「縁の目には霞が降る」


題:縁の目には霞が降る(えんのめにはかすみがふる) 作者:草壁ツノ

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<役表>
霞(かすみ):女性 お面を付けた女の子。妖怪。お面をつける事で人の姿を成している。気が弱く大人しい性格です。
螢太(けいた):男性 盲目の少年。幼い頃に霞と出会っている。前向きで優しい少年です。
N:不問 ナレーション。
妖怪:不問 螢太と霞を襲った口の大きな妖怪。サブキャラ。
男の子:不問 螢太の夢に現れた男の子。サブキャラ。
老人:不問 神社について詳しい老人。サブキャラ。
子供:男性 数年後に神社に遊びに来る子供。サブキャラ。
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■注意点
・男性側は目を閉じて台本を読む形式となります。(Nの説明に合わせて発言する形になります)
・男性側は★マークのある個所から、台本を読む事が出来るようになります(Ctrl+Fで★と入力するとジャンプ出来ます)
・男性側は台本中、よく耳を澄ませて見て下さい。
・女性側は男性側の発言に対して、話を合わせて会話する必要があります。
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■利用規約
・過度なアドリブはご遠慮下さい。
・作中のキャラクターの性別変更はご遠慮下さい。
・設定した人数以下、人数以上で使用はご遠慮下さい。(5人用台本を1人で行うなど)
・不問役は演者の性別を問わず使っていただけます。
・両声の方で、「男性が女性役」「女性が男性役」を演じても構いません。
 その際は他の参加者の方に許可を取った上でお願いします。
・営利目的での無許可での利用は禁止しております。希望される場合は事前にご連絡下さい。
・台本の感想、ご意見は Twitter:https://twitter.com/1119ds 草壁ツノまで
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本読み前

N  :螢太(けいた)さん。聞こえますか?
聞こえていたら返事をして下さい。

螢太 :「       」(はい)
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N   :螢太さん、あなたは今、田舎のとある山に来ています。
    あなたは生まれつき目の病気を患(わずら)っており、物を見る事が出来ません。
    また、歩行の補助のため杖を持ち歩いていましたが、それはここに来るまでの道の途中で落としてしまいました。
    困り果てたあなたは、道のそばにある大きな石の上で休息を取っているところです。

    すると。螢太さん、あなたの目の前に突然、何かがふわり、と着地したような奇妙な気配を感じました。
    螢太さん。あなたはその気配に向けて、形を確かめるように何か声を掛けます。

螢太 :「       」(「質問」)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)びっくりした。こんな所に人が......」
    「......あの、すみません。突然何を聞いているのかと思われるかもしれませんが...... 私の姿、見えていますか?」

N   :目の前の気配から発せられたのは女性の声でした。
    螢太さん。あなたは彼女の質問に「声だけは聞こえている」ことを彼女に伝えます。

螢太 :「       」(「えっと、声だけは聞こえています」)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)声だけ...... 自分ではうまく出来ていると思っていたんですが......」

N   :螢太さん、あなたは自分が「生まれつき目が見えない」ことを彼女に伝えます。

螢太 :「       」(あ、すいません。僕生まれつき目が見えないんです)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)それにしても、ごめんなさい......気が付かなくて」

N   :すると突然「......あれ?」と不思議そうに女性の声が呟きました。

霞  :「......この、感覚......。え? もしかして......あなた......"螢、太くん"......?」(少しマイクに近づいて下さい)

N   :目の前の女性の声が確かめるように言いました。螢太さん、あなたは「自分の名前を知っているのか」と彼女に尋ねます。

螢太 :「       」(あれ、自分の名前を知っているんですか?)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)あ、あぁいえ......すいません、昔の知り合いに面影が似ていたので、つい......」

N   :螢太さん、あなたは自身の名前である「望月螢太」(もちづきけいた)と彼女に自己紹介をします。

螢太 :「       」(僕は望月 螢太(もちづきけいた)です、お姉さんは?)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)私......、私の名前は、霞(かすみ)です」

N   :螢太さん、あなたは「霞の名前について感じたこと」を彼女に伝えます。

螢太 :「       」(霞さん、ですか。綺麗な名前ですね)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)私は、この名前は......あまり好きではありませんけど」

N   :霞が小さく何かを言いましたが、螢太さんには聞こえませんでした。

霞  :「......えっと......貴方はこんな場所に一人で......何をしているんですか?」

N   :螢太さん、あなたは「この山道(さんどう)の先に神社の跡地があり、そこに向かっている」ことを霞に伝えます。

螢太 :「       」(この道の先に、古い神社の跡地があるんです)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......そう、なんですね。神社......ですか」

N   :螢太さん、あなたは「その神社を時々訪れるのが習慣となっている」ことを霞に伝えます。

螢太 :「       」(そうなんです、その神社を時々訪れるのが習慣となっていて)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)けど......あなた、目が見えないんですよね?
    それなのに、杖も無しにこの先に進もうとするのはさすがに......危ないんじゃないですか?」

N   :螢太さん。あなたは「杖を持っていたが失くしてしまった」ということを彼女に伝えます。

螢太 :「       」(はは......そうしたいのは山々なんですが、杖を落としてしまって)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)それは、困りましたね......この辺りで失くされたんですか?」

N   :螢太さんは「杖をこの辺りで失くしたのか」という霞の質問に答えます。

螢太 :「       」(はい...... あれが無いと、真っすぐ歩くのも難しくて)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......杖ってこれの事ですか?」 

N   :霞の声が近付いてきます。すると、螢太さん手に何か棒状の物を手渡しました。
    それは、あなたが先ほど失くしてしまった木製の杖です。
    螢太さん、あなたは杖を見つけてくれた霞に対し、何かお礼の言葉をかけます。

螢太 :「       」(わっ! そうです! これです......! 良かった、見つかって......)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......たまたま、近くに落ちていたのを見つけただけですから、そんな大したことでは......。
    「......螢太さん、杖があったとは言え、さすがにこの先を一人で行かせるというのは心配です。私が先導しますので、一緒に行きましょう」

N   :そう言うと、霞の足音がざっざと離れていきます。
    けれどすぐに、近くの草むらでガサガサ、という音が鳴りました。

霞  :「あ、あれっ?」

N   :螢太さんは、戻ってきた霞に向けて、「道に迷っているのではないか」と尋ねます。  

螢太 :「       」(あの、お姉さん......もしかして、道に迷ってたりしませんか?)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)けど......何故、私が迷っていると思うんですか?」

N   :螢太さん。あなたは霞の「何故道に迷っていると思ったのか」という質問に答えます。
   
螢太 :「       」(さっきからお姉さん、ずっと同じ所をぐるぐる回ってるみたいだったから......)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)たっ、たまたま、同じ道に戻ってきてしまうだけです」

N   :螢太さんは「それを迷っていると言うのでは?」といったことを答えます。

螢太 :「       」(えっと、それを世間一般では迷ってると言うのでは......?)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)そ、そんな事ありません!
     と、とにかく。私に任せていて下さい。この山は私の庭のようなものです。すぐに抜けてみせます」

N   :霞はそう言うと、再びざっざと歩いていき、またすぐに「ええっ?」という声と共に帰ってきます。

霞  :「ど、どうして戻ってきてしまうの......?」

N   :螢太さんは気が付きました。先程までは感じ無かった、良くない気配がこの辺りを漂っているという事に。
    それを受けて、螢太さんは「この場所から離れましょう」と霞に声を掛けます。

螢太 :「       」(とりあえずこの場所を離れましょう)
霞  :「(話を合わせて下さい)な、なんですか急に......? 分かりました」

N   :先を進もうとする霞の袖を、螢太さんが掴みました。

霞  :「......なんですか?」

N   :螢太さんは、「その道の先は行き止まりになっている」といったことを霞に伝えます。

螢太 :「       」(その先、行き止まりですよ)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......もう。どうして眼が見えないくせに方向感覚はいいんだろう......」


