そうであれ、と作られたならば
作成日時: 2024-04-11 23:04:39
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長くも短い昼休み。
いつも昼食を共にする友人は、『今日は先約があるから』とどこかに消えてしまった。
隣の席の彼もどうやら同じようだった。
残り者同士、特に会話もないけれど並んで食事を摂る。
志織の手にあるのは、購買の菓子パン。
その最後の一欠片を咀嚼し、飲み込んだ。
「……不思議だよな。
メシを喰いたいとは思わないのに、食わないとアタシらは生きていけない」
「……急にどうしたの?」
ふと、気になって思考をそのまま口に出す。
同級生は、困ったように笑いながら志織を心配した。
「いや、だってさ。
生物はエネルギーを摂らないと生きていけないだろ?
そうするには、何かを食わなきゃいけない」
植物は光合成するから、また別かもしれないけど。
そう付け加えながら、志織《しおり》は話を続ける。
「でも、アタシは食おうって思ってメシを食えない。
これって、おかしいとは思わないか?
生きるのに必要なのに、その必要性が感じられないんだ」
捕食とは、生存に必要な行為である。
一般的な、三大欲求の一つである『食欲』。
生物はそれに従って、肉を喰らい、野菜を喰らい、身の糧とする。
そこに個体の分別はない。
皆が皆、捕食しなければならないのだ。
だが、一定数。
そういった『行為』を行えないものがいる。
志織も、この同級生もそうだった。
「なんでアタシたちは、こうも穴だらけなのかねえ……」
自嘲気味に呟く。
生物としては、ただの欠陥である。
捕食できなければ、エネルギーが摂れなければ、いずれ死んでしまうのだから。
ゆるりと、拳銃を模るようにして自身のこめかみを指差す。
「脳味噌が悪いっていうなら、これを作り上げた製作者《かみさま》に文句の一つでも言って良いとは思わないか?」
────不完全なまま、産み落としてんじゃねえよ。
「……なんてさ」
手を下ろして、パンが入っていた袋をくしゃくしゃに丸めた。
黙って聞いていた同級生は、飲んでいたペットボトルのキャップを締める。
相も変わらず、彼の食事はクソ不味いゼリー飲料と水だけだった。
「……そうだね。でも」
────製作者《かみさま》は意図的に俺たちをこう作った。
「かも、しれないよ」
同級生は、諦めたような暗い笑みを浮かべていた。
雪のように白い肌。死人のようにも思える。
だからこそ、陰が落ちれば目立つのだ。
「……望《のぞむ》が言うなら、そうかもしれないな」
自分より遥かに多く欠陥を抱えた男が、そう言うなら。
なんて、納得してしまう。
「まあ……」
『神様』なんて、信じていないけど。
二人の声が重なった。
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