チリ婦人とドッペル婦人 part4


明るい木目とタイル地がツートンを描いている、シックでモダンな床。シミひとつない真っ白な壁紙。こじんまりとしたキッチン、電子レンジ、冷蔵庫……

すみずみまで清掃が行き届いた寮の空き部屋は、内装こそ派手ではないものの、2人のチリがルームシェアしても支障がでないほどには快適であった。

「ああどれを着せてもきっと似合うに決まってます!こんなの反則です抜群のスタイルに凛々しい顔立ちなのに1人は無垢でキュートで1人はちょっぴりワイルドでセクシーまさに双子のエンジェルです天はアナタたちに二物も三物も」

……あらゆるブランドの衣服やアクセサリーがギッシリと詰められた大小さまざまなビニール袋の山が、オモダカとペパー、そしてアオイによって運び込まれるまでは。

「オモダカお嬢様。チリさんには、このセーターとかどうかしらん?でもキリッとしたドッペルさんにはフォーマルなスリーピースとかが似合うかもねん……」

「ドッペルさん。オモダカさんもペパーも、料理とおめかしが大好きなんですよ」

チリーンの鳴くような声で、アオイが無邪気に告げる。

鼻血を垂らしながらまくし立てるオモダカ、伸ばした人差し指を頬におくペパー。

チリとドッペルの変装――という名のコスプレ撮影会が始まった。

「トップ、マジで試着せなアカンのですか……?」

「もちろん!すべての組み合わせを試してみなければ!アクセサリーもたくさんありますから!ほらチリ、バンザーイ♪」

「"(ノ*>∀<)ノ バンザーイ」

「うえっ!」

一着目の服を着せられそうになったとき、ドッペルは思わずたじろいだ。

仮にも異性であるペパーがいる前で、オモダカがためらいもなくチリのボタンを外し、カッターシャツとスラックスを手際よく脱がせたからだ。

あらわになったチリの下着姿。
「まずはコレを!」と緑のポロシャツとサングラスを差しだしたオモダカはもちろん、「デコルテとかウエストのくびれとか、すっごくキレイですね……!」と息をもらすアオイも、男子の存在を意にも介していないようだった。

「( 🕶 )」

なすがままにポロシャツとグラサン姿になったチリは「フーン」と、まんざらでもなさげである。

「あら、アタ……オレとした事がごめんなさい。ドッペルさんの世界のオレは、しっかりしてるみたいねん……」

ペパーは頬に指を当てたままうつむいた。

「ドッペルさん、安心……して?アタシその、異性を変な目では見ないっていうか……見れないっていうか……同性を……愛しちゃうの」

カミングアウトに一瞬おどろこうとしたドッペルだが、すぐに考え直して真顔にもどった。

涙ぐんだ彼を見ていると、どんな反応を示すのも茶々を入れるようで気が引けたからだ。

「『そんなの個性にすぎん』ってパパは励ましてくれたけど……そのせいでママには嫌われちゃったのん……『そんな息子はいない!』って……ごめんなさい、ドッペルさん。気持ち悪かったよね」

