自堕落な男と三つの酒


彼はニートだ、いつの間にか30を過ぎてしまった。高校生の頃は彼はクラスでの人気者だった。それがなぜ今こんなことになっているのか、彼の部屋には毎日空き缶と丸めた紙屑だけが増えていく。
「ああ、腹減ったなあ…メシ…作るの面倒くさいなあ。」
親からの仕送りで毎日を食いつぶす彼は何事も面倒くさがった。掃除も、料理も、洗濯も、そして仕事も…
「とりあえず今日も酒でも飲むか…」
彼は仕送りの段ボールから3本の缶を取り出した。
「前回の仕送りで酒を強請っておいて良かった。でもなんだ?見たことのない銘柄だ…」
缶のラベルには見覚えのない文字が書いてある。唯一わかるのは今回の仕送りを最後に酒は送られてこないということだけだ。
「まあいいか、とりあえず飲もう」
彼は一番近くにあった黄緑色の缶を手に取った…そうこの感じ、アルコールの回る感覚だけが今の彼の救いだった。だが今日はいつもと少し違った、何とも言えぬ高揚感のほかに不思議な、自分の体に活力が戻るような感覚、そしてなぜか遠い日の原っぱと、夕焼けの香りを感じた。
「え、なんで?なんで今更こんなことを思い出すんだ?」
彼は困惑した、なぜならそこは自分の部屋ではなく見覚えのある原っぱだったからだ。
「ここは…これは一体…」
隣から懐かしい声がする、彼女の声だ…高校生の頃、自分との初めてのデートの日、車に轢かれた彼女の…
「夢…だよな…?うう…うわああああ!」
泣き叫びながら彼女を抱きしめる。この温もり、この声、夢じゃない…あのデートの前日に戻ってきたんだ!きっとそうだ!神様がチャンスをくれたんだ!彼女は困った顔をしながら僕に声をかける。言わなきゃ、明日のデートはやめようって…言わなきゃ!でも言葉は出てこない。結局その日はそのまま別れた。
「絶対死なせない、どんなことがあろうと。」
目覚ましをいつもより早くつけてその日は眠った。
1話缶
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