――星なんか、全然興味なかった。好きでも嫌いでもなかった。でも、あの満天の星を知ったら、そうじゃなくなっちゃった。
<比率>
1:1:0
(2:0:0版 -アルタイルー)
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(0:2:0版 ーヴェガー)
https://writening.net/page?kwhsxj
<時間>
30~40分
<登場人物>
加藤
【加藤文則(かとうふみのり)】男性
中学二年生。本好きな、ほくろの多い少年。
篠崎
【篠崎ゆりな(しのざきゆりな)】女性
中学二年生。スクールカースト上位のギャル。
<利用規約>
https://writening.net/page?bmsmZi
------------以下台本—----------
―ある日/旧美術室にて
加藤:えっと……篠崎……さん。
篠崎:ゆりなでいいよ。タメじゃん、うちら。
加藤:いや、さすがにそれはちょっと。
篠崎:そう?じゃあ篠崎でもいいや。
加藤:じゃあ……篠崎。
篠崎:うん。
加藤:俺に何の用?
篠崎:……
加藤:急に「放課後、旧美術室に来て」なんて。
篠崎:別にいじめたりしないよ?
加藤:あ、いや、篠崎ってそういうタイプじゃないし、そうは思ってないけどさ……
篠崎:あ、もしかして告白だと思った?ごめん、そういうのでもない、んだけど……
加藤:告白はもっとないだろ。それくらい俺でもわかる。
篠崎:……
加藤:そもそも俺ら、全然話したことないだろ?だから多分、ちゃんと理由はあるんだと思う。できたら、それを教えてくれたら助かるんだけど。
篠崎:……
加藤:言いたくないならいいんだけどさ。いや、よくはないか。ずっとこうしているわけにもいかないし。
篠崎:そんなこと、分かってるもん。
加藤:……
(篠崎、大きく息を吸って吐く)
篠崎:……服。
加藤:服?
篠崎:脱いでくれない?
加藤:は?
篠崎:上だけでいいから。
加藤:え、いや、なんで?
篠崎:別に変なことはしないからさ。
加藤:今の時点で相当変だぞ。自覚ないのかよ。
篠崎:本当に、何もしないもん。
加藤:だとしても、嫌に決まってるだろ、そんなの。
篠崎:触ったりとかは絶対にしないから!お願い!
(篠崎、勢いよく頭を下げる)
加藤:……
篠崎:……だめ、かな。
(加藤、ため息をつく)
加藤:……写真撮ったりとかもなしだからな。
篠崎:絶対しない。だから、お願い!……します!
(篠崎、もう一度頭を下げる)
加藤:本当に、上だけでいいんだな。
篠崎:うん。
加藤:本当に、変なことはしないな?
篠崎:誓う。
加藤:……分かったよ。
篠崎:……
(加藤、上裸になる)
加藤:……ほら。
篠崎:……背中。
加藤:え?
篠崎:えっと、後ろ、向いてくれる?
加藤:後ろ?
篠崎:うん。背中を見せて欲しいんだ。
加藤:見るだけ?
篠崎:うん、見るだけ。
(加藤、後ろを向く)
加藤:……これでいい?
(篠崎、加藤の背中を見つめる)
篠崎:……
加藤:……篠崎?
篠崎:そのまま、しばらくそうしててくれる?
加藤:……分かったよ。
(少しの間)
篠崎:加藤ってさ、ほくろ多いよね。
加藤:やめろよ。気にしてるんだから。
篠崎:別にいいじゃん。
加藤:何が?
篠崎:あーしは、これが見たかったんだもん。
加藤:え?
篠崎:あのね、星空みたいだなーって思ったんだ。この間、体育の着替えの時に見かけた時に。
加藤:星空……
篠崎:だから、もう一度見たかったの。
加藤:えっと……
(篠崎、へへと笑う)
篠崎:やっぱりキモいね。
加藤:あー……ぎりぎり、かな。
篠崎:ぎりぎり、どっち?
加藤:今のところ、ぎりぎり、どっちともとれる感じ。
篠崎:そっか。
加藤:本当に、俺はずっとコンプレックスでさ。この背中が。
篠崎:うん。
加藤:だから、星空みたいって言われたのは、正直嬉しかった。けど、いきなり裸になれって言われたり、背中をただ見られているだけっていうのは、さすがにちょっと意味が分からないからさ。
篠崎:それは確かにそっか。
加藤:だから、ぎりぎりセーフとも言えるし、ぎりぎりアウトとも言えるかなって。まあでも、今はいいって。その辺は。
篠崎:……
加藤:篠崎は……まあいわゆるスクールカースト上位だしさ。
篠崎:それ、なんか関係ある?