彼の肩に手をおき、かむりを振るアオイ。

ひどい……と浮かべたスマホのカメラを起動しながら眉をひそめるオモダカ。

「すぐに出ていくから。アタシはお嬢様が撮った画像で楽しませてもらうことに……」

「なーんや、そないな事かいな」

ホッと息をつき、タイをゆるめたドッペルは、チリと同じくシャツとズボンを脱ぎ捨てた。

「これでええ?さすがにマッパになるんは心の準備いるけど」

取るに足らないお使いをすませたように気軽な口調で、ドッペルはペパーに笑いかけた。

「な、なんで」

「なんでって……自分のオトンも言うとったんやろ?おかしくも何ともあらへんよ。好きなんが男の子ってだけやん」

「ねえ、ペパー!言った通りでしょ?チリさんが良い人なんだし、もう1人のチリさんだって絶対に優しいだから大丈夫だって!」

「(>ε<) ヘ、ヘップシ!」

「そんな事より!わたくしのチリコレクショ……もとい変装写真を早く撮影しなくては!通気性がバツグンな半袖のままではチリが風邪をひきます!」

「みんな……ありがとう……」

「ねえ早く早く!ペパーのコーデスキル、わたしも久々に見たいなあ!」

ペパーの肩を支えにピョンピョンと跳ねるアオイの声が、しめりけを吹き飛ばす。

「……凛々しいドッペルさんはカジュアルに行くのが良いかもねん。チリさんはのんびり屋だから、ギャップ狙いでタキシードとか……」

涙を拭ったペパーは、何事もなかったように服飾モードをonにした。

あれでもないこれでもない、とワイワイ騒ぎながら試着を重ねるうちに、

「変装するのは自分であってチリまで着替える必要はないのでは?」というツッコミは、ドッペルの脳裏からすっかり忘れ去られた。

……元のスラックスの尻ポケットに入れたままの、ポピーと写った1枚の写真と同じく。

翌日。レホールとジニアに取り付けた講義の時間までは、まだ余裕があった。

2人きりの寮の部屋にやや飽きたドッペルは、ある要件を済ませるべくチリに付き添う事にした。

結局いつも通りの衣服をまとったチリの指が、建物の看板を次々とさしては「(*´罒`*)シシシ」とドッペルに笑いかける。

デリバードポーチ。惣菜屋。美容室。どれもドッペルの見た街並みと変わらない。ただ、2つの違いがあるとすれば……

「ねえねえチリさん!この前の面接のお礼!授業で作ったドオーぐるみ!これあげる!」
「(*^^*) oh センキュー♪」

「チリさん!こないだは絡まれてた弟を助けてくれて……」

「チリさんの空飛ぶタクシー楽しかったなあ!気球がついたグリーンの車、また乗せててね!」

1つ。こちらのチリは、住人から(特に幼い子どもたちを中心に)広く親しまれている事。

(こっちのチリちゃんは、怖い美人さんやあらへんねやな……)

人助けのほとんどが偶然の産物や気まぐれだとは知らないドッペルは、元の世界とは違う自身の慕われぶりが少し羨ましくなった。

「チリさん!お隣の美人さんだーれ?」
「箱入りのお嬢様ってかんじ〜!」
「お顔がそっくり!もしかして姉妹?」
「ああ、いや……あのな、その」

そしてもう1つの予想外は、変装した事で自分がかえって注目の的になっている事だった。

「ま、まいど……リカちゃん言います〜。この子とは従姉妹どうしなんですわ。ナハハ……」

「そっかあ!だからそっくりなんだね!」
「あの、リカさん。お姉さまって呼んでも……」
「あー、リカちゃんでええで〜」

白黒のロリータドレスに大きな丸メガネ。後頭部には2本の三つ編み。ペパーいわく抑えぎみのファッションのはずが、整った目鼻立ちが一層引き立ってしまっている。

(これじゃ変装の意味あらへんやん!)

ドッペルは、冗談まじりで自画自賛してきた己の美貌を初めて疎ましく思った。

「ご、ごめんな〜。チリ……リカちゃんら急いどるから、また今度な!」
「ヾ(*ˊᗜˋ*) バイバイ!」

「えー!」と後ろ髪を引く子どもたちの声を振り切り、西のゲートから校外に出た2人は、橋のたもとに停められた緑のミニクーパーへと乗りこんだ。

「ところで、ホンマにこの車で行くん?」

先ほどの生徒から貰った手のひらサイズのドオーぐるみは、フロントガラスの下に鎮座している。

「(*´艸`)リップ♪リップ♪」

オモダカやレホールとならぶ、大好きな遊び相手の名前を連呼しながら声を弾ませるチリには、ドッペルの問いなど耳に入らない。

「……ものごっつ不安やねんけど……」

行き先はベイクタウン。
ドッペルの脳内には、ジムチャレンジの名物でもある、ベイク周辺の悪路の数々が浮かんでいた。

着せ替えに満足したペパーとアオイが去ったあと、2人のチリは、残ったオモダカとともにジニアのスマホに連絡を入れた。
その時、なぜかジムリーダーのリップも連れてくるようにと彼から依頼されていたのだ。『彼女に時は満ちたと伝えてくれ』という言づてとともに。

