだけはできないから。
「じゃあ、始めようか」
「ひぃ────っ♡」
喉を引き攣らせ、レイサはまた快楽の波に呑まれていった。

「イ゛っだ♡♡イ゛きまじだ♡♡もう、イ゛ぎまじだぁ〜〜♡」
あれからまたしばらくの時間が経った。レイサは顔中を涙や鼻水で濡らしながら溌剌とした声を醜く濁らせて叫んでいた。今は臍をいじられ絶頂を迎えたところだった。
薬で敏感になった体を丁寧に開発されることで全身を性感帯にされていた。
十回と、そう言われたから教え込まれた通り必死で絶頂を報告する。けれど、既に教え込まれたばかりの快楽でグズグズになったレイサの頭で数を数えることはできない。実際には二十できかない回数の絶頂をレイサは迎えていた。
未だに彼女に意識があるのは日々自警団として駆け回っていた彼女のスタミナ故か、あるいは調教を施した側がうまく手綱を握っていたのか。
「声が掠れてきた……そろそろ水分補給しないと、ね」
長時間に渡ってレイサの体をいじり倒した不良Bが手元の吸水ボトルを自らの口にあてる。そうして雛鳥に餌を与える親鳥のように水を含んだ口をレイサのそれに重ねた。レイサも抵抗することなくそれを受け入れる。
口の端からこぼれた水を伝わせながらもコクコクと小さな喉が与えられた水を体の中へ流し込む。
レイサにとって初めてキス、ファーストキスはいつだっただろうか。少なくとも全身を嬲られる、この調教が始まってからのいつかであることは確かだ。
けれど、レイサにそれを思い出すことはできない。何もかも快楽に押し流され、ただ与えられるままにそれを受け取っていた。それでも初めは抵抗していただろうか。そうであってほしいと頭の片隅でレイサは願った。
そうでなければあまりにも自分が惨めだ。あまりにも今更な願いではあったけれど──それでも、こんなレイサにだって憧れていた初めてのキスがあったのだ。
水を与えられた後、お互いの舌を絡める行為にまた快楽を覚えレイサは震えた。キレイと言われた舌も今となっては快楽を受け入れること、快楽を与える動きを教え込まれてしまっていた。
「れろ……ちゅっ♡」
互いの唾液で糸をひきながら唇を離す。その感覚にまた体が震える。
後、何度絶頂を繰り返せばいいのだろう。レイサには自分がそれを恐れているのか期待しているのかもわからなくなってしまっていた。
だから──
「これくらいで良さそうね」
そう言われた時、意味がわからず呆けてしまった。
「よかったね、レイサちゃん」
「え……あ、はい。…………ありがとう、ございました」
その言葉も、教えられたものではなく、ただ彼女の根の性格と今の状況が噛み合って溢れたものだった。その言葉に自分を見下ろす相手の笑みがこれまで以上に深まった事に彼女は気づかない。気づけない。
「いい子。そうやって素直にしていたら、いつでもまた気持ち良くしてあげる」
囁かれ、啄むようにキスされる。
それが自分へのご褒美であることは理解できた。
ぼんやりと先程までの官能の嵐とは違う幸福感にレイサはまた困惑した。その感情はまるで、あの朝日の──。
「……っ!!!」
恐ろしくなって彼女は頭を振った
まるで自分が自分でなくなるような、これまでと異なる恐怖がレイサを苛んでいた。
「それじゃあ、そろそろ目隠しをとってあげる」
パチン、と金具を外していく音が繰り返す。ずっと白か黒のニ色だけだったレイサの視界がそれでようやく帰ってきた。
「う……」
久方ぶりに思える光に目を窄める。それからしばらくして、光に慣れたレイサの目に入ったのは自分をこれまで嬲っていた少女の裸体だった。自分の体をいじくり回している間、相手も裸になっていたのだとレイサはその時になって気づいた。思い返せば肌と肌が触れ合う感覚は何度もあった。そのことに気が回らないほどにレイサが快楽に狂っていたのだ。
突然に恥ずかしさが込み上げてきて、レイサは顔を赤くして俯いた。裸など気にならないほどの痴態をそれまで晒していたはずなのに、急にそんなこととは関係なく羞恥を覚えていた。
その様子に目の前の少女がクスクス笑う。
「あぁ、別にそっちは目的じゃなかったけど……本当にカワイイ」
その声は小さく聞き取ることができなかった。ただ、笑われたことに反発するのではなく恥ずかしがっている自分がレイサは分からなかった。
心の奥底でこのままではいけないと誰かが叫んでいる。けれど立て続けに訪れる未知と困惑に翻弄されるレイサはその言葉を聞き取ることができずにいた。
「……ようやく、こちらの番か」
その声はこの部屋で最初にレイサが相対した不良Aのものだった。
「あなたも、いたんですね」
第三者に見られていたという恥ずかしさは、けれど先程のものに比べれば頬を染めることすらないものだった。自分の心の動きに戸惑いつづけたレイサは声の方向を向き──その表情が凍りついた。

