――夜はまだまだこれからさ。思う存分慄いて、僕たちを楽しませておくれ。
<比率>
2:1:2
<時間>
10~15分
<登場人物>
少年
【少年(しょうねん)】不問
迷い子。月夜の晩に森を彷徨う。
案山子男
【案山子男(かかしおとこ)】男性
頭の中はおがくずしか詰まっていない。
魔女
【魔女(まじょ)】女性
大釜(コルドロン)から地獄を覗く。
ゴースト
【ゴースト(ごーすと)】不問
同じ言葉を繰り返す癖がある。
狼男
【狼男(おおかみおとこ)】男性
大きな身体でよく吠える。
<利用規約>
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------------以下台本—----------
―月夜の晩。とある国のとある深い森にて。
(木々がざわめき、鳥が不気味に鳴いている)
少年:おとうさぁん、おかあさぁん。
(狼男の遠吠え)
少年:ひっ!
(少年はあてもなく彷徨い歩く)
少年:暗いよ、怖いよ……おとうさん……おかあさん……どこに行っちゃたの……。
案山子男:こっちかも?
少年:え?
案山子男:はたまたこっちかも?
少年:え、え?
案山子男:分からないねえ、分からないねえ。分からないのは面白い!
(案山子男、くすくすと笑う)
少年:あ、あ……
(他のモンスターたちも続いて笑う)
(木々のざわめき、鳥の鳴き声が大きくなってゆく)
少年:いやだ、いやだよぉ!助けて!おとうさぁん、おかあさぁん!
(少しの間)
(少年は蹲り、しくしくと泣いている)
案山子男:ホップ、ステップ、くるりとターン。一本足でも、そらご覧の通り。ねえ君、顔を上げてはくれないかい?
少年:ひ。
魔女:コルドロン、コルドロン、ぐつぐつ煮えるコルドロン。吹きこぼれるは死霊の鳴き声。
少年:やめて、やめてよぉ……
ゴースト:迷い子よ、お前も迷い子か。私も迷い子。おなじだねえ。
少年:たすけて……
狼男:ふん、こんな痩せっぽっち!食っても腹は膨れない。それより俺は月に吠えたい。
(狼男、吠える)
少年:ひぃ!
案山子男:ああ、ああ、やめなさいよ。
少年:……え?
案山子男:大丈夫、私たちは君に危害を加えるつもりはないよ。
ゴースト:迷い子、迷い子、愛しい迷い子。私はうれしい。君に会えてうれしい。
案山子男:まったくもって皆趣味が悪い。せっかくのお客を怖がらせるなんて。
(魔女、くつくつと笑う)
魔女:あたしたちの挨拶を趣味が悪いとは、ひどい男だねえ。
狼男:そもそもこいつは本当に俺たちの客なのか?
案山子男:勿論だとも。この僕の目が信じられないとでも?
魔女:古ボタンの目で一体何が見えているんだろうねえ。
案山子男:おや、失礼な。
狼男:そんなことはどうでもいいこった。とっととその客とやらの話をしろ。俺は待つのは嫌いだ。かったるい。
案山子男:まあまあ、そう言わずに。何事にも段階というものがあるだろう?お客様に心のこもったおもてなしをするなら、猶更(なおさら)だ。
少年:……
(少年、こっそりと逃げようとする)
ゴースト:迷い子よ、迷い子よ。どこへゆく。
少年:あっ
案山子男:怖い思いをさせたねえ。大丈夫、君は今日のお客だ。
少年:ぼ、僕をどうするつもりなの……
案山子男:僕たちと遊ぼうじゃないか。
少年:へ?
魔女:お前はどこから来た?そしてどこへ行く?
少年:そんなの家から来て家に帰るに決まってるだろう!
(魔女、高笑いをする)
少年:な、なに……
魔女:なんとまあ、可愛い子だこと。
少年:……
ゴースト:迷い子はみな可愛い。迷い子は大好きだ。くるくるくるくる彷徨って、まるでゴースト。私と同じ。
魔女:あたしの可愛いコルドロンに聞いてやろうか。お前の行く先を。
ゴースト:可愛いのは迷い子。コルドロンは不気味な子。
狼男:しかも臭い。
(狼男、コルドロンを嗅ぎ、おえっとする)
魔女:はん、なんとでもお言いよ。ねえ坊や、あたしのコルドロンに知らないものはないんだ。
少年:触らないで!
狼男:はーはっはっは!いいぞ痩せっぽっち!夜の森の客はそうでなけりゃ!
ゴースト:迷い子は死にもの狂い。死にもの狂い。
(ゴースト、くすくすと笑う)
少年:僕は迷い子なんかじゃない!言っただろう、僕には帰る家があるんだ!
狼男:俺にはそうは思えない。お前からは墓場の匂いしかしない。
少年:……え?
魔女:だからコルドロンに聞くのさ。コルドロンに見えないものはないよ。特にこの地面の下のことはね。
少年:どう、いう……
魔女:コルドロン、コルドロン、可哀想で可愛い男の子。
(ゴースト、けらけらと笑う)
ゴースト:迷い子だ。迷い子だ。
少年:僕は、ああ、違う!僕は……僕は!