「でも、なんでリップさんなんやろ?」
座席に身をもたれさせたドッペルの疑問が解けるのは、ジニアの講義までお預けとなる。

「ひゃあああ!!アカンアカン!死ぬ死ぬ死ぬ!」

セルクルタウンを通り抜け、西1番エリアを突っ切ったミニは、三叉路を迷うことなく左へ曲がり、あれよあれよと洞窟に到達していた。

「アカンアカン!ヤバいヤバい!チリちゃん背骨いかれるって!!車壊れるうう!!」

本来なら、ライドポケモンでなければ走破できないはずのベイクタウンへの近道。

だが、ハンドルの下にあるボタンが自慢げに微笑んだチリに押されるや、ミニの車底に仕込まれたスプリングが飛び出し、車がピョンピョンと小刻みに跳ねだした。

「うおっ、うおっ!な、なんや!どないなっとんねん!?」

「(`・ω・´) ドン ウォーリー!」

いつになくキリッと正面を向いたチリのローファーが、アクセルを力強く踏みこんだ。

「うわわわ!なんやなんや!!うわっ!?ひゃあ!?」

着地のたびに襲いかかる凄まじい衝撃に車内を揺らしながら、スプリングに飛び跳ねるチリのミニが、大小の弧を描いて断崖を次々と飛び越えていった。

「(`・ω・´) タイマツ!メジルシ!」
「こ、このアホ、どうにかしてくれえ!!」

鉄の塊が宙を舞う。
車内から轟く、くぐもったドッペルの悲鳴。洞窟に陣取るアカデミー生やドラゴンつかいの奇異な目がグリーンの車体に突き刺さった。

「し、し、死ぬかとおもた……!」

洞窟の中をくぐり終わるころ、額に脂汗をかいたドッペルが助手席から吠えた。

「こんのドアホ!!チリちゃんらはゴムボールやなし!!無茶しすぎや!!」
「(;´Д`)ハアハア」

満身創痍なのはチリも同じようで、まばらな前髪を額に張りつけ、ゼーゼーとハンドルに突っ伏している。

「ハァハァ、ベイクタウンはすぐそこや……早く車を元に戻してくれへんか……」
「( ̄▽ ̄;)……リップ♪」

チリが再びスイッチを押し、ミニのタイヤが地に着いた。

「あの人、こっちでもモデルだので大忙しなんかな?」
「(* ˊ꒳ˋ*)ウンウン」
「アポとっときゃ良かったわ……出払っとらんならええけど……」

さいわい、ドッペルの心配はすぐに杞憂となった。
唖然とする出口近くのやまガールに「まいど〜……」「( ˊᵕˋ ;)ハ、ハロー」と手を振りながら、洞窟を脱出した2人。切り開かれた明るい道路には、2人の人影が見えた。