声の主、不良Aはパイプ椅子で足を組み携帯を操作していた。もしかするとレイサが嬌声を上げている間ずっとそうしていたのだろうか。
それはいい。そんな事はどうでもいい。
問題は彼女の手前にあった。
三脚だった。赤いライトが付いている。レンズは四角かった。
それは、ビデオカメラだった。
映像を撮影するビデオカメラ。
それが今も顔面蒼白になったレイサを映し続けていた。
「なっ……かっ…………か、カメ……!」
今までとは別の意味で声が出ない。よくよく意識してみれば最初にレイサが目を覚ました時より部屋はずっと明るかった。まるで、レイサの痴態を詳に撮影できるかのように。
「焦らなくていい。顔や実名は後から処理を入れて隠す」
静かにけれど決してレイサが聞き漏らさぬ声量で彼女が告げる。
「それをブラックマーケットである程度売り捌いた後に、完全無修正のものをプレミアをつけて売る。よくある商売だ」
「……っ」
声が、出せなかった。
捕まった時点で覚悟すべきだった。手段はどうあれ今後のレイサの生活すら危ぶまれる事態。だが、当初のレイサは脱出することばかりが頭にあり、その後はもう何も考えられなくなっていた。
「なんなら住所や学籍番号、そういった個人情報もつけられるといい。というかつける」
火照っていた体から血の気が引いていく。こちらを見下ろす瞳がひどく恐ろしい。奥歯が鳴るのを抑えられない。
「自分の状況は理解したな?」
「わ、私に……どうしろと」
「与えられる褒美も理解したな?」
「だからっ、何を!」
「恐怖と快楽を理解した。なら後は躾の時間だ。言うことを聞け。私はあなたの奴隷ですと媚びへつらえ。罰を受ければごめんなさいと謝罪し、褒美を受け取ればありがとうございますと感謝しろ。与えられるものがお前の全てだ。与えられないものはお前には不要だ」
「っ!!」
息を吸う。
震える奥歯を噛み締める。
ここだ、とレイサは思った。キャスパリーグの居場所を教えろとそう言われる。あのカメラに撮影されたレイサの未来とカズサの今を天秤にかけろと。
恐怖がレイサの勇気を奮い立たせた。
怖い、怖い。この後自分がどうなってしまうのか分からない。もう学校に通うこともできなくなってしまうかもしれない。周りになんで言われるか。クラスの友達は、自警団の仲間たちは、放課後スイーツ部の部員たちは、先生は、杏山カズサは、自分のことをなんと言うだろう。軽蔑するだろうか。それとも哀れまれるのだろうか。どちらにしても、きっともうこれまでと同じようには接してもらえない。
こちらを見下ろす不良たちの眼のようだ。真っ暗で底が見えない。わからない。何よりもそれが恐ろしい。
それでも──。
最初の誓いを思い出す。絶対に負けない。カズサのことは決して口にしない。
私はスーパースター。
だから。
「足を舐めろ」
「え?」
思わぬ言葉に一瞬惚ける。
「最初だからもう一度だけ言う。足を舐めろ」
そう言って彼女は履いていたブーツを脱いでレイサの顔の位置まで掲げる。不良Bが気を効かせるようにパイプ椅子を持ってくる。それに腰掛けて改めて足を向ける。ブーツの中で蒸れていたのか、若干の臭いがツンと鼻をつく。
レイサは冷静になれと自分に言い聞かせる。簡単な話だ。始めに難易度の低い要求を聞かせてそれから──。
「どうせ最後にはキャスパリーグのことを──」
パン!
レイサが発しようとした言葉は頬の焼けるような痛みと共に中断された。蹴り飛ばされていた。
「奴隷が許可されずに言葉を口にするな」
「な……そんな脅」
パン!
もう一度、逆の方を蹴られる。叩かれたような音が鳴る。器用だな、などあまりにどうでもいい考えが脳裏をよぎる。
「罰を与えられたらごめんなさい、だろう」
今のが罰。
「……」
パン!
「謝罪が遅い」
痛い。そうではない。キャスパリーグのことを──カズサのことをしゃべってはいけない。だから──。
パン!
また、罰を受ける。
「謝罪はどうした?」
従っては──。
「それともお前、ごめんなさいの一言を言う代わりにあのビデオをばら撒かれたいのか?」
恐怖が、ぶり返した。
怖い。ずっと怖かった。ここにきてからずっと。知らないことを散々覚えさせられて、頭の中をグズグズにさせられて、自分の心すら曖昧になって。
何より──視界の端で今も赤く光るランプ。こちらを捉えるレンズ。自分の未来を滅茶苦茶にされる現実。
あれが本当にばら撒かれたら自分はどうなってしまうのか。それでいいのか。
怖い。
パン!
怖い。
パン!
怖い。
パン!
頬が、焼けるように痛い。
「ごめんなさい、だ」
「ご、ごめんな……さい」
パン!
謝ったのに。
「遅い。罰を受けたらすぐに謝罪しろ」
パン!
「ご、ごめんなさい」
パン!
「ごめんなさい!」
パン!
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
手が伸びる。レイサの小さな、乳首がつねられる。
「あっ♡……ごめんなさい!」
パン!
「今のは褒美だ。ありがとうございます、だ」
わからない。罰と褒美の違いが。
パン!
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
「ありがとうございます!」
「ごめんなさい!」
「今のは褒美だ!感謝しろ!」
パン!
「あ゛♡りがどう♡ございます♡♡」
何もかもわからない。わからないから言われるままに謝罪と感謝を繰り返す。何度も何度も言われるままに、繰り返す。
痛いのと気持ちいのもよくわからなくなってくる。どちらも痛いし、どちらも気持ちいい。レイサは自分が何をしようとしていたのか、何をされているのかも考えられなくなっていく。
ただ、言われるままに。
「足を舐めろ」
「はい!」
少しざらついた、埃に汚れた足を丁寧に舐めとる。少しでも気分を損ねれば罰を受ける。様子を伺いながら、丁寧に。丁寧に。
「よくやった」
褒められる。手が伸びて、もはやまともに用を成していないスカートの中をまさぐる。割れ目の中に隠れた未発達な陰核が拗られる。
「ありがとう、ございます!」
体を快楽が走る。そんなわけない。
一度も触ったことすらないそこを無造作に捻られて快感を覚えられるのか。だが薬が回ってる。それにも限度はあるはず。何が正解で何が間違ってるのかもう何もわからない。ただ、彼女にとって褒美は快楽なのだ。
何処かの空間、閉じられた一室で。
宇沢レイサが宇沢レイサだったものに変えられていく。