加藤:大アリだろ。毎日メイクして教室で動画撮ってる篠崎と、その背景の一部みたいに本を読んでばっかりの俺のような人間は、絶対関わることはないと思ってたから。
篠崎:……
加藤:だから、なんだか不思議な感じなんだよ。そのせいか、いい意味でも悪い意味でも、今は現実感がない。
篠崎:現実感……
加藤:要は、とりあえず今はまあいいやってこと。
篠崎:……別に
加藤:ん?
篠崎:別にあーしだって本くらい読むし。
加藤:本当に?
篠崎:「忘却のシリウス」とか、好きだし。
加藤:「忘却のシリウス」かあ。あれは文体がかっこいいから、読んでて楽しいよな。
篠崎:……ごめん、漫画になった方しか知らないから、文体までは分からない……かも。
加藤:そっか。じゃあすすめるだけすすめておくよ。あれは絶対に小説で読むべきだ。
篠崎:ん、わかった。
(少しの間)
篠崎:さすがに、そろそろ寒いよね。
加藤:まあ、少し。
篠崎:ありがと、もう服着ていいよ。
加藤:分かった。
(加藤、服を着始める)
加藤:篠崎さ。
篠崎:なに?
加藤:星が好きなの?
篠崎:んー、多分?なんでそんなこと聞くの?
加藤:星空みたいって言ってただろ。俺の背中のこと。だから、星が好きなのかと思って。
篠崎:そっか。
加藤:多分、なんだな。
篠崎:うん、多分。
加藤:そうか。
篠崎:……
(少しの間)
篠崎:加藤。
加藤:なに?
篠崎:また、呼び出してもいい?
加藤:……
篠崎:本当に、見るだけだから。今日みたいに。
加藤:……分かったよ。
篠崎:へへ、ありがとう。
加藤:じゃあ俺、そろそろ帰るから。
篠崎:ん。
加藤:またな。
(加藤、出ていく)
(篠崎、その背中を見送る)
【間】
―また別の日/旧美術室にて
篠崎:加藤。
加藤:何?
篠崎:超今更なんだけどさ。
加藤:うん。
篠崎:本当に、いいの?
加藤:本当に今更だな。
篠崎:だってほら、さ?あの時は「現実感がなかった」って言ってたし。
加藤:まあ、そうだけど。
篠崎:だから、現実感がないままオッケーしたんじゃないかなーって。
加藤:……
篠崎:一週間経って冷静になってみたら、やっぱりキモいから嫌だってなってもおかしくないでしょ?でも、今更後には引けないし、ってなってたら……なんか悪いじゃん?
加藤:まあ、今も変だとは思ってるけど……
篠崎:……だよね。
(少しの間)
加藤:こないだ、帰ってから動画を見たんだ。
篠崎:動画?
加藤:星空の。適当に検索したからどこのだったかは忘れたけど。
篠崎:……
加藤:篠崎が、星空みたいって言ったから。俺の背中のほくろを。
篠崎:……それで?
加藤:東京じゃ星なんかろくに見えないし、篠崎は俺に何を見たんだろうって、気になったんだ。
篠崎:うん。
加藤:すごかった。
篠崎:……
加藤:あれは、何度だって見たくなるよな。だから、見たらいいよ。見るだけなら、好きなだけ。
篠崎:……ありがと。
加藤:ん。じゃあ、ほら。背中。
(加藤、服を脱ぐ)
(篠崎、その背中を見つめる)
篠崎:加藤君、さ。
加藤:ん?
篠崎:理由、聞かないんだね。
加藤:篠崎が星空にこだわる理由?
篠崎:ん。
加藤:……気にならないわけじゃないけど、簡単に言えることなら、もう言ってるだろ。篠崎は、はっきりと物を言うタイプだろうし。
篠崎:……
加藤:だから言わないなら、別にいいか、って。
篠崎:そっか。
加藤:それに、俺、あんまり好きじゃないんだ。深刻な話って。
篠崎:それは割とみんなそうじゃない?
加藤:切り出されたら、ちゃんと聞かないといけないもんな。
篠崎:責任が生まれるもんね。
加藤:ああ。
(少しの間)
篠崎:なんか、変な感じだね。
加藤:何が?
