先生、お見合いするってよ3


ヒナ達が去った後、会場をよく見ると開始時刻の1時間前とはいえ、それなりに人が集まっていた。
(ここにいるほぼ全員が私とのお見合い目的で来ている以上、一応全員に話しかけておこうかな)
まず目に入ったのは、紅茶を飲みながら楽しげに談笑している二人組だった。
先生「や、こんにちは。仲良くお話ししている所ごめんね」
その二人は私の姿を見るや、少し驚いた様子で私に挨拶をする。
一人はオレンジ色の髪に猫のような耳の生えた少女、伊落マリー。
マリー「せ、先生!?このような場で、まさか本当にお会いできるなんて……!」
もう一人は薄い色の銀髪に百合の髪留めが特徴の少女、桐藤ナギサだった。
ナギサ「ごきげんよう、先生。パーティー開始にはまだ時間がありますし、どうぞお掛けになってください」
先生「うん、ありがとう。失礼します」
私は着席すると二人の姿を正面から見る。
マリーは、黒を基調としたロングスカートタイプのドレスで、肩から二の腕にかけてのシースルー部分にはガマズミの花の模様が緻密に描かれている。
黒いドレスに合わせた踵の低いタイプの黒いパンプスは、普段彼女が高いヒール等を履かない証左だろう。
全体的に控えめな彼女らしいシンプルで派手すぎない服装だ。
また、普段髪を纏めていることの多かった彼女だが、今回は髪を完全に下ろしているためかいつもよりちょっぴり大人っぽく見える。
特に体操服でも感じたが、ベールを被っていないためにケモ耳が露出しているのが大変可愛らしい。
ナギサは、ベージュに細かな花の模様が刺繍されたレースのドレスを着ている。
彼女らしい落ち着いた色合いながらも、その刺繍の細かさは一種の芸術品とも呼べるほどの緻密さで一目見るだけで相当な代物であることが窺える。
また、首には黄色に輝く宝石のネックレス、これまた細かい刺繍が施されたグローブ、小さな白い百合の刺繍がいくつも編み込まれたパンプス等々、彼女が身につけているそのどれもがとんでもない高級品であることは容易に想像がつく。
しかし、そんなハイブランドを身に纏っても全く下品に感じさせないのは、それだけ彼女の品格が優れているからなのだろう。
先生「二人ともよく似合っているね。とっても綺麗だよ」
マリー「あ、ありがとうございます……///恥ずかしながらパーティー用の衣装を持っていなかったので、サクラコ様に選んでいただいたんです。でも、先生に気に入っていただけたようで嬉しいです///」
ナギサ「そうですね、普段マリーさんをお見かけする際は制服ばかりでしたので、ドレス姿はとても新鮮です。私もよく似合っていると思います」
マリー「ナ、ナギサ様まで……///ありがとうございます……!」
先生「勿論、ナギサのドレス姿もよく似合っているよ。落ち着いた色合いだからこそナギサの魅力が引き立っているというかさ」
ナギサ「み、魅力……///あ、ありがとうございます……///」
二人とも普段とは違う趣の格好だからこそ、こういった新しい一面を知れたのは私としても非常に嬉しい。
ーーーしかし。
それだけに意外だ。
私が知る限り、この二人はトリニティの中でもこういった催しに特に縁遠いような二人だ。
(ここに来て参加者に驚かされてばかりだけど、まさかこの二人がいるなんて……)
ナギサ「あら、先生は私たちがお見合いパーティーに参加していることが不思議なのですか?」
表情に出ていたのだろうか、ナギサは微笑みながらこちらの考えを読み取ってくる。
先生「す、すまない、顔に出ていたかな?」
ナギサ「はい、先生は分かりやすい方なので。……単刀直入に言えば、実家の命令です。桐藤家としてもシャーレの先生との関係を築いておきたいのでしょう」
ナギサの顔は先ほどの和気藹々とした表情から一変、彼女が政治の話をするときのような神妙な面持ちになる。
要するに彼女がこのパーティーに参加したのは単なる政略結婚という事だ。
現代的には時代遅れの風習だとは思うが、ナギサほどのお嬢様の家庭であるのならば少なからずそういったことはあるのだろう。
先生として考えるのなら、家庭内の話に口を出すのは越権行為かも知れない。
しかし、私としては政略結婚などで相手を決められるのではなく、ナギサ本人の意思と幸せを尊重させてあげたい。
(もしかしたら、いずれそういった家柄の子からそうした相談をされるかもしれないな……帰ったらアロナやリンちゃんとかに相談してみようかな)
