絶対秘密の同居生活〜第十一話〜


「…別に私は綾人のものじゃ、っ!?」



私の言葉を飲み込むように重ねられた唇。



朝学校に行く前にされたキスとは違う。




まるで噛みつくみたいなキス。





「…ん、はっ…」




思わず声が漏れて


私は慌てて、綾人の胸を思いっきり両腕で突き放した。




そのままの勢いでビンタする。




「…え」




我に返ったように瞬きした綾人が、殴られた頬をおさえて私を見た。




「…なんでこんなことするの」




ガラガラと崩れていく。


私の中の、優しくて、可愛くて泣き虫だった綾人の面影が。




「なんでキスするの。はじめてだったのに…」



「…優…」



「綾人なんて大っ嫌い!!」





はぁ…



翌日、毎朝恒例のSHRの最中も、私はため息が止まらなかった。



昨日、綾人のこと思いっきり殴っちゃった。


綾人、痛かっただろうなぁ。


しかもよりによって顔を。采斗にとってたぶん、商売道具だよね…腫れてたりしてたらどうしよう…



いやでも!あれは綾人が悪いもん!



なぜか急に逆切れしてきてキスするんだもん。


采斗にとっては何の意味もないキスでも、私にはそれなりに意味があることっていうか…


しかも1回目の触れるだけのようなやつじゃなくて、あんな激しい…




「ねえプリント、早くとってくれる?」


「っえ?あ、ごめん!」




綾人のことを考えすぎて、前から回ってきたプリントに気づかなかった。



慌てて1枚とって、手早く後ろの子に回す。





「えーじゃあ最後に、今回したプリントについてだけど」




先生が最後列までプリントが行き渡ったことを確認して話し出した。




「昨日から、学校の周囲で不審者の目撃情報が多数寄せられています」




不審者…?




プリントに目を落とすと、サングラスにマスクをつけ、黒い帽子をかぶった不審者と思わしき人物のイラストが描かれていた。



「現れるのは決まって早朝で、学校の周囲を執拗にウロウロしているらしい。今朝は朝練に来たサッカー部の生徒に声をかけ、学校内に入れてくれと迫ったそうだ」



…えー、なんか気持ち悪い。



「声からして若い男ということだ。というわけで、みんなくれぐれも用心するように」



先生のその言葉を最後にSHRは終わった。







「ねえ優里ー」




一時間目の授業が始まるまであと10分。


稟琉が私の席にやって来た。手にはさっき配られた不審者のイラスト。




「この不審者って、もしかして優里の隣人じゃない?」




隣人…って、綾人いのこと!?



「な、なんで?」


「だってこのイラストにそっくりじゃん」




確かにそうだけど…不審者って大体こういう恰好してるんじゃないの?




「…気のせいだよ」




そうは言ったものの、それから私は、そのイラストが段々、綾人にしか見えなくなってきた。



でも綾人は夜のデートに行ってたわけだし、私の学校の周りになんて、いるはずないよね…


ガタッという物音で目が覚めた。




時計を見ると、まだ午前5時前。





…もしかして泥棒?





ドキドキしながら、音をたてないようにゆっくりとドアをほんの少しだけ開ける。




玄関から綾人が忍び足で出ていくのが見えた。あの不審者コーデで。





…え?もしかして今から夜のお忍びデート?でももう、夜じゃないよね?




不思議に思う私の脳内に、昨日のSHRで配られた不審者のチラシが浮かぶ。





……まさか、あれって本当に……?





ベッドに戻って寝転んでみたけど、とても眠れそうにない。





「……行くか」





私は綾人を尾行してみることにした。
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