小説・老人の女神(浅野浩二)


あるおじさんがいました。おじさんは、自分の専門の仕事はわかるけど、パソコンは、わからないのでした。それで勇気を出してパソコン教室へ行ってみました。今時こんなことも知らないのか、と、ひややかな目でみられ、笑われるのではないかと内心ビクビクしていました。しかしパソコンスクールの女性インストラクターは、森高千里みたいな、きれいな人で、たまをころがすようなきれいな声で、ていねいに教えてくれるのでした。人をみくだしたり、あざける心などなく、万人に平等にわかりやすく教えてくれるのでした。おじさんは、先生という職業は、仮面をかぶっているのだから、彼女が内心では、
「今時、こんなこともしらねーのか、トロイジジイ。」
と、思っているのじゃないかと心配になってきました。キーボード入力とか、ファイルの移動とか、むつかしいのでした。とうとうおじさんは、耐えられなくなり、インストラクターの前に、
「わたしは、あなたの思っているとうりのトロイジジイだ。表面的な笑顔をしつつ、心の中ではあざ笑うようなネチネチしたいじめには耐えられない。わらってくれ。」
と身をなげだしました。その時、きれいなパソコンインストラクターは、仏のような慈悲のまなざしで老人の手をとり、
「そんなことをしてはいけません。」
といって、老人をたたせ、
「どこがわかりにくいのですか?」
と言いましたそのコトバには人をみくだす心などみじんもない慈悲の心がありました。
「おお。あなたこそは仏様の生まれ変わり、弥勒菩薩だ。ありがたや。もったいない。」
と言って老人は手を合わせて拝みました。
「私はあなたのお声をいただくのももったいない。」
と言って老人が去ろうとすると、インストラクターは、
「パソコンはカンタンですからもうちょっとガンバリましょう。」
といってくれるのでした。老人は随喜の涙をながしました。そこには仏の心をもった女神がいるように老人にはみえたからでした。
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening