【閲覧注意】アーサー♀とルナマリアのデートを尾行するハインラインとシン


時系列:劇場版後
タイトルが全て
色々捏造過多注意。
アーサーは女性ですが名前はアーサーのままです。
※シンルナとハイ(→?)アサを含みます。

ファウンデーションの事件後、コンパス再開に忙しく動くアプリリウスのコンパス本部にてアーサーはルナマリアに迫られていた。
「アーサー副長、ロングタイト履いたことあるって聞いたんですけど!しかもフロントスリットのえっちなヤツ!」
「えー!?誰がそんな話してたのー!?そりゃ履いたことあるけど…え、えっちなヤツじゃないよぉ」
「あるんじゃないですか!私みたことないんですけど!」
「そりゃ一回だけだったし、見苦しかったみたいでハインライン大尉にも怒られちゃったし」
ああいうのは似合わないんだよね、とアーサーはため息をつく。
(怒られた?)
ルナマリアはスカート似合うの羨ましいなぁと嘆くアーサーを上から下まで見てみる。
いささか頼りない副長は、いざという時は艦長の護衛役となるためかそれなりに鍛えてあるが、ルナマリアより背が低い150cm代なのに胸は大きく、少しぽやっとした姿だ。
歳上なのに心配でお姉さん風を吹かせてみたくなる。
ハインライン大尉は無能を嫌い、当のアーサーにも無視したり割とキツく当たっているが、たまにアーサーが上着を脱いだり靴を直すのに屈んだりしてるのをガン見しているのをルナマリアは知っている。
ニヤけていたりイヤらしい目で見ているならアーサーや艦長にもチクるところだが、プログラムの損傷箇所でも見ているかのようにガン見しているので周囲も指摘しづらくなんか変だよね、とアーサー以外で相談しあうだけでスルーしてしまっている。
そのハインライン大尉が怒る、という事はやっぱりアーサーを意識してしまっているのでは?
「じゃあ今度の休暇に買い物行きましょう!服見ましょう服!」
「えぇー!?なにがじゃあなの?でも、そう言えば最近服買ってないなー」
決まりですね!と笑うルナマリアにアーサーはたまには良いかなーと了承した。

「と、いう事で彼女らが買い物に出かけるので警護するために尾行しましょう」
「…はぁ」
今は世情的にコンパスの構成メンバーの身の安全に不安が云々、アプリリウスは比較的安全だがつい先だってテロが起こったばかりで云々。
それっぽい理屈がツラツラと早口で並べ立てられ、シンは辛抱強く終わるのを待った。
途中で口を挟むと3倍になって返ってくるのは経験則から分かっている。
「アルバートさん、質問がありまーす」
「何ですかシン」
「警護するなら一緒に買い物すれば良いんじゃないですかー?荷物持ってあげたら喜ばれますし」
ルナマリアの買い物の付き合うとあちらこちらと引っ張り回され閉口する時もあるが、楽しそうに買い物する姿と可愛い姿を間近に見る事が出来るのでプライスレスだ。
何より荷物を持ったりして「ありがとー」とか頼られちゃったりするのがとても嬉しい。
アプリリウスのコーヒーチェーン店の目立たない一角で、私服の2人は通りの向こうで歩くルナマリアとアーサーを見る。
ちなみにここに来る前に階級で呼ぶなと注意されているのでシンはハインラインを名前で呼ぶ。
アーサーは白いVネックシャツに髪の色に似たオリーブ色のロングタイトスカートで、ルナマリアは黒のTシャツにカラーのスキニージーンズだ。
うん、俺の彼女今日も可愛い。
あとアーサー副長が黒以外って初めて見るなー。
「同行は却下します」
「…何で?」
「常に警護されているのはストレスになります。ですので彼女らには今日我々が警護につくことは知らせていません」
………。
「それってストー「警護です」ア、ハイ」
でもストーカーだよな、とシンは考える。
ルナマリアからハインライン大尉が私とアーサー副長のデートを監視しようとしてたら付き合ってあげてね、と予め言われていたので黙って従うがコレはちょっとヤバいのではないだろうか。
「今日のスケジュールをあらかじめ共有しておきます、プライベートですので漏出しないように」
それがルナマリアとアーサーの予定ならすでに外(と書いてハインラインと読む)に漏出してしまっているのでは?
(ツッコミたいけどツッコミして良いのかこれ)
なんだか深く関わってはいけない気がする。

うーん、と考え込むシンを放っておいてハインラインは通りの向こうのアーサーをチラリと見てから端末を見るふりをする。
(Vネックは良いが肩は出過ぎだし胸元の切れ込みも深すぎるのではないか?それにブラストラップはルナマリアとお揃いなんだろうが白いシャツと合わせると黒はあまりに目立つ)
いつものモノクルデバイスの代わりに、フチが太めの伊達メガネをかけたハインラインはメガネの位置を調節する。
ただの伊達メガネではなく、簡易的だがいつものモノクルデバイスと同じ機能をいくつか備えている優れものだ。
先ほど見て記録したアーサーの姿に眉を顰める。
小さな花を連ねたようなブラストラップはあくまで見せ用なのだろうが、アーサーがつけているのが黒なので白い服とのコントラストでその存在感に目が寄せられる。
ハインラインはコノエ艦長との約束通り、アーサーを見ても凝視はしない。
すぐ目を逸らしてから記録した映像を分析するなら問題無いなとメガネの記録機能をフル活用している。

なお、コノエにバレて床に正座させられて盗撮も犯罪だと説教喰らうのをハインラインはまだ知らない。

「あ、店入りましたよ」
「あのカジュアルブランドならルナマリアとアーサーの好みの傾向からすると長くても30分と言ったところだろう。今のうちに移動するぞ」
なんでこの人俺の恋人の好みとか把握してんの?
普通なら怒るところだが、なんだか怖いから指摘できない。
さっさと席を立って移動するハインラインの後ろについていきながら、シンは帰りて〜でも放っておくの怖ぇ〜とボヤいた。

