とある月夜に


穏やかだが肌寒い風が吹いている事以外は特に何事もない月夜
ゾロとリューマはいつものようにトレーニングルームで見張り番という名目の晩酌に興じていた
お気に入りの盃に並々と酒を注げば、水平線を照らす月が揺れながら写る
満月というには欠けているが、下弦というにはまだ太い
そんな月夜に思い出すのは、“偉大なる航路 ”に入って最初に上陸した島での事だった
「思えばあれがお前の……お前らの初陣だったな」
ゾロは傍に置いた刀ー三代鬼徹ーの柄を撫でながら独り言ちる
((なんだ、らしくねェな))
そう返すのは隣に座るリューマの声
こちらも傍らには盃が一つ
「ははっ、かもな」
ゾロはそう言って笑い返し、盃を煽った

酔い潰れた仲間達を狩ろうとしていた大量の賞金稼ぎを相手に、大立ち回りを演じたあの夜
せっかくの機会だからと、ゾロは一番馴染む親友の形見ではなくローグタウンで手に入れた“新入り”達で戦った
月光を受けて踊るのは、妖しく閃く禍々しい刃と凛と美しい軽やかな刃
だがあの夜の輝きの片割れは、既にゾロの傍にはなかった

盃に写る月を眺めながらゾロは思う
「今頃、どうしてるんだろうな」
((くいなの近くにいるか…そうじゃなきゃあの船でその辺旅してるかだろうな。けど、どっちでも構わねェんだろ?))
リューマはそう言ってニッと笑う
それにつられるようにゾロも「ああ」と笑った

ゾロは盃に視線を落としながら、目を細める
透き通った酒に揺れるは、あの日と変わらない景色
((待ってろよ))
「お前にも、必ず届けるからな」
二人はここにはいない“誰か”に言い聞かせるように呟くと、盃の中身を飲み干し水面を照らす月を見据えた
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