そうであれ、と作られたならば


 長くも短い昼休み。
 いつも昼食を共にする友人は、『今日は先約があるから』とどこかに消えてしまった。

 隣の席の彼もどうやら同じようだった。
 残り者同士、特に会話もないけれど並んで食事を摂る。
 
 志織の手にあるのは、購買の菓子パン。
 その最後の一欠片を咀嚼し、飲み込んだ。


「……不思議だよな。
 メシを喰いたいとは思わないのに、食わないとアタシらは生きていけない」
「……急にどうしたの?」


 ふと、気になって思考をそのまま口に出す。
 同級生は、困ったように笑いながら志織を心配した。


「いや、だってさ。
 生物はエネルギーを摂らないと生きていけないだろ?
 そうするには、何かを食わなきゃいけない」


 植物は光合成するから、また別かもしれないけど。
 そう付け加えながら、志織《しおり》は話を続ける。


「でも、アタシは食おうって思ってメシを食えない。
 これって、おかしいとは思わないか?
 生きるのに必要なのに、その必要性が感じられないんだ」


 捕食とは、生存に必要な行為である。
 一般的な、三大欲求の一つである『食欲』。
 生物はそれに従って、肉を喰らい、野菜を喰らい、身の糧とする。
 そこに個体の分別はない。
 皆が皆、捕食しなければならないのだ。

 だが、一定数。
 そういった『行為』を行えないものがいる。
 志織も、この同級生もそうだった。


「なんでアタシたちは、こうも穴だらけなのかねえ……」


 自嘲気味に呟く。
 生物としては、ただの欠陥である。
 捕食できなければ、エネルギーが摂れなければ、いずれ死んでしまうのだから。

 ゆるりと、拳銃を模るようにして自身のこめかみを指差す。


「脳味噌が悪いっていうなら、これを作り上げた製作者《かみさま》に文句の一つでも言って良いとは思わないか?」


 ────不完全なまま、産み落としてんじゃねえよ。
 

「……なんてさ」


 手を下ろして、パンが入っていた袋をくしゃくしゃに丸めた。

 黙って聞いていた同級生は、飲んでいたペットボトルのキャップを締める。
 相も変わらず、彼の食事はクソ不味いゼリー飲料と水だけだった。


「……そうだね。でも」


 ────製作者《かみさま》は意図的に俺たちをこう作った。


「かも、しれないよ」


 同級生は、諦めたような暗い笑みを浮かべていた。
 雪のように白い肌。死人のようにも思える。
 だからこそ、陰が落ちれば目立つのだ。


「……望《のぞむ》が言うなら、そうかもしれないな」


 自分より遥かに多く欠陥を抱えた男が、そう言うなら。
 なんて、納得してしまう。


「まあ……」


 『神様』なんて、信じていないけど。

 二人の声が重なった。
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