とりあえず入って見ます?と2人組の気やすさでカジュアルブランドの店に入る。
少し可愛い系のフェミニンなブランドは快活なルナマリアもどちらかと言うと地味目を選ぶアーサーにも少し縁がないタイプだが、こういうのも良いよね、アレはクルーの誰かに似合いそうと冷やかすのは楽しい。
今どきネット通販でいつものブランドは買えてしまうが、やはりウインドーショッピングの醍醐味は未知との出会い!とアレやコレやと取っ替え引っ替え合わせて無いなーとか意外と有りじゃない?とかするのが楽しい。
事前にこういうの見に行こうとルナマリアと話し合って計画を立てたけど、半分も行けないかも知れないなーと笑い合いながらセール品コーナーはもちろんチェックする。
ついあんまり着ないのでは?でもこの価格はお得じゃない?と胸元にケミカルレースのついたブラウスを一枚買ってしまう。
お得は女性特効の魔法である。

(うーん、シンを連れて来れば良かったかしら?)
何店舗か周ったのち、ルナマリアはついつい増えてしまったショッパーを手に失敗したかなぁとため息をつく。
今回の目的にはちょっと居てもらうと困るからハインライン大尉に付けたけど、ついつい普段通りにショッピングしてしまった。
(だって新作出てるし、次の寄港の時には売り切れちゃうかもだし…ボーナス出たから買っちゃっても仕方ないわよね!)
仕方ない、仕方ないとカフェのテーブルでショッパーを整理する。
アレコレ入れ子にして持ち歩きやすくしてようやく来た限定パフェを口にする。
「あ、美味しい」
「でしょー、ここのパフェ食べたかったんだよね。雑誌で見たけど期間限定だから来れて良かった〜」
えへへ、とアーサーが笑う。
パフェ好きのアーサーがここでお茶したいというリクエストに答えての小休止である。
通常ならランチタイムだがカロリーを見てパフェだけにしてみる。
カロリーの高さに納得するようにブラウニーやらクッキーやらでデコレーションされたお菓子の家風パフェでそれなりにお腹が満たされる。
「それにしてもルナはスタイル良くていいな〜。私さっき買ってたスカート入んないよ〜」
「それ私より「カップ」大きいアーサーが言いますぅ〜?」
「ちょっと指差すのやめてよ〜、セクハラだよ〜?」
休日で軍務を離れているし街中なので階級も何もなくざっくばらんにお互いを呼び合う。
あれこれと固有名詞は避けてぼかしながら普段のとっておきの話題など交換し合う。
(そういえばシンどうしてるかしら?ハインライン大尉がストーカーしてるなら一緒にこの辺にいるはずだけど)
ランチでもしてるのかしら、と頭の片隅によぎるがすぐにヴィーノがアグネスに告白しようとしてスルーされた話題に意識を持っていかれて忘れてしまった。


「明日のスケジュールに変更はあるか」
ミレニアムのパイロット用の待機室で待機していたルナマリアをハインラインが訪ねて来て開口一番妙なことを聞かれる。
「アーサーとアプリリウス市街でショッピングの予定ですけど…どうかしましたか?」
アプリリウス寄港中でコンパスは再開していないので、ミレニアムにパイロットを控えさせているのは万が一の備えである。
日報だとか備品チェックの補充依頼書の整理だとか最低限の書類仕事を終えてしまうと、トレーニングしたり読書をしたりで暇ではあるので雑談ついでの尋ね人は大歓迎だが、ハインラインはたまにこちらに上から目線でおちょくってくるのであまり話して楽しい類の人じゃないかなという印象だ。
「いや、休暇申請の予定に変更ないなら問題はないだろう。ありがとう、助かる」
言葉少なく去って行くハインラインを見送り、うーんとルナマリアは唸った。

