片恋


※概要
脹相からの「好き」が欲しくてたまらない日車と、
「好き」と伝えて日車に満足死させたくない脹相のセックス攻防戦。
日車視点です。


※時系列
ダイススレ(せっしないと出られない領域)事変→CP成立
→前スレ(語りたいスレ2)79で「お互いが「コイツとセッしたい」と思わないと出られない部屋」
から爆速脱出した夜の話


※含まれる要素
R-18/攻めの手コキ/バック/正常位/結腸責め/騎乗位/中出し/糖度高め
ほぼほぼセッしているので、性描写が苦手な方はブラバしてください


※補足(読んでも読まなくてもOK)
・日車さんは宿儺戦を前に曇り気味
・罪を犯した自分は最終的に罰されるべきだし、それを行うのは自分でありたい
・と覚悟を決めた矢先、謎のダイス領域部屋で脹相を抱いてしまい、以降もセックスする関係に
・でも身体だけの関係じゃ不満だという気持ちが芽生え、ここらで脹相が本気で好きだと気づく
・ならせめて脹相の想いを受け取って死にたい、聞けたら自分は心から死んでもいいと思えるだろう
 (言質をとりたい弁護士の性)
・と思っていたある日、再び領域部屋に!でも即脱出!ええ…
・好意があるのは態度でも脱出の事実からも流石に分かる、では何故言葉に出さない?
・それを確かめるべく、日車はお兄ちゃん部屋の奥地へと踏み込んだ……
 (けど昼間の我慢が祟って、玄関でちょっとフライングしてる)

・脹相は日車さんに護衛戦時の自分(役割の為に命をかけようとしてる)を見ている
・その行為は分かるし否定しないけど、日車にだけはどうしてもしてほしくない→
 なんでそう思うのか分からなくてもやもや→
 そうか、俺は日車に死んでほしくないんだ!(ここらへんでやっと片思いを自覚)
・自分は大罪人だし、弟達を第一に考えてるから未来を望む気持ちは薄い
・けど日車が悩んでいるなら支えたい。あとセックス求められるのは嬉しいので積極的
・割り切ってるつもりだが、自分に満足し置いて行かれることを実は全然受け入れられていない
・なので日車が欲しい言葉は言いたくない
・こうして「セックスに積極的で好きが前面に出ているがどこかセフレっぽい」お兄ちゃんが誕生
・結果、知りたい男vs言わない男のしつこいえっちが展開されている

という、死が近い者同士ひぐちょのすれ違い両想いラブ的な話です。


※その他補足
・漫画では脹相の二人称は「オマエ」ですが、拙文だと浮いてしまうので「お前」表記にしてます
(他カタカナ二人称等は、同様の理由でひらがなや漢字表記に変換したりしています)

上記の内容を許容できる方は本文へどうぞ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















「あっ…、ん、ぅ、っは…あ……」

照明の消えた廊下に散らばる、2人分の服。
突き当たりの寝室だけが灯され、漏れ出た光から見えるベッドが、ぎしぎしと軋んでいた。
「あ、そこ……っ、だめ、だめ、ぁ、あ!」
白い上衣だけを身につけた青年が、快感をやり過ごそうと自分の腕を掴んでいる。
髪がストロークに合わせ、ぱさぱさと揺れる。
既に、彼の髪結い紐は緩んでどこかへ無くなっていた。
「ひぐ、るま…っ、日車ぁ…はぁ、…ぁ、っん!」
「…脹相、辛いなら捕まっていろ」
「ん、う…っぁ!あ、うあ、ゆらすの、だめ、ぁ」

もうずっと、頭の一部が痺れて機能しなくなっていた。
背中に回された手の熱を感じながら、脹相の好きな部分に当たるよう腰を動かしてやる。
抱きしめられ、近くなった嬌声にまた脳が痺れた。
カッターシャツがたわみ、彼の身体を撫ぜていく。それすらも今の彼には強い刺激なのだろう。身体をよじって薄布を避けようとする。
淫らな白皙の肢体に口付け、戯れに吸い上げてやれば、面白い様に反応が返ってきた。
腰を振るのは止めず、腕の中の青年を思いのままに蹂躙していく。
この部屋のなかで、自分たちが今や唯一の熱源だった。