それからどれだけの時間が過ぎただろう。
レイサがこの部屋に連れてこられてからまだ一度も外に出されたことはなかった。だから数週間も経っているようなことはない……はずだ。
レイサにとって最早そんなことはどうでもいいことだった。言われるままに謝罪し、感謝した。足も、手も、それ以外も舐めた。
奉仕を教えられた。笑い方を教えられた。従い方を教えられた。

「そういえば、まだ処女か」
「はい!」
「どうするか……」
「ご主人様のおっしゃる通りに。ですがもし許されるならご主人様に捧げたいです」
「クク、いいぞ。奪ってやる。……褒美としてか罰としてか、どちらがいいか」
「私のわがままなのですから、どうか罰としてお与えください」
「ハハハハハ!!奴隷らしくなったじゃないか」
「あっ♡ご主人様♡レイサの初めてどうかお楽しみくださいっ♡……お゛♡あっ♡♡♡」

チュッ♡チュパっ♡チュッ♡チュッ♡
「メチャクチャばっかしてレイサちゃんの綺麗な肌に跡が残ったらどうするんだか」
「ご、ごめんなさい、ご主人様……私が弱いばっかりに」
「……」
「ご、ご主人様?」
「どっちもご主人様だと区別がつかないでしょ。アタシのことはお姉様って呼びなさい」
「お姉……様?」
「トリニティってそういうのあるんでしょ?上級生のことおねーさまぁって」
「えっと……ごめんなさい。私そういうのはよく知らなくて……」
「まぁなんだっていいでしょ、アタシのことはお姉様」
「はい!ごしゅ、お姉様!」
「あーーやっぱカワイイ!じゃあこの後はその呼び方を忘れないようにたっぷり甘やかしてあげる」
「あん♡いきなりなんて♡ん♡お姉様♡あっ♡」
「そうだ、記念にまた新しいとこにピアスあけよっか。胸とクリトリスはもうあるし……」
「お、お姉様♡以前おっしゃっていた♡舌♡はどうですか?」
「あー……けど見えるとこはもうちょっと後の方がいいかな。おへそにしようかな」
「あ♡嬉しいです♡私のことお姉様のものだって♡わかるように飾り付けてください♡」

「これって……私のシューティング☆スター」
「お前を連れてくる時に回収してたからな」
「……」
「小便しろ」
「え……?」
「いいだろう?どうせお前はもう銃なんてろくに撃てやしない」
「あ……で、でも…………っひ」
「お前は何だ、宇沢レイサ?」
「ひ、ひひ、私は、宇沢レイサはご主人様方の肉奴隷です。命じられたことはなんでも♡あっ♡いたします♡」
「やればできるじゃないか、いい子だ」
「ひ、ひひひ、あははは……私♡自分の銃におしっこかけて♡ひはっ♡もう自警団なんて絶対名乗れない♡あははははははははは!」

ひとつひとつ丁寧に、丹念に宇沢レイサであったもの、宇沢レイサの大切なものを拭い去って、ただ命じられることに喜びを感じる快楽に耽る肉奴隷へと作り替えられていった。

「お゛♡お゛ご♡ごしゅ、ご主人様♡レイサに♡レイサにもっと罰を♡あっ♡んあっ♡罰をお与えください♡ダメ♡そこっ♡外に出しちゃダメなのにっ♡あっ♡罰なのに♡ん゛あ゛〜〜♡」

そして──

「結局、これ使わなかったわね」
「あぁ、それか」
不良B──今はレイサにお姉様と呼ばれている少女が長机に置かれた柄のついた道具を持ち上げる。それは彼女がこの部屋で初めてレイサと出会った際に手にしていたものだ。
「最初はある程度調教を進めたら仕上げをそれでってつもりだったが……」
「レイサちゃん飲み込み早かったからね。薬に、催眠、色々組み合わせてはいたけど想像以上。反応カワイイからこっちもテンションあがっちゃうし」
「まぁ、元々意志薄弱になったような相手でないと効果はないと言う話だったし……そもそも本当に使えるかも疑わしいブツだからな。使わずにすんでこしたことはない」
「そうだね」
「何にしても、アイツは十分に仕上がった。今なら全裸で街中歩けと言っても喜んで従うだろう」
「なら、いよいよ大詰めね……」
「ふん、ここまできたら後はどう転ぼうといい。ただ、宇沢レイサ……アイツがそう動いてくれるならな」