※シーン切り替え


N  :道を進む途中、突然辺りの木々がざわめき始めました。不気味な気配が強くなります。
    すると突如、何やら大きな影が、二人の前に飛び出して来ました。

S妖怪:「ゲッゲッゲ、匂う、匂うなぁ」
    「美味そうな人間の匂いだ。ゲゲゲ...ちょうど腹が空いていた所に、これは有り難い」
    「んん? そこの面をつけた女、お主は、人間か......? いや、んん? んんん......?」
    「まぁよい! ともかくも食ろうてやろうぞ、食ろうてやろうぞ! ゲッゲッゲ!」

N   :螢太さんは、不気味な妖怪の気配と声を聴き、「ここから逃げましょう」と霞に言います。
  
螢太 :「       」(霞さん、今すぐここから逃げましょう)
霞  :「あ、あ......す、すみません。わ、私......足が......」

N   :隣に立つ霞の足は震えています。
    妖怪は大きな口を開け、二人に向けて勢いよく突進してきました。
    螢太さんは霞を突き飛ばし、彼女の身を案じる言葉を発します。

螢太 :「       」(霞さん! 危ない!)

N   :まっすぐ突っ込んできた妖怪の頭に弾き飛ばされ、螢太さんは地面を転がりました。
    妖怪の大きく開いた口が、今まさに螢太さんを丸呑みにしようとした時、霞が声を上げます。

霞  :「ま、待ちなさい!! ......その人を食べるなら、私を......食べなさい」

S妖怪:「小娘を? ふん、お主は馳走(ちそう)と残飯(ざんぱん)を前にして、先に残飯から食ろうというのか?変わり者よのぉ。
    ......しかし、ワシは今とても腹が空いておる。お主が望むなら食ろうてやってもよいが、まずは童(わらし)からじゃ。ゲッゲッゲ」

N  :霞が口の中で小さく何かを唱えます。すると、霞の声のする方から、ぼっぼっぼ、と熱を放つ何かが現れました。
    それは一瞬静止すると、すぐに勢いよく妖怪の元へと飛んでいき、激しくぶつかりました。その音と熱から、それが炎だったという事が分かります。

S妖怪:「グオッ?! グギャアア!」

N   :炎に焼かれた妖怪が苦しそうに悲鳴を上げます。

S妖怪:「グッ、グググ......き、貴様......後で食ろうてやろうと思ったが、もう我慢ならん。
    まずは女、貴様からだ...肉をゆっくりと骨から削いで、じわりじわりと......食ろうてやろう!」

N   :妖怪が霞の方へ首を向けようとします。大きく開いたままのその口。
    螢太さんは木製の杖を握ると、その妖怪の無防備に開いた口の中へと腕を差し込み、力いっぱい杖を突き立てました。
    螢太さんは妖怪に向けてなにか「恐怖を打ち払う」ような言葉を言い放ちます。

螢太 :「       」(霞さんに近づくな――!)
S妖怪:「グオッ?! グギャアア!」

N   :妖怪が突然の痛みに苦悶(くもん)の声を上げました。螢太の杖が妖怪の舌と下あごを貫ぬいたのです。
    妖怪はばたばたともがいていましたが、やがて、音もなくその場から姿を消しました。


※シーン切り替え


霞  :「螢太さん!!」

N   :霞が慌てて螢太さんのそばに駆け寄ります。螢太さんは肩で息をしています。

霞  :「あなた何してるんですかっ!! 自分の目が見えていないって事分かってるんですか!?
     死んでしまいますよ!? どうするんですかっ、万が一もし、大怪我でもしたら!!」

N   :螢太さんは、霞に向けて「心配してくれているのか」といった言葉を言います。

螢太 :「       」(......はは、霞さん。そんなに心配してくれたんですか)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)当たり前でしょう!?」