「日車、ぁ、も、もぅ…や…っ〜〜っいく、いく!」
抱えられた片足がびくびくと震え、青年が湿度のある吐息を漏らす。
きゅううと締まった肉壁が心地良くて、思わずくぐもった声が漏れた。
刹那、強烈な解放感と同時に、ゴムの中へどろりとしたものが吐き出される。
「脹相」
「……ん、」
とろりとした眼差しと視線を交わす。
既に何度も高みに押し遣られたせいで、いつもの怜悧さは全く形を潜めていた。
しばらく見つめ合っていると、絡めていた腕がするりと降りてきた。熱をはらんだ手が頬を包み、荒い息ごと呑むような口付けを寄こす。
舌で歯列をなぞってやれば、すぐに火照った舌が伸びてきて絡められた。
「ぅ……ん、っ……ん、ぁ…」
味わうような口付けを繰り返しながら、深く埋めていた陰茎をゆっくりと抜いていく。
少し横着気味に外してしまったからか、達して緩んだゴムが後孔に引っ掛かり、とろりと白濁が溢れ出る。口を離した脹相がゆるりと俯き、それを指の先でつまんで緩慢に引いた。
「…ぁっ、!……くぅ…」
ぬめった液袋が、肚の内で柔い刺激を与え、あえかな声が漏れる。
それを聞いてしまえばもう駄目だった。すっかり凪いだ性欲が、また頭をもたげてくる。
人の気も知らずに処理を終え、体を起こそうとしたところを再びベッドへ縫い留めた。
そして顔を近づけ、そっと告げる。

「……好きだ」

ひく、と眼の端が震えるのが見えた。
この青年との付き合いは短いが、表情は存外に読み易い。
崩れかけた相好を、無理矢理押し留めた。そんなところだろう。
「……それ、は…、んっ」
不自然を取り繕おうとする口を、再び深く塞ぐ。息が持たないといったように抗議の目を向けてくるが、鼻で息をすることはずっと前に教えてやった。構わず食い尽くしてやる。
手持ち無沙汰に、薄布の上から胸の突起を摘まむと、吐息が甘く変化してきた。そのまま、焦らす様にネチネチと捏ねる。
「ぅ……ん、ん……、ふぁ……あっ、」
「すきだ、脹相」
「…ぁ……、…んっ……!」


___脹相の、耐える様子がたまらなく好きで、嫌いだった。



ーーーーー



思えば、この青年はずっとこうなのだ。
馴れ初めから思い出してみれば……まあ、確かに常軌を逸した交接だったのだが。
それでも、お互いの触れ合う範囲をそれとなく察して、心地よい距離を確かめるように交わって。
奇跡的に今の関係に至っている。

表情から、普段の態度から。俺のことを好ましく思ってくれているのは、間違いないと分かる。
だが、甘い睦言だけは避けるようなきらいがあった。

初めはそれでも構わなかったのだ。刹那的な関係だと、そう割り切っていた。
馬鹿みたいな部屋に放り込まれて、弟の為と懇願され、やむなく契った一夜の相手。
今までの人生で男を抱いたことはなかったが、不思議と嫌悪感は湧かなかった。
…正直、好奇心が無かったと言えば噓になる。
つまりは、俺は見てみたかったのだ。この無垢で、純朴そうな青年がどう乱れるのかを。

そうして行動した結果がこれだ。
先刻、玄関先で盛って衣服を剥ぎ取り、何度も劣情を叩きつける無様な男が出来上がった。

とはいえ、こちらは腐っても法律家だった人間だ。
合意の取れない相手を如何こうする様な見境なしではないし、そんな趣味もない。
なにより、脹相がこの行為を気に入っていることは明白だった。

口付けを重ねると、鼻梁の痣が滲んで溶けたようになる。
本人は感情が昂るとこうなる、機敏を読まれやすいので難儀だと不満を漏らしていたが、最近では、セックスの前からそこをぐずぐずに蕩かせて待っているのだ。それがあまりにも無防備で、優しくしてやりたい気持ちと滅茶苦茶にしてやりたい気持ちが綯交ぜになる。

セックスについても無防備そのものだった。
その行為を知識でしか知らないのに、あの日、弟の代わりに身を差し出すことに露ほどの躊躇いもなかった。蓮っ葉に振舞う気遣いは出来るくせに、未だに初心な手技は隠さず健気に奉仕してくる。おまけに、終わった後に気持ちよかったか?と聞かれ頷けば、嬉しそうにすり寄ってくるのだ。