「お前を帰してやろう」
そんな言葉をかけられたのは穴という穴に器具を突っ込まれ、散々に泣かされた後のことだった。
持ち込まれた簡易シャワーから出てきたレイサの小さな胸、小柄な体躯の各所にはピアスとそこに繋がれたチェーンが光り、臍下や尻などにはタトゥーペイントで淫靡な紋様が描かれている。
幼げなレイサの顔の下の体がこんなにも変わり果てていると誰が想像するだろうか。
いや、それ以上に彼女の目が。
溌剌と、キラキラと輝いていた双眸が、今では狂信と淫浴に濁りきっていた。
彼女はもう、宇沢レイサの形をした別の何かだった。
次は何を命令、調教をしてもらえるだろうと思っていたレイサは思いがけない言葉にうまく反応できなくなっていた。
「え?」
「言葉の通りだ。ここに閉じこもってた時間も長いからな。嬉しいだろう?」
いつもと同じようにそう問われる。
「はい!……う、あ、でも……私、ご主人様たちにご無礼を働いたでしょうか?もう、ご奉仕できないのでしょうか?」
それまでの主人を絶対肯定する奴隷の振る舞いに綻びが出るほどにレイサは狼狽えていた。
捨てられるのでは、という恐怖がレイサを揺さぶっていた。かつて彼女が抱いていたはずの恐怖はそこにない。
「大丈夫、これまでみたいにつきっきりは無理だけど気が向いたら遊んであげる」
「ほ、本当ですか!?私みたいな役立たずな奴隷……お姉様に嫌われてませんか?」
「安心しなさい。その証拠にこれ」
レイサに差し出されたのは黒いチョーカーだった。中央にハートアクセサリが付いている。それを指して彼女は言った。
「ここにチップが入ってる。あなたがどこにいるかわかるし、これをつけてるかどうかもそう」
その言葉を聞いてレイサが満面の笑みを浮かべる
「ありがとうございます!お姉様!常に肌身離さずつけていろということですね!」
差し出されたチョーカー──首輪を自ら嬉々として首に巻く。裸体の彼女を新たなアクセサリーが彩る。それは彼女にとって忠誠の証でもあった。
「あっ♡お姉様のお優しい心がレイサを包んでくれています」
うっとりと恍惚の表情を浮かべる。それだけで汚れを流し落としたはずの股下がテラテラと湿り気を帯びる。
「連絡先も用意してある。これでお互いに連絡も取れる」
ご主人様からは携帯端末を渡される。主人からもたらされた褒美にレイサは文字通り打ち震えた。吐息に淫らなものが混じる。レイサは先程までの不安も忘れ、今日がなんといい日なのだろうと主人に感謝した。
「さて、ここまで準備したのにはお前に重要な使命があるからだ」
「使命……!」
そのも重々しい言葉にレイサの心は躍る。価値観も感情も何もかも壊されたレイサだったが大仰な名前、肩書きを好むことは変わっていなかった。あるいは、それが彼女の中に残された最後のレイサだったのかもしれない。
「キャスパリーグについてだ」
その、最後に残されたレイサが顔をこわばらせる。
「か、彼女の……居場所を連絡しろ、ということでしょうか?」
心臓が早鐘のようになる。主人の命令は絶対だ。それが今のレイサの価値観だ。けれど──、キャスパリーグ、杏山カズサのことを漏らさないというのはここに閉じ込められた時最初にレイサが誓った己の使命だった。それらが彼女のうちで渦を巻く。二つの使命。二人のレイサ。だが、ここにいるのはもうレイサだった何かなのだ。