『お姉ちゃんそんな事で私に連絡して来たの?』
「だって気になるんだもの。なんかハインライン大尉ってアーサー副長のストーカーしてるとかしてないとか、アビーがチラッと言ってた気がするのよね」
ストーカーなら情報与えちゃったら怖いじゃない、というルナマリアにメイリンはうーん、とルナマリアと同じように唸ってみせる。
メイリンに教わった姉妹秘匿回線(メイリン命名)で連絡を取ってハインライン大尉とのやりとりを話して動向を確認して欲しいとお願いするとメイリンは呆れたように向こうで端末を操作する。
『あの人の端末とかは流石にバレないようにチェックするのは無理かなぁ、バレても良いならセキュリティ突破出来るだろうけど。替わりに使用してる端末のIDとかは分かったからミレニアム内でハインライン大尉がアクセスしてるデータならダミーかまして見れるように出来るからそれで良い?どんなデータチェックしてるかなら分かるから、アーサー副長をストーカーしてるなら証拠くらい見つかると思う』
「そ、そう…お願いするわね」
ちょっと相談するの間違っちゃったかしら?
なんだかとっても不味いことをしている気がする。
『大丈夫、大丈夫。ミレニアムの機密には触れないようにしておくから!キラさんにこの辺は触っちゃダメだよって前に聞いてるところは触らないからセーフ!』
ヤマト隊長、メイリンに何教えてるんですか?
今あの人何してるんだろうか?ラクス総帥と地上にいるとは「噂」として知っているがいつか帰って来てくれるんだろうか?
そんな事を考えているうちに鼻歌混じりにメイリンがミレニアムのデータをぶっこ抜く。
『キャバリアーが使えたらもっと楽なのにな〜。この前アスランさんとカガリ代表チェックするのに使ってたから使用禁止命令出ちゃったんだよね〜』
「あんた仕事大丈夫?追い出されたりしない?」
軍にいた頃は引っ込み思案でルナマリアの後ろによくいたのに、軍の外に出たとたんエンジョイしすぎのような気がする。
「家にもちゃんと帰って来なさいよ?」
『パパとママにはこの前会いに行ったよ〜。お姉ちゃんの方こそ休暇を恋人とラブラブしてて帰ってこないってパパが嘆いていたんですけど〜』
「次の次に休暇が取れたら帰るようにするわよ。なんならタイミング合わせる?」
『了解〜、スケジュール決まったら教えて。お姉ちゃんデータまとまったよ〜』
ごちゃっとした文字と数字の羅列が端末の画面いっぱいに広がる。
「…何コレ?」
『データのアクセス履歴を抜粋したんだけど、とりあえずわかりやすいように統計データ出すね』
すぐ次の画面に変わって円グラフや棒グラフがたくさん表示される。
「…メイリン」
『ハイハイ、お姉ちゃん頭使わないとボケちゃうよ〜。ざっくりまとめるとハインライン大尉のアクセス記録から開発関係っぽいのを除くと、憲兵の通報記録を結構な頻度で定期的にチェックしてるのとパブリックの艦内カメラとかにアクセスしてるのが異常かなぁ』
「カメラって?」
『流石に個人の部屋とかにはないけど、廊下とか休憩室とかにはカメラとかセンサーとかあるでしょ?大体防犯目的で、後で見返すことが出来るように録画されてるんだよね。その録画データにアクセス記録あるんだよ〜。ちょっとおかしいかな?』
ハインライン大尉って技術大尉だけど憲兵とか艦内防犯関係の人じゃないよね?と聞かれてそうね、と答える。
『カメラの改良とか艦内防犯システムの強化とか、技術系の協力を仰ぐにしても、データ自体は普通管理システム側からアクセスすると思うんだけど、コレ「管理システムってことになってるハインライン大尉の端末」からアクセスされてるっぽい』
「ええと」
『うーん、ぶっちゃけるとハインライン大尉が管理者装ってパブリックとはいえ艦内の録画データ見てる』
ダメなのでは?犯罪なのでは?
『アクセス記録だけで録画データの内容までは不明だし、何を目的としているかまではわからないからな〜。この人がデータにアクセスするのが絶対おかしいとか言い切れないところはあるよ?例えばシステム改修してて管理者権限一時的に発行してるとか』
「うーん、ないとは言い切れない、かなぁ?」
なんだかよく分からない結晶装甲だとかフリーダムの武装だとか、技術全般の責任者なので艦内のデータにアクセスすること自体はおかしくない…のかな?
『けど、管理者装ってるのはちょっとね』
「え、管理者権限使ってるからじゃないの?」
『無い無い!だって仕事でしてるなら管理者権限そのまま使えば良いだけだもの、「装う」って事は非正規って事。この場合誤魔化してるから怪しいんだよね』
うーん、何してるのかな〜。
ワクワク笑顔でメイリンがタイピングしてる。
『アーサー副長への不埒な行いは許せませんよ〜。ミネルバ時代にはお世話になってたから私張り切っちゃうぞ〜。あ、ビンゴビンゴ〜検索ログ出た〜』
「…大丈夫なのよね。変なとこイジって無いわよね?」
『今調べたのはハインライン大尉がどんなデータを検索してたかのログだよ。録画データなんて膨大だからね。自動的に振り分けされてるタグで引っ張って見るの。例えば日時とか人物だとか』
「人物」
『ハイ正解〜。……ねえお姉ちゃんこの人毎日アーサー副長をチェックしてるみたいだけど、本当にアーサー副長大丈夫?』
とても怖い話を聞いた。
毎日、パブリックエリアとはいえアーサー副長の録画を追っかけてる…
「ストーカーじゃないの!?」
『だねぇ…、とりあえず頻度とかあれこれまとめた資料作ってみたけどいる?異常だし違法行為だから憲兵に渡したら逮捕してくれると思うよ。偽装アドレスから送るから出典を聞かれたらいきなり送られて来たとか誤魔化しちゃって良いよ」
ふと、ルナマリアはスケジュールの「変更」を聞かれた事を思い出した。
「昨日のお昼の食堂でアーサー副長と明日のショッピングの予定立てたんだけど…」
『…13時の士官食堂の録画データ、アクセス記録あるよ』
うわぁ…
「もしかして明日ストーカーされる?」
『予定はバッチリ把握されてるって考えた方が良いかな〜?』
どうしよう、ストーカーを訴える?メイリンには悪いけどデータを証拠とさせてもらえば憲兵は動いてくれるかな?
ぴぴぴ、とルナマリアのプライベートの端末が鳴る。
驚いて止めようとしたが、相手がシンだったので思わずメッセージを開く。
【明日、何かハインライン大尉にアーサー副長とルナの警護するからアプリリウス市街に付き合えって言われたんだけどさ、ルナ何かあった?】
メイリンにもモニター越しにシンのメッセージを見せる。
『たぶん、アーサー副長と一緒のお姉ちゃんまでストーカーしてるって誤解?されたら嫌だから、お姉ちゃんの恋人のシンを共犯にしたいんじゃないかな』
「…どうしてそういう気は回せるのにストーカーするの?」
『流石にストーカーの気持ちまでは分かんないかなぁ?』
知りたいんじゃない?ほら技術者って知的好奇心旺盛で変人だから。
世の中の技術者が聞いたら涙ながらに風評被害で訴えられそうな事を言うメイリンにルナマリアは頭を抱える。
『いっそシンにハインライン大尉と一緒にストーカーさせたら?シンなら不埒な事しそうになったら何も言わなくても止めると思うよ。それに普段どんなふうにストーカーしてるか証拠になるかも知れないし』
どうしようと悩むルナマリアにメイリンが提案する。
『シンにはなるべくストーカーの事とか言わずにハインライン大尉を記録してもらって、後でお姉ちゃん達の記録と合わせるとストーカー被害が判断できると思う』
アクセス記録より尾け回しの方が言い逃れし難いし、と言われて覚悟を決める。
コレも犯罪撲滅のため!
【お願いがあるんだけど、明日はハインライン大尉が私とアーサー副長のデートを監視しようとしてたら付き合ってあげてね】
【何だそれ?まあ休日なのにルナがアーサー副長と予定入れちゃったから暇だし良いけど】
メッセージを送るとすぐ返事がくる。
やーねー、元々アーサー副長とのショッピングのために休暇申請したのに、シンが早合点して休日合わせて来たんじゃない。
最近ちょっと甘やかし過ぎかしら?
でもそういうところが可愛いのよね。
うふふ、と笑うルナマリアを、メイリンがラブラブだねぇと笑ってみていた。