N   :螢太さんは、心配してくれていた霞に向けて何か答えます。

螢太 :「       」(霞さん、優しいですね)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)なにを言って......! ......あぁ、もう、とにかく......無事で良かった」

N   :すると、螢太さんは意識が遠のくのを感じます。遠くで霞が「螢太さん?!」と自分を呼ぶ声が聞こえます。
    あれ、こんな声をどこかで聞いた事があるような......薄れゆく意識の中、ぼんやり螢太さんは懐かしさを感じました。


※シーン切り替え


N   :螢太さんはゆっくりと意識を取り戻します。
    ここはどこでしょう。気が付くと螢太さんは何も音のしない空間に居ました。
    螢太さんは遠くまで聞こえるように、「誰かいませんか」と声を上げます。

螢太 :「       」(誰かいませんかー?)

N   :しかし周囲から返事は帰ってきませんでした。けれど、

霞  :「(小さな声で)......っく......ひっく......」

N   :微かにどこからか女の子の泣く声が聞こえます。
    しかし、声が聞こえてくるのがどの辺りからなのか分かりません。  
    螢太さん、あなたは少しの間、静かに耳を澄ませます。

霞  :「(少し待ってから先ほどより大きな声で)っく、.....ひっく、ひっく......」

N   :先ほどよりもくっきりと、女の子の泣き声が聞こえました。
     螢太さん、あなたは右か左、どちらの方角から声が聞こえるように感じますか?

螢太 :「       」(右だと思う、左だと思う)

N   :(右/左)を選んだ螢太さんは、そちらの方向に向かって歩いていきます。しかし、泣き声は別の場所から聞こえてきました。
    螢太さんは遠くまで聞こえるように、「ねえ、どこにいるのー!」と声を上げます。
 
螢太 :「       」(ねえ、どこにいるのー!)

N  :しかし、また周囲から返事は帰ってきません。
    すると、螢太さんの傍で、小さな足音が聞こえました。

S男子 :「......おかしいなぁ。こっちから聞こえたと思ったんだけど」

N  :小学生ぐらいの男の子の声でした。
     その男の子はしばらくじっとしていると、

S男子 :「あっ、居た」

N   :そう呟いて、男の子はゆっくりとした足取りで歩いていきます。
    その男の子の進む道の先には、膝を抱えて泣いている、小さな女の子がいました。
    男の子はその傍まで辿り着くと、膝を曲げ、少女に向けて話しかけました。

S男子:「ねえ、大丈夫? なんで泣いているの?」  

N  :男の子の声が聞こえたかと思うと、螢太さんはまた静かに意識が遠のいていきました。


※シーン切り替え


N   :肌寒さを感じて、螢太さんは再び意識を取り戻します。
    すっかり辺りは夜になっていました。
    螢太さん、あなたは突然の肌寒さを感じて、思わずクシャミをします。

螢太 :「       」(ックシュ!あー、寒い......)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......あ、目を覚ましましたか?」
    「あ。無理に動いたらダメです......あの後螢太さん、意識を失って......心配してたんですよ」

N   :螢太さんは鼻水をすすりながら答えて下さい。

螢太 :「       」(あはは......ずずっ、ずーっ。へへ。大丈夫です)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......ふ」

N   :気のせいか隣で霞が小さく笑ったような気がしました。
    螢太さんは霞さんに「あれ、今......」と尋ねます。

螢太 :「       」(あれ、霞さん。今、笑いました?)
霞  :「! わ、笑ってませんっ。(相手の話に合わせて下さい)......あ、でも......
    さすがに、このままじゃ風邪を引いてしまいますね......よい、しょ」

N   :霞はその場ですっと立ち上がると、何やら小さく口の中で呟き始めました。

霞  :「(――おいで、冬の子、元気な子。寄り集まって火を灯せ)」(微かな声で)

N   :すると、近くで なにか小さな火が点るような、ぽう というような音を捉えました。
    霞が少し動いたような気配を感じ取ったあと、先ほどまでくしゃみを誘っていた風が
    不思議と あたたかさを帯び、やがて ぱちぱちと音が立ち始めます。