「へ、へへ……わかり、ま、した。ご主人様がお命じになるなら」
葛藤を飲み込んで、媚びた、卑屈な笑み。かつての彼女と似て非なる表情。
「そうじゃない」
「へ?」
なのに。
「こちらに教えるんじゃない。お前がやるんだ」
「……」
何もわからないという顔で主人を見上げる。そこには初めて会った時と変わらぬ底の見えぬ闇が広がっていた。
それは憎悪と呼ばれる闇だった。
「キャスパリーグ本人には手をつけるな。やるのはその周囲だ。知人、友人、家族……そいつらをお前がやられたようにお前が壊してやれ」
「あ……」
「あのクソ野郎から何もかもを奪ってやるんだ。それを、奴に近しいお前が実行する。薬漬けにしたければ薬を用意してやろう。監禁したいというなら場所を用意しよう。ただ、壊してくんじゃない。その周囲の関係性ごと壊れるように誘導しろ」
なにを、いわれているのだろう?
「なんなら途中でバレてもいい。最初から見つかるのは不味いが……そうだな、四、五人壊した後ならアイツに種明かしする許可をしてやる」
わたしが。
「どんな顔するだろうなぁ。どうせ話を聞かないってことは一般人のフリでもして隠れてるんだろ?あのクソ野郎の周囲がどんどん滅茶苦茶になっていって……それを嬉々としてやったのが仲のいいお前だって知ったら、なぁ、アイツどんな顔をするかなぁ」
きょうやまかずさを。
「お前の手でキャスパリーグを不幸のどん底に突き落としてやるんだ」
「あ、ぁぁあ、あぁぁあああああぁ!」
それは、レイサが葛藤を呑み込むための最後の一線。たとえ情報を流したとしても自分が何かをするわけではないのだから、大丈夫。あのキャスパリーグならきっと。
酷い欺瞞。今のレイサにすら理解できる身勝手な解釈。それでも、その一線によって肉奴隷の宇沢レイサであり続けることができた。何もかも壊されて、もう取り返しなんてひとつもつかない以前の宇沢レイサではなく。今の淫らで命令に従順なお人形。
なのに──。
「ご、ご主人様……どう、か……どうかそれだけは……」
「……」
宇沢レイサはもう目の前の人物をご主人様と呼ぶ以外、どう呼べばいいのかわからない。
パン!
頬が叩かれた。今回は張り手だ。
けれど、宇沢レイサは最早従順に謝罪することもできない。
「どうか……」
パン!
「どうかお願い、しまっぐ!」
腹を蹴られる。お姉様だ。ご主人様と同じ目をしている。失望した。ゴミ屑を見る目。
「おねがっ♡あっ♡しまっ♡あっ、んあ♡」
開発されきった体はただの暴力すら快楽となり悦びに変える。股からは淫液が溢れ、衝撃に合わせて揺れるピアスが情欲を更に高める。
「おねっがぁ♡う♡あぁ♡」
レイサはもう自分が何者であるかわからない。宇沢レイサがなんであるかもわからない。殴られるたび、蹴られるたびに快楽に悶えて、主人に縋りつきながらキャスパリーグを見逃してほしいと希う。
「かの♡じょ♡は……もう、も……あん♡」
頭の中はバラバラだった。全身がツギハギまみれで、動く端から崩れゆくようだった。それでも。
最後に残った星の欠片──宇沢レイサ──を集めて願う。
大切だから。
大切に思いたい、ものだから。
最後に、残ったものだから。

