【閲覧注意】ハインライン×アーサー♀


時系列:劇場版後
ハインライン設計局とか局長(オリキャラ)色々捏造過多注意。
アーサーは女性ですが名前はアーサーのままです。

「結婚…?」
早口で捲し立てるような喋り方をするハインラインにしては、ゆっくりと咀嚼するような声だった。
ファウンデーションとの戦いの後、コンパス凍結から再開に向けて用意が進んでいた。
その再開に向けての準備の一環としてミレニアムが本部のあるアプリリウスに戻ったところ、鬼のような呼び出しを受けて渋々設計局の局長室に立ち寄ったハインラインに対し、一族の代表でもある設計局局長は端的かつ短く「結婚しろ」とだけ言った。
ハインラインは始めは何を聞いたかわからないような顔をしたものの、従来の頭の回転の速さで理解が及んだのか、次の瞬間には嫌そうな顔を隠そうともせず遥か目上であるはずの局長を睨みつける。
「何を馬鹿なことを、プラントのコーディネーターとして婚姻統制による結婚や子供の育成は義務と言って良い事は理解していますが、それにしたって相手と性格が合わず離婚や別居も社会問題となっている事はご存知でしょう。私について来れるような女性などいないでしょうし、時間の無駄にしかなりません。私は相手に合わせるような性格ではありませんし子育てに向いていないと思われます。やりたい事も出来る事も有り余るくらいあるのです。プラントの一員として結果は充分過ぎるほど出しており、義務以上の利益を出していると自負しています。従って私は結婚など不要です」
いつ息継ぎをしたのか不思議なほどの早口にも、局長は慣れているのか顔色一つ変えずに手元の端末を操作する。
「スケジュールを送った」
ハインラインが早口ならば局長は端的に過ぎた。
慣れていない人にとってはどちらも厄介な人ではあるが、ハインラインは局長の態度に慣れているのか文句を言わずに送られて来たスケジュールに目を通す。
どう見てもプログラム設計の進捗表を流用したとしか思えないスケジュール管理表には、見合い後半年の期間を経て結婚となっている。
添付資料には挙式を含む各項目毎に必要な手続きが手順とともに細かく提示されていた。
もはや結婚のマニュアルである。
少なくともマニュアルに従えば相手さえいれば結婚は出来るだろう。
それに従えばであるが。
「…見合いの日時が本日現時刻なのですが」
「呼んである」
思わずハインラインは天を仰ぎたくなった。
自分の言動に良くそうする艦長や副長の気持ちが分かった気がする。直す気はないが。
ここはハインライン設計局、もちろん外部の人間を通す応接室くらいはあるし、体裁くらいは整える場所もある。
それにしても見合いをする場所では無いだろう。
応接室に連れられる前に逃げる算段を計算し始めたハインラインに局長はさも当然のように言う
「移動の必要はない、座れ」
まさかの見合い会場は局長室であった。
応接室ですらなく、局長室。逃がす機会など与えないと言わんばかりである。
応接室にも見劣りしないようなテーブルと椅子のセットはあるが応接室よりもさらに見合いをするような場所では無い。
ハインラインを何が何でも逃さず見合いの席に着けるには、体裁などかなぐり捨てる必要があると言う事だろうか。
流石は親族である。幼少期からこちらをよく知っている年長者ほど厄介な存在はいない。
「いや待ってください、冗談でしょう!?誰が見合いを承諾しましたか。それ以前に本人に断りもなく見合いの準備をするなど非常識でしょう。そもそも相手方はこのような見合いで良いのですか。相手にこのスケジュールは了承を得られているのですか!?」
「当然送ってある」
こちらも非常識だが相手方も非常識なのでは…いやそれくらいの人物でなければ、お世辞にも対人関係の評判が良いとは言えないハインラインとの見合いを承諾などしないのかも知れない。
頭が痛くなって来たハインラインを無視して局長は端末に話しかける。
「通せ」
停める暇もなく隣の秘書室から秘書に連れられて女性が入って来た。
思わず抗議の声を上げようとしたハインラインの目に毎日見た顔が飛び込んでくる。
それこそ今日の朝、外出許可を取りに艦長に挨拶に行った時に見た顔ですらある。
「えーっ!?ハインライン大尉!?なんで!?」
「………それは私の台詞です、副長」


