変わるモノ


 ──大した力を持っていないから、人間を瞬く間に制圧すること"すら"できない。
 ──特殊な才能も無いから、敵に動揺を与えること"さえ"不可能。
 ──鋼の防御力が無いから、痛みを堪えて悠々と迎撃する余裕"だって"無い。
 ──足を潰して頭部を撃って確実に倒すなんて小細工に頼っている時点で笑い者。技巧派? そんなものは正面から敵を叩き潰せない雑魚ということだ。
 外からの流れ者が努力の末にそれを得たところで、小細工頼りの力ではあの大きな背中を押す手にもなりはしない。

 アビドスを巡る戦いの中、少年はそういう答えに至った。それは荒れていた頃ホシノのサポートをする中で、自分の射撃では撃破まで手間暇がかかっていることから見出したものだ。
 努力が実って実際に敵の一人や二人撃破できるからといって、それが何だ。比較対象を真剣に吟味すれば、こんなものはそこらの石塊と同じ。結局『あってもなくても変わらない』という結論がついて回る時点でちっとも自慢できることではない──と。

 どうしようもない土台の差。それはキヴォトスの中の人間と外の人間の、絶対的な違い。
 それを埋めることができるとすれば、たった一つ。

 心一つで同じ域に行くことだ。

 だからこの少年もまた心一つで鬼となった。
 まだだ、まだ届かない、まだ壁があると進撃する。もっとだ、もっと先へ、もっと未来へと蹂躙する。疾走する心が肉体を置き去りにしても、限界を超えて、条理を踏み拉き、現実の縛りが己の存在を崩壊へ導こうが意にも介さない。かつて見た『強い背中』という幻想を信じ抜けば、そんな些事は全て踏破できる──そして彼はこのキヴォトスでも上位の存在を支援できるだけの力は得た。
 今までと比較にならない精度、速度、反射、思考……だが、そんな妄執(まほう)をかけ続ければどうなるかもまた一つ。肉体より鮮血を迸らせ魂を絶叫させる者の末路は、ひしゃげたジャンクだ。
 当然の帰結として、少年は銃を置かざるを得なくなった。無論今も心一つで鬼となれば、その力を得られるだろう。だが今度は──対価として奪われるものは命だ。もう心に引き離される身体を治し喰い付かせる燃料が、常に己の正解を選び続けられる狂気が、無い。元々あってないような狂気を、無理矢理に引っ張り出していたものだ。それを見抜いて、また失うのが怖いから、ホシノは少年を戦場に出さなくなった。

 未だにホシノは怖いのだ。
『アビドスの為に尽くす者』へと加速的に向かって行く、少年の姿が。
『キヴォトスの外から流れて来た子』という最初から持つ個我を削り捨てて、『アビドスの殉教者』という活動する理想形そのものへと成り下がっていく彼の姿が。
 決して迷わず、理想を信じ抜いて、だからこそ現実を見て歩く──記号が。

 時は流れて現在。
 紆余曲折を経て、彼はシロコと恋人関係になった。
 ──が、だからこそ。
「やっほー、元気ぃ?」
「……姉さん?」
 ホシノはその兆しを見逃さない。再び幻想が現実へと降りて来る、その兆しを。
「うへー、最近詰めてない?」
「詰めてないよ。……って言っても、姉さんはわかってんだろうな」
『今のアビドス』で誰よりも長い時間を共に過ごしているのはホシノだ。その技術から知識まで、生き残る術を叩き込んだのは彼女とユメ。言ってしまえば、彼は生きた証なのだ。
「──何もできないことが、やっぱりダメなんだよね」
「あぁ。俺は……やっぱりいてもいなくても変わらないなって、彼氏になってみて思うんだ」
「うへ、それ本人に言った?」
「言うわけないだろ」
「言わなきゃわかんないよ〜」
「そりゃそうだけど……」
 モゴモゴと口籠るその姿、都合が悪くなるとすぐこれだ。昔から何一つ変わらない部分には笑みが浮かぶが、それでもやはりホシノは不安だ。
「いっそ全部ぶちまけたら? 君、溜め込むキャラじゃないでしょ」
 だから背を押すし、世話も焼く。それが姉代わりとしてやることだ。
「そんなことしたら、シロコはきっと……悩んじゃうだろ。それに、みんなに迷惑だ。先生だって」
「別に迷惑かけていいと思うけど。私なんかすっごい迷惑かけたよー? 甘言葉に乗せられて我が身を売ったら、戦力として必要な場面で欠けて、更にアビドスを危機に晒した」
「それはちょっとベクトル違わない……?」
 その迷惑とこの迷惑は流石に違うだろ、と少年は突っ込んだ。まぁ少年からすれば、たかが現実に心折れてるだけの話でしかなく、ホシノのそれは悩み抜いた果ての選択という認識なのだが、ホシノ自身は楽な選択に流れただけだと思っている。
 その辺りの認識の差はさておき、ホシノは周囲を見渡す。少年の部屋だが、銃器が見当たらない。久しぶりに来たからレイアウトが変わったのかと思ったがそうではない。ならば、と勝手に部屋を出てもう一つの部屋の扉に手をかける。
「待ってくれ姉さん! そこは──開けないでくれ……っ」
「──ごめんね」
 静止の言葉を切り捨てて、容赦無く開く。
 そこは──武器庫だった。

 視線を動かす……並べ立てられた無数の銃器。よくよく見ればアサルトライフルにハンドガン、ショットガンにグレネードランチャーまで類も質も問わずに置いてある。それだけではない、不良品の銃もだ。無数に並んだ銃器を解体し、生きているパーツを選別、共喰い個体を作る──確かに彼はアビドスの細かい作業も行っている。ヘルメット団の襲撃が相次いでいた頃は、こうやってやりくりをしていたがその必要もなくなった。しかし現在、それが行われている。それも少年の家で。
(……直近で使ってたのは……3丁。ARが1つHGが2つ、うち1つはリボルバー。これは共喰いの試射か。でもあれは──)
 狙撃銃が並べられている場所へ目を向ける。……確かに昔渡した狙撃銃が並んでいるが、見たこともないものがチラホラとある。確かに金の使い道は自由だが、それだけは話が別だ。それも──少年が使い慣れたボルトアクションで破壊力に優れた大口径、かつ『それほど扱いに困らないもの』ばかりがチョイスされている。
 だが、ホシノの目に留まったのはそれらではなかった。ツカツカと"それ"に近づき、手に取る。
「……壊れたんじゃなかったの?」
 砂漠での運用実績もある、高精度なボルトアクション狙撃銃。少年がホシノと、そしてユメと共に戦っていた頃の主な得物。先生と出会う以前、色々あってセリカに貸した際に、激闘の末派手に破損したと聞いていたが……目の前にあるのは完全に復元されたものだ。それだけではない、高性能な新型パーツに置き換えられ、より馴染むようにと繊細な調整まで行われている。
「ダメだよ、また狙撃手に戻っちゃ」
 それが何を意味するかなんて誰でも理解できる。これは再び銃を取り、そして本人も気付かぬ間にまた鬼となり、今度こそ死んでしまうということを。
「それくらいでしか──!」
「うへ、こりゃ随分と思い上がってるねぇ」
 ため息が出て来る。──こいつは、そんなに思い上がってたのかと。

 全て上位互換がいるから、せめて自分のできることを。
 ああそれ自体は褒められることだろう。だがそれで成果を出さなければ意味が無いとするのは、思い上がりだ。

 アビドスの環境における成果とは? 
 仮にもし、この苦境を打破することとしているのであれば、それは無理難題だ。

「思い返してみなよ。私がどれだけやってもアビドス復興の役に立った場面ゼロだよ?」
「でも保たせた」
「で? なんかいい事あった?」
「それは……ノノミだって来たし、シロコだって救った。アヤネもセリカも入学した」
「──それで何か変わった? 私たちだけで、何かを変えられた?」
「少なくとも、カイザーの野望は一歩前で止められたし、姉さんを狙ってた黒服も手を引いた」
「じゃあそのきっかけは?」
「先生だ。先生は解決したんだ、あんたたちがどうしようもなかったことを」
 要するにそこで自分はいらないし、自分は何一つ役に立たなかったということだろう。
「……あのさぁ、先生はなんで来たの?」
「そりゃアヤネが──」
「そうだね、アヤネちゃんが呼んだね。セリカちゃんも必死になってバイトしてるよね。ノノミちゃんもシロコちゃんもみーんな……でも私と君は違う。全部知ってた。その上で黙ってたし、まだまだ言ってないことだってたくさんある」
「何が言いたいんだよ?」
「足を引っ張ってるという意味なら、私もそうなんだ。私は肝心な時に役に立たない、ただ敵を倒すことだけが得意な存在。そういうオチ」
 人間には思った以上に力は無く、ただ個人が強いというだけでは何も守れないし、何も救えないし、何も得られない。それは子供だけじゃない、大人だってそうだ。カイザーだってアビドスを手に入れようとして長年四苦八苦し、黒服もまたじっくりと手を伸ばした。彼らが本気になれば、欲するものを手に入れることも容易かったろう。だがそうならなかったし、それができなかった。
 そして先生も、導くことはできるが根本的な問題解決となると一人だけではいかんせん無茶だ。
 結局目に見えた成果なんて、真の成果への前提条件でしかない。
「まぁ、あれだよ。あーだこーだ言ったけど、おじさんも君も、大して変わりないんだって。だからそういう不安を抱えてるって、シロコちゃんに言うんだよ」
「……」
「見栄?」
「……まぁ」
「うへー、見栄を張り過ぎてどうなったか覚えてないのかな。この子ってば」
「ノノミに泣かれた」
「そうだねぇ〜、あのふかふかででっかいものを顔に押し当てられてたねぇ〜」
「フツーに抱き締められたって言ってくんない!? ……わかったよ。シロコに、言ってみるよ」
 困ったような顔をしている理由はあえて考えるまい、としたホシノは返事代わりに少年の頭を背伸びして撫でる。
「大丈夫だよ、心配しないで」
「うん……」
 それはいつか、ユメがそうしたように──

「……あー、シロコ。ちょっといい?」
「ん、平気」
 その後ホシノから『もしも言わなかったらノノミちゃんにこの事を教えるからね?』と脅迫されたので、翌日少年はシロコと正面から向き合うことを決めた。
「あのさ、あれだよ、あのほら」
「何か言いづらいこと?」
「いや別に言いづらくはないんだけど言いたくないっていうか……でも言わなきゃいけないっていうか……なんていうか」
「ん、大丈夫。どんな言葉でも構わないから言って」
 しかしいざ『私はあなたたちの役に立てないことで気を病んで、心身を擦り減らしてでも献身したいと考えてます』なんて正面から言えないわけで。
 何処か嬉しそうにしているシロコを見ればそんなことは言えず、モゴモゴと口籠ってから出てきたのがこんな言葉だった。
「──ちょっと、銃を眺めに行きたいんだ。君と」
「銃? パソコンじゃなくて?」
 少年はよくパソコンを弄くり回す。デートとしては色気が無いから、という理由で最近は中々行かないのだが、シロコとしては付き合う前からたまについて行って、年相応に目をキラキラとさせている彼が見れるだけで嬉しかった。
 だから割と期待しているところがあったのだが、まさか銃とは。──この前アヤネとジャンクショップを回ってパーツをかき集め、それらを使ってかなり高性能な水冷式PCを二人で組み立ていたのは記憶に新しい。専門用語を話しながらあーでもないこーでもないとしている二人を見て、彼女は妬いていたのだから。
 そういうわけでシロコ的には意外だった。
「うん。今日は……シロコとが、いいんだ」
「ん、わかった。なら行こう」

 ──歩いて、見て回って、されど買うわけでもなく、ただ何か、執念めいた視線を向けるだけ。見ていて不安になるようなそれは、一体何の儀式なのか。何かあるなら言って欲しいとは思うが、無理に聞けば何かが致命的に壊れてしまいそうな予感が、ずっと昔からあったから。
 だからシロコは黙ってついて行く。何軒か回り終わってから、結局何も言われず何もせずに帰路に着く。その道すがら、ようやく少年はシロコと真っ向から向き合った。意を決したような表情……それは見たこともないもので、彼女の心に響いた。
「シロコ、聞かせてくれ……俺は君に──いや、お前にとって俺は銃足り得るか?」
 だがその言葉はおかしなものだった。
「どういう意味?」
「俺はお前にとって、懐に入れても嵩張らないモノか?」
「急に、どうしたの」
 ときめきを覚えたのも束の間、今度は恐怖が押し寄せてくる。彼の瞳が、まるで生き物じゃなくて無機質なガラス玉に見えたから。言葉が詰まる、そして後ずさった。
「シロコ、答えてくれ。俺は『何』だ? お前が言ってくれれば、俺は──」
「ん、貴方は私の彼氏。私の大切な人。みんなにとっても大切な人。アビドスの仲間」

 即答した。
 迷いも澱みもなく断言する。シロコは一切の思考さえ介在させることなく告げた。それは事実確認に等しいことだ。

「仲間だというなら、俺のザマはなんだ? 役立たず、穀潰し、無能、寄生虫……ああ他にも色々言い方はあるか。そんな俺が、仲間だって?」
「ん、一旦落ち着いて。何か言いたいこと、あるんじゃない?」
 あからさまに少年の様子がおかしい。だがシロコとてその理由に検討が付いた。さっきまでのガンショップ巡りだ。あれは恐らく、言いたいことを整理する為の時間だったのだろう。だがそれは、彼にとって悪影響をもたらす結末となっていたのだ。
「貴方が言いたいのは、きっとそういうことじゃない。銃だとか何だとかじゃなくて、もっと単純なことだよね」
「……あ、っ──あぁ、その……ごめん。えっと……なんか、さ。銃見てたら、俺も物言わず敵を撃ち砕ける存在であったらな、って思っちゃって」
 バツの悪そうな顔と声。やはりシロコの読み通りだった。今度はシロコから問う、真っ直ぐに見つめて。
「それで、伝えたいことは何?」
「──俺、さ。何もできないのが辛いんだ。先生と比較するのが間違いだって言われそうでも、似たようなもんなのに向こうは軽々と成し遂げていく。必要な存在といてもいなくても変わらない存在、嫌でも比較しちゃうんだ」
「……」
「だから──俺もなりたいんだ。みんなの為に尽力できて、みんなの役に立って、確かな成果が出せる存在に」
「うん」
「シロコ、お前にとって──」
 その先を聞く必要はなかった。
「ん、必要」
 シロコの答えはただ一つ。少年は必要な存在だということだけ。それ以外の答えなどあり得ない。例え恋仲でなかったとしても、砂狼シロコにとっては決して欠けてはならぬ重要なピースだ。
「だって、側にいて欲しいから」
 ──この温もりがずっと側にあって欲しいと願うから、貴方が必要。
 そう優しく微笑むシロコから、ポリポリと頭を掻きつつ視線を逸らす。何故? 言うまでもない。惚れた女の優しい顔を見て、気が迷わぬ男など存在しない。それが全てだ。
 ただこの男、見栄っ張りでもある。だからそんな気の迷いを抱いたことも恥ずかしがる。そしてそれを隠してしまう。
「先生じゃなくて、いいのかよ?」
 ……割と最悪な物言いで。
 彼は視線を逸らしているから気付かないで済むのだが、シロコとしてはまーったく面白くない。何が悲しくて自分も結構な想いを向けている相手と想いについて話し合っていたのに、その口から別の男の話が出てこなければならないのか。
 まぁ、いい機会だ。いっそもう言いたいこと、こっちも全部言ってしまおうか──腹立ったシロコの口は、心底にある想いを自然と紡ぎ出す。
「ん、先生は前にいて欲しい人。貴方とは、一緒に歩いていたい。これまでも、これからも」
 彼の頬に手を当てて、視線を強引に合わせて行く。らしくないことをしているからだろうか、心臓が高鳴って仕方ない。耳先の熱を如実に感じている。でもそれが心地良いから、シロコは気にしない。
「……なんか、実感ねぇや。言われても。不思議だな、必要だって認識されてるのに」
「面倒な人」
「知ってる癖にそれ言うかね? ねぇ──ホシノ先輩とノノミにもしょっちゅう言われたことあるけどさ」
 少年は二人を思い浮かべて苦笑する。そんな彼を見て、シロコの脳裏にはたった一つの冴えた答えが浮かんだ。

 どうやったら少年に実感を与えられるのか……その答えを。

 頬から手を離して周囲を見渡す。
 そこは至って普通のアビドスの風景だ。人気も少ないが、それにしたって路地裏みたいな場所ではムードもクソもない。が、ここから場所を移したらそれはそれで"その気"が薄れてしまう。彼女だって年頃の女の子だ、そりゃそういうことはムードがある時でロマンチックにリードされるようにしたいわけで。
 でもここを逃してしまったら、実感を与えられない。少年はまた宿痾の螺旋へ落ちて行きかねない。そんなことになるくらいなら──

「ん、私は逃げない」
「は? おいシロコ?」
「貴方も逃げないで」
「いやあの距離近くありませんこと?」
「近づいてるから」
「あのなんで近寄るのさ」
「近寄らなきゃできないから」
「何を?」
「言わせないで」
「言えないような事とでも?」
「言いたくないのっ」
「なんでだよっ」
 赤面するシロコが、可愛らしく顔を逸らした。その意味に思考が持っていかれたその刹那、彼女が首に手を回し、距離をゼロにする。予期せぬいきなりの行動に、少年は唖然とする。
 柔らかで暖かい感触、強いて言うならばそれはシロコの味。
 ゆっくりと離れて、お互いに顔を見る。真っ赤だ。こんな白昼堂々何やってんだって感じで。
「あの、シロコさんや。何故その……接吻を?」
「……ん、キスしたら実感に……なると思って。だって、考えてるだけの想いなんて伝わらないでしょ」
「そうなの……? そうかな……? そうだな……?」
 納得はした。お互いに赤みが引いてある程度冷静さを取り戻したら、今度は少年が改めて現実を認識した。
「あれ、俺のっ、初めてだったんだぞ!? それをこの、なんだ!? なんていうかあんまり雰囲気的にそういう向きじゃないところで!?」
「ん、私だって初めてだった。本当の事を言えば、もっとムードのある時に貴方にリードされたかったっ」
「ごめん俺が悪かった……っ!」
 拗ねた顔で、プイとそっぽ向かれながらそんなことを言われてしまえば謝るしかなくて。
「なら、次の休みにサイクリング付き合って」
「え? そんなんでいいのか? 俺ぁてっきりやり直し要求のデートプラン組み立てくらいの難題をぶん投げてくるのかとばっかり」
「ん、じゃあそれも追加で」
「藪蛇かよ。先生頼るか……」
 互いにカラカラと笑いながら、軽い雰囲気のまま更に帰路を進む。あとはホシノとノノミに判定をもらえば大丈夫だろうとシロコは考える。
「ん、伝わった?」
「なんだ急に。あれで伝わらないわけないだろ」
「じゃあ良かった。私も愛されている実感が欲しくなってきた。どうする?」
「割とマジで考えさせてくれ。難題が山ほど積もってんだ」
 ……そうして少しだけ変わった二人は日常へと戻って行く。きっとこれからも苦難は続くだろうが、苦難の先へ至るための殉教者は、二度と現れない。

「うへー、まぁいいんだけどさぁ……おじさんの目の黒いうちはちゃんと順繰りに階段登ってもらうよ〜? わかった? シロコちゃん」

 なお後日、一歩進んだことを知ったホシノの発言はこんなものであった。
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