(どこかで見てるのかなぁ)
気にしたってどうせ分からないんだろうけど、ストーカーされてるってヤダよねぇとアーサーはちょっぴりため息をつく。
パフェを食べ終わった瞬間でのため息だから誰にも気にされないだろうけど、そうやって隠れてこそこそするのはあんまり好きじゃない。
これがルナマリアとか他のクルー達をストーカーしているなら全力で証拠を集めて憲兵を通り越して軍警察に叩き込むのだけれど、なんせ対象が自分なのだ。
その上、立場上は自分が上官とは言え、相手は軍に多大な貢献をしている技術大尉。
おまけにコンパスでも今更逃すわけにはいかない超重要人物だ。
(う〜ん、せめてこれで私の事を恋愛感情で好きだとか、せめて劣情を催してアレコレしたいとかなら分かりやすいし対処しやすいんだけどね〜)
それなら告白してもらってお付き合いするとか、お断りするとか、迫ってきたら張っ倒すとか、ともかく事態にケリをつける事が出来るのに。
最悪の最悪は立場とか権力とか圧力とかでハインライン大尉のベッドにGO!かも知れないのが怖いけど、この真綿でぐるぐる巻きにされてるような状況よりマシなのでは?と頭がトチ狂いかけている。
(ダメだー。私、今正気じゃないよぅ)
ハインライン大尉を止められるとしたらコノエ艦長しかいないだろうから、相談させて貰おうかなぁ。
ハインライン大尉は「私が無防備だから心配」なのだそうだ。
だからずっと見ていないと、となっている…らしい。
なので艦内カメラの録画データにアクセスするわ、ガン見されるわ、私の噂話?をしてるクルーに舌戦を仕掛けるわ。
挙げ句の果てに「酷い目」にあった時にすぐ駆けつけられるようにと、仕事用端末に位置通報設定をされた時は眩暈がした。
その上それを「夫婦や恋人だって理解が無ければ許されんぞ」とコノエ艦長に叱られたら、「恋人として付き合いましょう」と言って来た顔が真顔でもう泣きそうになった。
(何が悲しくて私の事を好きじゃ無い人から交際を申し込まれているのか)
いつも通り、淡々と業務上のありふれた説明をするような、必要だから簡潔に早口で報告しているような、そんな「恋人になりましょう」だった。
「恋人」を監視対象に何でもして良い権利だとでも思っているのか。
あまりに酷すぎて、持ってた端末を投げないようにしっかり握っているのが精一杯だった。
私が副長の任にない一般クルーだったら、全力であの澄ました顔に投げていたと思う。
けど、ミレニアムの副長である事が誇りである私にとって、艦内の治安維持の方がプライドより優先される。
私が我慢して艦の秩序が保たれるならセクハラもストーカーももうどうとでもなれ!である。
(良い家柄?でイケメンで金も地位も持っててもモテない理由ってあるよね!)
モテてもその相手がヤバそうだけど。
…もう一個パフェ食べちゃおうか、流石にダメかな?
ストレスによる過食はマズイ。
普段は激務でダイエットもそこそこで効果もあるけど、コンパスが再開してないので最近ちょっと運動不足になりそうなのだ。
ルナマリアの選んだスカートを試着させて貰ったら入らなかった事を思う。
うん、食欲無くなった。これは新しいダイエット法として便利かも知れない。

カフェの二階席からアーサー(とルナマリア)がいるのを確認してハインラインは小さな箱型カメラを窓際に置く。
カフェの二階席からオープン席は覗き込まなければ見えない位置にあるが、ちょうどこの位置の窓際にカメラを置けばパラソルなどにも邪魔されずに確認可能になる。
事前に訪れ場所を確認して日時指定で予約を取れて良かった。
何だかゲンナリしているシンに、ルナマリアが恋しいのだろうとタブレットにカメラ映像を映して見せる。
「アルバートさん、いつもこんな事してるんスか…?」
引かれていた。
「いや、まぁ、俺もルナが1人で出かけてたら心配になりますけど、あの2人俺やアルバートさんより対応能力ありますよ。ルナマリアは格闘術なら俺より強いし、アーサー…さんも護身術とかスゲーし」
ウチの彼女格好良い!と書いてある顔でシンが力説する。
彼女自慢したくて仕方がないであろうシンが、例えばこの前〜と話を続けそうになったのをまあ待てと牽制する。
「2人に対応能力が備わっている事は知っている。だが、何かあった時すぐ駆けつけたい。アーサーは無防備で危機感が足りない、整備メンバーに下品に絡まれててもうまく対処出来ないこともあるし、何より艦外では何が起こるのかも分からない。やはり近くで待機するのがベストだろう」
「…えーと?アーサー副長が心配なら、やっぱりそれこそすぐ対応出来るように一緒に行動すれば良いじゃないですか。どうせならダブルデートしましょうよ、俺憧れてたんですよね。た…キラさんとそ…あー、彼女さんと一緒にデートしたけど、ダブルデートじゃなくて護衛?みたいになっちゃって、まだちゃんとダブルデートした事ないンスよ〜」
「…は?」
シンの言葉が理解し難い。ダブル「デート」?
「お前とルナマリアはともかく、アーサーと私では「デート」にならないだろう」
「えっ!?」
シンが心底不思議そうな顔をする。
「いやだってス…じゃなくて警護?するくらいだから好きなんじゃないですか?」
否定しようとして考える。
「前提条件を確認するが、この場合の「好き」は同僚に向ける好意や庇護対象に向ける好意、または人としての好意感情ではなく恋愛感情としての「好き」という事を指しているので間違いないか?」
「は?え?ええと、よく分かんないけど俺とルナみたいなヤツっス。一緒にいたいとか何かしてるのも気になるとか、あと自分の事良く思って欲しいとか笑って欲しいとか。えーと、ともかくそんなん!」
なるほど。
…なるほど?
質問と前提条件が揃ったのだから回答をしたいのだが、何故かグルグルと思考が回る。
恋愛対象として好きか否か、回答は特に捻らなければ2択で難しいものではない。
同じようにアーサーに「私の事恋愛対象として好きじゃないですよね?」と聞かれた時は好きではないと即答できたのに。
タブレットに映るアーサーがパフェを食べ終わってため息をついた。
何かあったかと周囲を見てみるが特に問題はなさそうだが…いや、そうでは無くて。
恋愛感情。
人に恋焦がれる。
人を愛する。
「コレ」はそんな感情では無いと思う。
思い出すのはハインラインにとって数少なく尊敬出来る人間である、准将と総帥のお互いを慈しみそのためなら自分の全てを差し出せるような無償の愛。
もしくは、ミレニアムで無茶な作戦をこなしたフラガ大佐を迎えたラミアス艦長のような熱烈な愛。
愛も恋も知らない自分ではまだ分からないけれど、きっと愛や恋とはあれほどまでに綺麗で情熱的で素晴らしいはずのものなのだ。
モニター越しにアーサーを見る。
ルナマリアと何か真剣そうに話している。
収音装置を付近に仕込んでおけばよかっただろうか。
(近くにはいたいと言えばいたいが、不埒な輩がいたら危険な目に遭う前に排除したいだけだ。何を話しているかは知りたいが、迂闊な発言をしていないか注意したいだけ。良く思って欲しいか…いや、冷静に考えて過干渉で処分を受けている僕を良くは思わないだろうからそもそも思われないので対象外だな。笑う…いつも笑っている。驚いているか笑っているか、たまに真剣な表情をする時もあるが大体そんな感じだ。誰にでも話しかけるし誰にでも笑いかける。ああそう言えばそれでまた整備班のクルーに勘違いさせて迫られていた。通報してくれればすぐ助けに行くのに録画だと危ういところだったというのに誰にも言わずに断って、相手が引いたから良かったものの襲われたらどうするのか)
いっそザフト本部に具申して本部デスクワークにでもして貰えばもう少し安心出来るだろうか?などと馬鹿な事を考える。
だが、本部でテロがあった事を考えれば近くにいる方が良いと思い直すが、副長の職にあるせいか艦内あちこち歩き回りクルーに恨みも買うし無闇に思いも寄せられている。どうして自分より階級が上の副長なのか。ただのクルーなら開発部に配置転換させて手の届く範囲で守るのに。
ロングスカートで格納庫を降りてきたり、タイトスカートで大立ち回りして破いたり、そうかと言えばキュロットスカートで無防備では無いですよとスカート部分をまくって見せたり。
どうして男相手にそんな事を笑顔でするのが危険なのだとわかってくれないのか。
呑気な顔で誰かに笑いかける彼女が恨めしい。
理不尽に湧き上がる感情を分析すれば、当てはまるのは支配欲か管理欲、綺麗に言っても庇護欲だろうか。
こんなものを恋や愛などとは呼べない。
だから、僕はアーサーに恋も愛もしていない。