ナギサ「……申し訳ありません。せっかくのパーティーだというのに政治の話など……」
ナギサはそう言うと頭を下げる。
先生「いや構わないよ。むしろよく話してくれたね、ありがとう」
ナギサ「いえ、お構いなく。……まぁ、私としては実家のお墨付きで先生と堂々と結婚できるのでむしろありがたいのですが……///」(ボソリ)
先生「え?なんて?」
ナギサ「いえ!何もありませんよ先生」
マリー「…………///」(聞こえてる)
先生「そう?しかし、そうか家の命令で……。そうだ、じゃあマリーは?」
マリー「ひゃい!?わ、私ですか……!?えぇと……///」
マリーは顔を真っ赤にしてあたふたとしている。
普段体操服程度の露出でも恥ずかしがるほどの奥手な彼女だ、そんな彼女に先生が目当てで来ましたなどと言わせるのは酷というものだろう。
先生「あーいや、ごめん。普通のお見合いパーティーなら気軽に聞いてもいいかもしれないけど“このパーティー“でそれを聞くのは失礼だったね。ごめんね」
私は立ち上がり、マリーへ深々と頭を下げる。
マリー「い、いえ!そんな先生、頭を上げてください!」
先生「すまない……」
マリー「落ち込まないでください先生。私が今回その、お、お見合いパーティーに参加しているのはシスターフッドの代表みたいなものなんです」
先生「というと?」
マリー「実は先日、シスターフッドに例の招待状が届きまして……本来神に仕える私たちがお見合いパーティーに参加してもいいものかと全員で話し合いになったんです。結果としては招待状は破棄しようという流れになりました。……ですが」
マリーはチラリとこちらを見る。
マリー「……ですが、このパーティーが先生のためのお見合いパーティーだという事が分かると是非参加したいという子が次々に手を上げ出したんです。どうやら、私達の中でも先生を慕う方は多かったようで……」
あはは、とマリーは苦笑いをする。
正直シスターフッドにまで私のことを慕う子がいたのはかなり意外だった。
(もう少し先生としての態度を改めた方がいいのかな……)
マリー「それで最終的に参加したい子達の中でくじ引きを行い、一人を参加させるということになったんです」
先生「なるほどね、大体事情はわかったよ。話してくれてありがとう」
マリー「い、いえ!ナギサ様もお話しされたのですから、私達の事情もお話ししないのは誠実ではないと言いますか……」
ナギサ「ふふっ、マリーさんらしい素敵な考え方ですね」
先生「うん、私もマリーのそういう正直なところをもっと見習わないとね」
マリー「そ、そんな事は……///」
マリーは手をパタパタと振り否定する。
そんな姿もとても可愛いらしい。
ーーーしかし。
先生「……あれ?でも、マリーが来たってことは“そういうこと”なんだよね……?」
マリー「……え?…………っ///!!!」ボッ!
いくばくかの沈黙の後、何かに気付いたのか突如マリーの顔が真っ赤に染まった。
先生「マ、マリー?」
マリー「ひゃ、ひゃい!?え、えっと、これは、その、ちが……うわけではない、のですが!でも、それは、ええと、ええと……///」
混乱しているためかうまく呂律が回らず、わたわたと手を振るマリー。
その目はぐるぐると渦を巻いてしまっている、
先生「落ち着いて、マリー!」
マリー「ひゃ、ひゃぅ…………///」プシュー
瞬間、マリーは顔から湯気を出しながら糸が切れた人形のようにコテンと気絶してしまった。
完全なキャパオーバーだったのだろう。
先生「マ、マリー!?大丈夫!?」
ナギサ「ど、どうやらマリーさんには刺激が強すぎたようですね……先生、あまりマリーさんを困らせないであげてください」
ナギサにジト目で軽く睨まれる。
先生「うぅ、ごめん」
ナギサ「はぁ、仕方ありません。マリーさんは私が何とかしておきますので、先生は他の子達と交流してきてください」
先生「でも……」
ナギサ「安心してください、この程度の介抱なら私でも問題ありません。それに先生を待っている女の子達は他にもいるのですから、どうかそちらをご優先ください」
先生「うーん、そこまで言うならお願いするよ。あとマリーが起きたら意地悪言っちゃてごめんね、って伝えておいてくれるかな」
ナギサ「了解しました。必ず伝えておきますね」
先生「ありがとうナギサ」
そう言うと私はナギサ達の席を発ち、他の子達の下へと行くのだった。

つづく
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