    螢太さんは突然、自分らの傍で何かが焚かれ始めたことに疑問を覚え、思わず霞に声をかけます。

螢太 :「       」(あ。火が......霞さん、火を起こせるもの持ってたんですか?)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)。......え、ええ。そうです。マッチを持っていたので......」


※シーン切り替え


N   :螢太さんと霞は焚き火のそばに腰を下ろし、並んで暖を取っています。
    夜の静かな時間の中、焚き火の音だけが小さくパチパチと鳴っていました。
    螢太さん、あなたは「幼い頃神社で会った女の子」事を、思い出と共に話し始めます。

螢太 :「       」(僕が幼い頃、神社で、不思議な女の子に会った事があるんです)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......そう、ですか。女の子......」

N   :螢太さんは「神社で泣き虫の女の子と仲良くなった」事を、思い出と共に続けます。

螢太 :「       」(はい。泣き虫な子で。でも僕が毎日通ってる内に、少しずつ、あの子の方から
    声をかけてくれるようになって。今日は何しに来たの?とか、学校楽しい?とか)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)」

N   :霞は螢太さんに聞こえない程の小さな声で、ぽそりと懐かしいな、と呟きます。
    螢太さんは、「ある日突然彼女に会えなくなったこと」を思い出と共に続けます。

螢太 :「       」(その話を後で友達や両親にしたんですが、あの神社はもう誰も住んでない って皆言うんです。
    なにか悪い夢でも見たか、狐にでも化かされたんじゃないかって)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......あの神社は、もう随分と誰も近寄らない場所です。もしかしたら夢でも見ていたのかも......」

N   :螢太さんは「あれは夢じゃない。本当に会っていました。でもそれ以来会えなくなった」と伝えます。

螢太 :「       」(でも確かに僕は会ったんです。あの子に。あれは......夢じゃない。嘘じゃないって。
    そんな事無いって証明するために、クラスの友達を連れて神社に行きました。
    あの子とよく遊んだ場所、全部回ってみたんです。
    でも......結局会えませんでした。それどころか、それっきりあの子には会えなくなりました)
霞  :「そう、なんですね......」

N   :霞は小さくそう呟きましたが、話を切り替えるように言います。

霞  :「......さ、今日はもう遅いです。話は明日にしましょう――――」


※シーン切り替え


N  :焚き火がパチパチと静かに燃えている。
    螢太さんは焚き火の傍で横になっており、霞はその隣で螢太さんの寝顔を静かに見つめています。
    螢太さんは静かに寝息を立てます。

螢太 :「       」(すう、すう)
霞  :「......やっぱり、螢太君......だったんだ。
     ......ふ。体が大きくなっても、全然、変わらないな――――」

N   :そう呟く霞の表情はどこか優しそうでした。


※シーン切り替え


N  :翌朝、二人は山道を進み、昼頃には山頂の神社に到着しました。正確には神社だった場所に。
    神社の跡地の入り口付近には、一人の老人が佇んでいます。

S老人:「おや?こんな場所で人に会うとは珍しい」
    「ここの神社に用なら、もう...とうの昔に取り壊されたわい」
    「何でも昔、この神社に気味の悪い妖怪が住み着いとると噂になっての」

N  :老人の話に出てきた「妖怪」という単語について、螢太さんは聞き返します。

螢太 :「       」(妖怪......ですか?)
S老人 :「(相手の話に合わせて下さい)そうじゃ。妖怪、どちらかと言えば疫病神(やくびょうがみ)みたいなものじゃのう。
     本来、御利益を賜るために参拝する神社で、かえって不幸になるという話があとを絶えなくてな。
     何度もお祓いなどもしたようじゃが効果はまるで無く......見かねた村のお偉方が取り壊してしまったそうじゃ」