していないのだ。

「アーサーってぶっちゃけアルバートさんの事どう思ってるの?」
「…誰?って、ああ、ハイ…んんっ」
おっといけないここは市街地。
しかも「ハインライン」と言えば軍部やモビルスーツを少しでも知っていれば聞き覚えのある名前だから、用心のためには口に出さない方が良いよね。
「えーと、同僚?ってほどは親しく無いかぁ、うーん仕事仲間?」
正確には部下?いや階級は下だけど、直接指揮系統にあるかというと少し微妙なところがある。
こちら副長であちらは技術部門トップ。
コンパスのミレニアムでの艦内指揮の取りまとめという意味では私の命令が優先されるだろうが、ザフトからすると重要度はハインラインの一門としてあちらが比べ物にならないほど高いだろう。
実際、コンパス再開に向けてもハインライン大尉がザフトの技術部門経由で後押しをしていると聞いている。
ミネルバ時代のこともあってザフトから苦々しい目を向けられるこちらとは違う。
「アビーから…」
ルナマリアが声を顰めるので少し顔を寄せる。
「その、アルバートさんが、アーサーのこと…ええと…」
そこまで言いかけて言い淀む姿にゾワリと背筋に悪寒が走る。
ストーカー行為の事がパイロットのルナマリアにまで広まった!?いや、アビーからと言っていたか彼女が広めた?ブリッジであれこれと醜態は晒したがコノエ艦長から箝口令がでているはずなのに艦内でどれくらい広まっているのか。
噂話としてストーカー行為の事が広まった場合の艦内治安維持のコストとリスクが頭を駆け巡る。
厳しい顔になっていたのかルナマリアが驚いて違うんです、と心配そうに言ってくる。
「アビーはアーサーさんの事とても心配していて、ミネルバ時代からずっとお世話になっていたから。だからなんです。何か気にしてる風だったから私が聞き出しちゃって、もちろん私室で聞いたから他の誰かは聞いたりしてません」
「…心配してくれてありがとう」
落ち着こう、副長の顔は良くない。女友達のアーサーの顔をする事を努めて行う。
親しみを感じる顔と声、普段どんな風にやっている?いつも意識しなくてもやれるのが私の強みでしょう?
「でも、それコノエさんから言っちゃダメって言われてる事なの」
口元で指でバッテンを作り、トントンと交差した指を叩いてみせる。
そうするとルナマリアは箝口令が敷かれている事だと理解して驚いた。
「すみません、そうとまでは知らず…」
「アビーが言い忘れちゃったんだね。心配かけちゃって申し訳ないな。後で私からもお詫びしておくね」
アビーに再度箝口令を敷くことも出来るが、心配からの親切心に近いのなら無駄な心労をかけることになってしまう。
とりあえずルナマリアから心配されたと暗に箝口令を破った事を伝えて、それから心配させたことを謝って、これ以上噂を広めないように落ち着かせなければならないなぁ。
心配してくれたことはありがたいしね。
「ルナマリアも黙っていてね」
お願いすると少し戸惑った顔をされた。
もしかして、もっと広められてしまった…?
「ち、違うんです。その、あの…」
言い淀んだルナマリアが端末を差し出してくる。
「メイリンに頼んでアルバートさんのストーカー行為の証拠まとめて貰いました!」
メイリン。ルナマリアの妹。元ザフト脱走兵。現ターミナル構成員。
あまりのスキャンダルに目が眩む。
私がいったいどんな悪い事をしたというのか。
せいぜいスカートで格納庫を降りただけなのに。
外部組織にスキャンダルのタネを握られてしまったのかと慄く私に、ルナマリアはなおも違うんです、と言ってくる。
「メイリンには個人的に話しただけで、あの子も今回のことはターミナルには報告しないし証拠も残してないって。メイリンもアーサーさんの事とても心配していて…」
(外部組織だよ!?)
いくらあれこれと情報や人員を都合しあう関係でも外部は外部なのに、それが嘘だったらどうするの。
個人的には元部下を疑いたくはないけど、軍人としての意識とか機密情報漏洩のリスクとか…
いや、結局のところ本来対処すべき問題を後送りにしたツケが回って来ただけかぁ。
ルナマリアには再度情報管理の危機管理講習を受けてもらおう、とアーサーはため息をつく。
まあスキャンダルといっても最悪私かハインライン大尉のどちらかが飛ばされれば終わる話だ。
多分、私だろうけど。
ザフトからコンパスに出向している身の上だ。
新しい副長を用意して私を辺境にでもかっ飛ばせばヨシ!と本部は判断するに違いない。
メイリンがターミナルに黙っておいてくれるのを祈ろう。
後で艦長に報告しなければとも思う。
艦長も頭を抱えるだろうけど、一緒に頑張って欲しい。
我慢していれば良いかと思ったけど、1人ではもう無視です。
私のお父さんみたいに思ってくれてるってって言ってくれてたし、良いよね。
助けて艦長(お父さん)。