これは本人には告げていないが、セックス満足度に「俺はお兄ちゃんだから」は全く関係ない。
決め台詞にしないでくれ。得意げな顔もするな。
まあ、一丁前にこちらを甘やかそうとする様は愛らしく、好きに言わせているのが現状なのだが。
俺も大概甘い。


閑話休題。

そう、端的に言ってしまえば、俺は不満なのだろう。
勝手にも程があるのだが、一夜限りの相手からは得られないものを求め始めた。
欲しくなってしまった。脹相の真実の言葉が。

聡い青年だと知っている。
だからこそ、なぜ好意を言の葉に乗せてくれないのかは大体見当がついていた。

…呪術と法には1つ似たところがある。それは「言葉の重み」だ。
紡がれた言葉というのは、人が思った以上に効力が大きいものだ。然るべき場であれば尚更、取り消すのは容易でなくなる。この親和性に基づいた領域を武器に出来たからこそ、死滅回游を生き残れたと言ってもいい。


おそらく、脹相が避けているのはこの、言葉の重み。縛りだ。



ーーーーー



「ん……ふ、ぅ」

口付けを離すと、脹相の口からとろとろと飲み切れない唾液があふれ出した。
指の腹で拭ってやりながら、上衣をゆっくりと脱がせていく。
「日車、……」
俺を見上げて、わずかに脹相の顔がこわばる。
ようやっと気づいたらしい。奥の奥に隠し続けていた、俺の不満に。

「…今日の昼に、あの領域に入ったことは覚えているだろう」
「……ああ」
「正直、拍子抜けだったが…嬉しくもあった。君が、これを嫌っていない証左だからな」
脱がせた服を床に落とし、自分のカッターシャツもついでに脱ぎ捨てる。
「だが、少し惜しいと思ってしまった」
「…惜しい?」
俺の本意を読み取ろうと、黒曜の瞳を此方に向ける。
「あの部屋に居続けられたなら、もしくは条件が違えば…本懐を遂げられたのかもしれないと」
「どういう…、ん、ぁ!」
手をそろりと彼の下腹へ伸ばし、先にある陰茎を掴む。
くちくちと指の腹で先端を弄び、あふれ出てきた透明な液を塗りつけながらゆっくりと扱く。
「あぅ、っ、ひぐる、ま、まだ…だめ、ぅ……ん、ん」
ころりと身体を横向きにしてやり、背中から抱き込むような体勢を取る。手は止めずに耳の後ろをちろちろと舐めてやると、むずがるように腕で払おうとするので、片手で手首をまとめ上げた。
まだ達した余韻が残っているのだろう。鋭くなった感覚にあえて刺激を流し込んでいく。
「や、ぁ…ど、して、……っ、あっ、ぅ、~~っ!」
「…気持ちいいか?」
「ふ、……あ、ぁ…う……、んぅ…」
耳を犯しながら、聞こえないふりが出来ない距離で尋ねる。
一瞬目を見開いた青年は、まとめられたままの手を口元に当て、黙秘権を行使した。
これの意思が固く、貫徹する性質(たち)は知っていたから、まあ想定内だ。
むしろやりがいすら感じている。

我慢汁で滑りの良くなったペニスを、緩急を付けつつ扱いていく。
「!!っ~~、…ん、…んん!」
「君は、いつも決定的な言葉を言おうとしない」
「…ぁ、んっ、ん……ぅ…」
「俺は、出られた時にあの部屋が…"好意の言葉による解除であれば"と残念に思った」
「……は、……ふっ、ぁ…!ぁ、あ……」
「決して聞けない言葉を、もらえるかもしれないと、」
「あっ、ぅ、あ、ああっ!あ、っ!」
「…君の真意を、知っている。それでも…だめか?」

普段なら決して掛からないであろう罠を、享楽に隠してそろりと投げる。
縛りを気にしていることは自明の理で、言葉が欲しいのは本当だ。
だが真実に一つまみ嘘が混ざっている。