「……」
どれだけそうしていただろう。
「お、ね……が…………や、め」
暴力はいつのまにか止んでいて。
全身の水分が枯れ果てたように思えるのに、涙だけがまだ頬を濡らしていた。
「これじゃあだめね」
「まさかこうなるとはな……」
二人の不良は奴隷の説得を諦めた。だが、その目は冷たい。彼らにとって足元で鳴くそれは便利な道具だった。可愛らしく鳴けば愛でもするし、興が乗れば餌も与える。だが、使えない道具に価値はない。
「ちょうどいい、あれを使おう」
「ま、そうなるよね」
ブツブツと聞き取ることもできなくなった懇願を繰り返すレイサに彼らが取り出したのは以前フライパンのようだと思った奇妙な道具だった。
「これはねぇ焼ごてなの。心の……ヘイローの焼きごて」
掠れた視界の中でレイサはふと思い出す。アレはいつか、放課後スイーツ部の部室に遊びに行った時のことだった。何でもない、些細な会話。

「見よ、ただひとつの工程を極めし無双のフォルム」
「うっわ、それってホットサンドメーカーじゃん!なっつ!」
「急にどうしたの、◯◯ちゃん?」
「古きを新しきに巡らせし地にて……」
「あー、それってリサイクルショップ?」
「うん、なんかビビッときて買ってみたんだけどあんまり活躍の機会がなくてさ。いい使い道ないかなって」
「最初っからそう言えっての」
「うむ。それで、どうよ諸君」
「いや、どうって……ホットサンドを作るしかないんじゃない?」
「あはは……そうだよね、◯◯◯ちゃん。あ、フルーツとかチョコミントとか挟めばスイーツメーカーになるよね」
「確かに。……◯◯もちょうどいるんだからさ、なんかアイディアない?」

本当に、些細な会話だったと思う。
ただ、所々穴だらけで、言葉も声も正しいのかすらわからない。誰が何という名前で、自分が何と呼ばれていたのかも。思い出せない。
……いや、思い出せないのではない。思い出したくないのか。こんな醜く壊れた自分にはあまりにも美しいものだから。
「簡単に説明するとね、これでヘイローを挟み込んで上から別のヘイローを焼き込むの。上書き?というよりは書き足しかな。それで元々用意していた性質を付与するっていう。まぁ、きちんと使ったことないから聞いた話だけど」
はらはらと涙を流すレイサに、答えなど求めていないかのように一方的に話しかける。
明滅するレイサのヘイローが挟み込まれる。
「これで書き足せるのはひとつ。破壊願望って言って、大切なものほど壊したくなる、愛するものほど滅茶苦茶にしたくなる衝動。正直こっちにも被害出かねないし、使える条件も限られてたからお蔵入りしてたんだけど……」
装置のスイッチが入れられる。
「今のレイサちゃんならちょうどいいよね」
「お゛あ゛っっ♡」
びくん、とヘイローを焼かれるレイサの体が震える。ビシュッと勢いよく潮を吹く。先程までの悲壮な表情が嘘のように恍惚の笑みを浮かべて。
「これであってるのか?」
「あ、ほらほら説明書に焼印には五分ほどかかりますってあるからそのまま」
「これで壊れたら元も子もないな」
「どうせ使えなくなってたからいいでしょう。まぁダメならダメでこういうのが欲しい人もいるし」
あんまりな会話の下で泡を拭き痙攣するレイサ。
その脳裏に鮮やかにかつての景色が蘇る。

「急にどうしたの、ナツちゃん?」
そう言って可愛らしく小首を傾げる栗村アイリ。
「古きを新しきに巡らせし地にて……」
持って回った言い回しが途中で面倒になっていそうな柚鳥ナツ。
「うっわ、それってホットサンドメーカーじゃん!なっつ!」
明け透けにノリ良く話題に食いついた伊原木ヨシミ。
「確かに。……宇沢もちょうどいるんだからさ、なんかアイディアない?」
アイリには優しく、レイサには面倒そうに、それでも話を振ってくれた杏山カズサ。
自分が追いかけて、迷惑をかけて、許してくれて──仲良くしてくれた。
些細な、きっと彼女らにとってはいつもの、けれど自分にとっては大切な思い出のひとつ。
あぁ、何だかポカポカするなぁ。
取り戻した大切な思い出をレイサはそっと抱き締める。少しずつ力が篭る。
大切だから、大事だから。ギュッと。
ギュッと。

ギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッとギュッと

ギュッ

彼女たちの笑顔がひび割れて砕ける。美しい思い出。優しい人たち。大切な繋がりが星屑のように砕けて散った。脳髄を駆け巡る快感。乳首が陰核が痛いほどに勃起している。
お腹の中がギュッとポカポカする。レイサは耐えられなくなってポカポカするお腹の中に手を伸ばした。