「いやー、ハインライン設計局の人とお見合いって聞いてたけどハインライン大尉だったんですねー、そう言えばハインライン大尉のファーストネームはアルバートさんでしたね。聞いた時に気づいておけって話ですね!大きな声出しちゃってすみません!」
「………」
局長に促され座ったハインラインの前に、照れて誤魔化すように笑いながら座るアーサーをハインラインは苦々しい顔で睨みつける。
今日ここに来て初めて見合いを知ったハインラインはともかく事前にアーサーに話が入っていたなら気づいておいて欲しかった。
そうすればここに来る前に見合いを阻止出来ていただろうに。
大体何故このポヤンとして見合いにコンパスの制服で来るような抜けているのが見合い相手なのか。
副長の仕事はこなせているようだが、オーバーリアクションと頼りない言動に苛立ち、仕事として最低限のやり取りはするがろくに喋った事もない。
ハインラインからすると話す価値が無いので話しかけない。
かろうじて艦の副長としてさらには戦後に導入された階級により上官である認識はあるので、必要な話をする時は敬語は使う相手ではあるがそれだけだ。
「スケジュールに不都合は?」
局長の言葉に我に帰る。
「話を進めないで下さい。私は見合いにも結婚にも了承した覚えはありません」
「決定事項だ」
「納得していません!」
思わず声を荒げたハインラインにも局長は動じず、秘書に持って来させた資料をテーブルに置く。
遺伝子相性の結果報告資料であり、極めて高い数値が出ていた。
それこそプラントの結婚統制を考えれば、周囲から強く結婚を推奨される数値ではあった。
「遺伝子相性が良く子供を作れる可能性が高い、年齢性別健康状態に問題無い」
それで充分だろう、と局長は言う。
子供を作れると言われて向かいに座ったアーサーは居心地悪そうに身じろぎした。
見合いに応じているのだから求められているのは子作りに子育てだろうに、自覚が無かったのかと苛立ちながらハインラインは局長を睨む。
「遺伝子の相性診断など応じた覚えが有りませんが?」
「出生時に登録した遺伝子情報で診断をかけた。お前の両親の許可は取ってある」
おそらく、今この時点でも設計局のなかで働いているであろう両親に内心で在らん限りの罵倒の言葉を浴びせる。
部外者であるアーサーが居なければ口に出していたかも知れない。
「設計局としてはお前の能力を高く評価している。だからこれだけ相性の良い結婚は決定事項だ。拒否は許さん。義務を果たせ」
「えぇと、私が了承したのはお見合いまでなんですが…」
圧すら感じる局長の言葉に怖いもの知らずにもアーサーが口を挟む。
局長はハインラインからアーサーに向き直る。
「決定事項だ」
「えぇーっ!?」
「現時点で相性診断出来る遺伝子の組み合わせで一番相性が良い、不満な点があるなら述べて貰おう。そちらの条件はこちらは了承している」
憤りすぎて言葉も無いハインラインも条件と聞いてアーサーに目を向ける。
「ハインライン大尉はご存知だと思いますが、後見人をしててこの度正式に引き取り予定のウィリアム君の事です。養子縁組するのに出来れば両親揃っている方が良いと言われて…その、特に相手もいなかったので良い機会だしお見合いはどうかと薦められまして…」
養子縁組に了承するのが結婚の条件だったと聞いて呆れる。
そもそもコーディネーターの結婚は子供を作る事を期待されているのに最初に養子縁組したいという女と結婚したがる相手がどこにいると言うのか。
頭におがくずでも詰まったカカシか何かか。そう言えばブリッジでよく立っているな。そのままカカシにでもなってしまえ、騒がしくない分マシかも知れない。
失礼な考えを口に出さないように左目に付けたモノクルデバイスの位置を直す。
「グラディス艦長は残念だった」
局長が淡々と話を進める。
「ミネルバは良い艦だった。記録を見たが艦長は艦の性能を十二分に発揮されていた。専門分野は違うが技術者として敬意を表する。故に身内となるならその遺児への援助は惜しまない」
「…あ、ありがとうございます。艦長の事を分かってくださる人に出会えて嬉しいです。本当に惜しい人でした…」
その艦長の遺児を盾に結婚を了承すれば援助すると圧をかけられているのを理解しているのか。
していないのか、大丈夫かこの女。
涙ぐんでいる場合では無いだろう、形ばかりとは言え見合いの席でどうなんだこれは。
もはやハインラインのなかでただでさえ低いアーサーの評価は大暴落していた。


ハインラインの意見をガン無視した局長は、あれよあれよとアーサーを丸め込み設計局を出る頃には形ばかりの婚約者となっていた。
形式とは言え見合いだけだったはずなのだが。
艦に戻るのは同じなので設計局が用意する車を一緒に待つ。
「……局長にウイルスでも送っておくか」
「えーっ!ダメですよ!とんでもない!」
物騒なハインラインの言葉にアーサーがオーバーアクションで驚く。
それに苛立ちながら誤魔化すようにモノクルデバイスの位置を直したハインラインはアーサーに向き直る。
「副長は事態を理解していますか?このままだと半年後にはこの私と結婚する事になるんですよ。結婚生活はイメージ出来ますか。なんならウィリアム君とも一緒に生活する事になりますが、私とウィリアム君が親子をやれそうだと思っておられるのでしょうか。そもそも結婚という生涯の一大イベントに対して余りにも軽々に判断しすぎてはいませんか。コンパスの活動を続けながら子供を作ったりましてや産んだり出来るとお思いですか。私と、結婚して、子作りして、産むためにコンパスを辞めるか休職して、子育てをするその覚悟は本当におありでしょうか!?」
段々とボルテージと速度を上げるハインラインの言葉にアーサーはポカンと口を開けて目を白黒させる。
「その、そう言えばそうなんですけど…ええと…」
「その程度も考えていなかったのですか」
「す、すみません、鈍臭いもので」
えへへ、と言わんばかりに頬を掻くアーサーをハインラインは見下ろす。
「鈍臭い女は嫌いです」
いつもの早口とは違い、吐き捨てるようなハインラインの台詞にアーサーが困ったような顔をする。
「すみません。気をつけます」
ペコリ、と頭を下げるアーサーに流石のハインラインも冷静になる。
「仮にも上官に言い過ぎました。失礼しました。謝罪します」
「えぇー、仮じゃなくてホントに上官ですよぉ?」
頭を下げるハインラインの謝罪にアーサーは何事も無かったかのように軽く返してくる。
困ったように笑うアーサーにハインラインは小さくため息をついた。
「婚約は冗談では無いですが、少し期間を空けないと解消もままならないでしょう。折を見て局長を説得するしかありません」
「あ、はい…そうですね、私と結婚とか嫌ですよね…」
ますます困った顔をするアーサーになぜか動揺したハインラインは、手配の車が来たのを幸いに乗り込み、ミレニアムに戻るまでアーサーを見ることは出来なかった。


ミレニアムに戻り解散し、翌朝ブリッジに少しばかり気まずく入るハインラインに副長席のアーサーが気がついて挨拶してくる。
「おはようございます!ハインライン大尉」
「…おはようございます」
ニコニコと笑う顔は昨日までと同じで逆に調子が狂う。
自席に向かうハインラインをコノエ艦長がチラリと見て声をかける。
手招きされて近くによるハインラインにコノエ艦長は手元の端末を無言で見せた。
そこにはハインライン設計局の局長よりハインラインやアーサーが持つスケジュールと同じものが表示されていた。
「……最終決定ではありません」
「そうかね?」
「そうです」
他者に聴かれないように、小さな声だが強弁するハインラインにコノエ艦長は少しだけ眉を上げながらそうか、とだけ返していつものようにだらりと椅子に腰掛ける。
コノエ艦長が端末の表示を消したのを見てハインラインは自席に戻る。
その日の仕事はいつもより荒っぽいタイピングと部下に対する怒号が飛び交ったため、アーサーを含めたブリッジクルーと技術部にとっては恐怖の1日となった。


納得のいかない婚約からはや数日、ハインラインの苛立ちは頂点に達していた。
それもこれもアーサーがいつも通りすぎるのだ。
挨拶も仕事も普通に声をかけてくる。
いつも通り驚きオーバーアクションで身振り手振りを交えて、誰に対してもいつも通りニコニコ笑って話をしている。
いつも通りに。
(私と婚約したのを忘れているんじゃないだろうな)
いや、仕事なのだから婚約しようがなんだろうが今まで通りで当たり前なのだが、どうにも調子が狂い苛立つ。
そもそも、どうやって婚約を解消しようかを考えているのだから相手が態度を変えないのは良いことの筈なのだ。
はずなのに。
ニコニコ笑うアーサーのその姿を、声を意識してしまう。
意識している自分と違い、いつも通りのアーサーになぜか腹が立つ。
「副長って結婚相手探してるって本当ですか?」
「えぇーっ!誰から聞いたのー?」
苛立ちながら通りかかった談話室から、人員補充で新しくコンパスに入った新人とアーサーの会話が聞こえてきて、ハインラインは足を止める。
新人の名前は思い出せないのでブリッジクルーでも整備や技術部の人間でもないのだろう。
ハインラインからすると覚える必要も関係も無いメンバーだが、副長のアーサーからすれば皆部下である。
休憩時間に談話することもあるだろう。
それなのに会話が気になり、チラリと談話室を覗くとアーサーに声をかけた新人以外にも、数人の新人がアーサーを囲んでいた。
(警戒心どこに置いてきたんだ、あの女)
チッ!と舌打ちして談話室に入ろうとしたハインラインに気づいていないのか二十代半ばの新人が興奮気味にアーサーに近づく。
「じゃあ俺とかどうですか?俺すっごく副長好みっス!」
「はぁ!?」
思わず声を荒げたハインラインに周囲の視線が突き刺さる。
「どうしたんですか、ハインライン大尉?」
驚いてはいるものの、新人に無防備に近づかれた体制のまま不思議そうに小首を傾げるアーサーにハインラインはブチ切れた。
ズカズカとアーサーに近づき強引に新人から遠ざける。
「コレは私の物なんですが!?」
へぁ?っと間抜けなアーサーの声が後ろから聞こえる。
狼狽える新人どもを睨みつけて牽制してからアーサーを見ると、婚約した日と同じようにポカンと口を開けていた。
「えぇー!?」
「なんですか」
「いえ、ハインライン大尉は私のこと嫌いでしょう?婚約解消を考えているみたいでしたし。ご迷惑をお掛けしてるから、適当に理由をつけてこちらからお断りしようと思ってたんですけど…」
最後の方はしどろもどろに小さい声で言うアーサーにさらにハインラインはブチ切れる。
「私の何が不満なんですか!?」
「えぇー!?」
「良いですか?仮だろうが何だろうが貴方は私の婚約者なんですよ!それなのにブリッジではヘラヘラ笑ってるわ、こちらが意識しているのに今まで通りだわ、腹が立って仕方がない。その上談話室とはいえ数人の男性に囲まれてニコニコしてるのはどういうことですか。警戒心ってご存知ですか危機感はお持ちですか?どんな思考回路をしているか一度見せて頂きたい。その上婚約解消?僕が、貴方に、振られるんですか?これだけ意識をかき乱されて最後まで貴方に翻弄されなければならないと!?」
罵声と言っても良い早口はスタッカートのようにキレ良くアーサーに叩きつけられる。
「冗談では無い!僕が貴方に相応しく無いと言うなら何が不満か言って頂きたい!」
「……ハインライン大尉ってたまに一人称「僕」になりますよね…」
「人の話を聞いて頂きたい!!」
アーサーのズレた感想にさらにハインラインはますますブチ切れる。
頭の血管切れるんじゃ無いだろうか?その場合私が加害者なんだろうか?
婚約者(仮)のあまりの剣幕にアーサーはどうでも良いことを考える。
ビビって談話室から出て行った新人の代わりに、コノエ艦長が入ってくるのがハインラインの肩越しに見えた。
これだけ騒ぎを起こせばハインラインを止めるために艦長が呼ばれるだろう。
ハインラインはまだ気づいていないだろうが、多分コレはコノエ艦長の説教コースだなぁとアーサーは婚約者(仮)に付き合って説教を相伴する事を覚悟した。

結婚まであと半年。
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