脹相が躊躇っている、真意を知らない。
知りたかった。こんな小狡い手を使ってでも。

思考の隙を与えないように、扱く手を早めていく。
後ろからでもわかるほど、耳から頬にかけて紅く染まっていた。
今や彼の陰茎は液でどろどろに濡れそぼり、上下に律動するたび粘つく水音が聞こえてくる。
「ひぐる、っ、だめ…だ、ぁ、あぅ、……ん、ぅ、…っいく、から、っ!」
手の内から、たまらず静止の声を漏らしてしまえば、彼に止める術はなかった。
身体が震えるのに合わせて亀頭を掌で覆い、骨ばった部分で強くこすってやる。
限界が近い青年が背中を大きく反らしたのをいいことに、ぴたりと密着するように抱き寄せた。
瞬間、身体がこわばって小さく震え、手の中に精が吐き出される。
「っは、…ぁ、ふぅ……ぁ、」
「……脹相」

息を吐き、快感の波をやり過ごしていた脹相が、やっとこちらに視線を向ける。
熟れた色の顔に、目尻にたまった涙。ひどく煽情的な様相をしている。
思わず手をのばし乱れた髪に触れようとするが、そっと遮られ、静かに下ろされた。
「……ゎ、ない」
「……」
「いわ、ない」

…なぜ君が傷ついた顔をしているんだ。
紛れもない好意が此処にあるはずなのに、彼の心だけがひどく遠い。

ああ、これは。
ふつふつと腹の底から、黒いものが湧き上がる。
この感覚を幾度も味わったことがある。
おかしいこと、摂理に反すること、了承できぬこと、ままならない感情に阻まれたこと。
真実が直ぐそこにあるのに、蜃気楼のように遠く、手に入らないもどかしさ。
脹相の正しい心が、確かな言葉が欲しかった。


___それがあれば、自分で自分を罰する痛みも怖くないと思えたから。



ーーーーー



「ぁ"っ!?〜〜っああ、ひッ、!」

達した余韻もそこそこにうつ伏せにして、熱くそそり立つ怒張をゴムもつけず一気に捻じ込んだ。
今宵何度も蕩かした孔は柔く解れていて、俺を何なく受け入れていく。
「ぐぅ、う、!ぁあ、あっ、やぁ、やだ!」
涙をこぼしながら、脹相が懇願の声を上げる。
彼の部屋が他より離れた位置で良かった。
頭の端でそう思いつつも、残る余裕を削ぐ為に一計を案じる。
「静かに。…誰かに、聞かれて、しまう」
そう云いながら、前立腺を潰すようにペニスを肉壁に押し付けた。
ぐり、と腰を動かすと、食いしばった口の端から涎が溢れる。
「んんっ!、ん、ぁ…ぅ、っん、ふぅ、ぁ……」
枕に突っ伏すようして声を堪えている。
おそらく今の脹相は、周りに声を聞かせないことで頭が一杯だろう。
「良い子だ。…動くぞ」
両手で細腰を掴み、ずりずりと先まで抜いてから強く奥まで打ちつける。
「っ!!!?ぁ"、あっ!!」
思考外の出来事に、青年が耐えられず首を反らせた。
畝る肩甲骨が白い羽根のようだ。もぎ取って、快楽の坩堝に堕としてやりたい。
「あ、ぐっ…、うぅあ、んっ、んん!、ひぐる、まっ、だめ、」
「駄目じゃ、っふ、無いだろう、脹相」
「あうっ、ぅ、ん、う"ぁっ!し、らな…!」
欲望のままに大きなグラインドで攻め立てる。
みっちりと詰まった細道の最奥には、先がはまり込むような部分がある。そこに達するたび、強く亀頭をねぶられる様な感覚があった。
いっそ暴力的ともいえる快感に苛立ちすら覚える。だが、頭の奥だけはしんと冷えていた。
手練手管を思いつくだけ注いで、良く回る彼の思考を奪い去る。
そこまでして青年の言葉を引き出そうとしている自身に、驚きと呆れを感じた。
だがもはや、体裁などどうでもいいことだ。
自分はもう直ぐ死地を踏み、彼を置いて逝くのかもしれない。それならば。
最奥の先にある秘所に、摩羅をどちゅりと打ち付ける。
軽い引っ掛かりを認めた直後、さらに奥をこじ開けるような感触があった。
「あ"、っあぁっ!?日車、ひぐ、るまっ!、も、やぁっ、…へん、にっ、なる!」
「構わない、全部、…ッそうなってしまえ」
「!う"っ〜〜、ぁっ…、ん、んぁ!、あ!はっ、あ”ぅ、~~ッ!」
先ほどとは明らかに反応が変った。
長兄の矜持は見る影もなく、ただ与えられる苦痛と快感を享受している。
いっそ拒否されたかった。己の我儘で無体な行為を強いるなと。
止めろ、受け入れてくれるな。やめてくれ。