篠崎:こないだまで全然話したことがなかったクラスメートと、いきなりこんな、ね。
加藤:いかがわしいことしてるみたいな言い方、やめろよ。
篠崎:いかがわしくはないけど、人には言えないじゃん?
加藤:まあ……それはそうだけど。
(少しの間)
加藤:篠崎みたいな、誰からも注目されてる人気者には分かりづらいかもしれないけどさ。
篠崎:……
加藤:同じクラスって言ったって、結局は他人だから。
篠崎:なにそれ。
加藤:俺らって、ただ同じ教室にいるってだけで、結局は同じ町で生活しているだけの通りすがりと変わらないんだよ。だから、会話することがないのも当たり前だし、ふとした瞬間に……それこそ、「落としましたよ」みたいなところから会話することも、それはそれで当たり前にあることなんじゃないかと、俺は思ってる。
篠崎:なんかそれって凄く受け身だね。
加藤:篠崎ほどじゃないだろ。
篠崎:……
加藤:ごめん、別に悪い意味じゃないんだ。ただ、篠崎ってクラスの中心グループにいる割に、自分から誰かに話しかけたりしてる姿を、あんまり見たことがなかったから。
篠崎:他人だ、って冷たいこと言う癖によく見てるね。
加藤:篠崎は目立つから。どうしたって目に入るよ。
篠崎:そっか。
加藤:それに、ここ最近は、特に見てたから。
篠崎:え。
加藤:多少の縁ができたからな。
篠崎:通りすがりじゃなくなったってこと?
加藤:そう。見知った人が同じスーパーにいたら、つい見るだろ。それと同じだよ。
篠崎:あーし別に見ないかも。
加藤:うるさいな。俺は見るタイプなんだよ。
篠崎:ふうん。
(少しの間)
篠崎:……あーしにとっての星空も、そんな感じだった気がするな。
加藤:……
篠崎:星なんか、全然興味なかった。好きでも嫌いでもなかった。でも、あの満天の星を知ったら、そうじゃなくなっちゃった。
加藤:あの時――星が好きなのかって聞いた時に、篠崎が「多分」って言ったの、俺、今ならなんとなく分かるかもしれない。
篠崎:……
加藤:好きかどうかは分からないけど、嫌いじゃない、みたいな感じなのかもしれないな、って。
篠崎:……そうかも。
加藤:うん。
篠崎:……好きって言えるほど知らないし、触れてもない。だけど、気づくと目が、それを追ってるの。
加藤:嫌じゃないし、興味はあるんだけど……ってやつだな。
篠崎:でもさ、むしろそんな中途半端なものばっかりだよね。あーしらの周りって。
加藤:好きな教科とかな。
(篠崎、くすくすと笑う)
篠崎:そうそう、嫌いな教科ならはっきり分かるのにさ。
加藤:篠崎の嫌いな教科って何?
篠崎:こくご。
加藤:あれ、篠崎国語の成績は結構よくなかったか?いつだったか順位表に名前が出てたろ。
篠崎:うーん……あーし、質問している人間はきっとこういうことを答えさせたいんだろうな、ってのを読むのは得意なんだ。だけど、感受性?みたいなものを求められるのは超苦手。
加藤:ごめん、思ったより結構すごいことしてて、びっくりした。俺はそこまで考えたこと、なかったから。
篠崎:本好きなのに?
加藤:関係ないだろ。
篠崎:あ!あとね、国語担当の粕谷(かすや)がうざいから嫌い。
加藤:ああ、あれはなあ……。
篠崎:「国語は作者と対話することです!」とか、意味が分からないし。あとさ、あいついつもちょっとおばあちゃんちのタンスみたいな匂いしない?
加藤:するする。あれなんの匂いなんだろうな。
篠崎:ね。ねえ、加藤は?
加藤:嫌いな教科?
篠崎:うん。
加藤:体育。
篠崎:あー……まあ、確かにあんまり得意な印象はない、かも。
加藤:あれは公開処刑だろ。ペーパーテストなら、点数は自分しか知らないでいられるけど、体育はできないのがみんなにバレる。あれが嫌なんだ。
篠崎:そんなこと考えたこともなかったなあ。
加藤:だろうな。
(加藤、小さくくしゃみをする)
篠崎:ごめん、つい長くなっちゃった。今日はもう終わりにしよ。
加藤:悪い。
篠崎:いいっていいって。はい、服。
加藤:ん。
(加藤、もぞもぞと服を着る)
篠崎:今日も、ありがとね。
加藤: あの、さ。篠崎。
篠崎:ん?