魔女:コルドロン、コルドロン……見せておやりこの子に、真実を。
少年:やめて!ああ、おとうさん!おかあさん!どこにいるの!早く助けてよ!
ゴースト:迷い子だ。迷い子だ。迷い子だ。
少年:あぁぁぁぁぁ!
案山子男:ああほら、また皆の悪い癖だ。すぐになんでも終わらせようとする。
(少年、ぐすぐすと泣いている)
案山子男:ねえ君、無理をしなくていいんだよ。
少年:……
案山子男:夜はまだまだこれからさ。思う存分慄(おのの)いて、僕たちを楽しませておくれ。
少年:あ、あ、あ……そんな……
魔女:案山子は本当に悪趣味だ。あっちを指したり、こっちを指したり、惑わせてばかりで性質(たち)が悪い。
狼男:しかもどちらも正しくないときてる。
ゴースト:おがくずしか詰まっていない頭は狂っている。死霊よりも迷い子だ。
少年:もうやめて!許して……許して家に帰してよぉ……
狼男:ああもう我慢ならない!俺は茶番は嫌いだ!いい加減好きにさせろ!……おい小僧。
少年:ひっ
狼男:この声に覚えはないか?
(狼男、遠吠えをする)
狼男:もう一度。
(狼男、もう一度遠吠えをする)
少年:あ……
魔女:コルドロン、コルドロン、釜が満ちるよ。
狼男:そら、思い出せ。
(狼男、再度遠吠えをする)
【間】
少年:おとうさん……おかあさん……
ゴースト:迷い子は悲しくない。迷い子はさみしくない。ここには迷い子がたくさん。悲しくない。さみしくない。
魔女:迷い子は迷い子を連れてくる。さみしくないように連れてくる。コルドロンはいつもいっぱい。
少年:あ、ああ……ああ……
狼男:暗い森。父親も母親も戻らない。誰もいない。腹がすいた。誰もいない。
少年:ぼ、くは……僕は……
狼男:狼の声は、怖いだろう?
少年:違う!嫌だ!僕は、僕は家に帰るんだ!
(少年、走り出す)
魔女:コルドロン、コルドロン。森は真っ暗で何も見えない。ほらほら、走ったら危ないよ。
少年:おとうさん、おかあさん、嘘だ……嘘だよね……
(少年、足を滑らせる)
少年:ああっ!
ゴースト:迷い子には何も見えない。足元も、目の前の崖も、何も見えない。足を滑らせたのにも、気づけない。
少年:うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!
(ざくり、という音)
(しばらくして、ぽたりぽたりと何かが落ちる音)
少年:あ……あ……
案山子男:ほう、君は串刺し男だったのか。
少年:お、とう、さん……おか、あ、さん……僕は……じゃ、まだ、った……?
(少年、血を吐き出す)
少年:げ、ふっ……
狼男:これは墓場の匂い。血と肉の、腐った匂い。
ゴースト:迷い子の匂い。
魔女:戸惑いと悲しみ、恨みの匂い。
少年:ふっふふふ……
案山子男:……
少年:あっはははははははは!あーっはっはっはっは!
ゴースト:鐘が鳴る。鐘が鳴る。
魔女:おかえりなさい、可愛い子。
(魔女・ゴースト、共に笑う)
(狼男、合図のように遠吠えをする)
魔女:コルドロン、コルドロン。溢れる溢れる。死と恐怖が溢れだす。
ゴースト:迷い子よ、迷い子よ。共に迷おう。永遠に。
少年:串刺し男がやってくるよ!ああ、串が邪魔でなんだか歩きにくいや。いっそこいつを抜いてしまおうか。いいや、抜いたら胸にぽっかり穴が開く。だったらみんな串刺しにしよう。そうすれば誰も悲しまない。ほぉらほら、串刺し男がやってくるよ!串刺しにされたくなければ、そら!お前の子供をしっかり抱きしめ、柱時計にでも隠しておくこった!あはは!あははははは!
狼男:月に吠えろ!闇に吠えろ!生と死を曖昧に!境界線を走り抜けろ!
(狼男、遠吠えをして高笑いをする)
(案山子男以外も、続いて高笑いをする)
【間】
案山子男:……つまらない。なんてつまらない。どうしてこうもすぐに行き先を決めるのか。もっとあちらこちらと迷えばいいのに。分かち難い生と死を、あちらこちらと迷えばいいのい。迷うことこそ、なにより恐ろしいことだというのに。どうして誰も分からないのか。嗚呼つまらない。実につまらない。いやはや、これは僕の悪い癖だ。やめられない、悪い癖だ。あちらこちらと指しすぎて、僕まで迷い子になりそうだ。はっはっは、楽しいねえ。……ホップ、ステップ、くるりとターン。一本足でも踊れるのさ。屑の詰まった頭でも、楽しいこととつまらないことは、分かるのさ。
【幕】