「ひ、ぐるまっ、もぉ、いぃ、…ぅ!、イきた、いぎたいっ!!」
必死の懇願と共に、青年の身体ががくがくと震え出した。限界が近い。
助けを求めるように背を反らして、全身を寄せてくる。あまりの健気さに満たしてやりたい気持ちが湧いてきたが、ここまで来て最早、欲を止められなかった。
脹相が絶頂に溺れる寸前、律動を抑えて踏みとどまる。
「あ、あ……ッ、ど…、して、っ…?、ひっ…」
「脹相、」
ずるりと自らを抜き、組み敷かれた身体を反転させる。
仰向けになった脹相が、息を乱しながら俺を見上げた。
腰が細かく震え、急に投げ出された熱の扱いが分からず、途方に暮れている。
興奮でぐるぐると巡る血を必死に押さえつけながら、青年に問うた。
「…君にとって、俺は、何だ?」
「……ぁ」
「頼む。…聞きたい、君の口から確かに聞きたいんだ、俺を」
「……俺を、好きだと」

快楽に翻弄され少しの間があったが、こちらが言わんとしている事を遂に理解したようだった。
見開いた脹相の眼に、みるみる涙が溜まっていく。
無垢な稚児の様なのに、達する前の色気冷めやらない顔。そのアンバランスさに目の前がくらんだ。
「縛られることはない、おそらく。…俺も君も、互いの一番は別だと知っている、だから」
「……ちが、ちがう」
「…言葉で、縛るのを恐れているんじゃないのか?……だとしたら、何なんだ」
「………」
一度決壊した雫は停まらず、目尻からこめかみの方へ伝っていく。
拭ってやりながら、言葉を待った。

「……れ、を、」
しばらくして、彼の口から小さな声が漏れた。
「…俺を、置いて逝くだろう、っ、お前は」
思わず口を引き結んでしまったのは失策だった。それを肯定とした脹相が、堰切って続ける。
「そうだ、言えば、お前は逝ってしまう!正しさに…満足して。…っそんな、の、……い、やだ」
「っそれ、……なら、これが…正しくなくとも、…っ、いい、と、おれは…」
その後は言葉にならなかった。
声の代わりに、また一筋、二筋と涙が流れる。
「脹相…」
「……っぅ、…」

そっと青年の頬を撫ぜてやると、ぐし、ぐし、と小さくしゃくりあげながら、やっと涙を収める。
そして、赤らんだ目でこちらを見上げた。
「………こんなに、お前で滅茶苦茶になっていて、…好きじゃないなんて、っあり得ない、」
「は…」
実に間抜けな反応だった。
相槌ぐらい吐けないのか、俺は。
「っ、あの部屋に入ってから…元に戻らないんだ、ずっと。身体も心も欲しいだらけで、お前が抱いてくれるのが、嬉しくて」
「……もし無くなったら、きっと俺は、酷く損なわれるだろう…それが嫌で、馬鹿みたいなことばかり考えてしまう。俺は、俺は…」


「お前となら、死んだっていい」


___愛しているを「もう死んでもいい」と訳したのは、誰だっただろうか。
脹相が今、そんな迂遠なことを考えている筈もない。

お互いに譲れないものがあるのは分かり切っている。そう出来ないことも承知の上で。
だから、これは彼の精一杯の睦言なのだ。
駆け引きも何もない、ただただ真摯な愛の言葉。

「…日車。俺と共に居てくれ。そして、いっぱい……愛して欲しい」
"その時"まででいいんだ、とぎこちなく笑うその顔は、恋慕と諦めに満ちていて。
ああ、俺はこの光景を持って死ねるのだと、深く彼に感謝した。