加藤:篠崎って、家どっちなの?
篠崎:んっとね、旗池(はたいけ)の方。
加藤:あ、俺と同じなんだな。
篠崎:えー、そうだったんだ。知らなかった。
加藤:そろそろ暗くなるし、危ないかもしれないから。一緒に帰ろうか?
篠崎:ううん。今日はもう少しここにいる。大丈夫だよ、ママと電話しながら帰るから。
加藤:そっか。えっと、それじゃあ、また明日。
篠崎:うん、またねー。
(加藤、出ていく)
【間】
―さらに別の日/旧美術室
(篠崎と向き合う加藤)
(篠崎の手には包帯が巻かれている)
加藤:手、大丈夫か。
篠崎:……
加藤:ごめん。
篠崎:なんで?
加藤:なんで、って……
篠崎:なんで謝るの?加藤のせいじゃないのに。
加藤:でも、本田が俺の背中のほくろをからかったから、それで怒ってくれたんだろ?
篠崎:悲劇のヒロインみたいなこと言うじゃん。
加藤:気持ち悪いこと言うなよ。
篠崎:んー、ごめん。でも、さ、むかついたんだもん。
加藤:……
篠崎:あいつ、あーしの星空を侮辱したんだよ。そりゃむかつくよ。グーパンも出るよ。
加藤:ごめん。
篠崎:だからなんで謝るの。
加藤:そりゃ……謝るだろ……。
篠崎:気にしないでよ。この手の怪我だって、ほとんどはグーパンしたときに付け爪が掌に刺さった傷だし。
加藤:でも俺、篠崎が突き飛ばされて転んだのに、何もできなかった。ただ突っ立ってるだけで、何も。
篠崎:そりゃ、あんなこと言われたら固まるって。本田、マジでなんなのあいつ。「病気みたい」って。マジでなんなの。
加藤:……
篠崎:マジでむかつく。
(少しの間)
加藤:……そういえば、はじめてだな。
篠崎:……なにが?
加藤:俺から呼び出したの。
篠崎:……心配かけたのは、悪いと思ってるよ。
加藤:そんな理由じゃくて。
(加藤、ゆっくりと服を脱ぎ始める)
篠崎:加藤、今日は別に
加藤:俺は。
篠崎:……
加藤:俺は、いつも通りのことをしようと思っただけだから。
篠崎:……
(加藤、篠崎に背を向ける)
加藤:……篠崎。
篠崎:んー?
加藤:俺の背中、今日もちゃんと星空に見えるかな?
篠崎:……見えるよ。当たり前じゃん。
加藤:そっか。
篠崎:……
加藤:そりゃあ、篠崎が心配だったのも少しはあるけどさ。
篠崎:……ごめん。
加藤:悲劇のヒロインみたいなテンションだな。
篠崎:むかつく。
加藤:じゃあこれでおあいこだ。
(長めの間)
篠崎:……こないだの夏休みにさ、おばあちゃんちに行ったんだ。
加藤:うん。
篠崎:鳥取。
加藤:……
篠崎:そこで見たんだ、星空。
加藤:鳥取って、星見えるんだな。
篠崎:星取県(ほしとりけん)って呼ばれてるんだって。県内のどこからでも天の川が見えるから、らしいよ。
加藤:知らなかった。
篠崎:あーしもこないだまで知らなかったし、今まで何度も鳥取には行ったことはあったけど、わざわざ夜空を見上げたことはなかったよ。興味もなかったから。
加藤:……
篠崎:あのさ、加藤。
加藤:ん?
篠崎:ごめん、あーし、今から少しだけ深刻な話しようとしてる。
加藤:いいよ。
篠崎:ん。
(篠崎、大きく息を吸い、ゆっくりと吐く)
篠崎:鳥取には、ひとつ年上の従兄弟がいてさ。
加藤:うん。
篠崎:……いた、かな。
加藤:……うん。
篠崎:ううん、やっぱり「いる」で。
加藤:……
篠崎:……
加藤:どっちでもいいよ。「いた」でも「いる」でも。
篠崎:……
加藤:……
篠崎:鳥取に行くたびにハルは……従兄弟は、年上ぶってあーしに絡むんだ。東京のスタバはどうだとか、原宿はどうだとか。田舎もの丸出しって感じでうざいくらいに。
加藤:うん。
篠崎:友達はいるのかとか、好きな奴はできたのかとか、最近は電話でもLINEでもそんな感じで。あーしさ、それが本当にうざくって。
加藤:俺はその人の気持ち、なんとなくわかる。
篠崎:なんで?