「離して!!リップはもっとゴイスーに……」

「これ以上なる必要がどこにあるんだ!あの男は狂人だ!目を覚ませ、リップ!」

「いや、いやあああ!」

「( ゚д゚) リップ!リップ!」
「リップさん!?ど、どないしたん!」

街の入口。半狂乱のリップを、白衣の女性が羽交い締めしている。

「だって、だって!リップじゃ、世界的なキハダちゃんに釣り合わないって、さっきのチャレンジャーが!!」

「そんなヤツの戯れ言、放っておけば良い!貴様を貶めるヤツはワタシが成敗してやる!昔と同じように!だから落ち着くんだ!」

「もうキハダちゃんに迷惑かけるのは嫌なの!!」

ポケモンセンターとショップの店員も、揉み合う2人を怪しげに眺めていた。

「( 」゚Д゚)」<リーップ!」
「チ、チリちゃん!!タイミングがバッチグーね!!」

運転席の窓を開けたチリに、満開の笑顔で喜ぶリップ。ミニに駆けようとするものの、キハダが許さない。

「(*`・ω・´) カム!カムヒア!」

「ジニアさんが言ってたお迎えって、もしかしてチリちゃん?」

「行ってはダメだ!たしか四天王の……リップを止めてくれ!」

「キハダさん……でしたよね!チリ……リカちゃんらジニアさんに用があって……」

「そうなの!リップもジニアさんに用があって!」

「(`・ω・´)トキワ ミチタ」

「……!とうとうリップは生まれ変われるのね!」

ウットリと空を見やるリップを抱きとめたままブンブンと首を振るキハダ。

「リカちゃんたちにも、どえらい悩み事があるんですわ……んで、もしかしたらジニアさんが解決してくれるかも知れへんくって。」

「ワタシたちとは無関係じゃないのか!?」

「でも、相談する前にリップさん迎えに行けって言われとるんですわ。『時は満ちた』って伝えたら分かるって……」

「はあぁ……!」

「ダメだダメだ!あの男の甘言に乗せられるな!アイツは、人の尊厳ですら実験材料としか捉えていない悪魔なんだぞ!!」

「なんか知らんけど、えらい強情やな……」

「( •ᾥ•) イラッ」

助手席からバタンと外に出たドッペル。押し問答に嫌気がさしたチリも、彼女に続いて降り立った。

「あの、悪いようにはせえへんって通話で言っとりましたけど……」

「ジニアにとっては実験の正否こそ全てなんだ!アイツの『悪くない』には倫理など含まれてない!

リカと言ったか!見たところ、貴様はアカデミーに行くのが初めてなのだろう!だから知らないんだ!わが校の教師陣どもの危うさを!!」

「いやぁ、それが何回かお世話に……」

「 (💢'ω')」

誰が例えたか『アナキズムの権化』。自分や友達を邪魔する者、間の悪い者がチリは大嫌いである。今の彼女にとっての悪魔はキハダの方だ。

リップを助けなきゃ!

チリは唇に手先をあてがいながら、愛車のまわり――ベイク近辺に住む野生のポケモンたちを見渡した。

ワタッコ、チャーレム、ビビヨン……

「(*ˊᗜˋ*) アイツニ キメタ!」

顔をほころばせたチリの目先には、日向ぼっこをしながらゴロンと寝入っているハラバリーの姿。ミニの後ろを開いたチリは、トランクに入った一対のジャンプケーブルを手に巻き取った。

「( ̄ω ̄;) ……」

そろりそろりとハラバリーに近寄ったチリ。大の字で寝そべるハラバリーのお腹に、赤黒の先端がプニッと挟まれた。

「( ̄▽ ̄) ニヤリ」

そして、緑のスマホをポケットから取り出し、画面を何度か叩いたチリは、スマホを原っぱに置いた。
ハラバリーの耳元に置かれたチリのスマホは、20秒後にアラームがセットされている。

「(*´罒`*)シシシシ」

忍び足のまま、キハダの背後に近寄っていくチリ。頭の中で秒数をカウントする彼女の両手には、ケーブルの反対側――もう一方の端子が握られていた。

「降霊術と称してレホール先生を生贄にささげようとしたり、怪しげなクスリを調合して部屋を爆発させたり……もっとも爆発に関してはジニアの仕業ではなかったそうだが……」

「な、なかなかエキセントリックな人なんですね……」

チリの存在など気づかないまま、キハダとドッペルのやり取りは続いていた。

「でも、リカちゃんを待ってる人かて山ほどおるんですわ!元いた場所に帰るヒントがないと……」

「勝手にすればいいだろう!キサマの境遇は知らんが、リップには指1本触れさせんとジニアに伝えろ!」

「せやからリップさん連れてこいって……ああもう!」

この世界の住人は、何故どいつもこいつもラチが明かないのか。ドッペルはペタンとまとめられた三つ編みの頭をボリボリと掻きむしった。

「(`・ω・´)」チョンチョン

「?……何だ」

肩をつつかれたキハダが、リップから手を離して背後を向いた……瞬間。キハダの両手に、ジャンプケーブルの赤黒の端子が挟まった。

ピピピピ!!

