進歩とか諸々とか


 進歩というのは加速と停滞とを繰り返し、知識と技術は積み重なるものである。
そして、これはよくあることだが。その時代に適応しきった存在は間違いなくその時代に限って強く、どの時代にもある程度適応した存在はある程度の強みを持つ。
――であれば、どの時代に適応せずとも強い強者はどうなるか。まあ、言うまでもなかろうとは。

 というのはさておき、とある国、とある町。
男性、女性、子供という一見すれば家族にすら見える三人。そのうち、女性だけが苛立っていた。
「……通話はわかったわ。通話は。それで、このSMS?とこっちのチャットアプリ?の違いって何よ」
「だからな、"傾城"。番号を覚えたからって電話帳まで使えたことにはならないんだ。
それにSMSは電話番号依存だからPCでのアクセスは出来ん。でもチャットアプリならPC版があるからそっちでも見れる」

そう、やり取りをしていたのは傾城とウィルシュ・ファーマー。そもそも四半世紀前の人間な上に機械より自力であれこれした方が手っ取り早いと踏むうえに最悪部下任せにする女と、本当に少しでも新しいものにも触れておかねばならない政治家。
まあどうなるかはある意味当然であったし、そもそも我々で言うところのWindows98世代までしか触ったことのない化け狐と改革派の政治家ではまあデバイス絡みの順応性には悲しい程の差があった。
そもそもこの狐、テレビ(我々の世界だと1928年に試験放送スタート、39年には定時放送スタート)すらあまり好まないので、デジタル化した世界ともなればさもありなんである。要するに見た目は美女でもやってることは100歳過ぎたおばあちゃんである。
因みに電話は扱える。スマホでも真っ先に通話機能は覚えた。

「……まどろっこしいわね、全部メールでいいじゃないの」
「メールだとログが一括で見れんだろ。それに文脈もわかりにくくなる」
「アタシなら問題ないわ」
「まあ実際お前さんの頭脳なら大丈夫だろうが……エリスを見てみろ。とっととゲーム入れてるぞ」
「だから何よ」
「使いこなせないと弟子に置いていかれるぞ」

そう、やいのやいのとズレた話をする傾城をウィルシュ・ファーマーが誘導する。
実際、年頃の少女の順応性というものは凄く、ある程度触らせてしまえば勝手にスマホアプリを追加する方法を覚えてしまった。容量や通信量の概念はこれからだろうが。

「……それは困るわね」
「何よりお前さん、別に力があれば問題ないとたかをくくってそうだが。また封じられたら遠方にいるときにエリスとやり取りできなくて困るぞ」
「……それもそうね」

納得したように頷き、なんとも言えない顔でスマホを眺める。
我々の四半世紀前には一応あった携帯電話は本当にメールと電話機能だけという代物であり、ここまで多機能化したのはなんとやら、という心持ちであった。

「しかし。随分色々詰め込まれてるのはわかるけれど、値段とかはどうにかならないものかしら」
「……それは何も考えずにとりあえずフラグシップモデルを買った方が悪いだろ……」

実際、ウィルシュ・ファーマーが買ったのはエントリーモデルなのに対し、傾城が自分で買ったもの、そしてエリスにと買い与えたのはフラグシップ――つまるところの最新鋭であった。
親バカと「新しくて何やら数字もこちらの方が良くてついでに値も張る奴」を求めた結果、見事にスペックがついてきたというだけの話だが、エリスはまだしも傾城にはどう考えても無駄になりかねない。
まあエリス側は「先生とお揃い!」と喜んでいたのだから、目的は果たされている。傾城の手に渡ったスマホはスペックを活かせず不憫だが。

「まあいいわ。とりあえず使う気にはなったわ、使う気には」
「そうかい。ならいいんだが……っと」
「先生?」

そう、話が何だかんだスマホについて学ぶ方向に向かったところにエリスが話しかけてくる。

「あら、エリス――どういう話かしら」
「見て見て、なんか凄そうなの出たの」
「へぇ……これかしら?」
「違うよ、こっち」

そう、師弟が基本無料のスマホゲームのガチャで何やら話すのを横目に、ウィルシュ・ファーマーはこう呟いた。

「『お揃い』のために、クレジットカードまで使わなければいいんだが」
と。
まあ杞憂だろうし、実際この師弟なら杞憂なのだが。それでも、呟きたくなるのが人情というものである。
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