加藤:篠崎は見た目もいいし、性格だって割とちゃんとしてて、だからあんまりにも隙が無さ過ぎて、嘘っぽく見えるときがある。気がする。
篠崎:なにそれ。
加藤:ごめん、悪い意味じゃないんだ。ほら、前に国語の話をしただろ?
篠崎:……
加藤:あれ聞いてて、なんかすごく納得したんだ。
篠崎:納得?
加藤:篠崎って多分、他人(ひと)から求められているものを察知するのがすごく得意で、だから誰に対しても日常的に、反射的にそれにしっかり応えちゃってるんだろうなって。応えられるだけの能力もあるから、余計に。
篠崎:……
加藤:でも、篠崎を見ているこっちは、本当の篠崎はどこにいるのかなって思う時があるんだ。だからきっと、その人もそうだったんじゃないかな。
篠崎:……むかつく。
加藤:ごめん。
篠崎:……でも、ハルも同じようなことを言ってた。
加藤:そっか。
篠崎:だからあいつ、鳥取に行くと必ず、あーしに全部決めさせるんだ。「ゆりなは何がしたい?」「ゆりなが決めんと俺は動かん」って。自分から誘っといて。いつもいつも。
加藤:すごいな。
篠崎:本当にうざくって。
加藤:うん。
篠崎:……あのさ、もうわかったでしょ?この話の落ち。
加藤:どうだろう。
(少しの間)
篠崎:……嫌いじゃなかったよ。自分でしたいことや行先を決めさせられるのも、ハルの無駄に元気なところも、無駄に大きな声も、大きな手も。あーし、別に嫌いじゃなかった。でも、好きなのかって言われると、それは分からなかった。
加藤:うん。
篠崎:分からないまま、ハルは死んじゃった。
加藤:……
篠崎:脳幹なんとかだったんだって。おばさんが言ってた。去年の夏行ったときは、いつも通りだったのにね。
加藤:そっか。
篠崎:通話した時も、元気そうだったのに。
加藤:……篠崎。
篠崎:……
加藤:言っていいのか分からないけど……
篠崎:なに今更。言いなって。
加藤:……きっと篠崎は、自分の求めているものを察して、その通り動いてくれるだろうから、動いてくれてしまうだろうから、それがその人は嫌だったんじゃないか?
篠崎:……
加藤:あくまでも、俺がその人ならって話だけど。
篠崎:でも、加藤はハルじゃない。
加藤:ああ。俺は彼じゃない。だから、今のはどう受け取っても構わない。
篠崎:……
加藤:……
(少しの間)
篠崎:夏に鳥取に行ったとき、ハルはもう病院から自宅に戻ってた。これ、どういうことか分かる?
加藤:……なんとなく。
篠崎:毎日、あーしはハルの家に行った。ハルは嫌がったけど、あーしがそうしたいから、って押し通した。
加藤:うん。
篠崎:最期の時は、夜だった。おばさんから電話をもらって、あーしはハルの家に走った。あーしが着いた時、ハルはもう目を閉じていて、何度も息を止めては吹き返してを繰り返してた。なんかもう、あーしの知ってるハルじゃなくて、別の生き物に見えた。
加藤:うん。
篠崎:……数秒だった。突然ハルが目を開いて、窓の外を見たの。そして言ったんだ。「かあさん、とうさん、ゆりな。星が綺麗だぞ」って。
加藤:……
篠崎:みんな思わず夜空を見上げたよ。……すごかった。今がどういう状況なのかを忘れるくらい、すっごい星空だった。ほんとだね、ってハルを振り返ったら、ハルはもう、息も止めてた。もう、吹き返すこともなかった。ハルは……ハルはその瞬間を見せずに、夜空いっぱいの星のひとつになっちゃったんだ。
加藤:そっか。
篠崎:二学期になって偶然加藤の背中を見た時、あの日の夜空が目の前にぶわーって広がったの。その背中のどこかにハルがいるんじゃないかって気がして、それであーし思わず……
加藤:背中を見せろ、なんて言ったのか。
篠崎:……探したかったんだ。ハルを。
加藤:うん。
篠崎:確かめたかった。
加藤:何を?
篠崎:……分かんないけど。
(少しの間)
加藤:手を、伸ばせばいいんじゃないか?