「ご主人様、お姉様、それでは行ってまいります」
「えぇ、いってらっしゃい」
「期待している」
ご主人様もお姉様もレイサを優しく見送ってくれた。おまけに新たな褒美ももらって。レイサのカバンの中にはレイサ自身が使われたヘイローの焼ごてが入っていた。
これはいいものだ。使われたレイサが言うのだから間違いない。
レイサはそれが嬉しくて日の出を迎えた街の中を軽快に歩む。かつてと変わらぬ制服。かつてと変わらぬ銃。かつてと変わらぬ瞳でレイサは帰路に着いた。
ご主人様たちによれば、レイサはニ週間もあの廃墟にいたのだという。
何でも大きな事件があったらしく、レイサの行方不明が発覚するまで想定以上に時間を掛けられたらしい。それでもニ週間。きっとみんな心配している。ちゃんと謝らなければ。
こんな自分がなんてことを、と自責の念にも駆られるが、多くの経験を経てレイサは成長した。臆病になってはいけない。かと言って勢いで誤魔化しすぎるのも良くない。きちんと誠心誠意皆んなに謝ろう。
心配をかけてごめんなさい、と。

朝焼けの中歩くレイサ。背格好も、表情も担いだ銃も何も変わらない。
けれど──。
頭上のヘイローがどす黒く変色していた。否、よく見てみればかつてのレイサの星型ヘイローが見え隠れしている。ただ、その上にひび割れのような、楔のような黒いヘイローが重なり元のヘイローのほとんどを塗りつぶしていた。
点々と除く淡い星のヘイローの色は砕け散って残った星屑のよう。

空を駆けるスーパースターは地上に堕ちて星屑と砕けた。

少しだけ、勢いをつけて跳ねる。すると、制服の下でピアスが揺れ、体が淫らな熱を帯びる。
「ひひ」
嬉しそうに、レイサは笑う。いつかの朝焼けのように。その頃とは決定的に変わってしまった体で、心で、ヘイローで。
まずはご主人様にもらった使命を果たそう。優しい人たち、温かな人たち。彼女たちを一人ずつ狂わせていく。自分がされたように逃げ道を塞いで互いを傷つけ合うように誘導するのだ。
キャスパリーグ、杏山カズサを除いて。

そうだ、それから傷ついた彼女を慰めてあげよう。ご主人様たちはカズサに手を出すなと言っていたけれど、そんな大切な言いつけを破るのもきっと気持ちがいい。自分がやられたような酷いものじゃない。あの思い出の中のような温かなやりとりだ。
そうしてカズサが心を開ききって、彼女からレイサにキスをしてくれたら全部種明かしするのだ。
あなたの友達を狂わせたのは私です。
あなたの居場所は壊したのは私です。
カズサはどんな顔をするだろう?
いっそ自分がご主人様たちにされた事も詳に話してみようか。
クールで、けれど本当は優しい彼女のことだ。レイサすら恨みきれなくなって苦しむのではないだろうか。
あぁ、けれどそのためにはご主人様たちが邪魔だ。なら先にいなくなってもらうべきか。

一歩踏み出すたびレイサの心に新たなアイディアが生まれる。今なら何でもできる気がした。自警団の頼もしい先輩。クラスの友達。自分を助けてくれた先生。誰も彼も皆んな、壊してしまいたい。
けれど、今は我慢。
まずはカズサだ。
一度は失ったと思った繋がり。もう一度取り戻せた、思っても見なかった形になった大切な繋がり。
それが取り返しつかない程に壊れた時のことを思うと──その時のカズサの表情を思い浮かべるだけで息が熱くなる。全身が火照り。子宮が昂る。
愛液が内腿を伝いカズサは慌てて拭う。
これでは下着をつけてないことが丸わかりだ。それが衆目に晒される破滅に僅かな昂りを覚えながら、レイサは気を取り直して一人名乗りを上げる。
屑だ。レイサは屑になった。バラバラだ。それでもあの頃と大切なものは変わらない。大切なものをどう大切にしたいかが変わっただけ。今回の騒動を経てもレイサはレイサのままだったのだ。それが誇らしい。

「空より堕ち砕けども星屑!宇沢レイサ、ここに参上!!」

星は今もレイサの頭上に輝いている。堕ちて砕けて変わり果てても。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening