【CP注意?】マリスビリー×カリオストロ


「お初にお目に掛かります。アレッサンドロ・ディ・カリオストロと申します」
 幼い時分、蔵で偶然見つけた魔導書を興味本位で読んだのがマリスビリーの人生の岐路だった。
 彼はその日ありえざる運命と出会った。閃光が全身を駆け巡るような衝撃を受け、息をすることさえ忘れた。身を焦がすほどの恋を知ってしまった。
 そうして彼は決意したのだ。
 いかなる手段を使ってでも、目の前の英霊に――己が運命に子を産ませると。


 穏やかな日差しが差し込むアニムスフィア家の屋敷の一室に、当主とその伴侶の姿がある。
 伴侶……そのように定められたサーヴァント、カリオストロは両腕に抱いた赤子を見下ろしながら、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
「こら、オルガマリー。髪を引っ張ってはいけませんよ」
 オルガマリーと名付けられた赤子は言葉にならぬ音を発して手足をばたつかせる。母親であるカリオストロの長く垂らした銀髪を時折掴んでは、無邪気に笑っている。
「ふふ、元気いっぱいだね」
 カリオストロの隣に立つ当主、マリスビリーの声音は柔らかく愛情に満ちている。大切な伴侶に肩を寄せて愛しい我が子を静かに見つめる様子は、幸福の体現というほかない。
 生まれたばかりの頃より随分と活発に動くようになったオルガマリーの成長は目覚ましく、かけがえのない時間を過ごす二人の光景は理想とされる夫婦の像そのものであった。
 ……だがその理想は、カリオストロを伴侶とする道をオルガマリーが選んだ時点で泡沫の幻でしかない。
 カリオストロは人理の影法師であり、いずれ消えゆく結末にある。マリスビリーが持てるリソースを投入し現世に繋ぎ止めているものの、オルガマリーを産み落としたことで膨大な魔力を消費していた。残された時間は最早幾何もないだろう。
「そうだ、今度記念写真を撮ろうか。子供の成長を記録しておきたい」
「ええ、是非」
 カリオストロは退去の時が迫っていることを悟っているが、それについて当人は何の感慨も懐かない。空虚がカリオストロの本質であり、マリスビリーが求めた最愛の伴侶としての振る舞いをただするのみである。あらゆる言動が作り物であり、娘に対する優しい表情もまた見せかけにすぎない。
「本当に、日に日に育っていく。きっと貴方に似た素敵な女性になるのでしょうね」
 完璧なまでに美しく破顔したカリオストロはオルガマリーの頭を撫でようとして、不意に伸びてきた小さな手に指を握られた。
「ぁ、う、ぅ」
 真実を知らぬオルガマリーの無垢の瞳が、仮初の母を映して煌めく。指から伝わる微かな温もりに、その瞬間カリオストロの胸中に去来する何かがあった。
「……――」
 カリオストロの睫毛が僅かに震えた。伽藍堂の中に響いたそれはともすれば見落としてしまいそうなほどに朧げだったが、確かに感じたのだ。
(これは、何だ)
 知覚した何かをどう定義すべきかカリオストロは分からない。役を羽織るだけの自らの内より湧き出るものがあった事実に困惑を覚え、翠と紅の眼が揺らいだ。
「……アレッサンドロ?」
 固まった様子を不思議に思ったか、マリスビリーに声をかけられてカリオストロは我に返った。咄嗟に感情をかき消し、妻としての笑みを形作る。
「ああ、指を掴まれたのでつい驚いてしまいまして。こんなことは初めてで……愛らしいですね」
「そうか。……」
 マリスビリーは表出したカリオストロの心の機微を見逃してはいなかった。問おうとして、しかし口を噤んだ。
 愛する妻に、そう意味づけた存在に生じた何かを暴いてしまえば今の幸せが壊れてしまいそうで、彼は脳裏に過った不穏から目を逸らした。
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