どちらからともなく顔を近づけ、深く口付けを交わす。
「…んっ、……ふぅ、…、お前は…、たまにすごくいじわるになる……ぁ、…」
「は、…嫌いになった、か……?」
「いいや、…んぅ、……可愛い、なと、……思ったん、だ」
ちゅっとリップ音をたて、脹相が慈しむように俺の髪を梳いた。
こうした年長面をしてくるのも、結局嫌いではないから困る。
世話を焼きたがるのは、彼の本質の1つなのだろう。
そう考えていると、くるりと位置を変えられ、いつの間にか腹の上に脹相が跨っていた。

「これは、……お前が途中で止めたせいだからな。責任を取ってもらう」
そう言うと、自身の孔へ陰茎をあてがい、馴染ませるように浅く挿入る。
「!っは、……急に、」
括約筋が少し緩み、先ほどの情事の跡がとろりとしみ出て来る。
脹相が緩慢に腰を揺らして塗り付け、自重でゆっくりと沈めていった。
無いとは分かっているが、一体どこで覚えてきた性技だと頭を抱えたくなる。はふはふと喘ぎながら腰を落としていく様は正直、視覚の暴力でしかない。
燻った劣情に、再び火が付き始めた。
「あ、…ん、ん……ぅ…ふぁ…、あ、日車、ひぐるま…っ」
前後に律動するたび青年のペニスが腹を打ち、その卑猥な音に情欲をそそられた。
それは脹相も同じようで、動きが段々と早く大胆になっていく。
そろそろ我慢も利かなくなってきた。
上体を起こし、腰を掴んでこちらからも動かしてやる。
「うぁっ!?、っああ、ふか、深い、っ!…ぁ、きもち、い、」
「嫌じゃ、ないか」
「うん、んっ、これ、すき…っう、すき、んぅ……すき、ぁ……もっと、」
今まで余程セーブしていたのか、脹相の口から好意の言葉がぽろぽろとあふれてくる。
快楽に長く浸されたせいで、何もかもを制御できていない。
苛め過ぎたことをひそかに反省する。

「すまない、もう少しだけ」
そう言って、そっとベッドに横たえさせ、腰の下に枕を敷く。
顔が近づいたときに1度だけ深くキスをして、解放してやるために奥を捏ね始めた。
先程とは打って変って、甘やかな動きだ。
脹相の反応を確かめながら、彼の好きなところを何度もかき回す。
「ひぐるま、あぁ、…きもちい、…っ、すき、…して、いっぱい、して、っ、ひぐる、……すき、」
うわ言を止められず、自分で自分の手を噛もうとするので、そっと抑えてやる。
代わりに己の指を差し込み、気まぐれに舌と絡めて遊んだ。
むせ返るような性の香りを纏っているのに、やっていることはまるで子供のお遊戯だ。
俺達はガキになるぐらい馬鹿でなければ、こうして心を開けなかったのかと気づいた。
それが可笑しくて、思わず口角が上がる。


「…ああ、君を愛している。俺と死んでくれ、脹相」


徐々に律動を早め、昇り詰めていく。ぱたた、と額から汗が滴り落ちた。
脹相が口から俺の指を離し、代わりに己の手を絡めた。
快感に追い詰められ、最早言葉はほぼ意味を為さなかったが、それでよかった。
目の前の愛しい存在を、めいっぱい蕩かしてやることだけに注力する。
「あっ、ぅあ!ぁ、っ、んん、ひぐ、…ぅ、すき、すきだ、いっしょ、に……あ、ああぁ!」
「は、脹相……!」
肚の内からかけ上がってきたものを、脹相の最奥に解き放つ。どぷどぷと音が聞こえそうなぐらい、中へ大量に吐き出した。
絡めていた手が強く握られ、ほぼ同時に達したことを知る。
青年のペニスから、白濁が零れ落ちていた。

「ぁ……」
すぅ、と脹相の瞼が落ちる。緊張と疲労がピークに達し、意識を飛ばしてしまったのだろう。
自分もそのまま寝入りそうだったが、何とか押し留めて最低限の処理だけ済ませる。
迷ったが、今日ばかりは帰りたくなかったので、葛藤を早々に捨てる。
ごろりと脹相の横に寝転がって、あどけない顔で寝息を立てる様子を眺めた。
涙の痕が少し赤くなっている。
指の腹で触れると、彼の熱がじわりと感じられた。