アーサーを混乱させてしまって、改めてバカな事をしてしまったのだとルナマリアは反省する。
ついつい姉妹の気安さでメイリンに相談してしまったけど、別の組織に所属しているんだよ、と忠告されてしまった。
ごめんなさい、と謝るとアーサーは困った顔の笑顔でもう良いよ心配させちゃったね、と許してくれたけど、事の次第と端末は後でチェックさせてね、と釘を刺される。
ますます申し訳ない。
「…本当にごめんなさい」
「ええと、それより買い物、本命のブランド次でしょ!そこだけは行ってから帰ろうよ」
帰って状況整理したら、後は艦内でみんなで女子会でもしようよ!なんならメイリンも繋いじゃう?ゲスト回線なら機密保護モードかかってるから平気だよと明るい声でアーサーが笑う。
正直気分は落ち込んでしまったけど、嫌な思いで外出を締めるのも良くない。
アーサーの気遣いに感謝してとりあえず本命のブランドショップに寄ろうと立ち上がりかけてふと思い出した。
「あの、アルバートさんなんですけど、多分シンと一緒にいるんです。だから変な事しようとしてたらシンがどうにかしてくれると思います」
「…シンにも教えちゃった?」
「いいえ!本当にシンは知りません!私とアーサーが出かけるせいか、アルバートさんがシンに外出しようって声かけたみたいです」
「…アルバートさんには、私の方からストーカー行為に他人を巻き込むなって『コノエさんと一緒に』叱っておくね」
めちゃくちゃ怒った声だった。

成人しているとはいえ、10代の若者をストーカー行為に巻き込むとは。
正直自分がストーカーされる事なんでどうでも良くなるくらい頭に来た。
コノエ艦長に処分してもらわねばならない。
決意を新たにショップに入る。
「い、いらっしゃいませお客様。いかがなさいました?」
おっといけない、険しい顔をしていただろうか。
常連だし普段は挨拶はともかく最初から積極的には声をかけてこない店員がサッと近づいてくる。
「あ、ごめん、考え事してて。せっかく服見に来たのにダメだよね〜」
「左様ですか、では気分転換に届いたばかりの新作があるのですがご覧になりますか?」
「わぁ、良いんですか?お願いします。どんなのだろうねー?」
ルナマリアに笑いかけると彼女も少しばかりぎこちなく笑う。
やだなー、そんなに笑顔強張ってるかなー。
表情筋のマッサージいるかな、と頬を指の腹で揉んでみせる。あ、ファンデついた。これは動揺してますね、私。
ダメだわ〜、となりながらルナマリアが差し出してくれたウェットティッシュで手を拭う。
「お待たせしました。こちら私どもに新しく入ったデザイナー作のスカートで、今季の新作でございます」
黒色のマーメイドスカート。
膝下までは普通のタイトスカートに見えるのに、膝下からはレースになってくるぶしまで長さがある。
それ自体はそこそこ見るデザインだけど、ちょっと変わっているのは左右真横より手前側についたスリットがウエストまであること。
レースで地肌が見えなくなってはいるけど。
「…ちょっと大胆なのでは?」
「スリットでしたら膝下まで下地がありますのでお肌は決して見えません。こちらレースの模様が花畑と蝶になっておりまして、履いて歩かれますとスリットのところのレースの蝶が舞うように動いてそれは綺麗なんですよ」
足元のレース部分がぐるりと花畑のイメージになっていてスリット部分のレースは蝶の形になっている。
薦められて試着すると確かに可愛かった。
黒色の生地はマットな質感だけど光を柔らかく反射して思ったより印象は軽い。
膝下がレースだけで広がっても派手すぎないのが良い感じ。
足を動かすと動きに合わせて蝶が羽ばたく様に動く。
あー、いいなこれ。今着てるVネックシャツに合わせるならこっちのマーメイドの方が軽くて良いかも。
ルナマリアがロングタイト見たーいと言ってたので私服のロングタイトを履いてたけど、どうせならこっちを合わせて歩いて見たいなぁ。
「これどうかな?」
「アーサー可愛い!私がロングイケるなら買っちゃう〜」
「お客様、こちらにデザインは違いますが、同じデザイナーのミディ丈のものでしたらございますが」
「試着します!」
ルナマリアに似合いそうなミニスカートにレースを足してミディ丈になった明るい色のフレアスカートだ。
可愛い!とはしゃぎながらルナマリアが試着室から出てくる。
こちらのマーメイドと違ってミニスカートの上からレースを被せているレイヤードだからふわっとしていてとても可愛い。
「あー、私があと10歳若かったら買ってるなー」
「えー、今からでもアーサーなら可愛いし着れると思いますー」
うーん、似合うとか似合わないとかじゃなくてね、20代後半で膝上ミニは覚悟がいるんだよ、ルナマリア。
あと10年すれば分かるからそれまでにいっぱいミニを履くと良いよ。
ルナマリアに言い含めるとショップのお姉さんが深くうなづいていた。