大音量でこだまするスマホのアラーム。飛び起きたハラバリーが、驚いた拍子に電気を放った。

「バリバリバリバリ!!」

「ほんぎゃふんぎゃら●★&@☆*&!!!?」

全身を硬直させ、X字に跳ね上がるキハダの全身。

「キハダちゃあああん!!?」

ハラバリーの放電を受けたキハダは、目をうずまきにしたまま、白衣をススに染めてコテンと真横に倒れた。


チリの説得に心を動かされたのか、もしくは生命の危険を感じたのか、キハダは渋々ながらリップの貸し出しを許可した。

もちろん、自分が同行するという条件で。

「リ、リカちゃんの親戚が無茶やらかしてすんません」
「で、でも、モーマンタイで良かったわねキハダちゃん……」
「……コレが無事に見えるのか?」

アカデミーへと戻るミニの車内。リップと隣りあって後部座席に座るキハダの頭は、チャーレムを模した髪型のところどころがボサボサに逆立っている。


ドッペルの必死の提案でバネは使われず、空洞のなだらかな斜面を降りたミニは、行きとは異なる海沿いの道をゆっくりと進んでいる。

海に落ちる不安はあるが、車体を何度も地面に叩きつけられるよりはマシだ。

「ジニアのヤツ、リップまで巻き込んで何を企んでいる……」

「チリちゃんが迎えにくる前、『キミの望みが叶うかもしれない』って連絡があったわ……」

「望みだと?」

「……うん」

顔を下げたリップが、苦々しそうに漏らした。

「リップ、小さい頃から弱虫で暗くて、キハダちゃんに守られっぱなしで……」

「誰が弱虫なものか」

ピシャリと否定するキハダに構わず、リップは続けた。

「キハダちゃんは世界が認めたゴイスーな先生。それに引き換え、リップは地方のジムリーダー……モデルだって、街をフラフラしてたらたまたまスカウトされただけで……」

「こんなの釣り合わないわよ」と顔を覆ってすすり泣きはじめたリップの背中を、メガネをかけたキハダが摩る。

「たしかに釣り合わないな。プロを認めさせた美貌。強さへの渇望をあきらめさせ、ワタシを研究の道に走らせた勝負の腕。こっちこそリップが羨ましいよ」

「……リップがリップをいちばん嫌いなのは、その優しい言葉を素直に受け入れられないネガティブな心……!」

運転手の荒い鼻息と混ざるリップの嗚咽。しばらくしゃくり上げた後、メイクの崩れたリップの顔がキッと上がった。

「だから、ジニアさんに何ヶ月も前からお願いしてたの。『リップの性格を、どんなケツカッチンにも負けないぐらいマキアージュしてください』って!」

「じゃあ、ジニアさんが言うとった『時は満ちた』ってのは……」

「きっと実験の準備がパーペキっていうサインね!早くアカデミーに行きましょう!」

「……ジニアめ。リップに狼藉をはたらいてみろ。ハリテヤマのヘビーボンバーをお見舞いしてやる」

高台を抜けて海沿いを後にしたミニは、時おりクラクションをけたたましく鳴らして野生を追い払いながら、アカデミーへとたどり着いた。

『ククク。正門に着いたか。実験室から見えているよ。四天王やトップチャンプもお待ちだ。そちらの覚悟が出来たら、いつでも待つ。ヒャハハハ……』

不穏な笑い声とともに通話が切れた。
時刻はまもなく正午。ジニアとの約束の時間が近づいていた。ドッペルはスマホをドレスにしまうと、「ちょっとタンマ!」と3人に告げ、寮の部屋へと向かった。

(こんな堅っくるしい格好、やっぱ合わへんわ)

ドッペルは、論より証拠をジニアやキハダ達に見せるのも兼ねて、元の服装に着替えた。

カッターシャツ、黒いネクタイ、そしてスラックスにドオー柄のポンチョ。

カサッ。

「おん?」

脚を通した時、ドッペルは尻ポケットに感触を感じた。

「すっかり忘れとった!そういえば、こっちに来る前から入れっぱなしやったっけ……」

元のポピーと写っている『はずの』写真を見つめたドッペルは、とある異変に目をまばたかせた。

「……チリちゃん、こないに影薄かったかな?」

ポピーに頬ずりしている自分の姿が、まるで透明人間のようにボンヤリと透けていたからである。
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