「俺達の地獄は、…どんなところだろうな。もし、一緒になれるなら……」

「その日が、待ち遠しくすらある」

だんだん瞼が重くなっていく。
逆らわず、そのまま意識を手放した。



ーーーーー




……
少し離れたところで、穏やかな話し声が遠く聞こえる。
意識を覆う薄膜は未だ破れそうにない。仕方なく、耳だけそばだてる。

「そっか、じゃあ皆にも言っとく。朝食は合流すんだろ?」
「すまないな。一刻もすれば出られると思う」
「いーって。…あ。そういえばさっき、窓の人が『朝食後でいいから、調査に協力してくれ』って。多分、昨日の話だと思う」
「あれか……承知した」
「日車へも伝言頼まれてんだけど、見当たらんのよね。…ま、この時間はまだ寝てるか」
「見かけたら俺が伝えておこう。気にするな」
「そう?じゃ、頼むわ。そんじゃ行ってくんね」
「ああ、励んで来い。悠仁」

静かな室内に、扉の音が響く。
窓を見ると、空が白み始めていた。朧げにだが今が早朝であることを察する。
室内は思うほど冷えていない。暗がりの中で、エアコンの動作ランプが薄く光っていた。
脹相が起き出した際に点けたのだろう。多分、薄着の俺に気を遣ったのだろうと思い至る。
のそりと起き上がり、ベッドに腰掛けた。
思ったよりすっきりとした目覚めに、ちくりと胸が痛む。

結局、彼の秘め事を無理矢理暴いてしまった。
お互い、閨事の内でしかああ言えないのは分かり切っている。
だからこそ、2人の間にこれが必要だということも。
セックスはコミュニケーションという外産の常套句に首を捻っていた30数年間だが、ここに来て何となく理解してしまった。

結論として、俺は満足できなかった。
脹相が日々うつろい行く様は好ましく、ずっと見ていたいと思ってしまったからだ。

「起きていたか」
廊下のほうから、脹相が声をかけてきた。
彼に与えられた部屋は、高専学生の住まいとは別棟にある客室だ。日下部が大雑把に割り当てた此処は、幸いにも寝室と廊下を隔てるドアがある。
「寝室が見えない作りで良かったな。呼ばれたときは、少し肝を冷やした」
少し笑って、扉の向こうに消える。遠ざかる気配はないので、構わず続けた。
「…こんな朝早くから、予定があったのか?」
「予定というほどではないな。悠仁や高専の術師たちが早朝の鍛錬をしているから、毎朝それに顔を出しているだけだ」
会話と重なって、勢いの良い水音が聞こえる。風呂か。
「今日は、湯に入りたいからと断った」

大きく扉が開き、やっと青年が姿を見せた。
柔らかそうなカットソーに、緩めのボトムス。
床の冷たさを意に介さず、ぺたぺたと裸足で歩み寄ってくる。
そのまま隣に座るかと思えば、目の前に立つので不思議に思い見上げてやる。
と、視界に影がかかり、次に額へ柔らかい感触を感じた。
「ふ、…一緒に入るか?」
口付けを落とされたと、遅れながら気付く。
いつぞやの情事が頭をよぎり、焦燥感と共に淫らなイメージを追い出した。
思わず、ひくりと目元がひきつる。
「………………いいや。部屋に、戻る」
「そうだな。それが良い」
そう返されると予想していたのだろう。
微笑みながらまた後でと告げられ、着替えを手に廊下の方へ戻っていく。

「日車」
ドアを閉める直前、不意に名を呼ばれた。
顔を上げると、脹相が扉から顔を出してこちらを伺っている。

「……好き、と。本当は毎日、告げたかった」
「今日から…その。実践しても、良いだろうか」

青年はそれだけ宣言すると、耳を赤くして顔を引っ込める。
すぐさま扉が閉まり、ジャケットを片手に固まる間抜けだけがとり残された。

「………それは反則だ、脹相」



___「好き」という感情に、新たな事実を追加する。
この生き物はどう振舞ったとて、俺の中では愛の範疇に収まってしまうということだ。








「片恋」 終
お知らせ
実務でも趣味でも役に立つ多機能Webツールサイト【無限ツールズ】で、日常をちょっと便利にしちゃいましょう!
無限ツールズ

 
writening