2人ともスカートを買ってタグを切って貰い履いてショップを出る。
新しいデザイナーの作という事で、お披露目も兼ねて新作だけどちょっとお得なお値段で嬉しかった。
今後要チェックだよね、とルナマリアと頷き合う。
可愛いスカートで気分が上がって、女子会用にお菓子でも買って帰ろうかと話しながら歩いていると、ベッタベタなナンパにあった。
『オネーサン達カワイイネー。2人ダケ?良カッタラオ茶シナイ?オレ達良イ店知ッテルンダケド…』
笑ってしまうほどベッタベタすぎる。
今日日こんなナンパに引っかかる女性がいるのかな?と首を傾げているとなんだかナンパ君達は複数いたらしい。4人?いや5人?ちょっとこれはナンパとは呼べない気がする。
ぐるりと囲まれ、さりげなくジリジリと距離を詰められている。
そこの物陰に連れ込まれて婦女暴行の可能性が高いのではないかしら?
アプリリウスも治安が悪くなっちゃったのかなぁ。
ナンパ君が声をかけてきた瞬間からスッと意識を切り替えただろうルナマリアが、さりげなくショッパーを片手に持ち替えている。
いざとなったらショッパーを全て捨てて格闘術で応戦するつもりだろうなと、ふと端末の設定を思い出して「ちょっとスケジュールが〜」と端末の確認をするフリをして左上をポチッと5秒押す。
本来、コレはミレニアムの憲兵詰め所にしか通報されないはずなのだけれども。
『チョットダケダヨ〜』などと下卑た目で見て路地の方に追い込もうとする面々をかわしながら少し待っていると猛スピードで近づく足音が聞こえる。
…やっぱりかー。
「ごめんね、そろそろ迎えが来たみたいだから帰るね」
「アーサー!ルナマリア!無事ですか!?」
あ、ルナマリアもちゃんと助けに来てくれてるんだ。
うーん、本当にストーカーじゃなければ彼女くらい出来そうなのになぁ。
「テメェら俺のルナになんの用だ!」
「あ、シン、とっちめても良いけど後遺症は残らない様にね」
「アーサー、シンも来たから私ちょっと一緒にシメて来ますね!」
ルナマリアが私にショッパーを渡してシンの加勢に行く。
なかなかの暴れん坊カップルである。
殴りかかるシンにナンパ君達が群がろうとしてルナマリアが投げ飛ばし、ルナマリアに殺到しようとするナンパ君達をシンが噛み付かんばかりに掴みかかる。
ある意味出番の無くなったハインライン大尉が、シンとルナマリアの暴れっぷりに呆然としている。
そこに突進してきたナンパ君の足を攫い、ハインライン大尉にショッパーを全部持たせてからタイミングを合わせて投げ飛ばす。
目の前の出来事にハインライン大尉は驚きすぎて声が出ないみたいだ。
まあ、この人訓練受けてても技術大尉だから実戦経験無いだろうし動けないのは仕方ないよね。
駆けつけて隙を作ってくれただけでも御の字、後は私が護らなくっちゃ。

投げ飛ばした?突進してきたから仕方ないです、不可抗力です不可抗力。正当防衛を主張します。
シンとルナマリア?若い子って血の気多いから。彼女を裏路地に引き摺り込まれかけた彼氏君なんです。彼女を護りたい一心だったんです。分かってあげてください。

すぐ駆けつけた警察にナンパ君達に裏路地に引き摺り込まれかけたのをちょっと離れてた「連れ」に助けてもらったんです、と主張する。
連絡先は警察に控えられたが、今後のことはザフト経由でご連絡下さいというとちょっと苦々しい顔をされたものの、まあ今後はお手柔らかにお願いしますね、と言われてしまった。
ナンパ君達は余罪がありそうなので、じっくり取り調べて下さいと強くお願いしておくと分かりました、と警察の人達はナンパ君達が詰め込まれた救急車に同乗して行ったので、多分大丈夫でしょう。

解放されてすぐシンとルナマリアがいちゃついているのが目に入る。
「大丈夫かルナ?怖くなかったか?」
「大丈夫よシン。助けに来てくれてありがとう。とってもカッコ良かった」
同じやり取りを警察が来た後に3回は見たなー、4回目かなー。
飽きないのかな?
飽きないから恋人なのかな。
2人をガン見しているハインライン大尉に近づく。
ガン見は良く私もされるけど、ガン見するの癖なのかな?
そう思えばちょっと好奇心旺盛な子どもみたいだ。
ウィルも良くねぇねぇコレは?ってベタベタしてくるしね。
コノエ艦長がセクハラやストーカー騒ぎのアレコレでハインライン大尉に処分を下す際に、私にアルバートはなんというか人としては正直育ち切ってないところがあってなぁ、と若干謎なフォローをされていたのを思い出す。
なるほど、こういうところなのだろうか。
「アルバートさん」
「…は?」
「外ですから、私もアーサーって呼んでくださいね」
「…あ、ああそうですね。みだりに姓や階級を出すわけには行きませんからそうですね」
動揺したのか掛けている黒縁メガネの位置を直す。
普段モノクルデバイスも良く掛け直してるのも癖なのかしら。
なんだか思ってたよりちょっと分かりやすい人なのかも知れない。
「今日はメガネなんですねぇ」
「いつものは目立つので。コレはいつものよりはスペックは限られますが、撮影機能やナビゲーション機能は搭載していますし、護衛を行うにはそれなりの機能は有していますので役に立ちます」
…今サラッと撮影って言わなかった?
したの?それ盗撮って言わない?
なんで自慢げなの?
ちょっとここで指摘したら証拠を消されても嫌だから、このままミレニアムのコノエ艦長のところに連れていこうと決意する。
本当になんでこの人私のストーカーしているんだろう。
「ルナ…そのスカート見たことないやつだ。可愛いよ」
「シン…ありがとう、さっき買ったばかりなの。今日はケチがついちゃったし、今度デートで着ても良い?」
「もちろん!そういうスカートなんて言うかわからないけど、ルナは広がってるのも似合ってるよ!」
「もう、こういうのはフレアーっていうの。シンは次のデートどこ行きたい?どんな格好する?私トップスはシンに合わせたいな」
うっとり抱き合って次のデートの約束をし始めた2人に帰艦を促す。
盛り上がってるなぁ、ラブラブカップルを見るのは独り身にはキッツイですよぉ。
「お互い独り身だとラブラブしてる人見るのキツいですよねぇアルバートさん」
「…そうですね…ええと、アーサー」
雑談を投げると意外に返事が返ってきた。普段はガン無視するくせに〜。
動揺してるのかな。それとも独り身が辛かったりするのだろうか。
「アルバートさんなら、私のストーカーやめたらすぐ恋人出来ると思いますよ?」
ハインライン大尉がびっくりしている。
「…今日は護衛です」
「あははー、ところでこの端末の設定、憲兵の詰め所に通知が届くはずなんですけどー」
「届いているはずですが?」
「そうですね、すぐ対応中って言っておきましたし、警察の取り調べ中に対処完了って連絡入れておきましたよ」
憲兵には騒がせて悪いことをしたので後で差し入れでも持っていこう。
「これ、憲兵の詰め所だけじゃなく、アルバートさんにも連絡入る設定になってますよねー?」
艦長に怒られて変えたはずなのに、どうしてこう抵抗するのか。
そんなにストーカーしたいのか。
ハインライン大尉は目を逸らす。
やっぱり子供っぽいなこの人。
散々な目にあったので車を手配してさっさと艦に戻った。