篠崎:え?
加藤:遠いところから眺めていても見つからないのなら、近づいて手を伸ばしてみるしかないだろ。手を伸ばして、触れて、探ってみるしか。
篠崎:……
加藤:あくまで篠崎が「そうしたければ」だけど。
篠崎:加藤は……
加藤:篠崎さ、俺には「俺が篠崎に求めているもの」を探ったことなかったじゃないか。自分がしたいことばっかりで。
篠崎:……
加藤:まあ、俺には、というより、その人のことがあってから、気の持ちようが変わっただけなのかもしれないけど。
篠崎:……
加藤:うぬぼれ、だったかな。
篠崎:そんなこと
加藤:とにかく、俺は別に嫌じゃないから。
(篠崎、加藤に近づき、その背に掌を這わす)
加藤:……っ
篠崎:ごめん、指、冷たかった?
加藤:平気。
篠崎:あったかいなぁ……
加藤:……
篠崎:……あったかい。ハル、ハルの夜空は、あったかいね。ねえハル、ハルは、寒くないんだね。
(加藤、ちいさく鼻をすする)
篠崎:ハル……あーしさ、もっと早くあの満天の星を見たかった。ハルと、見たかったよ。そうしたら、あーし、きっと、もっと早く分かったと思うんだ。あーし、あーし……
(篠崎、加藤の背にすがったまま、こらえきれず涙を流す)
(加藤、大きく鼻をすする)
篠崎:……加藤、泣いてるの?
加藤:さあね。
篠崎:なんで?
加藤:知らなくていいだろ、そんなこと。俺の求めているものなんて、篠崎は知らなくていい。一生、知らないままで、いい。篠崎はずっと、ずっと、篠崎がしたいようにすればいいから。
(篠崎、声を上げて泣く)
加藤:それでいいんだ。それで。
(加藤、俯き、静かに涙を流す)
【長めの間】
(篠崎、鼻をすする)
篠崎:なんか、ほんとにごめん。
加藤:今更だろ。そもそも、いきなり背中見せてくれって時点でおかしかったんだから。
篠崎:それもそだね。
加藤:気は済んだか?
篠崎:わかんない。
加藤:そっか。
篠崎:でも、ありがとう。
加藤:何に。
篠崎:分からないけど、なんとなく。
加藤:ん。……ところで、そろそろ服着てもいい?
篠崎:あ……ごめん。寒かったよね。
加藤:別に。あったかかったよ、篠崎がくっついてたから。
篠崎:うわ、きも。
加藤:話したこともないクラスメートの服を脱がせる方がよっぽどキモいだろ。
篠崎:うわー、うわー、むっかつくー。
(加藤、ふっと微笑む)
加藤:なあ篠崎。
篠崎:なに。
加藤:星、好き?
篠崎:……好きだよ。
加藤:そっか。俺も好きだよ。俺の星空も、好きになった。
篠崎:加藤
加藤:うわ、外、暗。日が短くなったんだなあ。このままだと、二学期が終わるのもあっという間だな。
篠崎:……
加藤:ところで、今日は俺、もう少しここにいるつもりだけど、篠崎はどうする?
篠崎:じゃああーしも、もう少しここにいる。
加藤:そっか。じゃあ帰りたくなったらそれぞれ帰ろう。
篠崎:そだね。
(少しの間)
篠崎:ねえ加藤。
加藤:ん?
篠崎:……明日の体育、一緒に組もうか。
加藤:はあ?嫌だよ。公開処刑レベルが倍になるだろ。
篠崎:そっか。
加藤:別に約束なんかしなくてたって、明日も俺らは変わらないから。
篠崎:……
加藤:相変わらず、少しだけ交わっただけの「他人ではないくらいの誰か」だよ。
篠崎:「友達」じゃダメなの?
加藤:その言葉は、重いから好きじゃない。
篠崎:……
加藤:なに?
篠崎:ううん、別に。
加藤:なんて呼んだらいいか分からないくらいの関係でいいんだよ。俺たちは、多分。
篠崎:……
加藤:俺は、それがいい。
(少しの間)
篠崎:ねえ加藤。
加藤:なに?
篠崎:やっぱりあーし、先に帰るね。
加藤:ん、お疲れ。
篠崎:ありがと。
加藤:手、帰ったら手当し直しとけよ。
篠崎:うん、そうする。それじゃあ、また明日。
加藤:ん。また明日。
【幕】