N  :すると、老人が霞の方を振り向き、おや、と不思議そうな顔をして、霞のつけているお面を指さしながら言います。
S老人 :「おお。お嬢ちゃん変わった面をつけておるのう。それは確か、この神社で神事(しんじ)の際に配った物の筈じゃ」
霞  :「あ、これは......」
S老人 :「元々その面は、さっき話した妖怪から身を守るために作られた代物と言われておる。やつから奪われないようにな」
    「その名前はたしか......そうじゃ、<<カスメ>>と呼ばれておったな。人の幸せを"掠め"取るところから付いた名前だそうじゃ。
     若い娘の姿をしておるそうな。あんたらも、もし見かけても決して近付いてはいかんぞ」

N  :霞の方を振り向きながら、螢太さんは、老人の話に出てきた名前を呟きます。

螢太 :「       」(かすみ......?)
霞  :「......ッ!」

N   :青い顔をした霞が突然走り出しました。螢太さんも慌てて後を追います。
    螢太さんは逃げるように走る霞に向けて、「待って!」と声を掛けます。
 
螢太 :「       」(待って!)

N   :神社の石段の途中で、螢太さんは霞の腕を掴む事が出来ました。
    螢太さんは霞の身を案じて、心配そうに声を掛けます。

螢太 :「       」(霞さん、どうしたんですか)

N   :霞は一瞬ビクリと肩を揺らしましたが、すぐに逃げる事をやめました。
    螢太さんはその霞の様子を見て、そっと掴んだ腕を離すでしょう。
  
霞  :「あ、あ、あ.....あの、私......」

N   :霞はひどく動揺していました。螢太さん、あなたは霞を落ち着かせようと声をかけます。

螢太 :「       」(あの、霞さん。大丈夫ですか?)
霞  :「あ......だ、だいじょうぶ......です」

N   :それきり、少しの間無言が続きますが、やがて霞が小さく呟き始めました。

霞  :「......ごめんなさい。私......私は。嘘を、ついて、いました。
     私......本当は、人間じゃ、ないんです。私......私は......妖怪です」

N  :そう呟く霞の声は、震えていました。霞は震える事で言葉を続けます。

霞  :「醜い姿を、なんとか、この面で押し留めて......今。ようやくこうして、あなたと話す事が出来ている......
     怖がりで、意気地なしでどうしようもない妖怪。それが、私なんです」

N   :螢太さんは何か、彼女を気遣う言葉を言います。

螢太 :「       」(霞さん......醜いなんて、そんな)
霞  :「いいんです、私が一番よく分かっていますから」

N   :螢太さんは、霞の辛そうな声を聴いて、「霞さん......」と小さく呟きます。

螢太 :「       」(霞さん......)
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)......そう言えば......螢太さん。あなたには、見えていませんでしたね。私の......被っているこのお面。
    このお面をつけている間だけ......私は、醜い妖怪の姿から人間の姿になる事が出来るんです。
    嬉しかったな......これが偽物の私と分かっていても、本当に人間になれたような気がして。ふふ」

N   :霞は自嘲気味に笑います。螢太さんは黙ってその話を聞いていました。

霞  :「私の存在価値ってなに、どこに行けばいいのって......ただただ震えて、泣き続ける毎日でした。
     そしたら、そんな妖怪がある日、人に優しくされたんです。人間の、男の子。ふふ......
     <<螢太さん>>。あなたはもしかしたら、その男の子の事を、知っているかもしれませんね。
     その子は私を怖がりもせず、大丈夫?って優しい声で、話しかけてくれて......」

N   :霞が話す男の子の話を聞いているうち、螢太さんは少しずつ、霞が誰なのかを理解し始めました。
    螢太さんは、「もしかして、霞さんって......」と小さく呟きます。

螢太 :「       」(もしかして、霞さんって......)   
霞  :「(相手の話に合わせて下さい)一度でいいから、この人間の姿で、あなたの隣に並んでみたいと願ってしまった。
     あなたの眩しい笑顔の先にいるのが、他の誰でもなく、私でありたいと願ってしまった......。
     ......ふふ。過ぎた事を......望んだ罰(ばち)が当たったんですね......」