艦に戻ってすぐコノエ艦長の元に連れて行かれ、「この人ルナマリアとの外出を尾行していた上に盗撮していたみたいです。あとシンをストーカー行為に巻き込んでました」とアーサー副長に告げ口された。
艦長室にて子どもみたいにハインラインは正座させられて説教される。
足が痛い。
コノエ艦長はいつもみたいな穏やかな笑顔だが、内心怒髪天をついているようだ。
有無を言わさずアーサー副長の端末の設定を修正させられた。
その上、正座させられたままルナマリアとアビーとルナマリアの妹のメイリンについての相談が続く。
足を崩そうとするとコノエ艦長から「まだ説教は終わっていないが?」と怖い笑顔が降ってきた。
思わずコノエ先生ごめんなさい、と言いそうになってしまう。
色々話がまとまり、待たせているルナマリアの端末を確認してデータを引き抜くように命じられる。
「アルバート、お前のストーカーの証拠をお前に触らせるのは非常に嫌なんだが、技術的にはお前しか適任がいない。ルナマリアの端末にバックドアが仕掛けられていないか、またデータにウイルスが仕掛けられていないかも含めてチェックするように。作業は私が同席する」
「艦長が?」
「他の者に事情を説明するわけにもいかんだろう。アーサーの方はルナマリア達と女子会ついでにもう一度箝口令を頼む」
全く頭が痛いと眉間を抑えるコノエ艦長にハインラインは少し悪いことをした気がする。
「ハインライン大尉」
アーサーが近づいてくる。
ハインラインは正座しているのでまっすぐ見るとアーサーのスカートで視界がいっぱいになる。
ウエストから広がるあまりにも深いスリットで舞う蝶に動揺してしまう。
またこんなスカートを履いて、悪い奴らに絡まれたらどうするんだ。と思うが、そういえば絡まれてきたばかりかとも思う。
「今日絡まれてましたけど、すぐ対応できてたでしょ?」
「…それはそうですが」
「もー!男の人くらいぶん投げられますよ?ハインライン大尉が心配するような事無いです、断言できます!」
アーサーの後ろでコノエ艦長がそれはどうかなーという顔をしているのが見えた。
ああ、でも、確かに自分が動けない時にもサッと投げ飛ばしていたアーサー副長の姿を思い出す。
なるほど、少なくとも成すすべなく蹂躙されてしまうような事はないのだ、たぶん。
「なるほど、私が駆けつけても足手纏いにしかならないのかも知れません。ならば艦内の防犯システムを強化したいと思います。人と人の距離や場所、状況をカメラにより判定させて犯罪率を付与させるのはどうでしょうか。憲兵詰め所で待機中に犯罪率が一定の値を超えれば通報される仕組みにすればカメラのある場所での犯罪率をさらに低くすることが可能と思われますので、私がいつも見ていなくても安心できます」
状況判断のシステム開発には少し時間がかかるかも知れないが、やりがいはありそうだ。
それに、アーサーの護衛をしなくても護られるのならその方が良い。
合理的な判断だ。
コノエ艦長が、お前がストーカーを止めるならもう何でも良いぞ、と呆れたように言う。
アーサーはまあ、それなら艦のためになりますし、と納得してくれている。
ルナマリアを待たせているからと立たされるが、正座を長時間していたせいでふらついてしまう。
「危ないですよ」
隣にアーサー副長が立って支えてくれた。
男性1人支えているのにしっかり立っている。
なるほど、本当に強い。
「しっかりされている。確かに心配しすぎていたのかも知れません」
「そうですよー」
「今まで心配しすぎて失礼しました。艦内の防犯システムの強化は任せてください」
不埒な振る舞いをしようとするほど近づいた輩は片っ端から通報するようにしよう。
しかし、不埒な振る舞いをしようとした人物と恋人の距離は判定が難しいか?
いや、あらかじめどこまで近づいて良いかグループ分けを登録式にして距離感を判定するようにすれば良いか。登録は端末からでも設定できるようにすれば付き合ったり別れたりしても関係性をすぐ修正できる。
ああ、でもアーサー副長はうっかり忘れてしまいそうだな。
「恋人が出来たら教えて下さい、近づけるようにしますから」
「えーっ!?私の恋人なのに、私に近づくのにハインライン大尉の許可がいるんですか?」
不思議そうなアーサーと真面目な顔でとんでもないことを言い出すハインラインに、コノエはやっぱり早くアーサーに恋人を作らせよう、と決意するのであった。
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