【星屑レイサSS】星屑自己紹介


『呼ばれて飛び出て!参りました! みんなのスーパースター、宇沢レイサ、登場です!』
不良を前にして大見栄を切るレイサ──その姿が大きなスクリーンに映し出されていた。

「うん、よく撮れてる。それじゃあ改めて"今"の自己紹介をしてみようか?」
そのスクリーンの下に肌色の丸まったような何かがあった。
何か。
それは、全裸で土下座した人間だった。
「は、はい……ご主人様の忠実なに、肉奴隷……宇沢レイサ……です。私のから、体は全てご主人様のもの。口も、胸も……ま、前の穴も……後ろの穴も……お、お好きにご使用ください」
『覚悟してください!』
「はぁ、昔はこんなにハキハキ自己紹介できてるのに、なんでそんなにどもるかね」
スクリーン上でポーズを決め、果敢に不良たちの集団に飛び込んでいく少女。
と、同じ少女──宇沢レイサが全裸で震えながら額を地面に擦り付けていた。
「笑顔だって……ほら、画面のお前はあんなにちゃんと笑えてるのに」
「す、すいまっせん……」
『恐れることなく、前へ!』
薄暗い部屋の中、今も不敵な表情で戦うレイサを映すスクリーンの光が、這いつくばる少女の後頭部や背中、丸く白い尻を照らしていた。
その横には畳まれたトリニティの制服にキャラクターのキーホルダーのついたリュックサック──彼女の服がまとめ置かれている。
「やっぱり奴隷が服なんか残してるのが良くないんだよな」
今も土下座の姿勢で"ご主人様"に従属を示すレイサ。
わざとらしい言葉と共に、その前に何かが投げ出される。それはツンとした刺激臭のする鉄製の容器と小さなマッチ箱。
「燃やせ」
「……はい?」
「察しの悪い奴隷だな。そこにあるのは灯油とマッチだ。それで自分の服を燃やせ」
「──」
恐る恐る顔を上げるレイサの顔は怯えに満ちていた。
嘘だと言ってくれというように、暗がりの主人を見上げる。主人が眉を顰める。物分かりの悪い奴隷に言うことを聞かせるにはそれで十分だった。
『最大出力で、行きますよ~!』
「はっはい!もや……燃やします!燃やさせて──いただきます」
「それでいい。奴隷に服は必要ない。そうだろう?」
震える手で、容器の蓋を開きその中身を衣服の上にぶちまける。
「ぅ……ぁ、ぁあ……」
意味をなさないうめき声にジョロジョロと液体が零れ落ちる音が重なる。
両手で、恐る恐る拾い上げたマッチ箱を開き、取り出したマッチを擦る。
「あ、ぁ……ぁ、ぁ」
シュッシュッ、シュッ
背中を丸め縮こまるようにしながら何度も手を動かす。六度目にしてようやくマッチ棒の先端に火が灯った。
「……」
その炎を呆然と見つめる。
視線が炎と灯油まみれの衣服を往復する。
『必殺!勝利のポーズ!!』
「まさかまたお仕置きされたいのか?」
「う、あ、あぁぁぁぁぁぁぁあ」
手からマッチが落ちる。
パステルカラーのリュックの上からボッと火が上った。たちまち、灯油まみれの服に炎が巡り燃え上がっていく。可愛らしいキャラクターのキーホルダーも制服に留めていた黄色い缶バッチも、焦げて歪み炎の中に消えてゆく。その熱がレイサの素肌を焼いていた。
「あ、あぁ…………」
「奴隷の礼儀作法はどうした?」
「っ!!」
バネじかけのように、レイサは再び手をつき額を擦り付ける。直ぐそばで上がる火が肌を焼く痛みも気にならない。
『とりゃー!』
「奴隷には、分不相応な……ふ、服を燃やさせていただき、あ、ありがとうございます」
先ほどの自己紹介よりもスルリと言葉が出る。
──出てしまった。
「顔を上げろ」
命じられるま、土下座の姿勢で顔を上げる。
「感謝してろよなぁ?嬉しいんだろう?」
「はい」
『ふーっ、正義は必ず勝つんです!』
「なら笑え。画面のお前のように。もっと笑ってみせろ」
「ひ、ひひひ、へへ、はははは……」
命じられるま、主人を見上げ笑みを浮かべる。
どんな笑顔だろう。画面の中で不良たちに勝利して笑う自分と同じ顔をしているだろうか。──ご主人様はとても満足そうに笑っていた。
「いい顔だ。なぁ、お前もそう思うだろ、キャスパリーグ?」
「…………………………………………え?」
ジャラジャラと鎖が鳴る音。
暗がりの奥から引っ張り出されたのは全身をガチガチに拘束された杏山カズサだった。
口にはボールギャグを噛まされダラダラとよだれをこぼしている。