N   :霞はその場から姿を消しました。カラン、と音を立てた地面には、霞がさっきまで付けていた割れたお面が転がっています。


★ ※シーン切り替え(螢太さんはここから台本を読む事が出来ます)


N   :霞の面をつけた螢太さんは、一時的に視力を得る事が出来ました。

螢太 :「霞さん! どこにいるんですか?!」

N   :螢太さんは山道に引き返し、霞の名前を呼びます。しかし、返事は帰ってきませんでした。

螢太 :「ここにもいない......一体、どこに行ったんだろう......あ。もしかして......」

N    :遠い昔、子供の頃に会った女の子がよく泣いていた場所がありました。
    もしかしたらそこに彼女はいるかもしれない。
    直観的にそう感じた螢太さんはその場所に向かう事にしました。


※シーン切り替え


螢太 :「はぁ、はぁ......霞さん、ここに居たんですね」
霞  :「(少し泣きそうな様子で)......螢太......君。なんで、どうして......来たんですか。哀れに思ったんですか?」
螢太 :「いや......」

霞  :「こんな、こんな醜(みにく)い妖怪が人間の姿をしていて。あなたに近付いて。
     ちょっとでも人間のように振舞(ふるま)っていたことを......笑いに来たんですか?......だとしたら、あなたはひどい人ですね」
螢太 :「か、霞さん。僕はそんなつもりじゃ......」
霞  :「分かっています。......すいません、分かっているんです。......あなたが、そんな人では無いってことぐらい。
     けど、私が妖怪で、あなたが人間だということは......変えようがない事実なんですよ」
螢太 :「......霞さん」

霞  :「......卑屈すぎて笑ってしまうでしょう。でも、どんなに外側を取り繕(つくろ)ったとしても
     その内側ではずっと、自分への暗い感情が消えてくれないんです。
     あなたのその眩しい光にあてられると、私はどんどん、自分の醜(みにく)さが目について、押し潰されそうになる。
    消えてしまいたくなるんです......。お願いです。どうか......今は......一人に、してくれませんか」

螢太 :「霞さん、気付くのが遅くなってしまって、ごめんなさい。......ずっと、これまでなんだか、懐かしさを感じてはいたんです。
     それが、今ようやく分かりました。......霞さん。あなたは......あの時の泣き虫の女の子だったんですね」
霞  :「......ふっ。ガッカリ、しましたよね。探していた女の子が、まさか妖怪だったなんて」
螢太 :「そんなこと、思うわけないじゃ無いですか」
霞  :「......螢太君。あなたを、初めてあの山道で見かけた時、もしかしてと......思ったんです。
     もしかしたらこの人は、子供の頃私に優しくしてくれた、あの......螢太君なんじゃないかって。
      すごく、すごく嬉しかった。けど、同時に私は怖くなりもしたんです。
      もし......もしも。もしも。本当の私のことを知ったあなたが......私を、恐ろしいと思ってしまったら......そしたら」

霞  : 「(感情が溢れ出した様子で)あの頃の、優しかった螢太君がいなくなってしまうかもしれない......!
      そう思うと、もう、どうしようもなく......怖くなって。
      このまま正体を明かさずに、居なくなった方が良いんじゃないかって、そんな事ばかり......」

