白鷺城の守り神


「……。」
「緊張してる?和田君」
「ええ、フトシさんの修験者姿なんて初めて見ますし……中々、相手も有名な方ですかね」
「園田にとっては、それだけの相手だからな。勝利おめでとう和田君」
「ありがとうございます、ショウイチさん」
JRA交流 夢前川特別……姫路での交流レースに勝利した俺は、そのままフトシさんと園田競馬最年長騎手……今は、園田修験道の長として俺を待っていた川原ショウイチさんに連れられ、深夜の姫路城城内を登っていた
「以前は、和田君が魔術とか知らなかった頃だから見送ったけど、今回は是非会いたいってあの方も言ってたよ」
「だからそこまで畏まらなくても良いで」
「ええ……フトシさんが彼女を引き止めたんですって?」
「せやねー、あの年は……ホントに、園田も表裏大変だった。彼女がまだ居るかどうかも賭けやったで」
「そのお陰で、我々の保有する霊地の乱れも最小限で済ん……あ、そう言えば、フトシさんカヤタくんが荒業に挑みたいと「ごめん断って」……ですよねー」
そんな話をしながら、とうとう天守閣へ辿り着く。二人がじゃらんと錫杖を鳴らせば、鈍いオレでも分かる位に空気が変わった
「失礼します。小牧フトシ、川原ショウイチ。今回の奉納レースの勝「わー‼︎?待って待って待って姫まだ色々片付けてられてない‼︎‼︎」……毎日コツコツ片付けましょうってオレ言いましたよね?和田君中央の人なんですから、手間掛ける暇無いんで入らせてもらいますよ」
「そんな殺生な‼︎ショウちゃん‼︎」
「……おう……?⁇」
川原さんが遠慮なくガラリと開けた扉の先には、沢山のアニメグッズ(よく見るとサラコレやウマ娘も混じってる)に炬燵、パソコン画面にはウマ娘の同人誌の原稿。そして…
「ううっ…は、初めまして。和田リュージ騎手。姫がこの姫路城の城主、刑部姫で〜す……」
黒髪眼鏡の清楚な顔立ちの、ピンクの打掛けを羽織った女の子がそこにいた

◇◇◇

「……まぁ、そんな訳で騎手の減量苦の辛さの集合体が暴れ回った特異点を解決した際に、物品は残らなかったけど自分で頭絞って考えたレシピは残ったんで、暇してるあの世の馬産関係者やお馬さん達が作ってくれる様になったのが此方になります」
「うわー、可愛いー‼︎お馬さんモチーフスイーツいっぱい‼︎」
「中央でナニしてるんですかフトシさん?」
「いや、割とやばい特異点だったんよ。オレですら咄嗟に言霊で自己暗示しなきゃ、きっと洗脳効果有るボンボン食べてたくらい……あの菓子は美味しそうでな」
「だからとことん相手にも甘いものを食わせて、最後にゴルシとドンナとヤスナリさん特製焼きそば出してなんとか成仏させれたんですわ」
炬燵の上に、沢山の手土産を並べて近況を彼女達に語る。
「ふむふむ、中央ですらそんな騒ぎがちょくちょく起こってるのなら、姫も園田の霊脈を護り甲斐があるわ〜
……あの年は、この地の霊脈も大荒れになったから」
「……幾ら魔術を極めても、どうしようも無く」
(……思う所しか無いよな)
床に落ちてた、能登の地震を知らせる新聞などを思い出し、察して口を噤む。
「……ヤスナリと一緒に兵庫の霊地霊脈の整備が、中央行く前の最後の大仕事になったわな」
「本当に……天守閣の結界無理矢理ぶち破って来て、久しぶりに呪殺したろかと思ったら新聞渡されて……あんまり揺れなかったのよココ」
祈る様に、何処を遠くを見る目付きとは反対に、テキパキと千代紙を折って作り上げたのは。
「……俺?」
小林さんの勝負服を着た、俺を模した人形がそっと手のひらに置かれる。
「姫路開催奉納レースの賞品‼︎一年限定同期人形‼︎病気の時は変色、疲労の時は擦り切れ、そして怪我の時は破けるから毎日の健康チェックにどうぞ‼︎」
「保存に気をつけなよ、それ人形の方にダメージ行くと君にも連動して行くからね」 
ショウイチさんの言葉に目に見えて動揺する俺をフトシさんが笑う。
「え、身代わりとかじゃ無いんですか⁉︎」
「……侍も騎手も、無理するから。姫的には無茶を加速させる身代わりよりは……無茶を自覚出来るこっちの方がね」
「……拝領します」
そう、微笑む彼女は確かに姫路の守り神の自負を持っていた
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