見られた。何を、どこまで?何故彼女が。嫌だ。見られた。どうしたら。助けなきゃ。見られた。全部。どうしよう。何もかも。こんな姿。いやだ。見たくない。笑えてる?見られた。裸。ご主人様。どうしたら。見られて。私。どうして。助けて。誰か。ご主人様。私は。見られた。全部全部見られちゃった。

「……」
血の気の引いた顔で呆然としている奴隷に主人が命じる。
「さあ、改めて自己紹介だ。お前が先輩奴隷になるんだ」
いやに優しい声。遠くから聞こえる。
「教育係にもなってもらう。奴隷の作法、心構え、身体使い……お前が教育するんだ」
声が遠くて。なのに、全ての意味を完璧に、クリアに聞き取れる。
「顔はあげたままでいい。しっかり──挨拶してみろ」
杏山カズサの目が見えた。瞳が何かの感情で揺れている。怒り?悲しみ?それとも──憐れみ?
パリン、とレイサの奥深く、何かが割れて壊れる音がした。
それはレイサの終わる音だ。
「──はい、私はご主人様の忠実な肉奴隷宇沢レイサです。私の体は全てご主人様のもの。口も胸も前の穴も後ろの穴も、毛の一本すら全て、どうかお好きにご使用ください」
澄んだよく通る声で。しかし主人を不快にせず、情欲を煽れるよう笑顔でしなをつくる。
『呼ばれて飛び出て!参りました! みんなのスーパースター、宇沢レイサ、登場です!』
映像がループしたのかスクリーンの中のレイサも再び自己紹介を叫ぶ。
同じ声、同じ少女。
違う自己紹介。
レイサを見る杏山カズサの目から何かが流れていた。
「はっはっはっはっ!いいじゃないか。さっきよりもずぅっといい!」
褒められた。それだけでレイサの心は幸せに満ちた。自分の役割をようやく理解できたのだ。
「そっちの……画面の中じゃみんなのスーパースターなんて名乗ってたが……今は違うのか?」
楽しげに問われる。だからレイサも主人の望む答えを返す。
「ご主人様様に躾けていただき、自分が卑しい雌肉と理解させていただきました。今の私は精々が屑……星屑がよいところです」
「星屑!いいな、今度からそう呼ぼう。お前は星屑だ。そう名乗れ」
「はい、かしこまりました」
星屑。
新たな自分の名を反芻し魂に刻み込む。
ご主人様の肉奴隷、星屑。
それが新しいレイサだった。
「さて、早速だがこいつの教育を任せたい。いいな」
その言葉を聞いて、拘束されているカズサの瞳に恐怖がよぎるのを彼女は見逃さなかった。
「はい、喜んで」
奥底の恐怖を必死に押し隠そうとするカズサへと一歩踏み出す。
『必殺!勝利のポーズ!!』
意地らしいカズサの仕草に、星屑の赤い舌が唇を濡らす。
その姿は背後のスクリーンの中の少女よりもずっと蠱惑的で、淫らだった。
服はとっくに燃え尽きて、黒い煤が残骸として微かに残るだけだ。宇沢レイサの痕跡は残されておらず、ただ肉奴隷星屑がそこにいた。
これからどうやって何から教育していくのがいいか。それを考えるだけで心が躍る。いつか、カズサと二人立派な奴隷として主人に傅く日を想像して息を熱くし、そんな未来も知らぬカズサへと哀れみの視線を送った。
「星屑です。これからよろしくお願いします、杏山カズサ」

これが、星屑の初めての自己紹介。
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