螢太 :「霞さん......泣かないで下さい......。霞さん、よく聞いてくださいね。
     僕にとって、あなたが人間か妖怪、どちらであったとしても、さほど大きな問題ではないです。
     何より僕にとって大切なのは あなたが僕に向けてくれる言葉や優しい気持ち。そういったものばかりだから」
霞  :「.......螢太さん......」
螢太 :「......それに、こうして初めて、あなたの姿を見ることが出来たけど......あなたはとてもきれいだと、ぼくは思います。
      僕個人の意見でしか無いですが......それだけでは足りないでしょうか」
霞  :「......どうして、子供の頃に少しだけ話をした妖怪に、そんなに優しくするんですか?
     こんな、何の価値もない妖怪の私に......どうして......?」
螢太 :「僕は誰にでも優しくなんて無いですよ。寧ろ......ずっと、周囲を恨んでいたんです。
     生まれつき目が見えなくて、周囲の輪に溶け込む事が出来ない。幼少期は、辛い思い出しかありませんでした。
     けど、そんなある日僕は、神社で初めてあなたに会ったんです」
霞  :「(鼻をすする)」
螢太 :「誰からも必要とされていなかった僕と、あなたは友達になってくれた。
     あなたと出会ってから僕は、少しでも、世界っていいものなんだなって。
     世の中捨てたもんじゃないって。いろんなことを前向きに考えられるようになったんです。
     僕の世界を変えてくれたのは、他でもないあなたなんです......何の価値もないなんて、絶対に、あり得ません」    

霞  :「(嗚咽を漏らす)うっ。ふぐっ、うう......」
螢太 :「霞さん。僕は今、目が見えているけれど、普段の僕は目が見えません。
     だから、相手の姿形って、僕にとって些細なことなんです。
     ......霞さん、もし、僕の目がまた見えなくなったら、あなたは仲良くはしてくれませんか?」
霞  :「そんなこと......っ、そんなことありません......!」
螢太 :「良かった。僕も、同じです。妖怪だから、人間だから。そんなこと関係無くて。
     僕は"霞さん"だから惹かれたんだと思います。
     あなたの《霞》という名前、僕はとても好きです。
      例えこの先、色んな人があなたの事を《カスメ》と呼んだとしても、僕はあなたの事を《霞》と呼び続けます。
      この先もずっと。 だからあなたも、自分が妖怪であることは忘れて、これからは《霞さん》として、僕と友達になってください」

霞  :「(泣き止み、少し笑顔になる)......本当に螢太さんったら、どこまでも......お人好しですね。
     ......あの頃と何も変わらない......真っ直ぐなままで......。
     ......ふふ。でも、そんな風に、誰かの事を見かけで判断しない、そんな優しい螢太君だからこそ......
     私はこんなにも、あなたに......惹かれてしまったのかも、しれないですね」
螢太 :「......もう、一人で泣かないで下さい。これからは、僕がいますから」

N  :霞は顔をゆっくりと起こします。
    視線の先には、優しそうにほほ笑む少年の顔。
    膝を抱える少女とほほ笑む少年は視線を合わせると、やがてどちらともなく笑い声をこぼしました。


※シーン切り替え


N  :大人になった螢太さんは、あの時の神社の神主となっていました。

螢太 :「やあ、いらっしゃい」
S子供 :「あっ、神主さんこんにちは!」
螢太 :「こんにちは。よく来たね」

S子供 :「今日は妖怪のお姉ちゃん、いるー?」
螢太 :「あー、どうかな。あの人いつもふらっと何処かに行っちゃうから.....あいたっ!」

N   :突然空中から降ってきた霞が、真っ直ぐ螢太さんの頭の上に着地しました。
    その顔には《半分に欠けたお面》を付けています。

霞  :「人のいない所で噂しないでください」

N   :螢太さんは、重くはありませんでしたが多少痛かったようで、頭の上の霞に抗議の声を上げます。

螢太 :「痛いよも~霞さん。あと、頭の上に乗ったら駄目だって、前にも言ったでしょ」
霞  :「つーん」
螢太 :「もう......」
S子供 :「あっ、妖怪のお姉ちゃんだ!」
霞  :「こんにちは。よく来ましたね。いい子にしていましたか?」
S子供 :「してた!」
霞  :「そうですか、偉いですね。偉い子にはご褒美に、稲荷寿司をご馳走してあげますよ」
S子供 :「わーい!」
螢太 :「もーちょっと! 霞さん! まだ境内の掃除終わってないよ!」

N   :やがて、その神社には幸せを呼ぶ《カスミ》と呼ばれる妖怪の噂が広まるようになったと言われています。

<完>

<更新履歴>
2021/06/09 Nの台詞を一部修正
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